タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/10/1

2014年アメリカ中間選挙 update 2:民主党が上院で勝利する2つのシナリオ(前嶋和弘)

民主党劣勢のまま、11月4日の中間選挙まであと1カ月強となった。民主党が下院で多数派を奪還するのはほぼ難しいとみられており、まだ何とか可能性が残されている上院での多数派維持が実現したら、民主党の実質“勝利”という、実に低次元な見方もある。もし共和党が上院を奪還すると、完全にオバマ政権は何もできない“死に体”となってしまうため、それでも上院での多数派確保は民主党にとってはまさに至上命令だ。それではどうやったら民主党が上院で多数派を維持勝利できるのか、その条件とは何だろう。

関心の低さゆえの集票活動

今回の中間選挙の大きな特徴の一つが、有権者の関心がとても低いことである。9月上旬のNBCとウォールストリートジャーナルの調査によれば「中間選挙は政治を何も変えない」という有権者が53%もいる。現在の113議会(2013年1月から2015年1月)の立法活動は民主・共和両党の対立で重要な法案がほとんど成立しない「史上最低議会」が続いている。今回の選挙が何も変えはしないというほとんどあきらめに近い空気がある。

中間選挙への関心が低いため、民主党支持者の興味は2014年を超えて、2年後の2016年の大統領選挙の「優勢」を夢想しているようだ。ヒラリー・クリントンの実質的な選挙戦のスタートを大きな期待とともに見守り、対抗馬となりえるリベラル派のエリザベス・ウォーレンの動向や、民主党の票を割るかもしれない独立派のバーニー・サンダースの出馬などの情報にリベラル系のトークラジオは連日、異例というほど時間を割いている。

中間選挙への関心が低いことを反映し、実際、これまでの予備選の投票率も低い。アメリカン大学の「アメリカ有権者研究センター」がまとめた分析によると、今年最初に行われた25州の予備選の投票率は2010年の18.3%よりも3.5ポイント低い14.8%であり、過去50年間で最低を記録している。そもそも中間選挙の投票率は3割程度(例えば2010年は37%)であるため、この数字はさらに低くなる可能性が大いにある。

ただ、それだけ投票率が少ないとすると、逆にほんの少しの動きが大きな結果を生む可能性を想定される。上院ではアラスカ、アーカンソー、コロラド、アイオワ、カンザス、ルイジアナ、ミシガン、ニューハンプシャー、ノースカロライナの今回、接戦州となっており、このうち、いくつかで勝利すれば、それでも何とか民主党は多数派を維持できる。通常共和党が有利な「レッドステーツ」を多く含んでいるのが特徴だ。これらの州では現在、民主党は2012年選挙で多用されたビックデータを駆使した投票促進(GOTV)運動で、潜在的票の確保に躍起になっている。そもそも共和党が有利な州が多いため、民主党支持者は少ないが、「共和党が上院で多数派になったら、妊娠中絶は非合法化になる」などのやや飛躍した脅し文句を使うのが常套手段となっている。ウエスリアン・メディアプロジェクトによると、民主党にしろ、共和党にしろ、選挙CMで相手を否定する「ネガティブキャンペーン」が今年の選挙戦では2010年や14年に比べて目立っている。これも少ない有権者の獲得競争が激化している証拠といえる。いずれにしろ、関心のない民主党支持者が投票ブースに多数向かえば、上院での“勝利”もありえる。

「ラリー効果」の可能性

今回の中間選挙のもう一つ特徴が、大統領の支持率が非常に低いことである。前述のNBCとウォールストリートジャーナルの調査によれば、オバマ大統領の9月上旬の支持率は40%(不支持率は54%)と、過去20年の中間選挙で大統領の対立政党に大躍進を許した1994年(クリントン、44%)、2006年(ブッシュ、42%)、2010年(オバマ、45%)いずれの年の同時期よりも悲惨だ。この数字は中間選挙での民主党の劣勢を雄弁に象徴するかのようである。逆に共和党側はこの数字を見て、1994年、2006年、2010年のような「大波を起こす選挙(wave election)」の到来を確信している。オバマ大統領の存在そのものが民主党にとっては悪影響というのは言い過ぎだが、それでもオバマ大統領が各選挙区の応援演説をすることは極めて少ない。支持率低迷のブッシュ前大統領を徹底的に“隠した”2006年の中間選挙とダブって見える。

そもそも、アメリカの選挙では、日本のような“風が吹く”といったような大きな変化はあまりない。これは、人種や宗教、居住地域、所得など、有権者の個々のアイデンティティが投票の意思決定に大きな影響を与えているためである。つまり、有権者の大部分の票は最初から決まっている。しかし、大統領の求心力を一時的に増大させる“風が吹く”要因が9月になって浮上してきた。中東で猛威を振る「イスラム国(ISIS)」の存在である。「イスラム国」については、アメリカ本土へのテロ攻撃の脅威も少しずつではあるが現実的に論じられるようになってきた。その不安がもしかしたら、国を守ろうとする国民の意識のために。有事に大統領の支持が急伸する「ラリー効果」を生むかもしれない。大統領の数字が改善すれば、もしかしたら中間選挙でのコートテールの可能性もありえるかもしれない。ナインイレブンの余波が残る中、ブッシュ前大統領への支持が高止まりしていた2002年中間選挙のように、大統領の政党にプラスに働く状況も想定される。

しかし、「イスラム国」への対応をオバマ大統領が誤った場合、オバマ大統領への国民の反発が一気に増えていくのは必至である。2006年の中間選挙では、アフガニスタン、イラク戦争の泥沼化でブッシュ大統領は国民から見捨てられた。この二の舞になってしまう可能性もある。

手詰まり感

「関心の低さ」と「イスラム国」という二つ以外、なかなか、民主党の上院多数派維持のシナリオが予想しにくいのが現状である。そもそもオバマ政権や民主党が打ち出す政策の中で中間選挙に奏功するものがほとんどない。9月上旬には、非合法移民に市民権獲得の道を開く移民制度改革の実現を中間選挙後に先送りした。上にあげた今回の接戦州では、移民政策は争点とは言えないため、大統領令の先送りは選挙での打算そのものだが、何ともいえない手詰まり感がある。前回のコラムで論じたミズーリ州ファーガソンの白人警察官による黒人青年の射殺事件も、これまでは民主党の “神風”につながっているとはいえない。8月には大きな広がりを見せたこの事件は次第に「黒人問題」になりつつあり、今回の接戦州では大きな争点になりにくいためだ。

もし、今回の中間選挙で投票率の低さゆえの番狂わせが数多く起こった形で民主党が“勝利”したとすれば、もしかしたら、それはアメリカ政治にとっては幸福とは決して言えないことなのかもしれない。(了)

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■前嶋和弘 上智大学教授