タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/10/30

2014年アメリカ中間選挙 update 3:選挙終盤の要となる支持基盤動員戦の諸相(細野豊樹)

注目の連邦議会上院選の終盤では、接戦州の多くで共和党の優勢が伝えられる。こうしたなか、共和党上院選対委員会事務局長が記者ブリーフィングにおいて、早くも連邦上院で多数を確保できるとの見通しを、確信をもって語ったと報じられている*1。ただし、民主党候補による逆転のチャンスが残された州も多く、民主党候補の追い上げを示す直近の世論調査もみられる、という状況である。

接戦州における終盤選の決め手は、大統領選挙では投票するが中間選挙は棄権しがちな、政治的関心があまり高くない支持者(drop-off voters)を、投票所に引っ張り出す「地上戦」である。民主党のオバマ陣営は、2008年と2012年の大統領選挙で、こうした支持基盤動員戦術を極めた。これを連邦議会に適用するのがBannock Street Projectである。この名称は、2010年中間選挙で支持基盤動員を試行したコロラド州上院選の選挙事務所があったデンバー市のストリート名にちなんでいる。2014年選挙では、10州での支持基盤動員向けて約4000人を雇用し6000万ドルを投じる取組みだとされる*2。2012年の選挙で「地上戦」に負けた共和党も、民主党に追いつくための取組みを精力的に進めている。

動員戦術を研究する際の問題は、データの乏しさである。メディアによる選挙情勢の定性データおよびマンパワー、資金等の数量データのいずれもあまり出てこない。そこで、限界はあるものの、以下では州政府や連邦政府の公開データから、「地上戦」の動向について多少なりとも推測する手法につき考察したい。基本的な数字として接戦各州の中間選挙投票率およびマイノリティーの割合を概観したうえで、興味深くかつ対照的なコロラドとノース・キャロライナを対比してみたい。

2014年中間選挙でも、2008年および2012年大統領選挙と同様に、民主党の中核支持基盤である非白人のマイノリティー(黒人、ヒスパニックなど)、女性および若者の動員が鍵となる。終盤において特に注目したいのが、マイノリティーの動向である。表1は支持基盤動員戦の観点から注目される接戦州である。18歳以上の投票年齢人口に占めるマイノリティーの割合が高い州が多い。マイノリティーの割合の比率が特に大きいのは、黒人が多い南部である。表1の接戦州では、アーカンソー、ノース・キャロライナおよびルイジアが該当する。これら南部諸州は、いずれも投票率が低い。それは、裏を返せば州の投票率に伸びしろがある、すなわち有権者動員により投票率を高める余地が残っているということである。対照的にコロラド、アラスカといった投票率が高い州は、伸びしろが小さいといえる。


表1 接戦州の中間選挙投票率、マイノリティーの割合および有権者動員の特記事項



備考:2010年中間選挙も有資格者投票率(Voting Eligible Population(VEP))の出典は、Michael P. McCormick准教授のUnited States Election Project。www.electproject.org
投票年齢人口(Voting Age Population(VAP))に占めるマイノリティーの比率は、連邦政府国政調査局(Census Bureau)のCurrent Population Surveyの2008-2012年の推計値。
“Voting Age Population by Citizenship and Race (CVAP)”,
www.census.gov/rdo/data/voting_age_population_by_citizenship_and_race_cvap.html


民主党の候補が善戦していて、マイノリティー動員の帰趨が特に注目される州は、ジョージア、ノース・キャロライナ、コロラドおよびアラスカである。以下ではコロラドとノース・キャロライナを取り上げて、州政府の有権者登録データなどが、「地上戦」の動向を推定する指標となりうることを示したい。

コロラドは、当初は民主党現職のマーク・ユーダル候補が優勢であったが、中盤以降は逆転されていた。直近の複数の世論調査がユーダルの追い上げを示しており、終盤での「地上戦」の帰趨から目が離せない。ユーダル陣営が支持基盤動員に力を入れていることは、メディアで報じていられている*3

支持基盤動員の第一フェーズは、転居等で未登録の支持者の有権者登録である。コロラドにおける2014年2月始めから10月までの、支持政党別有権者登録の変化は、表2のとおりである。


表2 コロラド州の支持政党別有権者登録の増減



備考:コロラド州政府州務長官公式サイトのデータから筆者が集計。


一見すると民主党支持で登録する有権者数が減っており、対照的に1.4%増えている共和党が優勢に見える。しかし、重要なのは「支持政党なし」が4.3%と大幅に伸びていることである。支持政党なしには、民主党寄りと共和党寄りがあって、民主党陣営は民主党寄りの支持政党なしを動員している可能性がある。これにアプローチしたのが表3である。


表3 民主党優位および共和党優位郡における支持政党なしの伸び率の差



備考:コロラド州政府州務長官公式サイトのデータから筆者が集計。支持政党なしの
   登録数は2014年2月3日現在。

 
Boulder郡およびDenver郡は、民主党支持で登録する割合が高い民主党の牙城で、しかも人口が多い。これらの民主党優勢郡では、支持政党なしの伸び率が、州平均の4.3%よりもかなり高くなっている。民主党が強い郡なので、伸びているのは支持政党なしの中でも民主党寄りが多いと推定される。

対照的に、民主党支持の割合が低い共和党優勢郡のうち、高学歴で富裕層が多いことで知られるダグラス郡は、支持政党なしの伸びがマイナスになっている。既に有権者登録の割合が高く、伸びしろが無いのかもしれない。もう一つの共和党優勢郡エル・パソにおける支持政党なしの伸び率は、州の平均前後にとどまる。

