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2014年アメリカ中間選挙 update 2:国民世論から乖離が進む両翼の急進派

September 30, 2014

前回のエッセイで指摘したように、2014年中間選挙では、同性愛結婚などの社会的争点で共和党が守勢に回り、民主・共和両党の攻守逆転が特徴となっている *1 。背景にあるのは、共和党を支える保守派のイデオロギーが急進化して、穏健な世論からの乖離が深刻になってきたことが指摘されるが、その実態を米国の主要な学問的社会調査であるAmerican National Election Studies(ANES) で歴史的に探ってみた。

表は「人工妊娠中絶」、「同性愛問題」という社会的争点に加えて、軍事・外交問題から「軍への感情温度」、大きな政府と小さな政府の関連から「政府による雇用保証」という4つの争点を取り上げ、最保守派から最リベラル派にいたる各イデオロギー・グループの意識動向を数十年間追いかけたものだ。

このグラフにおいて最保守派とは、最も保守派に好感情を抱きリベラル派に悪感情を持った上位10%の有権者で、最リベラル派はその逆である。両派への好感情に差がない人々は中道派とし、最保守(リベラル)派と中道派の間は、穏健保守(リベラル)派と名付けた。グラフに示したのは、こうしてイデオロギー別に5分類した有権者グループごとに、4つの争点に対する態度の平均値を求めたものだ。争点態度の数値は高いほど保守的な態度を示し、かつ標準化してあるので、全有権者平均は常にゼロである。従って、それぞれのイデオロギー・グループの平均値がゼロから離れていけば、そのグループは平均的な国民世論から乖離していったことを示している。

早くから社会的争点の中核となった「人工妊娠中絶」に関して見てみよう。1970年代に国民世論から乖離していたのは、もっぱらリベラル派である。最リベラル派だけでなく穏健リベラル派もかなり平均的な世論から乖離しているのが鮮明だ。これに対して、保守派の方は、最保守派でさえも1972年は平均的な国民世論とほぼ同じ意識を持ち、1980年代になっても大きな乖離は見られない。この時代の宗教右派グループが、リベラル派に対して中絶問題で激しく攻撃することが可能だったのは、こうした意識動向が背景にある。宗教右派は、急進的な右派であっても当時の国民世論からそれほどずれていなかったのである。

だが、1990年代に宗教右派運動が過激化していくと、彼らも世論からの乖離が深刻になってきた。もっとも最リベラル派の方が国民世論に近づいたわけではないので、両翼のイデオロギー分裂の過激化が2000年以降の特徴だ。

「同性愛問題」は、すでにイデオロギー的な分裂が進んでいた1984年からの統計しかないため、最初から保守、リベラル両翼のイデオロギー対立が激しい。これ以来の30年間で同性愛者に対する国民的な理解が進んでいったため、実数では、すべてのグループでゲイに対する好感情が右肩上がりに高まっているが、標準化してみると、両翼の急進派は世論から乖離したまま変化がほとんどなかったことがわかる。

一方、「軍への感情温度」で明らかになるのは、1970年代に生まれた反戦リベラリズムの動静である。ベトナム戦争激化まで、アメリカ国民はイデオロギーに関係なく軍に対して強い尊敬の念を抱いていた。だが、1970年代にリベラル派が強い反戦リベラリズムを抱くようになると、最リベラル派だけでなく穏健リベラル派も国民世論から乖離を始めた。これに対して、保守派の方は最保守派も含めて世論からの乖離は激しくない。社会的争点と同じく、この時期に世論から乖離していたのはもっぱらリベラル派だったのである。

だが、2000年代の対テロ戦争、イラク戦争の時代になると、最保守派の意識も世論とのずれが激しくなる。一方で、国民の中に厭戦気分が広がった2008年には、最リベラル派の反戦リベラリズムと平均的な世論の乖離は急速に縮まっていった。同年の大統領選挙でオバマ当選に大きく寄与した反戦リベラル派の運動は、決して国民世論から飛び跳ねた運動ではなかったのである。

最後に掲げた「政府雇用保証」というのは、「政府は国民の雇用と生活レベルを保証すべき」という意見から「政府は国民の自助努力に任せるべき」という意見まで7段階で回答者の意見を聞く質問で、イデオロギー対立の中核にある「大きな政府」と「小さな政府」に関する意識を問う最もスタンダードな質問とされている。

政党対立の一丁目一番地とも言える争点だけに、1970年代から保守とリベラルの意識対立は平行線を保ったままで、歩み寄る気配はない。だが、よく見ると1970年代には最リベラル派が国民世論から激しく乖離していたのに対して、1980年代後半からは明らかに保守派の方の乖離が激しくなってきた。経済競争の敗者を無慈悲に切り捨てようとする茶会系急進保守派の意識は、2012年には国民世論から明らかに乖離してしまったのである。

このように各グループの意識の変遷をたどっていくと、予備選プロセスなどを通して、最保守派の意識から大きな影響を受ける共和党が、社会的争点で守勢に回った背景もある程度説明が可能であろう。保守派は1970年代ごろには国民世論に寄り添っており、そこから乖離したリベラル派を攻撃することで政治的得点を得ることができた。だが、宗教右派運動が過激化した1990年代、茶会運動が吹き荒れた2010年代になると、保守派の意識も明確に国民世論からかけ離れてしまったのである。

だからと言って、リベラル派が国民世論に近づいていったわけではないことを、一連のグラフは示している。1970年代からの40年間、急進リベラルはインテリなどを中心に常に一定の支持を受けてきたが、決して広い国民階層に受容されたわけではない。民主党は、同性婚をめぐる世論の急激な変化を背景に、今回の中間選挙で保守派への攻撃を強めているが、最リベラル派の動向に引きずられて急進的な立ち位置に先祖返りすれば、しっぺ返しを食う可能性もあるだろう。

もっとも、今回示したグラフは2012年で終わっている。すでに述べたように、同性愛結婚に関する最高裁判決をきっかけに社会的争点に関する世論は大きな変動が起きており、直近の調査に言及できていない以上の分析には大きな限界があることを指摘しておく必要がある。

表 イデオロギー急進派の世論からの乖離


注:American National Election Studies(ANES) Cumulative File 1948-2008とANES2012 Timeseries fileから作成。

縦軸は各争点に対する回答の調査年ごとの標準化得点平均値。横軸は調査年。

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*1 : Jonathan Martin, “Democrats Put Cultural Issues in Their Quiver,” The New York Times, September, 15, 2014

■飯山雅史 北海道教育大学教授

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