タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/1/20

アメリカNOW111号 「日本の民主党化」が見えるアメリカに要注意(高畑昭男)

 オバマ政権2期目の外交がスタートして1年たった。昨年(2013年)3月、私は2期目の外交の危うさについて、自身のブログなどで以下のように感じるところを指摘した*1。その後の展開をふり返ってみると、私の心配はかなり当たっているような気がしてならない。

 ――米国のブルッキングス研究所といえば、過去の民主党政権などに多くの人材や政策構想を提供してきた大手シンクタンクの一つだ。そのブルッキングスが、オバマ政権2期目発足直前の1月中旬、「2期目の外交政策提言」*2 と題する提言書(95ページ)を公表した。
 政権の衣替え期に数あるシンクタンクが提言を競い合うのは珍しくもないが、興味深いのはオバマ大統領がこの提言書をかなり取り入れている節があることだ。提言書は「ビッグ・ベッツ(大きく賭けよ)」として、具体的に11項目の推奨政策を挙げた。このうち「自由貿易」の項では、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉を年内に妥結させることと並行して、欧州とも環大西洋自由貿易協定を進め、来年の中間選挙までに合意をめざすよう勧めている。
 この1カ月後、一般教書演説でオバマ氏が2期目の目玉として「欧州連合(EU)との包括的貿易・投資協定交渉に着手する」と述べ、提言とほぼ寸分変わらぬ政策を発表したのは周知の通りだ。また「シリア問題」では「混迷を放置するとテロなどの温床になる」とし、国際社会が認める反政府組織に対して武器供与を含めた本格支援に乗り出すよう勧めている。これも提言書に沿った方向で動き始めている。
 中でも注目すべきは、「中国を引き戻す」という対中戦略だ。
 1期目のオバマ政権はヒラリー・クリントン国務長官を軸に、軍事・安保面での「リバランス」(均衡回復)をめざして対中牽制と包囲網建設に動き出した。提言書はその成果を認める半面、「中国を疎外しすぎた」との趣旨でアジア太平洋重視戦略を「リバランス」(再修正)し、対中協調へ軸足を移すよう提唱している。せっかくの均衡回復戦略を再修正せよ、というわけだ。
 その理由は、アメリカの経済的利益にならないからだという。地域諸国は米国の安保強化を歓迎する一方で中国との経済関係を拡大し、「経済利益は地域諸国と中国が享受し、米国だけが安保コストを担う損な役回りにある」という。
 さらに、「東アジア海洋安保」という項目では、尖閣諸島を念頭に「小さな島や岩をめぐって米国が戦争に巻き込まれては何の得にもならない」「衝突回避が最も重要」などと主張しており、かつて日本の左派世論がベトナム戦争などの際に唱えた「巻き込まれ回避論」に近いような指摘もある。
 「牽制から協調重視へ」という勧めは、その後、ケリー新国務長官が上院の指名承認公聴会などで表明した見解と驚くほど共通しているのがとくに気になる。背景には、「習近平新体制を刺激せず、もっと抱き込め」といった配慮も感じられる。
 筆者陣には1990年代末のクリントン政権時代の顧問や補佐官らの名もみえる。提言書は「オバマ2外交」の一つの指南書といっていい存在なのかもしれない。確かに、冷戦時代のソ連とは異なり、日米が中国の台頭に向き合う際には「抑止・牽制」と「協調」の適切なバランスが欠かせない。だが、当時と比べ、今の中国は世界第2の軍事大国に大変身し、好戦的ともいえる強圧的姿勢を隠そうともしない国であることを忘れては困る――。

 少々引用が長くなったが、以上が「オバマ外交2期目」のスタートにあたって痛感したことだった。全体として、1期目後半にヒラリー・クリントン国務長官を中心に打ち出された「アジア太平洋重視戦略」(いわゆるピボットまたはリバランス)を「対中融和」の方向へ逆修正する方向が強く感じられたこと、さらにケリー新国務長官の関心がアジア太平洋よりも中東方面に傾いてみえることが気になった。

 案の定と言うべきか、1年たった現在、ジョン・ケリー国務長官の外交は中東(シリア、パレスチナ、イラン)方面にほとんどかかりきりだ。アジア太平洋地域で「最も重要な同盟国」である筈の日本が中国や韓国の無法な挑発、中傷、非難にさらされているというのに、ホワイトハウスや国務省の対応は「中国や韓国と波風を立ててくれるな」と言うばかりで、実質的に日本の味方をしてくれそうな中身はない。中国の強引な海洋覇権行動を牽制する包囲網建設を積極的に進めようとしたクリントン外交とはかなりの変わりようだと言わざるを得ない。

 この傾向は2期目の国家安全保障担当補佐官に就任したスーザン・ライス氏が昨年11月に行った「アジアにおけるアメリカの未来」と題する政策演説*3にもはっきり現れた。演説の中でライス氏は「中国に関して、われわれは新たな大国間関係のモデルとして運用化していく」と言明している。

