タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/8/25

2014年アメリカ中間選挙 update 1:中間選挙とアメリカ外交 ― オバマ外交とは何だったのか?(島村直幸) 

はたして、オバマ外交とは何であったのか? ―。バラク・オバマ大統領の任期はまだ2年以上あるが、政権2期目の大統領にとって、この問いは、中間選挙での有権者の投票行動に影響を与えうる。大統領のリーダーシップの問題である。それは、大統領の支持率に影響を与え、有権者の投票行動にも微妙な影響を及ぼす。もちろん、外交や安全保障の政策が、中間選挙の結果を左右する直接の争点になることはほとんどない。しかし、選挙の直前など、タイミングによっては、たとえば、ウクライナ情勢の混迷やドネツクでのマレーシア航空機撃墜事件のような具体的な争点が中間選挙にも影響するかもしれない。

流動的で不確実性を増す国際秩序の下で、唯一の超大国アメリカの外交には、「ドクトリンが必要である」とダニエル・ドレスナーは問題提起する*1。しかし、オバマ外交は、政権1期目から、きわめて現実主義的でプラグマティックな外交政策を展開してきた。イラク戦争とアフガニスタン戦争の2つの戦争から撤退する必要性があったためである。また「最初の100日間」は、リーマン・ショックの直後でもあり、アメリカ経済と世界経済の立て直しが何よりも最優先課題であった。財政的に“緊縮(austerity)”に相応しい外交と安全保障の政策を模索する必要もあった*2

オバマ政権1期目の外交と安全保障の成果としては、第一にロシアとの間で「リセット」し、戦略兵器削減条約(START)後継条約を締結したこと、第二にビィン・ラディンを暗殺したことである。2009年4月5日の「核兵器なき世界」を目指すことを訴えたプラハ演説は、その目標を「自分の世代のうちには実現不可能であろう」と指摘しており、まずロシアとの「リセット」など、大国間政治に焦点を合わせることを明らかにした点で注目される。こうした政策志向は、2009年7月15日のヒラリー・クリントン国務長官による「マルチ・パートナーの世界」演説でも再確認された。その直後、中国との間では、「戦略・経済対話(SED)」が開催されたが、地球温暖化問題などで期待された合意は実現しなかった。2009年12月のコペンハーゲンでの国連気候変動枠組条約締約国会議(COP15)以降、米中関係は、台湾へのハイテク兵器の売却、Google 撤退、チベット、知的所有権、アメリカの対中貿易赤字、中国の海洋進出などの問題をめぐって、対立し続けた。

こうして、オバマ政権は、2011年11月以降、中国の脅威の台頭を念頭に、「アジア旋回(pivot to Asia)」ないし「再均衡(rebalancing)」の政策転換を打ち出した。

2012年大統領選挙では、政権1期目のオバマ外交には、ほとんど隙がなかった。ベトナム敗戦以降、外交と安全保障が苦手とされる民主党の大統領としては、世論と専門家の支持も高かった。共和党のミット・ロムニー大統領候補も、レーガン流の「力による平和(peace through strength)」のアプローチを掲げて、オバマ外交を批判したが、迫力に欠け、オバマ大統領を攻めきれなかった。民主党リベラルに近いが、現実主義の立場の国際政治学者チャールズ・カプチャンも、2012年7月下旬の東京大学と同志社大学でのシンポジウムで、「オバマ外交は現実主義のアプローチでうまくやっており、世論の支持も高い。再選にプラスに働く」と指摘していた(同時に、カプチャンは、アメリカ政治が保守とリベラルで鋭く分極化し、特に共和党が極端に保守化した結果、「中道の死(dead of center)」に至り、「党派を超えた合意がますます難しくなっている」と警告している*3)。

しかし、2012年大統領選挙で、オバマ大統領が再選された後、政権2期目のオバマ外交は、たしかに迷走している。政権1期目にアジア政策を強力に牽引したクリントン国務長官、ジェームズ・スタインバーグ国務副長官やカート・キャンベル国務次官補は政権を去った。政権2期目のジョン・ケリー国務長官やチャック・ヘーゲル国防長官などは、アジア地域というよりも、中東地域やウクライナの問題に忙殺されているように見える。オバマ政権の「再均衡」ははたして“本物(real)”なのか?―。アメリカのアジアの同盟国と友好国は疑念を隠さない。他方で、中国は、オバマ政権の「再均衡」を明らかに、中国を封じ込め、包囲するものと受け止めている。

またオバマ外交は、シリア情勢で、強硬姿勢を貫けず、特に迷走した。2013年10月には、財政問題をめぐるアメリカ議会との対立激化で、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会談など、アジア歴訪をキャンセルした。そのため、TPPの国際交渉は、大きく停滞せざるを得なかった。かつ国内交渉では、アメリカ議会から、通商促進権限(TPA)を委譲されていないままである。2014年3月、ロシアのウラジミール・プーチン大統領がウクライナのクリミア半島のロシアへの併合を宣言し、冷戦後の国際秩序に挑戦しても、オバマ大統領は、「国際法に反する」と繰り返すばかりで、欧米諸国による経済制裁も、決して強いものではなかった。2014年5-6月には、イラクでアル・カイーダ系武装組織の「イラクとシャームのイスラーム国家(ISIS)」が勢力を拡大し、イラクの国内統治が不安定になった。オバマ政権は当面、軍事介入を差し控えた。こうした背景には、イラク戦争とアフガニスタン戦争でアメリカの有権者の間に厭戦気分が広がっていることがある。

しかし他方で、共和党は、2014年11月の中間選挙(と2016年11月の大統領選挙)を控えて、オバマ外交を「弱腰外交」と批判し、ロシアにより強い態度で臨むことを主張している。プーチン外交を独裁者ヒトラーの暴挙になぞらえて批判する声もある。はたして、共和党は、オバマ外交の「弱腰」を批判し、レーガン流の「力による平和」のアプローチを唱道することによって、2016年大統領選挙に向けて、アメリカの有権者の心をつかむことができるのであろうか。たとえば、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事やクリス・クリスティー・ニュージャージー州知事など、穏健派が共和党の2016年の大統領候補となれば、よりバランスのとれた外交と安全保障の政策を遂行するはずである。レーガン流の「力による平和」とニクソン=キッシンジャー流の現実主義のアプローチとのハイブリッドである。

ドクトリンなきオバマ外交にも、問題はある。法と規範、対話を重視し、武力行使なき国際協調路線だけでは、ロシアや中国の野心や拡張政策を止めることはできない。現実主義のオバマ外交だが、ニクソン=キッシンジャー流の現実主義ではない、という批判もある。現実主義なりのグランド・ストラテジーが欠如しており、近視眼的で状況対応型の悪い現実主義という批判である。

2014年7月17日、ウクライナのドネツク上空で、マレーシア航空機の撃墜事件が起こった。クリミア併合ですでに混迷をきわめていたウクライナ情勢は、さらに混迷の度合いを深めることになった。オバマ大統領は、ロシアの関与を厳しく批判した。ロシアへの経済制裁にこれまで弱腰であった欧米諸国は、より厳しい経済政策に踏み切った。しかし、現実主義者のプーチン大統領はまったく折れない。オバマ外交の真価が厳しく問われよう。

また同じ7月からのイスラエルによるガザ攻撃をめぐっては、オバマ外交は、同盟国イスラエルを支持し、パレスチナ、特にハマスを批判している。国内外で、批判は強い。

さらに2014年8月上旬、オバマ政権は、イラクへの限定的な空爆に踏み切った。ただし、地上軍の派遣にはなお慎重である。イラク介入には、アメリカ議会でも、賛否両論がある。11月4日の中間選挙にも、微妙な影を落とすかもしれない。

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*1: Daniel W. Drezner, “Does Obama Have a Grand Strategy?: Why We Need Doctrines in Uncertain Times,” Foreign Affairs, July/ August, 2011, pp. 57-68.
*2: 島村直幸「アメリカ外交―理念外交と権力外交の間」杉田米行編『アメリカを知るための18章―超大国を読み解く』大学教育出版、2013年、103-106頁。
*3: Charles A. Kupchan and Peter L. Trubowits, ”Dead Center: The Demise of Liberal Internatinalism in the United States,” International Security, Vol. 32, No. 2., Fall 2007, pp. 7-44.

■島村直幸(杏林大学講師)