タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/11/27

アメリカNOW 第108号 「歴史的な決断」で開いたフィリバスター制限の「パンドラの箱 」(安井明彦)

  11月21日、米上院のリード院内総務(民主党)が、フィリバスター(議事進行妨害)を制限する規則変更に踏み切った。伝統的に重視されてきた少数党の権利を弱める今回の変更は、それほど大きな成果を残せていない今議会による「歴史的な決断」だ。

ついに制限されたフィリバスター
 「衝撃的な瞬間がついに訪れた時、大きな衝撃を受けた両党の上院議員たちは、リード院内総務が(フィリバスターを制限するという)引き金を本当に引いたことが信じられず、そのとてつもなく大きな影響を理解しようと懸命だった」

 米政治専門紙のPOLITICOは、上院がフィリバスターを制限する議会規則の変更に踏み切ったことを、いささか劇的に報じてみせた*1。リード院内総務の発議による今回の規則変更によって、少数党の権利を重視してきた米上院の伝統は大きく揺らいだ。その衝撃は大きく、メディアが劇的な取り上げ方をするのも無理はない。

 フィリバスターは、上院議員に与えられた審議引き延ばし手段の総称である。フィリバスターを打ち切るための動議(クローチャー)を可決するためには60票の賛成が必要であるため、上院の過半数(51票)*2を持たない少数党の議員でも、フィリバスターによって議会審議に相当な影響力を行使できる仕組みである。

 今回の規則変更では、このフィリバスターに一定の制限がかけられた。最高裁判事を除く大統領指名人事について、クローチャーの可決に必要な票数が過半数に引き下げられたのだ。最高裁判事の指名承認や通常の法案審議に対するフィリバスターは従来通りだが、閣僚などの大統領指名人事に少数党が抵抗する力は著しく弱まった。

 今回の変更が衝撃をもって受け止められているのは、米上院ではフィリバスターの制限が長年にわたって「禁じ手」とされてきたからだ。二つの理由がある。

 第一は、少数党を尊重する伝統である。人口にかかわらず各州2議席の定数を定める米上院は、州の代表である各議員の権利を尊重する伝統がある。フィリバスターなどによって、多数党といえども単独で案件を処理することは難しい仕組みとなっており、「世界でもっとも慎重に議論を行う機関」と称されてきた。

 第二は、政治的な計算だ。多数党となった政党は、これまでもフィリバスターを制限して少数党の力を弱める欲望にかられてきた。しかし多数党の座は、選挙によって入れ替わる。自分たちが少数党に転落した際のことを考えると、どちらの党も簡単にはフィリバスターの制限に踏み切れなかった。

民主党がフィリバスターの制限に踏み切った理由
 それでもリード院内総務がフィリバスターの制限に踏み切った背景には、党派対立の深刻化がある。近年の上院ではフィリバスターの利用頻度が飛躍的に増加しており、これを打ち切るためにクローチャーに頼らなければならない状況が頻繁に発生している(図表1)。民主党は上院で多数党の座にあるとはいえ、その議席数はクローチャーを可決できる60議席に届いていない。言い換えれば、民主党は共和党の協力がなければクローチャーを可決できず、議事進行における自由度は極めて小さい。議会の立法本数は減少傾向にあり(図表2)、現在の議会はさらに最低記録を更新する勢いだ。指名人事の承認にも時間がかかっており、オバマ政権が指名した地方裁判所の判事の場合、上院司法委員会の公聴会から本会議での承認までにかかる日数の平均は、ブッシュ前政権下の54日から139日にまで長期化している*3

(図表1)クローチャーの投票回数


(図表2)連邦政府による立法本数


 また、今回のリード院内総務の決断については、民主党の左傾化の影響を指摘する声が少なくない。度重なる財政協議などを通じて、民主党内では共和党に妥協的な姿勢をとることに批判的な声が高まっている。今秋の財政協議でオバマ大統領が強硬姿勢を崩さず、政府閉鎖を招いてまでも共和党に譲歩を迫った背景には、強硬姿勢を貫くよう求めるリード院内総務の意向があったといわれる。米国で党派対立といえばティー・パーティーによる下院共和党の右傾化が注目されがちだが、民主党側でも対立を辞さない強硬な姿勢は強まっているようだ。

 世代交代によって少数党の経験がない議員が増えたことも、民主党がこれまで躊躇してきたフィリバスターの制限に前向きになった理由とされる。米国では、2007年から一貫して民主党が上院多数党の座にある。この間に誕生した民主党の上院議員には、少数党の経験がない。これらの議員にとってフィリバスターは、「少数派の意見を尊重するための仕掛け」というよりも、多数党でありながら議事進行が自由に進められない「理不尽な事態の元凶」との印象が強い。上院でフィリバスターの制限を声高に主張してきたのも、これら新世代の上院議員たちだった。

