タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/1/17

アメリカNOW 第99号 労組組合運動の分水嶺?“牙城”のミシガン州で「組合弱体化法」が成立(袴田奈緒子)

オバマ大統領が再選を果たした昨年11月の大統領選。無党派層の支持を開拓した4年前から一転、今回は労働組合など元来の支持層の票を確実に獲得したことが勝因とされるが、昨年末、その労働組合の基盤を揺るがしかねない“事件”が起きた。

2012年12月11日、ミシガン州の州都ランシング。1万2000人超のデモ隊が州議会議事堂に続く階段を埋め尽くし、警察との小競り合いもあちらこちらで見られた。参加したデモ隊の手には「No to Right-to-Work(労働権に反対)」のプラカードが。「労働権」とはその単語の響きから連想しがちな「労働基本権」などとは異なり、労働組合に加入するか否か、従業員が自由に決められる権利のこと。労働権が認められれば、組合への加入や組合費の支払いを労働者に強制することは禁止となる。この日、労働権を法律として定めた「労働権法」の採決が州議会で予定されており、デモ隊は何とか法案の可決を阻止しようと集結していた。結局、法案は州議会で可決され、スナイダー知事(共和党)が即日署名、成立した。ただ、同州民主党幹部が労働権法を無効にするための法的手段に訴えることを示唆したり、AFL-CIO(米労働総同盟・産別会議)が住民投票を検討したりするなど、ミシガン州での労働権問題の決着までにはまだ時間がかかりそうだ。

GMなど米自動車メーカー大手3社(ビッグスリー)が本拠地を置き、全米屈指の影響力を誇るUAW(全米自動車労組)のお膝元でもあるミシガン州。労働組合の影響力が歴史的に強い土地柄だ。労組組織率はニューヨーク州などに続く全米5番目の水準で、全米平均をはるかに上回る。そんな労組の「牙城」での「労働権法」成立は大きな驚きをもって受け止められ、米メディアはトップニュースで大々的に報じた。

●組合組織率が高い州●

出典)米労働省、単位%


従来、組合に加入していない労働者も組合による団体交渉の恩恵を受けているとして、組合費の支払いが義務になっていた。労働権法の成立で、組合活動の重要な資金源であった組合費が減少するのは必至。労組の財政基盤を揺るがすだけでなく、組合費の支払いを避けようと組合から脱退したり加入を見送ったりする労働者が増えると予想されるため、組合離れを助長する可能性も高い。労働権法が「組合弱体化法」と言われるゆえんである。

アメリカの労働組合運動は1930年代のニューディール政策を通じて活発化したが、第2次世界大戦後の1947年には強大化した労組の権限を抑制するタフト・ハートレー法が成立。これを根拠に、保守的な南部の州を中心に次々と労働権法が成立した。対ソ連との冷戦が始まり、組合への反発が強まったことも労働権導入が広がった背景にあるとされる。


●労働権を導入済みの州と導入時期*1



*青塗りが「労働権州」
出典) The National Right to Work Committee


上の表からも分かるように、労働権を最初に導入したのは南部の州。もともとアメリカにおける製造業は北部を中心に発展していたが、組合との交渉をできるだけ回避したい企業は、人件費や時間外労働など柔軟な勤務体系が組める「労働権州」に工場を移転するようになっていった。その後、アメリカでの本格生産に乗り出したトヨタ自動車などの外資系メーカーもこぞって南部州を生産拠点として選び、工業化の遅れていた南部の経済発展を支えた。ここにきて相次ぐトラブルで注目を浴びるボーイング社の新型ジェット機「787」の生産工場も当初予定していたワシントン州シアトルから、労働権州であるサウスカロライナ州に移された。

労働権の推進派はこういった実績を背景に、「労働権」を導入すれば、企業誘致が進み、雇用拡大につながると主張する。一方、反対派は労働権を認めれば、賃金低下など労働環境の悪化を招くと反発。ミシガン州で労働権を巡る採決が行われた前日に同州入りしたオバマ大統領も「労働権法は経済的合理性があるものではなく、政争の具にすぎない」と批判した。

実際は推進派、反対派双方の主張に一定の真実があり、明確な相関関係を見つけるのは難しいようだ。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、労働権が認められている州の民間労働者の平均賃金は1週間あたり738.43ドルで、そのほかの州より約1割少ない*2 。その反面、過去3年間、労働権州では製造業の雇用が4.1%増加、それ以外の州の増加率は3%に達しなかった。労働権が認められている南部の州は総じて物価水準が安いため、労働権州での賃金が一概に低いとは言えないとの指摘がある。同様に、労働権州の雇用の伸び率が高いことに関しても、これらの州では企業誘致に向けた施策が労働権以外にも充実しているケースが多く、労働権の有無がどれだけ雇用拡大に結び付いたかを証明するのは難しい。

明確な相関関係を示すデータが乏しい現状を鑑みると、企業寄りで組合の力を制限したい共和党と、組合を支持基盤とする民主党の間で、労働権を巡る議論が今後も続くだろう。昨秋の選挙で、大統領選や上院選では不発に終わった共和党だが、知事選では躍進し、今や30州の知事が共和党になった。州法である労働権法の成立には州知事の指導力が重要なカギを握るだけに、共和党知事がいる州に「労働権法」が広がっていく可能性は十分ある。

また、今回のミシガン州での労働権導入は、昨年2月のインディアナ州と相まって、今まで労働権の中心だった南部ではない、中西部の「ラスト・ベルト(さびれた地帯)」が舞台になったという点で重要な意味を持つ。今後、労働権導入が近隣の製造業が盛んな州にも広がれば、中国などに押されがちだったアメリカ製造業の復活に寄与する可能性がある。

一方、中西部に労働権が広がっていけば、長期低下傾向にある労働組合加入率(2010年:11.8%←1983年:20%)が一段と下がることになる。労働組合は民主党の重要な支持基盤。組合の弱体化は民主党の力をそぐことになるわけで、今後の選挙などでどういった影響が出てくるのか注目される。



*1:www.fas.org/sgp/crs/misc/R42575.pdf
*2:http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324296604578179603136860138.html