タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/8/28

2014年アメリカ中間選挙 update 1:中米諸国からの若年不法移民への対処、その中間選挙に対するインパクト(池原麻里子)

この春、エルサルバドル、ホンデュラス、グアテマラ(以下、中米三カ国)からアメリカへの若年不法移民が急増した。今年前半で、国境で逮捕された中米三カ国とメキシコからの若年不法移民は56,547人、月平均6,283人に及ぶ。例年、夏季は不法入国を試みる者が減るため、7月は5,034人に過ぎなかったが、秋以降、再び増える可能性がある。ちなみに2009年度からの数字を比較すると、今年の中米三カ国からの急増が顕著であることがわかる*1。原因は貧困とギャングの暴力、米国内の家族との再会など。ホンデュラスは世界一の殺人率が高いし、グアテマラからの若年不法移民は非常に貧しい地域の出身である。

この急増に国土安全保障省の施設では対応しきれず、オクラホマ、テキサス、カリフォルニアの米軍基地でも不法移民を収容している。ちなみに米国内には1100万人の不法移民が存在していると考えられている。


Unaccompanied Alien Children Encountered by Fiscal Year

(U.S. Customs and Border Protection)

ホワイトハウスは当初、この若年不法移民急増が中米における暴力と貧困に起因していると主張していた。しかし、若年不法移民に国外追放のヒアリングまで米国内の親戚宅への滞在を認めたことで、「滞在許可を入手できる」という噂が広まったことが誘因となったとその後、認めた。

共和党はそもそもオバマ大統領が行政命令で施行したDeferred Action for Childhood Arrivals (DACA)が、今回の危機を誘発したと非難している。DACAは2012年6月15日に施行され、この時点で15歳から31歳以下で、2007年6月15日以来、米国に不法滞在している若者に2年間の合法的な滞在を認めたものである。(55万人がDACAで承認された。)さらに共和党は、オバマ政権の不法移民急増対策が遅れたことが、事態を悪化させたと非難した。

オバマ政権は危機対策費37億ドルを議会に要請したが、共和党はこれを拒否し、共和党下院議員が承認した予算は6.94億ドル。また中米からの若年不法移民の国外追放を容易にし、国境の州知事の州兵出動権限を強化し、3500万ドルの予算をつけた。(共和党議員で反対票を投じたのは、ヒスパニック人口が多いネバダ、カリフォルニア、コロラド州の議員11名のみ。民主党議員は苦戦中の4人が賛成票を投じた以外は、全員反対。)オバマ政権と民主党は共和党下院議員案を非難しており、これが成立する可能性はゼロである。

議会における移民法改正が期待できないため、オバマ政権は行政命令を検討していると言われているが、議会の民主党幹部は以前に比べ、その案には躊躇している。というのも中間選挙ではヒスパニック有権者より、白人票が移民問題をどう考えているかが重視されているからである。ヒスパニックの投票率は大統領選挙年より低いのに対し、不法移民に不寛容な年配の白人有権者の投票率が高いためである。また、中間選挙で接戦となっている南部やマウンテン・ウェスト地域では、ヒスパニック有権者数の割合も少ない。全米的に国民の移民問題に対する意識がより非寛容になっていることが、以下の世論調査結果からうかがえる。



(2014年1月31日―2月2日、7月18-20日のCNN世論調査 )*2

このように、ヒスパニック有権者が軽視されがちな中間選挙だが、唯一の例外はコロラド州上院選である。同州では有権者の15%、投票しそうな有権者の10%がヒスパニックだ。現職マーク・ユーダル上院議員(民)は6年前、ヒスパニックの支持を得て、かろうじて当選した。挑戦者コーリー・ガードナー下院議員はヒスパニック票を狙い、従来の移民政策を変更し、共和党下院法案に反対票を投じている。しかし、NBCニュース/マリスト・カレッジの世論調査*3 によると、ヒスパニック有権者の間ではユーダルが58%の支持を集めているのに対し、ガードナーは27%という結果が出ている。

コロラド以外でも、アーカンソーのトム・コットン下院議員、ニューハンプシャーのスコット・ブラウン元上院議員、ミシガンのテリー・リン・ランド州国務長官などの上院候補たちは、現職民主党上院議員たちの不法移民に寛大な移民政策が国境の無法状態の原因となったと攻撃。ノースカロライナ、ルイジアナ、アラスカといった接戦州でも、現職民主党上院議員たちは共和党候補たちに同様な攻撃の対象となっている。

興味深いことに、メキシコに隣接したアリゾナ州第二区では、移民問題よりも経済問題が優先課題となっている。共和党下院議員候補マーサ・マックサリーは現職ロン・バーバー民主党議員が共和党移民法案に反対票を投じたことを批判する声明文をリリースしたが、州外の保守団体は移民問題ではなく、ヘルスケア等で現職を攻撃する広告を打っている。

共和党も必ずしも一枚岩ではない。ジョン・マッケイン(アリゾナ)、リンゼイ・グラハム(サウスカロライナ)、マルコ・ルビオ(フロリダ)等の上院議員は不法移民の合法化を念頭においた法改正に前向きだし、ビジネス保守は、移民が勤労と才能によって米社会を強化すると考えている。これに対して、ティーパーティー保守は移民の増加が低賃金を招くし、社会福祉上の負担が増えると、移民に断固反対である。

移民団体は下院議員435人の移民関連法案投票結果を採点している*4 。これによると、共和党議員234人中、落第点がつかなかったのは43人に過ぎなかった。一方、民主党議員199人中、100%の完璧な点数がついたのは62人。80%以下は8人に過ぎず、いずれも再選に苦戦している議員である。またCenter for American Progress/Latino Decisionsの世論調査*5 によると、ヒスパニック有権者の89%が移民問題を重視しており、74%は共和党が移民法改正を受け入れなかった場合には共和党候補を否定的に考えると回答している。ワシントン・ポスト/ABCニュースの世論調査*6 でも、ヒスパニックの65%が共和党に対して否定的で、61%が民主党に肯定的であるという結果が出ている。

そもそもヒスパニック有権者の民主党、共和党支持はほぼ半数ずつだが、オバマは2012年大統領選において、ヒスパニック有権者票の70%以上を獲得した。そのため、共和党は移民法改正を優先課題としていたが、今回の中間選挙ではそれを放棄。大統領選で重要なフロリダ、ネバダ、コロラドといったスウィング・ステートでヒスパニック人口は増加しており、現共和党路線は2016年大統領選挙ではマイナス要因になるだろう。

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*1: http://www.cbp.gov/newsroom/stats/southwest-border-unaccompanied-children

*2: http://politicalticker.blogs.cnn.com/2014/07/24/cnn-poll-border-crisis-impacting-public-opinion-on-immigration/

*3: http://maristpoll.marist.edu/wp-content/misc/COpolls/CO140707/Complete%20July%202014%20Colorado%20NBC%20News__Marist%20Poll%20Release%20and%20Tables.pdf

*4: http://www.immigrationscores.com/score-cards--vote-descriptions.html

*5: http://www.latinodecisions.com/files/1214/0165/7185/CAP_Poll_Results_-_Legislative_Results.pdf

*6: http://www.washingtonpost.com/page/2010-2019/WashingtonPost/2014/08/05/National-Politics/Polling/release_359.xml

■池原麻理子 在米ジャーナリスト