タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/7/2

アメリカ大統領選挙UPDATE 6:「2012年大統領選挙をめぐる注目の指標」(細野 豊樹)

今回のコラムでは、まず過去の大統領選挙のデータから、2012年の大統領選挙は接戦となる見通しについて述べる。次いで、選挙の帰趨を決める12ないし13の激戦州に焦点をあてて、注目すべき経済指標および非経済指標から、何が見えてくるかを論じたい。

まずは、ギャラップ社世論調査の歴代大統領支持率にみる、オバマの再選見通しである。ギャラップ社の分析では、1980年以降の大統領選挙において余裕で再選されたレーガン(1984年)およびクリントン(1996)の5月時点での支持率は、いずれも55%前後であった。これに対して再選に失敗したカーター(1980年)およびジョージ・H・Wブッシュ(1992年)の同時点での支持率は、50%を大幅に下回っていた。オバマの最近の支持率は50%をやや切るレベルで推移している。つまり、楽勝で再選された歴代大統領よりも低いが、再選されなかった2人の大統領よりは高い。1980年代以降の大統領の5月時点の支持率でオバマに一番近いのが、かろうじて再選を果たしたジョージ・W・ブッシュ(2004年)である*1。以上を総合して、2012年大統領選挙は接戦という予測が成り立つ(あわせて西川賢コラムの冒頭部を参照)。

次に注目したいのが、オバマもロムニーのどちらが勝っても、近年の大統領選挙の常識を覆す必要があるという、PEW調査センターのアンドリュー・コーハットによる分析である。もしもオバマが再選されるなら、1976年以降の歴代大統領の中で最も高い失業率(選挙年の1月時点)の下でも再選となる。ロムニーが勝った場合は、著しく低い好感度(3-5月時点)を克服しての勝利となる。ロムニーの好感度の29%という数字は、現職大統領に挑戦する歴代候補の中では突出して低い*2

ただし、このPEW調査センターの分析は、共和党予備選挙中のものである。その後ロムニーの予備選挙勝利が確定したことを受けて、他候補を支持していた共和党支持層がロムニーに結集し、ロムニー支持率への好感度は急上昇している。それでも、歴代候補と比べると低い水準にとどまる。つまり2012年大統領選挙は、それぞれ大きな不安材料を抱えた脆弱な候補同士の戦いなのである。この点からも、一進一退の接戦という見通しが導かれる。

オバマは、好感度でロムニーに対して優勢であるが、経済運営の手腕への期待については、ロムニーが勝っている。2012年において有権者が最も重視する争点が経済であり、その文脈で注目すべき指標が、激戦州の経済状況である。

前回のコラムにおいて強調したように、大統領選挙戦の資金と人員は、12ないし13くらいの激戦州に集中して投入される。今回のコラムで特に注目したいのは、これらの州における失業率である。連邦政府の労働省労働統計局(BLS)は、過去1年間の州別の失業率の変化をまとめている*3。これらの州の失業率は、概ね3つの類型に分けられる(表1)。

第一が、失業率は依然として高いが(9%以上)、1年前と比べて顕著に(1%以上)下がっている州である。フロリダ、オハイオなどがこれに該当する。

第二が、失業率の下げ幅は小さいが、もともと全米平均と比べて失業率が低い州である。ウィスコンシン、ヴァージニア、ペンシルヴェニアなどが、この類型である。

そして第三が、失業率が8%台で高止まりしている州である。コロラドがこれに当てはまる唯一の州である。

つまり、個々の激戦州の失業率を細かく見ていくと、大部分は失業率が依然高くても過去1年間に顕著に改善しているか、または、失業率が全米平均よりも低い。失業率の改善幅が、50州の中で最も大きいのがミシガン州であり、それにはオバマ政権による自動車メーカー救済が間違いなく寄与している。また、ミシガン周辺の諸州の製造業も、その恩恵を受けているはずだ。「GMは復活し、ビン・ラディンは死んだ。」というオバマ陣営のメッセージは、まさに、自動車産業救済の実績を分かりやすく強調する再選戦略だ。白人ブルーカラー層に弱いことが、2008年大統領選挙から続くオバマの不安材料であるだけに、激戦州の産業労働者にアピールできる実績を作ったことの、再選戦略上の意義は実に大きい。

