タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/5/10

アメリカ大統領選挙UPDATE 5:「オバマの再選戦略(5)「階級闘争」の次はあるのか」(前嶋 和弘)

4月中旬のサントラムの撤退以来、各種世論調査ではオバマに水をあけられていたロムニーの追い上げが目立っている。ただ、オバマ陣営としてはこの動きは織り込み済みだった。共和党側がロムニーに一本化されたのを待つように、オバマ陣営はロムニーとの一騎打ちを前提とした選挙戦術を本格的に始動させている。特に目立つのが、共和党予備選で実質的に勝利したロムニーに対する新しい「レッテル」を貼り付けようと専心している。この新しいレッテルとは「超保守派」というイメージに他ならない。

共和党の予備選開始から4月中旬まで、オバマ陣営はロムニーに対して「主張する政策が定まっておらず、その場であれこれ変える」という「ラベル」を貼ろうとしてきた。アクセルロッドやプルーフらオバマ陣営の選対スタッフのトップは様々なメディアに登場し、「保守なのか、リベラルなのか分からない」「信念がない」という否定的なこの「変節者(フリップフロッパー)」という色をつけようとしてきた。その背景にあるのは、いうまでもなく、保守層を分裂させて、共和党の予備選をかく乱する戦術であった。

しかし、共和党側がロムニーに一本化されたのを待つように、「変節者」というレッテルをはがし、「超保守派」という別の新しいレッテルをオバマ陣営はロムニーに貼ろうと躍起になっている。「妊娠中絶にしろ、移民問題にしろ、銃規制にしろ、ロムニーの政策はゴールドウォーター以来の超保守だ」「一般のアメリカ国民にとっては理解しがたい」というプルーフの発言は各種報道だけでなく、ツイッターなどのソーシャルメディアなどを通じて一気に広がりつつある。

オバマ陣営の新しい動きは、それまでの保守層を相手にした共和党予備選ではなく、本選挙の幅広い有権者に支持を伸ばそうとするロムニーの出鼻をくじく戦術である。ただ、同じオバマ選対関係者が自分たちの舌の根も乾かぬうちに“別人”のロムニーのイメージを構築しようとしているのは、極めて露骨であり、滑稽でもある。
選挙戦術では、相手候補に対するレッテル貼りとともに重要なのが、自分の政策の位置付けについてのイメージ作りである。

これまでを振り返ってみると、オバマ陣営は自らのイメージ作りにもいくつかの分岐点があった。まずオバマ陣営は昨年夏から秋にかけて、雇用対策などにおいて「実績がある大統領」としての自己PRを続けた。ブッシュ政権で悪化した経済をオバマが立て直したという主張だったが、支持率に大きな変化がなかったことから考えると、これがどれだけ功を奏したかは疑問が残るところではある。

次に共和党の予備選が開始されるころから、オバマ陣営は業績PRではなく、ロムニーを仮想敵する作戦(「キル・ロムニー」)に転換していった。それが前述の「変節者」というレッテルだった。同時に、オバマ陣営は、一気に自分の立ち位置をそれまでの中道から一気にリベラル寄りにシフトさせていった。妊娠中絶や環境問題を中心的な政策課題にしたほか、人種マイノリティの票固めもかなり意識的に行っていた。射殺されたアフリカ系の少年、トレイボン・マーティンの事件が3月末に注目されるとすぐに同情の言葉を記者会見で述べたのはその一例である。つまり、共和党が自分たちの支持層である保守層からの支持をめぐった予備選を戦っている同時期に、オバマ陣営も自分たちの支持層であるリベラル派を固めようとした。中でも、「女性」「ラテン系」「若者」というオバマ陣営を支える3つの層を固めようという狙いが、選対スタッフの様々な発言からうかがわれる。

リベラル派知識人の最近の様々な論考(詳しくは、渡辺論文参照)をみても、オバマ陣営の年初来の「階級闘争」的な路線をおおむね支援している。それぞれの論考に共通しているのは、ここ10年に経済格差が一気に進んでいるため、リベラル寄りの姿勢を貫いた方が得策という見方である。

一方、オバマのシカゴの選挙本部のスタッフの中には、数カ月で一気に左傾化したオバマの政策的な立ち位置をより中道で幅広い層に支持される形にした方がいいという意見も少数ながら存在するという。これはクリントンの1996年再選の際に意識した中道路線を志向するものである。

ただ、現時点では中道派の意見は弱く、「階級闘争」的な路線が前面に出ている。それを明確に示すのが、5月5日に正式に開始した激戦州のバージニア州とオハイオ州での選挙遊説だろう。両州での演説で、オバマは「フォワード(前進)」という合言葉を掲げ、「誰もが公平な機会やルールを与えられる未来に向かって前進すべきだ」という1月の一般教書演説の冒頭部分に似た決め台詞を繰り返した。

11月の本選挙では、いまのところ、大接戦が予想されている。オバマの支持者については、2008年のような熱烈な支持は影を潜めており、陣営はあの手この手で忙しい。献金者を対象としたオバマ夫妻との食事に続き、今度はオバマ支持の俳優・ジョージ・クルーニーとの食事という、選挙公式サイトの企画には、斬新さゆえに、無理に熱気をもたらせようという苦しさがみえる。原油価格の動向を含んだ、景気の状況は不透明な中、選挙戦術以上に景気動向が勝敗の雌雄を決する可能性も高い。

ロムニーに比べて、オバマ陣営は小口献金を含めて潤沢な資金を有している。この資金を使って、2012年選挙では新たな政治マーケティングの手法として注目されている、グーグルなどの検索サイトを利用したインターネット広告に莫大な資金を投じている。インターネット広告は、これまで例えば「デーリーコス」のようなリベラル派のブログには民主党系の、「ドラッジレポート」のような保守派が好んでアクセスするサイトでは共和党系の、それぞれの政治広告を掲載するものが中心だった。今年の選挙では、ユーザーの検索履歴に反応してリベラル系であると判別される人にはオバマの、保守系と判別される人に対してはロムニーの広告が現れる仕組みが本格的に利用されている。ロムニー陣営も検索サイトを使ったインターネット広告の利用を急いでいるが、資金的にまだオバマ陣営に及ばない。ただ、別動舞台であるスーパーPACの資金状況ではロムニーの後塵を拝しており(資金集めの詳細については、西川賢論文を参照)、テレビを使った「空中戦」では立ち遅れる可能性もある。

接戦が予想され、予断は許されない中、さらに激しい「階級闘争」路線を強調した先には、中道に舵を切る次なる分岐点が訪れるのかどうか。今後の流れに注目したい。