タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/10/24

2014年アメリカ中間選挙 update 3:中間選挙とアメリカ外交―中間選挙直前の国際環境とアメリカの対応(島村直幸)

2014年11月4日の中間選挙まで、1か月を切った。残り数日である。「外交と安全保障は、特に議会選挙では票に結びつかない」というのが通説だが、今回の中間選挙では、バラク・オバマ大統領の最高司令官としての資質、特に大統領としての“指導力(leadership)”のあり方が厳しく問われる選挙となりそうである。背景には、混迷を深める国際環境の下で、アメリカのオバマ政権が岐路に立たされている現状がある。

アメリカと国際社会が直面する主な脅威は、第一に混迷するウクライナ情勢、第二に「イラクとシャームのイスラーム国家(ISIS)」の残忍さ、第三に急速に台頭する中国である。ただし、オバマ政権が直面する課題は、これら3つの問題に限らない。これら3つの主要な脅威に焦点を絞ったとしても、いかに「選択と集中」を図り、優先順位を設定するのか、戦略的に難しい。差し迫った脅威は、ISISとウクライナをめぐるロシアの脅威かもしれないが、中長期的には、中国の脅威の方がより深刻である*1

中間選挙まで、1か月を切った10月上旬、共和党の候補たちは、エボラ熱の拡大とISISによるテロリズム、国境線をめぐる安全保障を結びつけて、オバマ政権と民主党の「無策ぶり」を攻撃し始めた。たとえば、2016年大統領選挙への出馬が見込まれるランド・ポール上院議員やテッド・クルーズ上院議員、ボビー・ジンダル・ルイジアナ州知事である。オバマ外交は機能不全に陥っているのではないか―。外交と安全保障の問題が中間選挙の争点となりつつあるのである*2

ところが、10月上旬に出版された回顧録でエドワード・パネッタ前国防長官は、オバマ大統領には「情熱がない」ばかりか、「彼は指導者としての熱い思いではなく、法学部教授の論理に頼りすぎる」と指摘している。また、「イラクと縁を切ることに汲々とするあまり、国益の維持よりも撤退に熱心のように見えた」と批判している。昨年3月に回顧録を出版したバリ・ナシル(アフガニスタン大使のリチャード・ホルブルックの顧問)も、オバマ大統領は「道がわからなくなってしまった」と指摘し、「外交分野でホワイトハウスのスタッフが従来見られなかったほどに大きな影響力を行使している」とも述べている*3

オバマ政権は、イラクだけでなく、シリアのISISにまで空爆を広げた。イラクのISISへの空爆は8月8日から、シリアのISISへの空爆は9月22日から実施された。はたして、限定的な空爆だけで、ISISの脅威を「弱体化させ、最終的に壊滅する」ことができるのか―。共和党の下院議長ジョン・ベイナーやリンジー・グラハム上院議員は、「地上軍の投入がいずれ必要になる」とオバマ政権の対応に批判的である。また、オバマ大統領は9月28日、CBSのインタビューで、「ISISの脅威を過小評価していた」と認めた。議会共和党からの批判は、避けられない*4

はたして、オバマ政権は、「出口戦略(exit strategy)」をきちんと描いて、新しい戦争に踏み切ったのであろうか―。オバマ大統領自身、「長い戦いになる。次の政権まで、この戦いは続くであろう」と指摘したという。「出口戦略」を描いていないのではないか―。いずれにせよ、これまで、共和党のW・ブッシュ政権が始めたアフガニスタン戦争とイラク戦争を終結させることを模索してきたオバマ政権だけに、“有志連合”を形成し、中東地域での新たな戦争に踏み切らざるを得なくなったことは、皮肉の結果である*5

2014年3月18日、ロシアのウラジミール・プーチン大統領がウクライナのクリミア半島のロシアへの併合を宣言し、冷戦後の国際秩序に挑戦した。ところが、オバマ大統領は、「国際法の反する」と繰り返すばかりであった。欧米諸国による経済制裁も、7月17日のマレーシア民間機の撃墜事件まで、決して強いものではなかった。オバマ大統領は、9月24日の国連総会での演説で、「ロシアは現状の国際秩序に挑戦している」と強く批判した*6

こうして、混迷を極めつつあるウクライナ情勢について、現実主義者の国際政治学者ジョン・ミヤシャイマーは、「そもそも今回の危機をもたらしたのは北大西洋条約機構(NATO)だ。NATOが欧州連合(EU)をロシアの玄関先まで広げようとしたことが発端となった。ロシアはこれまで繰り返し、ウクライナがロシアの影響下から離れて、西側の一部に組み込まれるような事態を決して許さないことをはっきりと示してきた。今回の危機は、NATOがこうしたロシアの主張に耳を貸さなかったことから生じた」と、これまでの欧米諸国の政策を厳しく批判する*7

9月下旬から、「一国二制度」を建て前としてきた中国の香港で、学生らの座り込みのデモが起こり、習近平政権は神経を尖らせている。もしも中国本土に民主化デモが波及するような事態になれば、「第二の天安門事件」になりかねない。オバマ政権は、用意周到に計算された政策なのか、それとも世論に押されたからなのか、よくわからないが、香港の民主化デモへの支持を表明し、習政権の神経を逆なでした*8 (旧宗主国のイギリスほど、熱心ではないが*9 )。また10月9日、中国に人権に関する上下両院の代表らの委員会は、2014年版の報告書で、「中国政府の行動は、香港の自由と法の支配の未来への懸念を高めている」と指摘している*10 。習政権は、「香港は中国の一部であり、内政干渉は許容できない」という姿勢である。香港の民主主義の問題は、11月中間選挙直後のアジア太平洋経済協力会議(APEC)での審議に大きな影を落とすかもしれない。長い年月、イギリスに統治されてきた香港は、中国本土と異なる歴史観と政治秩序観を持つ。そのため、香港での民主化デモは、一過性の動きで済まないかもしれない*11 。また、香港での民主化デモの指導者の一人は、若干まだ17歳の若者である。

インドのナレンドラ・モディ首相は、9月に主要国に対して「全方位外交」を展開した。9月3日まで5日間、訪日し、安倍晋三首相と会談した*12 。9月17-18日には、訪印した習近平国家主席と会談した*13 。9月30日には、訪米し、オバマ大統領と会談した。それぞれの主要国から投資を呼び込み、2ケタの経済成長を目指す*14 。中国の脅威の台頭にヘッジをかけたいアメリカと日本としては、インドとの戦略的な対話の強化は、きわめて重要な戦略的含意を持つことになる*15 。オーストラリアの戦略的重要性も無視できない。7月7-10日には、安倍首相は、オーストラリアを訪問し、トニー・アボット首相との間で、「21世紀のための特別なパートナーシップ」を確認している*16 。これまで、最大の貿易相手国である中国を必要以上に刺激しないことを心がけてきたオーストラリアとしては、随分と踏み込んだ形となった。

オバマ政権は、10月2日、ベトナムへの武器禁輸措置を40年ぶりに一部解除することを発表した。ベトナムは、フィリピンと同じく、中国との間で、南シナ海の領有権問題を抱えている。たとえば、5月7日、南シナ海の西沙諸島近くの海域で、掘削を阻止するために派遣されたベトナム艦船が、中国艦船と衝突した。東シナ海の尖閣諸島だけではなく*17 、南シナ海でも、中国はアメリカの出方を探っているのである。オバマ政権としては、ベトナムへの武器供与で、中国の海洋進出を牽制する明確なメッセージを発したことになる*18 。オバマ大統領は、4月下旬に、日本、韓国、マレーシア、フィリピンのアジア4か国を歴訪している。オバマ大統領のフィリピン訪問には、中国の海洋進出を牽制する狙いがあった。

10月8日、日米両国は、12月に発表が予定されている日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の中間報告を発表した。「周辺事態」という概念は姿を消した。日米同盟は、「周辺事態」を超えて、アジア太平洋地域もしくはインド太平洋地域で、グローバルな役割を担うことになる*19 。日米両国は、アメリカの同盟国の韓国にこの中間報告を通告した(日本と韓国は隣国だが、正式な同盟関係にはない。ただし、日米韓の3か国の戦略的なつながりの強化は重要である)。オバマ政権と安倍政権としては、韓国の朴槿恵政権との間で、戦略的な対話を強化し、新ガイドラインの改定作業を通じて、日米韓の3か国の戦略的なつながりのさらなる強化を打ち出してはどうか。4度目の核実験のタイミングを見計らう北朝鮮と、海洋進出を推し進める中国にヘッジをかけるためには、日中韓の3か国の戦略的なつながりをより一層強めて、地域抑止を強化することが必要である。

