タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/10/30

アメリカ大統領選挙UPDATE 8:「左派言論人・コラムニストの大統領選挙をめぐる評価3」(渡辺 将人)

シャーロットにおける民主党大会の目玉であったビル・クリントン演説と、その後のバラク・オバマとクリントンの抱擁の背後には、オバマ陣営によるクリントンの「第三の道」路線への敬意が滲んでいた。そもそも「ミドルクラス」というキーワードで選挙戦を戦ったのは、1992年のクリントンである。2011年秋の雇用対策法案以後、オバマ政権は「経済ポピュリズム」にシフトした。しかし、完全な左派路線とは微妙にレトリックの違いも見える。同時期に、筆者の印象でも党内リベラル派の議員が「ミドルクラスが重要だ」と口を揃えるようになり、アクセルロッドと近い立場にいるボブ・クレーマーも過度な左派色を消して「ミドルクラス」をキーワードにハフィントンポストへの寄稿を続けてきた。

そもそも、成長戦略なき過度な「経済ポピュリズム」路線には、サイモン・ローゼンバーグなどのニューデモクラット派から水面下での牽制もあった(筆者とローゼンバーグとのインタビュー, 2012年6月12日)。クリントンを党大会演説に迎えて、オバマと抱擁させた陣営の判断は、党内のそうした声と無関係ではなかろう。「ウォール街を占拠せよ運動」とオバマ政権は距離を置く必要があったこともあり、選挙戦を通じてオバマ陣営は「ミドルクラス」の範囲をあえて緩やかにとり、貧困層を部分的に含むようなイメージで票のパイの大きさを優先する戦略を意識している。これが結果として、「第三の道」のクリントンのミドルクラス重視策との既視感ももたらしている。「ボストングローブ」紙コラムニストのジョアンナ・ワイスは、「Clinton's speech a new blue print」(Sept. 8, 2012)において、暗にともすれば進歩派がやりがちな階級闘争路線の行き過ぎを批判し、クリントンの「コモンセンス」を強調する演説を新たな「青写真」として賞賛している。また、それが今回の選挙で必要な隙間の票を獲得する道であるともしている。

結果としてクリントン派が、「自分たちが正しかった」として再び台頭している。1992年のクリントン当選の立役者ジェームズ・カービルとクリントン政権初期の世論調査担当スタン・グリーンバーグという2人のクリントン派によるハードカバー『It's the Middle Class, Stupid!』(Blue Rider Press)が、夏以降全米書店で平積みになっている。かつてのカービルの発案スローガン「It's the Economy, Stupid!」を下地にしたタイトルで、典型的な「党派本」だ。内容的にはミドルクラスの安定した経済がアメリカの繁栄の鍵だとして共和党を叩くもので、カービルがこれまでポール・ベガラと書いてきた書と大差ない。

興味深いのはDemocracy Corps/Center for American Progressの2011年の調査データを引いて、曖昧にしてきた「ミドルクラス」をある程度定義していることだ。富裕層2%、アッパーミドル11%、ミドルクラス39%、ローアーミドル9%、ワーキングクラス25%、貧困層7%としているが、ローアーミドルとワーキングクラスも含めて73%と広くとるのがカービルらの解釈らしい。他方、日本の読者に興味深い点としては、中国への警戒を再三アピールしていることだ。次期政権は中国の知的所有権違反に厳しく対処すべきとしている。ポール・ライアンについて、ライアンはカトリック教徒を標榜しているが、無神論者のアイン・ランドを尊敬しているのは矛盾という、ライアンがあまり触れてほしくないアイン・ランドについて宗教カードの変化球も投げているのは、ルイジアナ州ニューオーリンズのケージャン・カトリックのカービルらしい。

問題はミドルクラスからこぼれた層やオバマのクリントンとの融和に批判的な層だが、そうした活動家層を取り込むための「言論GOTV」も、直前になってリベラル論壇で活性化している。ダグ・ヘンウッドは『The Nation』に「Why Should the Left Support Obama?」(Nov. 5, 2012号)を寄稿し、「オキュパイ・ムーブメント」に逃げた左派は、今回は棄権してはならないと投票を呼びかける。このコラムでヘンウッドはオバマを決して褒めてはいない。しかし、ロムニーが大統領になればより害が大きいのでまずはオバマを続投させて、それから改革をすればよいというお定まりの論法を展開している。筆者が取材したことのある「オキュパイ運動」の活動家は、総じてオバマに一定の期待感はあるものの、ワシントン政治の枠組みそのものを嫌い「投票はしない」と語る者が多かった。ロン・ポール派もそうだが、周縁的存在の票を取り込むことにどこまで労力をかけるべきなのか難しい。ポール派のリバタリアンがギャリー・ジョンソンを投票用紙に載せる運動を展開したのに対し、「オキュパイ」の暴走やネーダーのような第三候補はひとまず押さえ込めたことに、リベラル論壇は高望みせず安堵すべきかもしれない。

オバマの1回目のディベートの不出来のショックは、残り2回のディベートで相殺されつつもあるが、興味深いのはジャーナリストが政治学者の学説を援用して、ディベートの効果を否定する論である。ライアン・リザの「Do Debate Matter?」(『The New Yorker』, Oct. 12, 2012, Web版)で、ロムニーがディベートだけで挽回するのはそもそも無理があると論じる。リザは政治学者トム・ホルブルックの学説などを引いて、ほとんどディベートは結果には影響がないとしている。歴史的にディベート開催期間は支持率にかなりの上下変動があるが、次第にディベート開始前の範囲に戻るものとリザは述べる。リザの意図はオバマの1回目の不出来のネガティブなインパクトを打ち消すことにある。オバマが3回連続でKO勝ちであれば、逆にディベート勝利が当選に好影響するという説を探してこなければならなかっただろう。むしろこの記事が興味深いのは、ディベートが10月に集中的に行われるが、最後のディベートから投票までは「GOTVウイークエンド」も挟んで2週間あるスケジュール的含意を示唆していることだ。ディベートが地上戦の現場の士気と動員に間接的な影響を与える可能性まではリザも否定していない。

参考文献記事(本文言及順)
Weiss, Joanna, "Clinton's speech a new blue print", The Boston Globe, (Sept. 8, 2012)
http://www.bostonglobe.com/opinion/2012/09/08/bill-clinton-dnc-speech-offers-new-democrat-blueprint/qMbM0VDKn6cn2UmYGfnGXJ/story.html

Carville, James and Stan Greenberg, It's the Middle Class, Stupid!,(Blue Rider Press, 2012)
Henwood, Doug, "Why Should the Left Support Obama?" The Nation, (Oct, 17, 2012)
http://www.thenation.com/article/170650/why-should-left-support-obama#

Lizza, Ryan, "Do Debate Matter?" The New Yorker, (Oct. 12, 2012)
http://www.newyorker.com/online/blogs/newsdesk/2012/10/do-debates-matter.html