タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/5/10

アメリカ大統領選挙UPDATE 5:「グラスルーツとメガ・ドナー:政治資金集めのデファクト・スタンダード?」(西川 賢)

1:はじめに
2012年4月上旬、サントラム候補が選挙戦からの撤退を公表し、5月初旬にはギングリッチ候補も選挙戦からの撤退を表明した。サントラムの場合は難病を抱える娘ベラの治療のためというのが主要な理由であると公表されてきたが、資金面での競争力不足も撤退の一因であると指摘されている。ギングリッチ候補も予備選で費用がかさんだために多額の負債を抱えてしまっており、撤退直前の頃には選挙イベントへの出席ができなくなるなど、資金面での苦戦を強いられ続けてきた。

サントラムとギングリッチが撤退を決めたことで、事実上共和党予備選挙はロムニーの勝利に終わった感があるが、一時は有力視されていたサントラムやギングリッチの相次ぐ撤退を目の当たりにすると、「まさに選挙はカネが全て」、そんな言葉すら脳裏を過ぎる。

2012年4月下旬の現在、選挙資金をめぐる状況はどのように推移しているのであろうか。まずは以下の表において2012年第一四半期までの正規政治献金とスーパーPACの総額などを確認しておきたい。
 
表1:2012年第一四半期までの主要大統領候補者の政治献金の内訳*1


表2:主要大統領候補者のスーパーPACと支出額(2012年4月23日現在)*2



2:分析
まず、正規の選挙献金の面では、オバマ大統領は2012年第一四半期において2012年1月に1200万ドル、2月に2100万ドルを集め、総額で既に2億ドル近くを集金している。2011年の第三四半期以降、やや集金力が鈍っている感もあるオバマ大統領であるが、グラスルーツ・レベルでの支持をテコとして、2008年以降重視し続けてきたSNSなどを効果的に利用してグラスルーツ・レベルから200ドル以下の小口献金を持続的に吸い上げていく手法は手堅く功を奏しており、政治献金の面では依然として安定感がある。2008年の同時期と比較すると、4年前には現時点まででオバマが集めた小口献金は献金全体の28%にとどまっていたが、2012年ではこれが45%に伸びており、オバマはより小口献金に依拠するようになっている*3

以前も述べたように、小額の献金者は大口献金者よりも候補者に積極的に投票し、ボランティアなどの選挙活動にも積極的にコミットする傾向が強いとされるが、これはオバマの強みといってよいであろう*4

一方、正規の献金額こそ8600万ドル余りとオバマの半額以下に甘んじているものの、ロムニーも依然として資金面では堅調であるといってよいであろう。しかし、かねてより懸案の小口献金の額が全体の11%と未だ低いままである。また、ロムニーの選対本部でSNSなどを利用してグラスルーツ・レベルでの献金を管轄するデジタル班は10名程度しか人が配置されておらず、前回の選挙からグラスルーツ組織を維持し続けてきたオバマとは違って、「ゼロから全てを作り上げねばならない状態」であったとされている*5 。この「グラスルーツ・レベルからの小口献金」という点においては、ロムニーは金額においても、組織化の面においてもオバマに遅れをとっているといってよいであろう。ただし、2012年3月にはロムニーへの小口献金の伸びが観察され始めたという指摘もある*6 。共和党がロムニーに候補を一本化したことにより、今後ロムニーが小口献金をいっそう伸ばしていく可能性は否定できないであろう。

ただし、以前にも指摘したように、ロムニーは他の候補に比してスーパーPACの面で圧倒的優位に立っている。ロムニー支持のスーパーPACである「我々の未来を取り戻す」(Restore Our Future; ROF)は既に5100万ドルあまりの資金を集めることに成功しているが、ここで注目するべきなのはROFによる独立支出額の目覚しい伸びである。

別のコラムで2012年1月末日までにロムニー支持の二つのスーパーPACは総額で既に1800万ドル近くの独立支出を行なったことを指摘した。これは2010年の中間選挙で「アメリカン・クロスローズ」(American Crossroads)が支出した独立支出の総額に肉薄する金額であった。しかし、その後共和党の予備選挙が混戦模様となるにつれ、ROFの支出も一層加速化し、その後の二ヶ月間で2400万ドルという巨額の独立支出を行なった。このようなスーパーPACによる巨額の集金と支出を可能にするのが、「メガ・ドナー」(Mega-Donor)と呼ばれる(超)大口個人献金者の存在である。ここで仮に100万ドル以上をスーパーPACに寄付している個人(集団・組織は除外する)をメガ・ドナーと呼ぶとすると、主要スーパーPACについて、以下のような数値が浮かび上がる(表3参照)。