安倍首相は、9月29日、国会で所信表明演説を行い、「地球儀を俯瞰する外交(diplomacy of bird-view globe)」と「積極的平和主義(proactive contributions to peace)」について、改めて説明した。まず第一に、「切れ目のない」安全保障法制の整備に向けた準備を進める。第二に、「環太平洋経済連携協定(TPP)」の交渉や、EUと東アジアとの経済連携協定(EPA)交渉など経済連携を戦略的に推進していく。第三に、特にオーストラリアとのEPAの早期の発効を実現する。第四に、在日米軍再編は現行の日米合意にしたがい、抑止力を維持しつつ基地負担の軽減に向けて取り組んでいく。第五に、日中首脳会談を早期に実現することである*20

中間選挙を直前に控えて、TPP交渉の合意は、国内政治上、難しい。なぜならば、民主党の支持基盤である労働組合は、さらなる自由貿易の拡大には慎重、もしくは反対だからである。オバマ政権としては、中間選挙を控えて、安易に妥協はできない。共和党は、概して、自由貿易の拡大には寛容である。ただし、民主党のオバマ政権を利する形で、TPPの国内交渉に積極的になるのかは、よくわからない。オバマ政権としては、中間選挙直後の中国の北京でのAPECの前後で、TPP交渉をほぼ合意させ、年内の合意を目指している。ただし、このシナリオの実現には、懐疑論が多い*21

オバマ大統領はこれまで、「TPPはアメリカ国内の雇用を創出する」と国内を説得してきた。また同時に、中国がすぐに加盟できないレベルの自由貿易の国際的な枠組みを形成することで中国にヘッジをかけることができる、という戦略的な動機も働いている。つまり、「再均衡(rebalancing)」は、軍事と安全保障の領域に限定されず、TPPはオバマ政権の「再均衡」の中核を成すものである。ただし、中長期的に、TPPに中国を組み込むことは想定されている。中国側も、将来のTPP加盟に少なからず関心を抱いている*22 。中国としては、当面のところ、より緩やかな自由貿易の拡大の枠組みとして、「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」と日中韓の自由貿易協定(FTA)を推進していくことになる。

日本の安倍政権としては、TPPとRCEPの両方に関わることから、TPPとRCEPの“橋渡し”の役割を果たすことが強く期待される。アメリカのオバマ政権としても、日本からのこうした“援護射撃”は、歓迎するであろう。ただし、TPPの締結は、次期政権まで引き延ばされるかもしれない。通商・貿易の分野での自由貿易の拡大の歴史は、国家的な争点となった北米自由貿易協定(NAFTA)や数年間棚ざらいにされた米韓FTAのように、長いプロセスが必要なことを教えてくれるからである。貿易促進権限(TPA)をオバマ政権は、アメリカ議会からまだ付与されていない。憲法上、通商と貿易に関する権限は、大統領ではなく、アメリカ議会にある。オバマ政権が、TPPの国際交渉と国内交渉の「2レベル・ゲームズ」で、きわめて困難な立場に立たされることは、ほぼ間違いない*23

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*1: Robert E. Kerry, Is There an Obama Doctrine?: In year 6 of his presidency, does Barack Obama have a foreign policy doctrine? The Diplomat, September 22, 2014.

*2: Jeremy W. Peters, “Republicans’ cry: America is unsafe,” International New York Times, October 11-12, 2014. また2012年大統領選挙の共和党候補であったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事は、敗北後も意外にも、なお依然として高い支持率を保っている。Mark Leibovich, “Romney isn’t ready to call it quits,” International New York Times, October 4-6, 2014.

*3: Financial Times, October 8, 2014; 『日本経済新聞』2014年10月8日。

*4: 民主党のティモシー・ケイン上院議員は、一貫して、オバマ大統領が2008年に大統領候補であった時に主張していたように、「大統領は議会の支持を事前に獲得すべきである」と指摘する。オバマ大統領には「一貫性がない」と批判的である。Peter Baker and Brian Knowlton, Obama admits U.S. erred in judging Jihadist threat," International New York Times, September 30, 2014; 『日本経済新聞』2014年9月29日。

*5: Fredrik Logevall and Gordon m. Goldstein, "Will Syria be Obama's Vietnam?" International New York Times, October 9, 2014.

