タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/12/3

2014年アメリカ中間選挙 update 4:中間選挙後のレイムダック・セッションと12月の政府閉鎖危機(中林美恵子)

大統領を擁する政党にとっては不利な場合が多い中間選挙であるが、2014年もそのパターンに落ち着く結果となった。米国経済もそれなりに好調で、共和党の支持率が特に伸びたわけでもないのに、民主党は大敗したのである。議席喪失が予想以上だった原因の一つとして、オバマ大統領の不人気や、分かり易い争点の不在(特に民主党を利するもの)等が指摘されている。これは米国史上72年ぶりという低い投票率にも見てとれる。オバマ大統領が自身の大統領選挙で若者や女性などの支持を背景に票を伸ばしてきたことを鑑みれば、低投票率は民主党にとって大きな痛手だった。今回の中間選挙の特色を踏まえ、本稿ではレイムダック・セッションにおける直近の財政施策を巡って争われる共和党とオバマ大統領の関係を中心に、いくつかの注目ポイントを指摘することとしたい。

中間選挙で敗北した直後の11月5日、オバマ大統領は記者会見を行った。言葉の端々に、アメリカ国民が必ずしも共和党を支持しているわけではないのに、という怒りともとれる気持ちが垣間見られた。その気持ちには一理ある。民主党の敗因およびこの中間選挙の最大の特色の一つが、低投票率だったからである。アメリカの投票率がここまで低かったのは第二次世界大戦中の1942年まで遡らなければならない*1。当時の投票率は33.9%、そして今年は36.4%という72年ぶりの記録的な低投票率であった。つまりオバマ大統領にしてみれば、共和党に対し必要以上に妥協する根拠は無いという思いが消しきれないでいる。

もともと根回しや政治駆け引きを得意分野としないオバマ政権が、今回の中間選挙結果からどのようなメッセージを受け取ったかは、今後の政策運営や議会との協力の展開に影響を及ぼすことになる。例えばオバマ大統領は、500万人*2が対象ともいわれる不法移民対策の大統領令に関し、選挙直後から共和党にとっては刺激的な発言を続けた。大統領令という選択は実際には11月20日の記者会見で発表(21日に署名)され、実際の内容は憲法違反とまでは指摘できない範囲のマイルドさであったが、そうはいっても共和党の主張である「中間選挙で勝った国民の代表が就任する前に一方的な強硬政策を実施すれば“poisoning the well*3”だし“waving a red flag in front of a bull*4”だ」というミッチ・マコーネル上院議員(共和党院内総務)の声に、大統領は怯まなかったことになる。大統領と共和党の距離という意味では、11月24日にチャック・ヘーゲル国防長官が辞任を発表し、事実上の更迭をされた。もともと共和党の上院議員だったヘーゲル国防長官は、オバマ政権内での安全保障や国防の政策での路線対立に負けたと目されており、ホワイトハウスと共和党議会の溝は、ますます広がる傾向にある。

2014年中間選挙が済んで1月3日まで、現在議会はレイムダック・セッションが行われている。そこでは早くも、政府機能一部閉鎖(ガバメント・シャットダウン)の話題が浮上している。というのも、12月11日には、暫定継続予算の期限切れが迫っているからだ。ガバメント・シャットダウンを回避するには二つの方法しかない。期限が切れる前に新たな短期的(つまり新議会のメンバーが揃って審議するまでの)暫定的な継続予算を通過させるか、または来年9月末までの予算年度全てをカバーする包括歳出法を通過させるか、のどちらかである。

過去においても、予算問題は政党の大きな対立点として位置してきた。特にガバメント・シャットダウンは、米国や世界の経済にも影響を及ぼすだけに大きな注目を集め、1995年12月および昨年2013年10月のシャットダウンの際には、議会共和党が非難を浴びる結果を招いたことは記憶に新しい。そこで中間選挙前からマコーネル上院議員は「ガバメント・シャットダウンは起こさせない」と明言し、中間選挙に勝利した翌5日の雑誌インタヴューでもその点を明確にした*5。また2013年のシャットダウンの原因となったオバマ政権の医療保険制度改革(いわゆるオバマケア)についても廃止はしないと言っている。ただし、オバマ大統領と細部に関する政策的な協調を促すためには、予算と歳出関連法案の力を使う可能性も排除はしていないという。つまり大統領令で不法移民対策が指示されたとしても、議会における予算措置によって様々な影響力を共和党が行使できるという示唆である。一方で、共和党が大統領と協力関係を築けるであろうと予想する分野も確実に存在すると指摘し、包括的な税制改正と自由貿易協定などを挙げ、建設的主張をアピールするのも忘れていない。

ところが実際に大統領令による不法移民対策が署名された11月21日、中間選挙で勝利した共和党側に大きな反発が広がったのも事実だ。11月23日のNational Journal誌にはテッド・クルーズ上院議員のコメントが大きく紹介されている*6。オバマ大統領の推進する政策に共和党が予算措置によって妨害を加えても、国民からの支持が下がることはないとクルーズ上院議員は主張し、この中間選挙で上院では9議席も増やし、下院では1920年以来の大所帯の多数党に成長した事実に大きな自信を示したのである。彼はこの共和党の議席の力を使って、オバマケアを廃止したり不法移民対策を反故にしたりするため、ガバメント・シャットダウンのカードをも駆使すべきであると公言し、2013年のガバメント・シャットダウンを主導したメンバーの一人としての存在をアピールするのに余念がなかった。