 そもそも「新大国間関係」とは、2012年5月に北京で開かれた第4回米中戦略経済対話で中国の胡錦濤国家主席(当時)が提唱し、習近平現主席もその実現をアピールしている21世紀の新たな米中関係のモデルである。「国際情勢がどう激変しようとも、米中両国の国内状況がどう推移しようとも、双方は協力パートナーシップの構築を断固推進し、両国民が安心し、各国の人々が落ち着くことのできる新しいタイプの大国間関係の発展に努力すべきだ」(胡錦濤主席)との趣旨で*4、(1) 経済グローバル化時代の大国間関係の新たな筋道、(2) 地球には米中共同発展に十分な広大な空間がある、(3) 平等と相互の利益の尊重と配慮、(4) 実務協力の推進と親善を掲げている(下線は筆者)。

 だが、言葉の響きはいかにも新しいようで、米中が相互かつ平等に利益を尊重しつつ協力を図る関係を指している。実質的にはチベット、台湾、東シナ海(尖閣諸島を含む)、南シナ海を中国の正当な「核心的利益」としてアメリカに認めさせようとする従来通りの中国の思惑が秘められているといえる。

 にもかかわらず、ライス氏は演説で「運用化していく」(seek to operationalize)という表現を使い、中国が求める「新大国間関係」をアメリカ側が受け入れるばかりでなく、それを進んで実現していく方向を明確に示唆しているように聞こえた。ライス氏は中国に対して法の支配、人権、信教の自由などの原則を「今後も強調する」というものの、「運用化」の具体的な意味合いは「利害が一致するところで中国とのより深い協力をめざす」というものだ。中国による強引な海洋進出をとがめることもなく、むしろ国連大使時代にライス氏が経験した米中協力の成果を誇るようなニュアンスもにじんでいた。

 一方、オバマ大統領自身も昨年9月、シリア問題で軍事介入を直前に翻意して国際社会を驚かせた。その際の演説では「世界の警察官」という役割を放棄*5するなど、外交にどこか一貫性を欠いて漂流し始めたようにみえてならない。アジア太平洋重視戦略に関する発言や演説もめっきり減った。また内政でも、相変わらずオバマケアの本格履行に伴う混乱や財政危機をめぐる議会共和党との対立が果てしなく続き、内政・外交ともに迷走の度を強めている感が否めない。

 米国民全体のムードも内向きで沈滞している。政権2期目の今のアメリカは一言でいえば「経強政弱」の状況といっていいだろう。2010~2020年代にかけてアメリカ経済の長期見通しは決して悪くないのに、国内政治の「ねじれ」などが原因で政治・外交に力と勢いがない。元気がなく、内向きなのだ。

 かつて「倦怠・沈滞」(Malaise)という特徴的な一語で表現されたカーター政権末期の国内ムードとよく似ているように思える。しかも、この状況は日本民主党政権下の3年間に「ねじれ国会」で迷走を重ねた日本ともよく似ている。「オバマのアメリカ」がこの1、2年の間に「日本の民主党政権化」しつつあるといってもよいのではないだろうか。

 日米同盟に関しては、安倍晋三政権が積年の宿題である集団的自衛権の行使容認へ踏み込む姿勢を見せ、アメリカ側もこれを歓迎している。2014年末をメドとする日米防衛協力指針(ガイドライン)の見直し作業も少しずつ進んでおり、現場の自衛隊と米軍との協力関係は順調といえる。

 だが、日米安全保障関係を頂点で支える政治指導層レベルの関係はどうだろうか。「心情リベラル」といわれるオバマ大統領と保守の安倍首相の関係は、傍目にはよそよそしい雰囲気も見え隠れする。かつての小泉純一郎首相とブッシュ大統領、「ロン=ヤス」と呼ばれた中曽根康弘首相とレーガン大統領のような個人的親密さは例外的としても、現在の日米首脳の間に打てば響くような個人的理解の深まりを求めるのは難しいことなのかもしれない。

 日本にとって重要な問題は、オバマ政権の残る3年間にわたり、アメリカのこうした状態と傾向が続いていく気配が濃厚であることだ。内政・外交面で余程のショックや変動でもない限り、大統領は外交全般、とりわけアジア太平洋の動向に興味を失ったまま推移する可能性が強く、ケリー外交にも大きな期待は持てそうにないからだ。

 向こう3年間、「弱いアメリカ」が続くとすれば、日本は中国、韓国など周辺諸国の挑発や妨害をしのぎ、アメリカの支援もあまり期待できない境遇に耐え忍ばなければならない。日米同盟を日本の側から強化充実し、同時に自立防衛の備えを蓄えるべき3年と心得るべきかもしれない。

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*1: 筆者のブログ「明日へのフォーカス」、『オバマ2外交の「指南書」』(2013/03/22 16:41記)より(なお同ブログは新サイトに引越し中。http://akiofocus.blogspot.jp/)
*2: Big Bets and Black Swans: Foreign Policy Challenges for President Obama’s Second Term, The Brookings Institution, Jan. 2013。
*3: "America’s Future in Asia," Remarks by National Security Advisor Susan E. Rice, at Georgetown University, November 20, 2013.
*4: 「人民網日本語版」2012年5月4日
*5: Address to the Nation on Syria, September 10, 2013.

■高畑昭男:東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー、白鷗大学教授