タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/9/24

アメリカ大統領選挙UPDATE 7:「モルモン・ファクター」(飯山 雅史)

2012年大統領選挙は、民主党候補のオバマ大統領が黒人、共和党候補のロムニー前マサチューセッツ州知事がモルモン教徒という人種的、宗教的少数派の戦いとなった。黒人という要因に関する分析は2008年大統領選挙時に多数行われたが、モルモン教徒という要因(モルモン・ファクター)が大統領選挙の本選挙でどのように作用するのかは、まだ未知なところが多い。モルモン教徒は依然として米国社会に完全に受容された集団ではなく、モルモン・ファクターが支持率を下げる要因となることは間違いないが、民主党と共和党のイデオロギー対立が激化する中で、反オバマ意識がモルモン・ファクターを大きく凌駕する可能性も高いからである。

様々な側面におけるアメリカの少数派集団の中で、モルモン教徒は特殊な位置にある。図 1は、「一般的に大統領となる資質を持った候補」が、少数派集団のメンバーであった場合に投票するか否かを調べた断続的な調査を集計したものである。これを見ると、米国社会における少数派への偏見は一般的に顕著な減少傾向を示しており、かつて3~6割に達した黒人、カトリック、ユダヤ教徒、女性への拒否率は、少なくとも調査回答で見る限りは無視できるレベルに低下している*1 。無神論者、同性愛者に対する拒否率は依然として高いが、低下傾向にあることは間違いない。

これに対して、モルモン教徒への拒否率は1967年の第一回調査の17%に対して、2011年調査では22%と、取り上げられたグループの中では唯一、わずかながら増加する傾向を示している。これは無神論者、同性愛者に次ぐ高率だ。2011年の結果は、Pew Forum on Religion and Public Lifeなど多くの調査結果と一致し、中には拒否率が43%(Rasmussen)にのぼるという調査もある*2

さらに厳密な調査では、David E. Campbell • John C. Greenらが2008年の共和党予備選時期に行ったものがある。ロムニー候補について、まず、「ビジネスマン」「前マサチューセッツ州知事」など一般的な情報を提示して同候補を支持するかどうか尋ねたのち、回答者を二つのグループに分けて、一方にはロムニー候補が「モルモン教会の地域指導者である」、もう一方には教派を隠して「彼の教会の地域指導者である」という情報を伝え、支持傾向が変化するかどうかを調べたものだ。居住地域(南北)、性別、年齢などをコントロールした上で、支持か否かを従属変数にしたロジスティック回帰分析すると、モルモン教会に関する情報は支持率を減少させる効果を持ち、係数は明確に統計的に有意だった。一方、教派名を隠した場合には統計的に有意な効果はなかった*3

モルモンは聖書のほかにモルモン書を聖典とし、かつて多重婚を教理とする特殊な教義を持ったことから、3割の有権者はキリスト教の教派と認めず、65%は自分の宗教とは非常に異なった教派と考えている。一単語でモルモンの印象を語る時は、cult が最も多く、polygamy, restrictive, strange, misguidedなどの否定的な言葉が続いており、モルモンは依然として、アメリカ社会に幅広く受容された集団とは言えない*4

アメリカ社会全般で少数派への寛容性が高まったにもかかわらず、反モルモン感情だけは変化がない理由として、Campbellらはモルモン教徒の孤立性が大きな要因だと考えている。モルモン教徒は少数派(国民の1.7%)で、居住地はユタ州などに集中している。さらに、他教派の配偶者を持つモルモン教徒は17%にすぎず、各宗教教派の中ではヒンドゥー教徒(10%)の次に少ない*5 。また、他教派の友人や家族が最も少ない集団でもある*6 。こうした孤立性の結果、他教派の人口はモルモン教徒との接触が少なく、モルモン教徒に対するネガティブな情報に影響を受けやすいとしている。

これらの分析から、大統領選挙においてモルモン・ファクターはマイナスの要因であり、その影響力は無視できる範囲ではないと考えるべきであろう。同時に、反モルモン感情が長期間安定していることから、今回の選挙で、それが突然変化すると予想する根拠はない。宗教的な側面から考えれば、ロムニー候補は1960年のケネディと同じような立場に立っていると考えられる。図 1によれば、同年のカトリックに対する拒否率は、現在のモルモン教徒とほぼ同じ21%である。