こうした激戦州の経済指標の変化に基づき、大統領選挙の結果を予測しているシンクタンクがある。格付け企業ムーディーズの系列のムーディーズ・アナリティクスである。同社は、2010年以降の激戦12州における失業率等の変化から、10州(ネヴァダ、コロラド、ニュー・メキシコ、ミシガン、アイオワ、ウィスコンシン、オハイオ、ニュー・ハンプシャー、ペンシルヴェニアおよびヴァージニア)においてオバマが、2州(ノース・キャロライナおよびフロリダ)においてロムニーが勝つと分析している*4

前述のとおり1976年以降の歴代大統領の中で、1月の失業率が最も高いオバマではあるが、激戦州の経済指標の変化を個別に見ていくと、オバマに勝機はあるというのは実に興味深い。2012年のような接戦の場合は、全米レベルのマクロなデータのみに着目し、州ごとの個性というミクロ的要因を捨象すると、予測を誤る可能性があるということである。

ただし、もしも欧州金融危機や、年末の「財政の崖」による景気落ち込みへの不安などから、マクロ的な雇用情勢が顕著に悪化すれば、ミクロ的なきめ細かな分析など意味が無くなる可能性も否定できない。

経済は2012年大統領選挙において有権者の関心が最も高い争点であるが、州別のミクロ分析では無視できない争点が他にもある。その一つが不法移民問題である。不法移民問題は、有権者全体では優先度の低いマイナー争点である。ところが、一部のヒスパニック(特に出生地がアメリカでない者)の間では重要な争点であることを、ギャラップの世論調査は示している*5。2008年大統領選挙におけるオバマの大勝をもたらしたオバマの連合の柱であった若者や高学歴の独身女性などのオバマ支持率が下がっている。こうした中でも支持が揺るがない黒人およびヒスパニックへのオバマの依存度が高まっている。このため、不法移民問題をめぐるヒスパニック票の動向はかなり重要である。

ヒスパニック有権者のロムニー支持率は20%台で低迷している。それが40%近くにならないと、ヒスパニック人口が多いコロラド、ネヴァダ、ヴァージニア等の激戦州で勝つのは容易でないと、共和党の選挙参謀達が心配していることが、『ワシントン・ポスト』で報じられている*6

先日オバマ政権は、未成年の不法移民の強制国外退去を停止すると宣言した(渡辺コラム参照)。行政権にものを言わせた選挙向けのアピールである。また、オバマ政権は、不法移民の取り締まりを劇的に強化するアリゾナ州法を、連邦法に抵触すると提訴していたが、連邦最高裁判所の判決が先週出された。連邦最高裁は、アリゾナ州法のいくつかの規定を無効と判断したため、ヒスパニック有権者との関係ではオバマの点数稼ぎなったと言える。大統領の権限で雇用を創出するのは容易でないが、移民問題などでは行政権が利くため現職大統領に分がある。

ヒスパニック系の副大統領候補の1人として注目されているマーク・ルビオが、実は最初からロムニー陣営の副大統領候補のバックグラウンド調査から外れていたというABCニュースの報道も、ヒスパニックとの関連で注目に値する先週の出来事である*7。対ヒスパニック票や激戦州フロリダとの関係で、ロムニーに不利な材料だと言える。

先週末の健康保険改革法に関する連邦最高裁判決も、オバマ陣営に有利なニュースであった。共和党の大統領が任命した判事が過半数を占める中で、少なくとも個人に対する強制保険加入の条項を、あるいは法律全体を違憲とする判断になるのでは、という観測も少なくなかった。ところが、いずれも合憲という判決であった。民主党大統領により任命された4人の判事に加えて、ジョージ・W・ブッシュ前大統領に任命されたロバーツ裁判長が合憲判決に回って、5対4での合憲判断となった。もしも違憲判決になっていたら、1期目の前半で多大な時間を健康保険改革法制定につぎ込んだオバマ大統領にとって大きな挫折となっていたはずだ。また、同法を強く推進した労働組合の失望と士気低下をもたらした可能性が高い。民主党支持層を固める「地上戦」が、オバマ再選戦略の要なので、動員戦略の中核となる労働組合の士気低下を避けられた意義は大きい。

