2014年アメリカ中間選挙 update 3:福音派と無宗教に分極化するヒスパニック? | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

2014年アメリカ中間選挙 update 3:福音派と無宗教に分極化するヒスパニック?

October 27, 2014

2014年中間選挙におけるヒスパニックの有権者数は、過去最高の2520万人で全有権者の11%にのぼる *1 。急速に選挙での存在感を高めるヒスパニック票は、これまでのところ圧倒的に民主党寄りで、今後、同党支持基盤の中核に発展していく可能性も高い。しかし、宗教的な側面を見ると、圧倒的だったカトリック人口が急減し、保守的なプロテスタント福音派とリベラルな無宗教のグループへ分極化する傾向が指摘されている。宗教グループへの所属は社会的争点への態度を通して、政党支持にも大きな影響を与えるだけに、今後、ヒスパニック票の動向を考える上で無視できない傾向と言えよう。

ピュー研究所が2013年に行った大規模なヒスパニック人口に対する社会調査 *2 によると、同年現在で3540万人の在米ヒスパニック人口のうち、カトリックは55%、プロテスタント福音派(ボーンアゲインの経験を持つプロテスタント)は22%で、無宗教は18%だった。2010年に同研究所が行った同種の調査ではカトリックが67%で、福音派が12%、無宗教は10%であり、わずか3年間でカトリックが12%も減少している。

カトリック減少の理由は明確ではない。中南米各国ではカトリックが主要な宗教伝統であり、これらの地域から移民してくるヒスパニックは大半がカトリックだった。だが、中南米ではプロテスタント福音派のペンテコステ派が信者を伸ばしているほか、米国内でもペンテコステ派を含む福音派の教派が、移民に対して積極的な勧誘活動を展開していることが変化の理由として考えられる。一方、無宗教の増加に関しては、米国内でも近年無宗教人口が顕著に増加しており、このトレンドに影響を受けたものと考えていいだろう。

福音派の中でもペンテコステ派は、聖書を字義通りに解釈するだけでなく、聖霊による癒やしや本人の知らない言語で突然話し出す「異言」を重視するなどのスピリチュアル系で、宗教保守主義が極めて強い教派だ。逆に、無宗教の人々は教会にほとんど行かず聖書を信じない、最も宗教的リベラルの人々である。カトリックは両者の中間にあり、“宗教的穏健派”とも言える教派だが、そこから最保守派と再リベラルの両極の分化していく傾向が、近年、顕著になってきたということである。

それでは、ヒスパニック社会の中でも所属する宗教教派によって、政治的、社会的争点への態度は異なってくるのだろうか、あるいは、宗教教派はあまり関係がなくヒスパニックであれば政治的、社会的争点に対して同じような傾向を示すのだろうか。

ピュー研究所の調査結果によると、同じヒスパニックでも帰属する教派によって社会的争点への態度は大きく異なる。ヒスパニックの福音派は66%が同性愛結婚反対だが、カトリックは30%が反対、無宗教は16%と明確に態度が分かれた(米国民一般では43%)。また、人工妊娠中絶はどんな時でも違法だと考える人は、ヒスパニック福音派で70%、同カトリックで54%、無宗教で35%(同40%)。この他の争点を含めて、社会的争点に関する文化戦争的な対立構造はヒスパニック社会内部にも存在し、所属教派によって態度は大きく変わっている *3

社会的争点は共和、民主両党の重要な争点基軸であり、こうした対立構造を反映し、ヒスパニック福音派の共和党支持率は30%で無宗教(16%)の二倍近い。逆に、民主党支持率は福音派48%に対して無宗教は64%と大きく上回り、明らかに宗教的な帰属によって政党支持が異なっている。だが、これを米国民一般(共和党支持39%、民主党支持48%)と比較すると、ヒスパニックは福音派であっても米国民一般よりは共和党支持が低いことがわかる。政党支持に関しては宗教と民族的な特徴の両方が影響を与えていると言えるだろう。

これに対して、移民への福祉サービスに関係する「小さな政府」を支持するかどうか、という質問に対する態度は、宗教への帰属とほとんど関係がない。福音派と無宗教、カトリックともに支持する人は18~25%しかなく、移民社会という民族的な特徴が彼らの態度に強く影響している。

こうして、帰属する宗教教派に着目すると、ヒスパニック社会の多様性が明らかになる。そして、“宗教的穏健派”のカトリックから保守的な福音派とリベラルな無宗教への分極化が拡大していけば、多様性はさらに深化していく。ヒスパニックという枠で一律に政治的、社会的な傾向を分析することは、いよいよ困難になっていくだろう。

表 宗教への帰属別に見たヒスパニックの政治的、社会的争点態度(単位%)

注 The Shifting Religious Identity of Latinos in the United Statesから筆者作成

===========================================

*1 : Latino Voters and the 2014 Midterm Elections, Pew Research Center's Hispanic Trends Project( http://www.pewhispanic.org/2014/10/16/latino-voters-and-the-2014-midterm-elections/ ), 最終閲覧日付2014/10/18。

*2 : The Shifting Religious Identity of Latinos in the United States, Pew Research Center's Religion & Public Life Project( http://www.pewforum.org/2014/05/07/the-shifting-religious-identity-of-latinos-in-the-united-states/ ), 最終閲覧日付 2014/10/18。

*3 : Troy Gibson and Christopher Hare (2012). “Do Latino Christians and Seculars Fit the Culture War Profile?” Latino Religiosity and Political Behavior. Politics and Religion, 5, pp 53-82.

■飯山雅史 北海道教育大学教授

    • 北海道教育大学
    • 飯山 雅史
    • 飯山 雅史

注目コンテンツ

BY THIS AUTHOR

この研究員のコンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム