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アメリカ大統領選挙UPDATE 5:「右派言論人・コラムニストの大統領選挙をめぐる評価」(中山 俊宏)

May 10, 2012

共和党の大統領候補が事実上、ミット・ロムニーに確定した。そのロムニーを右派言論人はどのように評価してきたのだろうか。

ここまでの予備選挙の動向を振り返ってみると、一貫しているのは、ロムニーが常に潜在的には筆頭候補であったにも関わらず、そのロムニーに対する不信感が有権者の間に常に漂っていたことだ。それが数々の「ノット・ロムニー候補」を生み出してきたのは周知の通りである。

ロムニーに対する不信感をバネに勢いづいた「ノット・ロムニー候補」たちが、いずれも有権者たちの意識を強く惹きつけたのとは対照的に、当のロムニーには人を行動に駆り立てるようなところは一切ない。

ロムニー自身は、長期化する予備選の中で、イデオロギー的にはかなり右のポジションを取り、党内保守派の支持を取りつけようとしたが、それが十分に浸透したとはいい難い。このことと、なかなか決着をつけられないロムニーというイメージが重なり合い、どこか「突き抜けることができない候補」というイメージが定着してしまった。

彼の実務的な能力の高さについて疑問を呈する声はあまりないが、とにかくキャンペイナーとしては、「堅さ」と「ぎこちなさ」ばかりが目立ってしまう。

そのようなロムニーを評して、保守系週刊誌「ナショナル・レビュー」のロバート・コスタは、「受け入れ可能な男(The Acceptable Man)」というコラムを執筆している(Robert Costa, “The Acceptable Man,” March 6, 2012, National Review Online)。このコラムの中で、コスタはロムニーを評して、「データに基づいて行動する企業の役員」のようだとし、怒りや衝動に動機づけられることなく、いわばスタンダードな保守的なメッセージに依拠しつつ、オートパイロット状態で大統領選挙を走らせているとしている。

ロムニー・キャンペーンには、たしかに人を突き動かようなエネルギーを感じさせることがない。初の本格的なモルモン教徒の大統領ということで、モルモン教コミュニティーには、熱い期待があるとは思われるが、ロムニー自身が自らのモルモン性を正面に打ち出すことを躊躇しているためか、例えば何らかの組織を特定しようと「Mormons for Romney」とネットサーチを試みても、それに該当するような組織は一切ヒットしない。

このような要素が作用して、予備選が長期化したわけだが、その長期化の結果、右派言論人の間に2012年は難しいのではないかという雰囲気が蔓延していった。誰もそれを正面切って口にすることはできなかったが、例によって「沈黙」を破ったのは「ワシントンポスト」紙のコラムニスト/ABCニュースのコメンテーターのジョージ・F・ウィルであった。ウィルはWP紙のコラムにおいて、仮にロムニーが大統領候補として確定すれば、保守派は躊躇なくロムニーの背後に結集すべきだとしつつも、同時にロムニーでは勝てないだろうという現実も直視し、再選したオバマ政権を阻止する方策を模索すべきだと提唱した(George F. Will, “Plan B for stopping Obama,” Washington Post, March 2, 2012)。では、どうするか。ウィルは、今回の選挙サイクルにおいては、上下両院で多数派を獲得することに意識を傾けるべきであり、そうすることによってオバマ政権二期目誕生第一日目にして同政権を「レームダック化」させるべきだとしている。ロムニー陣営からしてみると、屈辱的な評価だ。

しかし、ロムニーが事実上、トップランナーとしての地位を固めて以降、雰囲気は変化しつつある。それは、傷ついたロムニーを本選挙に向けて蘇生させようとする自覚的な努力という側面も強いだろう。ただ、支持率を比較すると予想外にオバマとの差が僅差のため、再びこれはいけるという楽観的な展望がでてきているのも確かだろう。
例えば、新保守系の「ウィークリースタンダード」誌のウィリアム・クリストルは、ロムニーが大統領候補らしく威厳をもって選挙に臨み、オバマへの不満が充満する「インディペンデント票」を取り込むことができるならば、脆弱なオバマに勝つ可能性は十分にあるとしている(William Kristol, “President Romney,” Weekly Standard, April 30, 2012)。「ご祝儀コラム」の色彩が強いのは否めないが、少なくともロムニーの下に結集しようという力学が作動しはじめていることも確かである。

その力学の一例としては、「デイリー・コーラー」紙に掲載されたアメリカ保守同盟(American Conservative Union)会長のアル・カルデナスのコラムが上げられるだろう(Al Cardenas, “Time for conservatives to unite behind Gov. Romney,” Daily Caller, March 26, 2012)。ACUは議員の投票行動に基づいて議員の「保守度」をランキング化していることで有名だ。そのACUの会長が、ロムニーは十分に保守的であると保証し、「メインストリーム・メディア」に踊らされて予備選挙の長期化に一喜一憂するのではなく、ロムニーのもとに結集すべしと説いているのがこのコラムだ。議員でないロムニーは、ACUのランキングには出てこないが、ACUの会長がロムニーの「保守度」を保証したことに意味があるのだろう。

言論人の発言や文章そのものが、選挙の地平を大きく動かしていくことはない。しかし、彼らの発する言葉は、複合化・多層化する情報環境の中で、ぶつかりあい、反応しあい、流動的な状況を意味づけする役割を果たしていく。その点で、彼らを「一観察者」としてではなく、「アクター」として見ていく視点も必要だろう。

    • 慶應義塾大学総合政策学部教授
    • 中山 俊宏
    • 中山 俊宏

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