もちろん、モルモン・ファクターは有権者の投票行動に影響を与える一つの要因にすぎず、投票行動は景気動向、政策など、その他の様々な要因が複合的に作用する。それに加えて、モルモン・ファクターそのものも、選挙ごとに効果の現れ方が異なることを考えなくてはいけない。

第一に、モルモン・ファクターは今回選挙において比較的、顕著性が低い。ロムニー候補がモルモン教徒であることを知っているのは有権者の60%にすぎない(1960年選挙でケネディがカトリックであることを知っていたのは92%*7 )。

さらに、民主党と共和党のイデオロギー対立がきわめて強く、党派的要因が宗教的要因を圧倒する可能性が高い。ロムニー候補がモルモン教徒であることを知っている有権者のうち、60%がそのことに「安心(Comfortable)」、19%が「問題ではない(Doesn’t matter)」と答える一方、19%が「不安だ(Uncomfortable)」としている*8 。これは、約22%がモルモン教徒に投票しないとした既述の結果とほぼ同じである。しかし、それぞれについて、党派別にロムニー/オバマの支持率を集計した表 1を見ると、共和党支持者のロムニー支持、民主党支持者のオバマ支持はそれぞれ91~93%にのぼり、モルモン・ファクターはあまり影響を与えていないことがわかる *9

しかしながら、モルモン教徒を「不安」だと答えた共和党支持者は、「安心/問題でない」と比較して顕著にロムニー支持の強度が低下しており、彼らの棄権率が高まる可能は高いであろう。同時に共和党支持基盤の中核となっている福音派では、ほかの宗教伝統系列に比べて明らかにモルモン教徒への反感が強い*10 ことも、ロムニー候補にとっては大きな不安材料となるであろう。

以上のように、モルモン・ファクターが選挙のマイナス要因であることは間違いないが、それがどの程度の強度で効果を持つかは、明確ではない。

図 1米国の少数派に対する大統領選挙投票拒否度
注 Gallup調査(同社ウェブページ
http://www.gallup.com/poll/File/148112/Otherwise_Well_Qualif_Candidate_110620.pdfのデータから筆者作成、最終閲覧日付2012年9月15日)。質問はIf your party nominated a generally well-qualified person for president who happened to be …, would you vote for that person?で、Noと答えた回答者の比率。モルモン教徒に関する調査は1968年、1999年、2007年、2011年の4回。


表 1ロムニー候補がモルモン教徒であることを知っている人の候補支持率
注 Pew Forum on Religion & Public Life, Little Voter Discomfort with Romney’s Mormon Religion, July 26, 2012から。



*1:偏見に関する調査では、社会的に望まれる態度の回答率が高まるSocial Desirability Biasが存在することに注意する必要がある。
*2:Rasmussen. (2006, November 20). Election 2008: 43% would never vote for a Mormon candidate. Rasmussen Reports, Retrieved from http://www.rasmussenreports.com/public_content/politics/top_stories/elec-tion_2008_43_would_never_vote_for_mormon_candidate
*3:David E. Campbell; John C. Green; J. Quin Monson, The Stained Glass Ceiling: Social Contact and Mitt Romney’s “Religion Problem,” Political Behavior, June 2012, Volume 34, Issue 2, pp 277-299
*4:Pew Research Center, Romney’s Mormon Faith Likely a Factor in Primaries, Not in a General Election, Nov 23, 2011, ウェブページhttp://www.pewforum.org/Politics-and-Elections/Romneys-Mormon-Faith-Likely-a-Factor-in-Primaries-Not-in-a-General-Election.aspxから。最終閲覧日付2012年9月15日
*5:Pew Forum on Religion & Public Life, A Portrait of Mormons in the U.S., July 24, 2009, ウェブページ http://www.pewforum.org/Christian/Mormon/A-Portrait-of-Mormons-in-the-US.aspx から。最終閲覧日付2012年9月15日
*6:Campbell et.al.
*7:American National Election Studies 1960から筆者計算
*8:Pew Forum on Religion & Public Life, Little Voter Discomfort with Romney’s Mormon Religion, July 26, 2012, ウェブページ http://www.pewforum.org/Politics-and-Elections/
2012-romney-mormonism-obamas-religion.aspx
から。最終閲覧日付2012年9月15日
*9:もっとも、この結果も先述のSocial Desirability Biasを考慮する必要があろう。
*10:Ibid.