健康保険改革法撤回・廃止を強く求めてきたティーパーティー運動にとっては、失望と挫折の判決であった。今後同法を撤回・廃止するには、大統領選、連邦上院選および連邦下院選の全てで共和党が勝利する必要があり、ハードルは結構高い。共和党支持層の士気高揚が課題であるロムニー陣営にとっても、今回の合憲判決は悪いニュースであった。

先週はオバマ陣営に有利な報道が続いたものの、オバマとロムニーのどちらが勝ってもおかしくない状況に変わりはない。ギャラップ・USAトゥデー社による激戦州世論調査では、ロムニーがオバマに追いついて伯仲となっている*8。こうした中でオバマとロムニーの両陣営は、これからも相互にいろいろ仕掛けて、一進一退の攻防となろう。両陣営とも短期間で雇用回復を期待できるプランを持たない(西川珠子コラム参照)。だからこそ、相手の支持率を下げるネガティブな選挙が、空前の資金量で展開されると予測される。また、前述のとおり脆弱な候補同士の戦いだから、景気動向の変化や国際情勢にも振り回されることとなろう。先週の国際情勢のビッグ・ニュースは、ギリシャにおいて緊縮政策支持勢力が再選挙で勝って、とりあえずデフォルトを免れたことであった。もしもデフォルトに向かっていたら世界経済が混乱し、オバマ支持率にも影響したかもしれない。当面の危機は回避されたものの、欧州金融危機は予断を許さない。また、中東でも火種は複数ある。オバマもロムニーも共に安定感が売りの守りの固い政治家ではあるが、もしもこれらの外部要因への対応にミスがあれば、2012年大統領選挙の行方に響くであろう。

ネガティブ・キャンペーンの応酬の末、どちらの候補が勝つにせよ、当選後に待ち構えているのが「財政の崖」だ。民主党と共和党が、選挙の泥仕合のわだかまりを水に流して、一転して超党派で協力できるのであろうか。そういう期待を持てないのが、二大政党伯仲状況で二極化が進む最近のアメリカ政治の現実なのである。





*1:Frank Newport and Susan Page, “Election Matters: Using History to Assess Obama's Re-Election Chances”, Gallup, May 29, 2012 (Video)
http://www.gallup.com/video/154940/Election-Matters-Using-History-Assess-Obama-Election-Chances.aspx?utm_source=tagrss&utm_medium=rss&utm_campaign=syndication
*2:Andrew Kohut. “Economy or Personality?”, The New York Times, April 16, 2012.http://campaignstops.blogs.nytimes.com/2012/04/16/economy-or-personality/
*3:Bureau of Labor Statistics. “Over-the-Year Change in Unemployment Rates for States”, June 15, 2012. http://www.bls.gov/web/laus/laumstch.htm
*4:Xu Chen, “Modeling the 2012 Presidential Race”, Moody’s Analytics, February 27, 2012.http://www.economy.com/dismal/article_free.asp?cid=228803&tid=5FCB4BBF-D759-422D-BD25-BFF7D505D457
*5:Lydia Saad, “Hispanic Voters Put Other Issues Before Immigration; Healthcare, unemployment are tops among six issues tested”, Gallup, June 25, 2012 http://www.gallup.com/poll/155327/Hispanic-Voters-Put-Issues-Immigration.aspx
*6:Peter Wallsten,, “Arizona immigration ruling complicates Republicans’ strategy with Hispanics”, June 26, 2012. http://www.washingtonpost.com/politics/arizona-immigration-ruling-boosts-obama-in-quest-for-hispanic-vote/2012/06/25/gJQACmeI2V_story.html?hpid=z1
*7:Jonathan Karl, “Marco Rubio Not Being Vetted to Be Mitt Romney’s Running Mate”, ABC News, June 19, 2012. http://abcnews.go.com/blogs/politics/2012/06/marco-rubio-not-being-vetted-to-be-mitt-romneys-running-mate/
*8:Susan Page, “Swing states' poll: Big challenges loom for Obama, Romney”, USA TODAY, May 6, 2012. http://www.usatoday.com/news/politics/story/2012-05-04/swing-states-poll-obama-romney/54794106/1