タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/3/20

インターネットとアメリカ政治「2014年中間選挙に向けた電子投票の展望~海外居住者の不在者投票と有権者登録~」(清原聖子)


電子投票というと、投票所に行かなくても個人のパソコンからインターネットを介して投票できるインターネット投票を想像するだろうか。インターネット投票は電子投票の一部と考えられるが、岡山県新見市など日本の地方選挙で行われている電子投票は、投票所で電子投票機を使って投票をするというものであるため、インターネット投票ではない。国政選挙、地方選挙ともにインターネット投票を導入している国としてはエストニアがよく知られている。

アメリカでは電子投票の導入に関して連邦選挙で検討が進められてきた。2000年の大統領選本選挙においては、連邦投票支援プログラム(FVAP)により、ごく少数の海外居住の軍人や一般有権者を対象にインターネット投票の実証実験が行われた1。投票用紙にマークを書き込んでそれをスキャンして読み取る光学スキャン方式(optical scan)やタッチスクリーンを使って電子的に記録を残すDRE(Direct Recording Electronic)方式も含めれば、すでに2006年中間選挙時点で全米の有権者登録をした有権者のおよそ8割が電子的な投票機を用いて投票したと言われている2。また、オレゴン州では2011年11月に行われた下院議員の補欠選挙において、初めて身体に障害を持つ有権者の投票を手助けするためにiPadを使った実証実験が行われた。選挙担当職員が自宅や老人ホームなどに持ち運んだiPadを使って投票を行うというもので、投票所まで足を運ばず、電子投票機を使わない、という点では新たな試みだった。しかし、これは有権者がiPadの画面上で選択した投票用紙を持ち運び可能なプリンターで印刷した上で、それを有権者か補助者が郵送もしくは投票所で投函するという方法で、インターネット投票ではなかった3

インターネット投票については、アメリカでも有用性を認める声がある一方で、セキュリティ上の安全性や選挙の不正に対する懸念が大きな障害となって慎重な意見も多く、全面的にインターネット投票を導入した州は今のところない。他方、2011年9月にはアメリカ選挙支援委員会(Election Assistance Commission)が電子的な不在者投票制度のガイドラインを作成するために『インターネット投票に関する調査』と題した報告書を取りまとめた。またオバマ大統領が指名した大統領選挙管理委員会(Presidential Commission on Election Administration)は2014年1月、州による有権者登録のオンライン化や、州のウェブサイトを通じて海外の軍人や一般有権者が投票用紙を入手しやすくなるように改善していくことを報告書の中で提唱した4。そこで本稿では、アメリカにおける電子投票は現在どのように誰を対象に行われているのかを整理し、2014年中間選挙に向けた電子投票の展望を示したい。

第一に、海外に居住する軍人や一般有権者の不在者投票制度の改善の一環として電子投票は注目されている。2009年MOVE法(Military and Overseas Voter Empowerment Act of 2009)の成立を受けて、これまで投票用紙の到着が遅れるなどで不満の多かった海外の不在者投票をスムーズに行ええるように制度を改善するため、電子投票を導入する動きが広がっている。MOVE法は、「州は、すべての連邦選挙に関して軍人及び海外居住有権者の有権者登録及び不在者投票申請を郵便および電子的な手段で行えるように手続きを講じなければならない」と定めた5

海外有権者財団(Overseas Voter Foundation)の調査では、「2008年以降の選挙では、投票用紙が届かなかったり、遅れて届いたという報告の割合が減少している」という。同財団のリサーチ・マネージャーのクレア・スミス氏は、「調査に回答した人の80パーセント以上が2012年の選挙ではインターネットを使って有権者登録を行ったり、投票用紙を申請したと答え、半分以上が電子メールで添付されるか、ファックスまたはインターネットでダウンロードして投票用紙を受け取った、と答えた」と述べた6。全国州議会議員連盟(National Conference of State Legislatures)によれば、32州が軍人や海外居住有権者の投票用紙を電子的に返送することを認めている7。ただ、投票用紙を返送する方法は、州によって異なる。たとえば、ワシントンD.C.ではスキャンした投票用紙を添付して電子メールでも返送できる。またアリゾナ州では、州の公式サイト上で期日前投票の申請を行うと、セキュアなシステム上で投票を行うための方法を示した通知が申請した有権者に送られてくる。そして、ユーザIDとパスワードを同サイト上で入力して投票した投票用紙の画像を安全にアップロードできるようになっている。一方、ニューヨーク州では、投票用紙の返送は依然として選挙区の選挙管理委員会に郵便で行わなければならない。

第二に、電子化は有権者登録の手続きについて進展している。アメリカでは日本と違って、選挙権を行使するためには事前に有権者登録をしなければならないため、選挙過程においてこの手続きは重要なプロセスである。先述の2014年1月に発表された大統領選挙管理委員会による報告書でも、法的拘束力はないが、すべての州でのオンライン化と登録状況をインターネットで有権者が確認できるようにすることが提案された。同報告書では、オンライン有権者登録によって、紙ベースの現在の登録で起きるエラーの可能性を減らすことができることや、有権者登録名簿の正確度が増すことで、投票所での遅れや混雑を減らすことにつながるとして、オンライン化を推奨している8。全国州議会議員連盟によれば、2014年2月時点で、15州でオンライン有権者登録が行われており、残り4州ではオンライン有権者登録の法律は成立しているがまだ実施されていない9また、全国州議会議員連盟のプログラム・マネージャーであるウェンディ・アンダーヒル氏は、「2020年までにすべての州でオンライン有権者登録が認められるだろう」と予測している10

このように州によって投票の電子化といっても方法も段階も様々であるが、アラスカ州はすべての有権者登録を行った者に投票用紙を電子的に返送することを認めている唯一の州として注目されている。手順は以下のとおりである。まず、不在者投票用の用紙を電子的に受け取りたい有権者はその旨を申請する。投票用紙が安全なウェブサイト上で入手できるようになると、申請した有権者は電子メールで通知を受け取る。それから有権者は8ケタの有権者登録ID番号か社会保障番号のような個人情報を入力してそのサイトにアクセスする。続いて有権者は、オンライン上の投票用紙にマークをして印刷してそれを投函する。もしくは、州の選挙担当部門が回収できるようにシステム上にマークした投票用紙を保存することもできる。アラスカ州の選挙担当職員は、このシステムは問題なく動いている、と話している11

今後の展開としては、全米でオンライン有権者登録制度の普及が予想される。そこで気になる点は、オンライン有権者登録制度がさらに多くの州で導入されたとして、それによって有権者登録が進み、投票率向上につながるのか、という問題である。国勢調査によれば、18-24歳では登録の手続きをしていない比率が28.2%と他の年齢層に比べて非常に高い(2012年11月時点)12。またこの年齢層の投票率は41.2%と、他の年齢層に比べて低い13。クリントン大統領の時代に、有権者登録を簡易化しようとして自動車免許の交付や更新の際に有権者登録が同時にできるようにする、というモーターボーター制度が導入された。同制度が導入されて手続き率は上がったが、結局投票率の向上には結びつかなかったと指摘されている14。それを考えると、オンライン有権者登録制度の普及がとりわけ(インターネットの利用率の高い)若年層の手続き率アップや投票率向上に役立つか、が注目される点になろう。他方、海外居住の軍人や一般有権者を対象にした不在者投票の電子化が州によって異なる方法で進められている点も気になるところである。今後はどの州の方法やシステムがより安全で効率がよいのか、精査されることになるだろう。

最後に、現在複数の州では「フェイスブック世代」を意識して、有権者向けの新しい技術を導入するため、2014年中間選挙用に準備が進められている15。上述のオレゴン州のiPadを使った事例では、2014年にはWindows8のタブレット端末も使用可能になる見通しである。さらにアリゾナ州ピマ郡のように、これまでの電子投票機で行う電子投票とは違って、ソフトウェアを入れたタブレット端末を使って投票を行えるようにする取り組みも多くの州に広がりそうである16。これから11月の中間選挙に向けて、各州がどのような電子投票の新しい試みを用意してくるのか、それに対する有権者の反応と合わせて注目していきたい。


(本稿は村田学術振興財団研究助成による研究成果の一部である)



1 詳しくは以下を参照。Department of Defense, Washington Headquarters Service, Federal Voting Assistance Program, "Voting Over the Internet Pilot Project Assessment Report", June 2001 (http://www.fvap.gov/uploads/FVAP/Reports/voi.pdf).(March 13, 2014にアクセス。以下アクセス日同様)

2 梅田久枝、「2002年アメリカ投票支援法の実施状況―電子投票制度導入問題を中心に」、『外国の立法231』(国立国会図書館調査及び立法考査局、2007年2月)、154-155頁。

3 Katharine Q. Seelye, "Oregon Tests iPads as Aid to Disabled Voters", The New York Times, November 16, 2011 (http://www.nytimes.com/2011/11/17/us/oregon-tries-out-voting-by-ipad-for-disabled.html?_r=0).

4 The Presidential Commission on Election Administration News, "Presidential Commission on Election Administration Presents Recommendations to President Obama", January 22, 2014(http://www.supportthevoter.gov/2014/01/22/presidential-commission-on-election-administration-presents-recommendations-to-president-obama/).

5 Kevin J. Coleman, "The Uniformed and Overseas Citizens Absentee Voting Act: Overview and Issues", CRS Report for Congress, January 13, 2014, p.5(http://www.fas.org/sgp/crs/misc/RS20764.pdf).

6 Brian Knowlton, "Internet and Federal Act Ease Overseas U.S. Voting", The New York Times, January 30, 2013(http://www.nytimes.com/2013/01/31/us/politics/internet-and-federal-act-ease-overseas-us-voting.html).

7 Lucy McCaimont, "Expanding high-tech voting for '14", POLITICO, December 2, 2013 (http://www.politico.com/story/2013/12/high-tech-voting-2014-midterm-elections-100519.html).

8 Presidential Commission on Election Administration, "The American Voting Experience: Report and Recommendations of the Presidential Commission on Election Administration", January 2014, p.24 (https://www.supportthevoter.gov/files/2014/01/Amer-Voting-Exper-final-draft-01-09-14-508.pdf).

9 National Conference of State Legislatures, "Online Voter Registration", February 5, 2014 (http://www.ncsl.org/research/elections-and-campaigns/electronic-or-online-voter-registration.aspx#table).

10 McCaimont, POLITICO, December 2, 2013

11 Ibid.

12 United States Census Bureau, "Table 2, Reported Voting and Registration, by Race, Hispanic Origin, Sex, and Age, for the United States: November 2012"
(https://www.census.gov/hhes/www/socdemo/voting/publications/p20/2012/tables.html)

13 Ibid.

14 John Samples, "On the Motor Voter Act and Voter Fraud, Testimony at Committee on Rules and Administration, United States Senate", CATO Institute, March 14, 2001, (http://www.cato.org/publications/congressional-testimony/motor-voter-act-voter-fraud).

15 McCaimont, POLITICO, December 2, 2013

16 Ibid.


清原聖子
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー、明治大学情報コミュニケーション学部准教授