表3:主要スーパーPACにおけるメガ・ドナーの数と献金額*7




USAトウデイの報道によれば、ハロルド・シモンズ(Harold Simmons)、シェルドン・アデルソン(Sheldon Adelson)、ピーター・シール(Peter Thiel)など、5人のメガ・ドナーが2011年1月から2012年2月までにスーパーPACに流れた全資金の実に四分の一を賄っていたとされている*8 。これはまさに、今回の選挙におけるメガ・ドナーの資金力の大きさとその重要性を伝えるものといえるであろう。

ROFに関しても、ROFが2012年2月に集めた献金額のほぼ五割、すなわちROFがこれまでに集めた献金総額の5100万ドルのほぼ一割にあたる400万ドルを寄付しているのが、共和党への大口の資金提供者として知られるテキサスの住宅建設会社、ペリー・ホームズを率いるボブ・J・ペリーである。この他にも、ROFについてはジェリー・ペレンチオ、デイヴィッド・ハンフリーズ、ハロルド・シモンズ、ケネス・グリフィン、グリフィス・ハーシュ、ヘンリー・クレイヴィスといったメガ・ドナーの名前が挙がっている*9 。これらのメガ・ドナーを中心に、ROFに寄付している献金者トップ20の合計額は1400万ドルにのぼり、献金総額の三割近くを占めている(表4参照)。


表4:Restore Our Futureのメガ・ドナー(組織・集団含む)*10



他方、オバマのスーパーPACはどのような状況にあるのだろうか。オバマ支持のスーパーPACには1911ユナイテッド(1911 United)とプライオリティーズ・USA・アクション(Priorities USA Action)という二つが存在する。今のところ、1911の方は4万7000ドル弱、プライオリティーズは約900万ドルを集めているが、ROFには到底及ぶべくもない。オバマ大統領はスーパーPACに関しては(現在までのところは)、ロムニーに完全に水をあけられている状況である。ただし、オバマ支持のスーパーPACに寄付するメガ・ドナーが不在であるというわけではない。例えば、プライオリティーズに100万ドルを寄付したコメディアンのビル・マー(Bill Maher)やドリーム・ワークスのCEOであるジェフリー・カッツェンバーグ(Jeffrey Katzenberg)のような民主党系のメガ・ドナーと呼びうる個人も存在する*11 。今後、選挙戦が本格化していくにつれ、1911やプライオリティーズが民主党系のメガ・ドナーから多くの額を集めていく可能性もあるに違いない。


3:おわりに
「グラスルーツとメガ・ドナー」――2012年のアメリカ大統領選挙においては、この二つの政治資金の集金方法がデファクト・スタンダードとなって推移していくのであろうか。今後、本選挙における政治資金の動向からますます目が離せそうにない。


*1:以下のサイトを元に作成した。


*2:以下のサイトを元に作成した。


*3:“Obama and Romney Each Have Their Best Months So Far, Gearing Up for the General Election,” The Campaign Finance Institute, April 12, 2012.


*4:吉野孝・前嶋和弘編『2008年アメリカ大統領選挙:オバマの当選は何を意味するか』(東信堂、2009年)、40-42頁。

*5:Alina Selyukh and Alexander Cohen, “Obama Holds Small Donor Advantage Over Mitt Romney,” Huffington Post, February 2, 2012.


*6:“Obama and Romney Each Have Their Best Months So Far, Gearing Up for the General Election,” The Campaign Finance Institute, April 12, 2012.


*7:以下のサイトにあったTable 7を元に筆者が作成した。


*8:Fredreka Schouten, Gregory Korte, and Christopher Schnaars, “25% of Super PAC Money Coming from just Five Rich Donors,” USA Today, February 22, 2012.


*9:Nicholas Confessore, “Pro-Romney Group Spent More Than $12 Million in February,” The New York Times, March 20, 2012.

*10:以下のサイトにあったTable 7を元に筆者が作成した。


*11:Paul Blumenthal, “Super PAC Mega-Donors Still Contributing Most Of The Money,” Huffington Post, March 12, 2012.