タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/2/7

ワシントンUPDATE 「ソチオリンピックに賭けるロシア」

ポール・J・サンダース
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事

 黒海沿岸のリゾート都市ソチで開催される冬季オリンピックは、モスクワにとって大きな賭けだ。世界の注目が集まるオリンピック競技の準備に、ロシアは数年の歳月と国家予算の10パーセント超にあたる500億ドル以上の資金を投入した。競技が行われる数週間は、ロシアという国家とその能力、役割に関する国際的イメージに非常に大きな影響を及ぼすことになるだろう。成功すれば、ロシアが世界の主要プレーヤーであることを大きくアピールできるが、失敗すればロシアが停滞、没落しつつあるという別のイメージを与えることになる。それはとてつもない賭けと言える。

 気候が温暖なソチでは暖かい天候が心配されたが、アルペン競技の運営者にとって幸運なことに、どうやらその心配はなさそうだ。ロシアの気象当局は、山間部で氷点下の気温になると予測しており、雪不足を懸念していた人々を安心させている。それにもかかわらず、このオリンピックでロシア政府は、運営、政治、テロという3つの大きな課題に直面する。

 国際メディアは、オリンピックの数カ月前から、これら3つの課題の一つひとつについて注目している。すべての競技施設が間に合うかどうかを心配するアナリストもいる。ロシアに注がれる国際的な注目を利用して人々の目を引き心を捉えようと、さまざまな目的を持った活動家がわれ先にとひしめき合っている。また、治安当局は「黒い未亡人」をはじめとするテロ組織からソチを守るため、何万という兵士や警察官を配備して、選手や観客を安心させている。

 ソチの巨大な競技施設建設プロジェクトが開幕までに完成するかどうか最後まできわどい勝負だったが、何とか間に合いそうだとの報告が入っている。報告によれば、これまでのところ、競技施設そのものではなく、修景やホテル設備などマイナーな周辺環境の整備に遅れが出ているようだ。しかし、オリンピックの開催は施設の建設をはるかに上回る一大事業だ。ホテル、交通網、コンピューター、通信ネットワークなど、すべての施設やシステムが整えられ、スムーズに機能するかどうか、来たる3週間ではっきりする。

 政治は異なる種類の問題を提起する。国際オリンピック委員会が2014年冬季オリンピックの開催地をソチに決定する前から、ロシアのガバナンスと慣行に批判的な人権グループがこの選択に反対運動を展開した。開催地決定後は、多くの人権グループがソチ・オリンピックのボイコットを呼びかけた。しかし、予想通りこの試みは成功しなかった。最近の大きなボイコットは、ソ連のアフガニスタン侵攻後の1980年に開催されたモスクワ・オリンピックで起きたが、現在のロシアは外交政策でも国内事情でも当時のソ連ではない。それにもかかわらず、アメリカや西側諸国の主要なリーダーたちは開会式に出席しなかった。例外は、2024年オリンピックをローマに招致するために出席したイタリアのエンリコ・レッタ首相と、地政学的な理由によりモスクワとの関係強化を図りたい日本の安倍晋三首相だ。

 こうした動きがある中で、60を超える国家の首脳または政府の代表がオリンピック開催中にソチを訪問すると、プーチン大統領の外交問題補佐官ユーリ・ウシャコフは発表した。競技参加国が85に過ぎないことを勘案すると、60という数字は大きな割合と言える。このことは、西側の政府や活動家がプーチン大統領のリーダーシップをどのように受け止めようと、世界には異なる見方をする国も多いということだ。

 それでもなおロシアは、予期しない政治的抗議行動、そしてそれに対するロシア政府の対応への国際社会の反応と、戦わなければならないかもしれない。この問題は、競技の最中にはモスクワにとってさほど深刻ではなさそうだ。というのは、選手たちはオリンピック憲章で明確に政治活動を禁じられており、その規則を執行するのは国際オリンピック委員会であるからだ。こうした公式の場面ではなく、活動家や観客が自発的に抗議行動を起こしたり、より独創的な方法で自分たちの考えを表明したりする場合の方が、問題はより大きいだろう。

 ソチ・オリンピックを開催するロシア政府にとって、テロは最も予想が難しく最も危険な問題だ。もちろん、テロはソチに固有の脅威ではない。1972年、ミュンヘン大会での悲劇以来、どこの開催国もテロ攻撃に備えなければならなくなった。最近では1996年のアトランタ大会で爆弾が爆発した。しかしロシアは、国内のイスラム分離主義者という、他の国より深刻でより具体的な脅威に直面している。中には国際的なつながりを持ち支援を受けているグループも存在する。ロシアは、世界の注目を集めるイベントが3週間にわたり開催されている間、この世界最大の領土を守らなければならないのだ。ソチ周辺に完璧な治安のための「鉄の輪」を築くことはできても、同様の治安対策をロシア全土に敷くことは不可能だろう。専門家によれば、テロリストは安全な場所の外で攻撃を仕掛ける可能性が高く、アトランタの事例が示すように、群衆の集まる場所で治安対策の薄い所が狙われると指摘する。「鉄の輪」の内側に配備される治安部隊は、安全を確保するという至上任務と、ある程度の柔軟性を持った政治活動への対応のバランスを取るのに、大いに苦労するだろう。

 ロシアの指導者たちは、これらの難題に立ち向かい、安全で効率的で楽しいオリンピックを開催してほしい。また、オリンピック開催に伴うロシアの地政学的な狙いとモスクワが直面する問題を考察する際に、オリンピック本来の目的を忘れてはならない。それは分裂した世界に一定の国際協調と異文化交流をもたらすという目的だ。ロシアが開催に成功しなければ、このオリンピック本来の目的も達成されないのだ。

■ Russia's Sochi Gamble(原文)はこちら