これら4郡を含めた全ての郡ごとの民主党支持の割合および支持政党なしの伸び率の相関係数は0.32であり、弱い相関が認められる。前述のとおり、民主党支持者が多い郡は、おそらく民主党寄りの支持政党なしが多いと考えられるで、コロラドにおいて民主党は民主党寄りの支持政党なしの動員にある程度成功したとの推察が成り立とう。

投票率が既に高いコロラドのような州では、伸びしろが限られる第一フェーズの有権者登録よりも、有権者登録しても投票に来ない支持者を引っ張り出す第二フェーズほうが重要である。その動向を外部から推定するのは簡単でないないものの、連邦選挙委員会が公表する政治資金支出報告が若干のヒントにはなる。そこには例えば利益団体や政党の上院選対委員会などが行う「独立支出」(independent expenditure)の最新データが公開されており、民主党候補を応援すべく労組、環境保護、人工中絶の権利などの関係団体が、共和党候補当選に向けて全米ライフル協会等が、支持基盤を掘り起こすべく運動員を繰り出していることが見てとれる。

コロラド州は郵便投票の制度を導入し、投票が手軽になった。これは、支持基盤の中間選挙と大統領選挙の投票率の差が大きいと言われる、民主党を利する制度である。運動員が、投票意欲の低い支持者に働きかけて投票所まで足を運ばせるよりも、何かのついでに投票用紙を郵送するよう説得するほうが、はるかに簡単である。

次に取り上げるノース・キャロライナは、逆に制度を変えて投票しにくくした州である。それは、初の黒人大統領の誕生を背景に近年の選挙で黒人の投票率が高まったことに対する、共和党陣営からの反動といわれる。ニューヨーク大学法科大学院ブレナン司法研究所によれば、2010年以降投票を制限する、身分証明書提示の義務付けといった措置が多数導入され、現在21の州において発効している*4。白人は運転免許証を身分証にできる場合が多いのに対して、低所得の黒人やヒスパニックは自動車を所有しない場合も少なくないため、免許証に代わる身分証明の取得が負担になる。

ノース・キャロライナは、投票のハードルを高くする取組みが特に急進的である。2010年の中間選挙で共和党が多数となった州議会が右傾化し、投票の際の身分証明書を2016年から義務付けるだけでなく、2014年から期日前投票の期間を短縮し、投票日当日の有権者登録を廃止するなどの措置を導入した。その撤回を求める訴訟が連邦司法省等から提起されている。

同州の上院選の共和党候補であるトム・ティリスは州議会下院の現職議長であり、有権者登録を含めて様々な面での州の右傾化を体現した人物である。ノース・キャロライナの上院選の特色は、民主党現職のケイ・ヘーガンだけでなく、知事と議会を制した州の共和党の信任投票にもなっている点だ。接戦州の終盤で民主党の現職は軒並み苦戦する中で、ヘーガンだけは様々な世論調査で僅かだが安定したリードを最近まで保ってきた。ただし、直近の世論調査はティリスの追い上げを示している。

そういうノース・キャロライナにおける有権者登録数の変化が表4である。

表4 ノース・キャロライナ州の支持政党別等の有権者登録数の増減



備考:ノース・キャロライナ州政府州務長官公式サイトのデータから筆者が集計。

コロラドと同様に、民主党支持者の登録数を共和党が上回る一方で、支持政党なしが大きく伸びている。コロラドと少し異なって、郡ごとに民主党支持の割合と支持政党なしの伸び率の相関係数を求めると0.23にしかならず、こちらは無相関に近い。ただし、民主党の支持基盤である黒人およびヒスパニックの有権者登録数の伸びが白人を上回っていて、支持基盤動員がある程度機能していることを示唆する。

多くの接戦州で民主党の頼みの綱となっている黒人票を不安視する、民主党コンサルタントの内部メモについて、最近の『ニューヨーク・タイムズ』が報じている。オバマとの距離が近すぎると白人が反発し、距離を置けば黒人が離反するというのが、白人の民主党候補のジレンマである*5。ノース・キャロライナやジョージアの黒人票の出方は、2016年の大統領選挙を占う指標としても注目される。

右傾化路線のノース・キャロライナと、共和党のコーリー・ガードナー候補がソフトなイメージで攻めるコロラドの帰趨は、2016年に向けた共和党内の路線闘争の面からも興味深い。

近年の民主党は、男性票での劣勢を女性票の優位で補ってきているので、テロやISISへの不安の高まりという文脈で、男女別得票率の差(ジェンダー・ギャップ)の動向も見逃せない。

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*1: Philip Rucker, As midterm campaigns enter stretch run, Ebola and other twists set stage for drama , The Washington Post, October 18, 2014,

*2: Ashley Parker, Democrats Aim for a 2014 More Like 2012 and 2008, The New York Times, February 6, 2014,

*3: Reid Wilson, With a win on the line in Colorado, Democrats hope to mail it in, The Washington Post, September 12, 2014,

*4: Brennan Center for Justice, New York University Law School
States With New Voting Restrictions Since 2010 Election

*5: Sheryl Gay Stolbergoct, Black Vote Seen as Last Hope for Democrats to Hold Senate, The New York Times, Oct 18,2014,

■細野豊樹 共立女子大学教授