*6: 『日本経済新聞』2014年10月25日。

*7: ジョン・ミヤシャイマー「欧米の誤算が生んだウクライナ危機」『外交』Vol. 25、20頁。ミヤシャイマーのより詳細な議論については、John J. Mearshiemer, “Why the Ukraine Crisis Is the West’s Fault: The Liberal Delusions That Provoked Putin,” Foreign Affairs, Vol. 93, No. 5, September/ October, 2014, pp. 77-89 を参照。

*8: オバマ大統領は10月1日、訪米中の中国の王毅外相との会談で、「香港情勢を注視している。香港当局と抗議する人々との間で、平和的に(問題が)解決されることを望む。アメリカは香港の安定と繁栄に絶対必要な開かれた社会と、普通選挙、人々の熱望を支持している」と指摘した。『産経新聞』2014年10月3日。

*9: ヘリテージ財団のディーン・チェンは、「オバマ大統領が中国政府に平和的解決をしつこく求めないのは不可解だ」と指摘する。『日本経済新聞』2014年10月9日。

*10: 『日本経済新聞』2014年10月11日。

*11: Peter Harris, Putting Hong Kong in Historical Context, The Diplomat, October 11, 2014.

*12: Nitin A. Gokhale, Modi, Japan and Diplomatic Balancing, The Diplomat, September 3, 2014.

*13: 習国家主席の訪印の数日前、1000名を超える中国の人民解放軍が、まだ国境が画定していないラダック地方で、いきなりインド側に越境した。越境した兵士たちは、中印首脳会談の間も、居座っていた。モディ首相は、中国との「友好と協力」を強調したが、この事件を重く受け止めた。秋田浩之「通説を疑ってみる」『日本経済新聞』2014年10月12日。

*14: Julie Hirschfeld Davis, “Obama and Modi take friendly stroll,” International New York Times, October 2, 2014.

*15: モディ首相は、オバマ大統領と会談し、日米印の外相会談の開催に合意した。また、公表は控えたが、複数の軍事協力も密かに固まった。空母の技術供与や米兵器のライセンス生産も含まれるという。秋田「通説を疑ってみる」。

*16: 外務省のHPを参照。http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000044775.pdf

*17: 2014年1-9月で、中国漁船が尖閣領海に入って操業し、海上保安庁に退去させられるトラブルが、208件に上る。昨年1年間の2.4倍である。『日本経済新聞』2014年10月10日。

*18: Truong-Ming Vu and Ngo Di Lan, The Political Significance of American Lethal Weapons to Vietnam, The Diplomat, October 7, 2014.

*19: 日米ガイドラインの再改定の中間報告は、オーストラリアや東南アジア諸国連合(ASEAN)を念頭に、「地域の同盟国やパートナー」との安全保障協力の推進も謳った。またオバマ政権の高官は10月7日、日米ガイドラインの再改定について、「中国の政治・経済、外交、軍事的な台頭が一つの要因だ」と指摘した。『日本経済新聞』2014年10月9日。

*20: 『日本経済新聞』2014年9月30日。

*21: TPPについては、「今後数週間。安倍首相には日米合意に向け政治的リーダーシップを発揮する好機が訪れる。この機会をとらえるべきだ」という議論もある。Matthew P. Goodman, Japan's moment to lead on TPP, CSIS (Center for Strategic & International Studies), October 6, 2014. マシュー・グッドマン・CSIS政治経済部長は、「TPPは現行の投資・貿易ルールをグローバル・バリュエーション(国境を越えた機能的分業の枠組み)重視の21世紀的なルールに基づく国際貿易にふさわしいものへと前進させる」とも指摘している。『日本経済新聞』2014年10月4日。

*22: Shannon Tiezzi, Will Chana Join the Trans-Pacific Partnership?, The Diplomat, October 10, 2014.

*23: 環太平洋経済連携協定(TPP)のオバマ政権の政策については、ジェフリー・J・ショット、バーバラ・コトチュウォー、ジュリア・ミュール(浦田秀次郎監訳、前野高章、三浦秀之訳)『米国の研究者が書いたTPPがよくわかる本』日本経済新聞出版社、2013年を参照。

■島村直幸 杏林大学講師