なかにはNew Republic誌の記事*7のように、前回よりも長期化したガバメント・シャットダウンを起こす余地は、2013年の時よりも大きいと論じるものもある。その理由としては、第一に共和党への批判はあくまでも2014年の中間選挙結果を見る限り問題ではなくなっており、オバマケアについても世論は二分されているので共和党へのダメージは小さく、ましてや2016年の大統領選挙への悪影響が無さそうだということが今回の中間選挙の勝利から推測できること。第二に、2013年の予算争議では債務上限の引き上げが17日後に控えていたので、それが事実上のデッドラインとなっていたが、2015年は8月下旬まで債務上限には達しない予定なのでデッドラインが見えないこと。最後には、憲法によって規定された議会の権利という大義を共和党が掲げて予算の決定権を握ろうとする一方で、大統領は自身のレガシー(歴史に名を刻む)ことを目指すため、結局のところ両者の妥協はますます困難になるという理論である。

しかしながら、1月から上院多数党院内総務に就任予定のマコーネル上院議員は、ガバメント・シャットダウンの回避に余念がない。彼のスタッフは早い時期から、いかに2013年のシャットダウンが共和党に悪影響を与え、その後の支持率低下を招いたかを記述して共和党議員に回覧しているという。また、実際に不法移民措置に関する予算のみを停止することを目指しても、技術的には不可能に近いという事情も存在する。米国市民権・移民業務局(U.S. Citizenship and Immigration Services)は様々な申請書類の提出に手数料を課しているため、自主財源で運営できる裁量もあるからである。ただし二つの回避方法のうち、9月末までの長期的な包括歳出法の調整に失敗して暫定的な継続予算の通過のみに終わる場合は、米国の経済と政治に悪影響が及ぶ可能性が生じる。特に安全保障や国防面での予算が短期の見通ししか立たなくなった場合は、国の安全にかかわるし、1月3日から始まる新議会で新しく交渉をやり直すことになれば、さらに半年間は結論を待たなければならないリスクも生じる。また、2016年の大統領選挙に向けて活動が始まるのは2015年であり、共和党を中心とした新議会は実質的には半年余りの自由な活躍期間しか残されていない。その貴重な時間を有効に使うためには、ガバメント・シャットダウンに翻弄され、経済と政治の混乱を招いている暇はないはずなのである。

12月11日まで、非常に時間が限られたなかでのレイムダック・セッションで、今現在も多くの折衝が行われているところである。期日までに包括的な歳出法を通し、各種の減税措置が期限切れを迎えるため必要なものを延長し、防衛費の予算権限法を通過させ、12月31日の期限切れが目の前に迫ったテロ・リスク保険を延長し、12月11日に期限切れとなるインターネット税猶予措置も延長しながら、さらには上院で民主党が多数を占めているうちに大統領の政治指名職をできるだけ多く承認することが目標となっている。米国議会内部の人間たちによれば、何とか期限までにこなせそうだとの予測だが、オバマ大統領の拒否権発動もちらついており、細心の作業が行われているところだ。

中間選挙結果は、オバマ大統領にとっても議会共和党にとっても、多くの妥協と摩擦を生じさせる要因に既になっている。これが国民により明快な選択肢を示すことにつながるのであれば、ある意味でアメリカ民主主義のダイナミズムといえる。しかし逆に、ピュー・リサーチ・センターが11月12日に発表した世論調査*8のように、52%の民主党支持者がオバマ大統領の共和党への歩み寄りを期待しているのに対し、共和党支持者では32%が協調を期待、逆に66%が(決められない政治でいいから)オバマ大統領に対峙するよう期待する数字も存在する。もし議員たちがそれに従うようになれば、より激しいグリッド・ロック状態が展開される可能性が、今回の中間選挙によってもたらされたことになる。それもまた、民意の成せる業といわねばなるまい。

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*1:“Voter Turnout in Midterm Elections Hits 72-Year Low.” Time Magazine, November 10, 2014.
*2:“Mitch McConnell Says, No Government Shutdown Even If Obama Acts On Immigration.”International Business Times, November 13, 2014.
*3:“McConnell warns Obama not to 'poison the well' after midterms rout.” The Guardian, November 5, 2014.
*4:“Obama's plan of action on immigration may derail Republican agenda.” Los Angeles Times, November 19, 2014.
*5:“McConnell: No Shutdowns, No Full Obamacare Repeal.”Time Magazine, November 5, 2014.
*6:“Ted Cruz: Republicans Shouldn't Fear a Government Shutdown Over Immigration.”National Journal, November 23, 2014.
*7:“Get Ready for a Government Shutdown Over Obama's Immigration Order.”New Republic, November 21, 2014.
*8:“Little Enthusiasm, Familiar Divisions After the GOP’s Big Midterm Victory: Most Expect Obama to Get Little Done Over Next Two Years.” Pew Research Center, November 12, 2014.

■中林美恵子 早稲田大学准教授