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アメリカ経済を考える「双方向の貿易で利用される米韓FTA」(山田良平)

June 9, 2014

米韓自由貿易協定(FTA)は発効して2年が経った。米国市場を攻めるにあたってどういった品目でFTAが活用されているかを中心に分析する。

対米輸出においてはプラスチック、繊維製品などで利用進む

2012年3月に発効した米韓FTAは、FTAを用いての対米輸出が進んでいる。米韓FTAがあるからといって韓国製品にFTA税率が無条件で適用される訳ではなく、輸入通関時にFTAを申告することで関税の減免措置が受けられる。これは米韓FTAに限らずどのFTAでも同じ事情である。FTAを用いない場合は最恵国待遇(MFN)に基づく一般税率が適用される。一般税率が既にゼロである品目は、FTAを用いる必要はない。

FTAはどういった品目において利用されているだろうか。国際貿易委員会(ITC)が発表する、FTAを利用した輸入額を、全体の輸入額で割って利用率とする。輸入額が1億ドルを超え、かつ利用率が概ね50%以上である品目(HSコード2桁ごと)の一覧は、表のとおりとなる。

2013年の全体の利用率は24.1%となった。2012年(発効後4月から12月の9カ月間)は24.8%であり、ほぼ同水準を維持している。同じFTAでも、北米自由貿易協定(NAFTA)の利用率は毎年50%前後で推移しており、これと比較すると低い数字ではあるが、(1)乗用車でFTAを使うメリットがまだ生じていない、(2)半導体や携帯電話など韓国の対米輸出の主要品目は既に無税である状況のもとでは、それなりに高い数字だといえる。

品目別にみると、一般税率が比較的高い品目(5~20%前後)においてはFTAの利用が進んでいる。代表的3品目として、a. プラスチック製品(HS39類)は一般税率が6.5%である品目が多いところ、FTA利用により無税や軽減税率が適用されている。b. 人造繊維(HS54、55類)は、ポリエステル短繊維(HS5503.20)において4.3%の一般税率が無税となったことからFTAが大いに利用されている。他の品目も、8%が初年度7.2%になるなど段階的に引き下げられる過程にあり、FTAの利用価値が表れている。人造繊維はかねてから、FTA発効により韓国が対米輸出を拡大することが見通されている品目でもある。c. 繊維衣類(HS61類)も、フリース(HS6110.30:32%→無税)やパンスト(HS6115.95:13.5%→無税)といった、一般税率が比較的高い品目においてFTA利用が目立つ。

(1)の通り、米国側の乗用車関税(一般税率:2.5%)は、発効後4年間は据え置くこととなっており、2016年に無税となる。このため、関税減免の恩恵はまだ受けられない。一方で自動車部品でのFTA利用率は82.1%と非常に高い。同品目の一般税率は、無税か2.5%の2種類に分かれるが、2.5%の品目は発効後即時撤廃となっており、FTAを利用する価値があり、それが利用率にも表れている。利用率は今後、乗用車関税が撤廃される2016年に上昇することが予想されるが、2013年の統計のもと、仮に自動車・同部品(87類)が100%の利用率となれば、全体の利用率は45%にまで上昇する。

また(2)については、一般税率が既にゼロである品目も多いこと、またWTOの情報技術協定(ITA)によりコンピューター類、半導体などIT関連製品の関税はゼロであることから、FTAを用いる必要がない。電気機械(85類)は、その半導体が含まれることから、利用率は11.1%と高くない。

結果として、2013年の米国の対韓輸入は前年比5.7%増となった。米国の2013年の輸入は前年比で減少しており、増えた相手国でも対中国(3.5%増)、対EU(1.5%増)など小幅にとどまるが、そうした中での5.7%は高い伸びである。

米国からの輸出では在米日系企業も重要なプレーヤー

米国からの輸出においてはFTAの利用統計が無いが、FTAは利用されているものと考えられる。米企業の事例からは、アーモンド(従価税を5年で撤廃)、濃縮果汁(45%を即時撤廃)、蒸留酒、半導体、電気オートバイなど、幅広い品目で利用されていることが分かっている。

米企業だけでなく、在米の日系企業も活用主体である。韓国側の乗用車関税(一般税率:8%)は、FTA発効直後に4%にまで引き下げられており、2016年には撤廃される。この関税引き下げを活用して、特に日本の自動車製造業は米国製の自動車を、韓国をはじめとする有望市場へと輸出している。トヨタ自動車は、ケンタッキー州で生産しているクロスオーバーSUV「ヴェンザ」を、2012年10月より韓国へ輸出している。他にも、ヤマザキマザックは韓国の旋盤の関税8%が撤廃されたことを受けて、米国からの輸出を行っている。

米韓両国間の自動車貿易は、米国の大幅な入超であり、時に不均衡だと米議員の不満の種となっているが、縮小傾向にはある。米国の対韓自動車(HS8702~8705)輸出台数は、2013年は前年比19.2%増の3万354台となった。逆に米国の韓国からの自動車輸入は、2013年は前年比6.8%増の75万3,048台であり、依然25倍の差があるが、過去と比べると縮小している。こうした、米韓間の貿易不均衡の解消に、結果的に在米日系企業が貢献していることは興味深い。

韓国製をものともせずシェアを維持した中国製タイヤ

ちなみに、多くの品目で対韓輸入が伸びる中、タイヤだけは2013年に前年比マイナス15.5%と大きく減っているが、これは米韓FTAとは関わりなく、中国に発動されていたセーフガード措置が2012年9月に終了し、中国からの輸入が再び増えたためと考えられる。対中タイヤ輸入においては、オバマ政権が2009年9月にセーフガード(緊急輸入制限:421条調査)措置を発表し、対中タイヤ輸入(乗用車、バス、トラック用)に対し、既存の4%に加えての追加関税として初年35%、2年目30%、3年目25%が課されていた。

421条調査は中国のWTO加盟に際して対中輸入のみに認められた手続きで、2013年末には失効した。全米鉄鋼労組(USW)の申請を政権が認める形で追加関税を発表、中国はこれに猛反発した。ヘルスケア改革を進める機運を失わないために、労働組合の言い分を聞いたと評する見方が当時は多く聞かれた。

タイヤ(個数ベース)の上位3カ国輸入シェアは図の通りである。発動直前は中国製品のシェアは5割近くだったがセーフガード発動により3割ほどにまで落ちた。これに代わって韓国製品のシェアは10%を超え、月によってはカナダを抜いて2位となるまで拡大した。しかし2012年9月に追加関税の賦課期間が終わり、再び中国製品がシェアを戻しており、そのため対韓輸入が減少していると考えられる。また追加関税の中でも中国製品は筆頭のシェアを維持しており、中国製品の輸入を防ぐという観点からは、大した効果はなかったことが見て取れる。


■山田良平:日本貿易振興機構 海外調査部

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