オバマ政権にとっては「諸刃の剣」
 フィリバスターの制限がオバマ政権の政策運営に与える影響には、功罪両面が考えられる。

 懸念されるのは、さらなる党派対立の深刻化である*4。フィリバスターの制限は、上院少数党である共和党の力を弱める。当然のことながら共和党は反発を強めており、財政協議などでの混迷が深まりかねない。フィリバスターの制限は最高裁判事以外の指名人事に限定されており、共和党は通常の法案については従来通りにフィリバスターを利用できる。また、最高裁判事以外の指名人事についても、クローチャーの過半数での可決が可能になっただけであり、フィリバスター自体が禁止されたわけではない。最終的な採決は阻止できないにしても、いぜんとして共和党が審議を長引かせることは可能である。

 もっともオバマ政権や議会民主党は、それほど共和党の態度の硬化を心配していないようだ。政府閉鎖を招いた今秋の財政協議は、もっぱら議会共和党が世論の強い批判を集める結果となった。このためオバマ政権・民主党は、来年にかけての次の財政協議などに関して、「議会共和党が再び強硬姿勢に出た場合には、世論の批判を一身に集めるだけ」と判断している節がある。さらに民主党議員からは、たとえ共和党が態度を硬化しても「そもそも議会は(党派対立で)何もできていないのだから、これ以上は悪くなりようがない」という声もきかれる*5

 むしろ今回のフィリバスター制限は、党派対立による議会の膠着が続くことを前提に、オバマ政権が今後の政策運営の活路を切り開く仕掛けとして位置づけられている。鍵となるのは、規制行政である。環境規制や金融規制など、規制に関する権限を最大限に利用すれば、オバマ政権は議会を経由せずに重要分野での政策運営を進められる。指名人事に関するフィリバスターの制限によって規制官庁の陣容が整えやすくなれば、オバマ政権には好都合である。

 さらに重要な意味を持ち得るのが、司法人事の承認に関するフィリバスターの制限である。反対勢力がオバマ政権による規制を差し止めようとした場合、その舞台となるのは司法の場である。オバマ政権が規制行政に活路を見出そうとするのであれば、これに関する司法の判断を左右する判事の人事は軽視できない。この点で興味深いのが、今回のフィリバスター制限の直接のきっかけとなったのが、コロンビア特別区の巡回区控訴裁判所の判事指名だったことである。首都ワシントンを管轄する同控訴裁判所では、連邦規制に対する異議が取り扱われる。それでなくても現在の同控訴裁判所は、比較的規制に厳しい判断を下す場合が多いといわれる*6。その判事人事が進めやすくなれば、オバマ政権の規制行政には追い風になり得る。

開いた「パンドラの箱」
 やや長い視点で注目されるのは、制限されるフィリバスターの対象が広がるかどうかだ。今回は対象となっていない最高裁の判事や通常の法律についてもフィリバスターが制限された場合には、上院多数党の力は飛躍的に強まる。そこまで影響の大きい改革に踏み切るかどうかは議論が分かれるところだが、長年手がつけられてこなかったフィリバスターの制限がついに断行されたことで、多数党の一存でフィリバスターが全面的に制限される道が開かれたのは事実である。いわば、「パンドラの箱」が開けられた状態だ。

 もちろん、人事に関する自由度が高まったとはいっても、これだけでオバマ大統領が党派色の強い人事に急旋回するとは限らない。とくに裁判所の判事は終身制で定年がない。基本的には政権とともに交代する省庁等の指名人事と違い、判事人事は大統領の退任後にも影響が残る。あからさまに強引な人事を行えば、大統領に対する批判は高まろう。

 結局のところ、規則の変更がどのような結果をもたらすかは、変更された規則がどのように使われるかに左右される。現在、上院の承認を待っているオバマ大統領の指名人事は、行政府関連で189人、司法関連で53人に達するという*7。共和党が強硬に反対している人事も含まれており、まずはこれらの取り扱いが「パンドラの箱」が開いた後の政策運営の試金石となろう。

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*1: Manu Raju, "Harry Reid's Gambit", POLITICO, November 21, 2013
*2: 賛否同数の場合には副大統領が投票権を持つため、大統領の所属政党は50議席でも自力で過半数の賛成票を確保できる。
*3: Dylan Matthews, "Everything You Need to Know about Thursday's Filibuster Change", Washington Post, November 21, 2013
*4: Jonathan Weisman, "Partisan Fever in Senate Likely to Rise", New York Times, November 21, 2013
*5: Manu Raju, "The (Really) Do-Nothing Congress", POLITICO, November 22, 2013
*6: Carol D. Leonnig, "Senate’s Filibuster Decision could Reshape Influential D.C. Federal Appeals Court", Washington Post, November 21, 2013
*7: Philip Rucker, Al Kamen and Ed O’Keefe, "White House, Allies Weigh Nomination Strategy under New Senate Rules", Washington Post, November 22, 2013

■安井明彦:東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー、みずほ総合研究所調査本部政策調査部長