タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/12/10

2014年アメリカ中間選挙 update 4:共和党のポスト・レイシャル化?(西川 賢)

歴史学者ティモシー・サーバーは過去一世紀にわたり、共和党には二つの大きな変化が生じたと指摘している*1

第一の変化は地理的変化であり、かつて民主党の金城湯池であった南部が共和党の支持基盤へと移行した。第二の変化は黒人有権者の政党支持パターンの変化であり、南北戦争以後、長らく共和党を支持してきた黒人有権者は1960年代以後民主党支持に転じ、現在に至るまで民主党の最も強固な支持基盤の一つに数えられている。

実際のところ、直近の2008年と2012年の大統領選挙だけをみても黒人有権者の約9割が民主党に投票しており*2、共和党は黒人有権者の支持という面で1960年代以降、長らく極めて不利な立場に立たされてきた。

この状況に変化の兆しと思しき現象が生じたのは、2010年の中間選挙である。同年の選挙には40人を超える共和党黒人候補が立候補し、この中からティム・スコットとアレン・ウェストの二人が下院議員に当選を果たした。これは南部再建期以降、初めての現象であったといわれている*3。続く2012年の連邦議会選挙にも30人を超える共和党黒人候補が立候補しており、2010年に生じた共和党黒人候補の立候補の増加という傾向が継続してみられた*4

2014年の中間選挙においてもこの傾向が続いた。2014年選挙では、史上初めて共和党から黒人の女性下院議員ミア・ラブ(ユタ州選出)が当選を果たした。貧しいハイチ移民の子としてニューヨーク州ブルックリンで生まれたラブは大学時代に知り合った白人のモルモン教徒(現在の夫)の影響でカトリックからモルモン教に改宗し、2010年から4年間サラトガ・スプリングス市長を務めた*5。ラブ以外にも、テキサス州で元CIA局員であったウィル・ハードが南部再建期以降初めて黒人として下院議員に当選を果たした*6。また、サウス・カロライナ州で辞任したジム・デミント上院議員の空席を巡って争われた選挙では共和党の黒人候補ティム・スコットが民主党の女性黒人候補ジョイス・ディッカーソンを破って当選を果たしたが、黒人候補が同州から上院議員に当選するのも、やはり南部再建期以来133年振りの出来事である*7

これ以外にも、今回の選挙ではフロリダ、ウィスコンシン、アーカンソー、サウス・カロライナの各州で共和党候補者に対する黒人有権者の投票率が10%を超え、オハイオでは現職のジョン・ケーシック知事が黒人票の26%を獲得して再選されるなど、黒人有権者と共和党の関係にあらためて注目が集まっている*8

このような状況を見れば、フアン・ウィリアムズが「2014年の中間選挙は黒人共和党にとっての当たり年(a marquee year)」であったと表現したことは的確なのかも知れない*9。2016年の共和党有力大統領候補の一人と目されている黒人政治活動家ベン・カーソンはこの機を巧みに捉え、現在アメリカで生じている人種をめぐる深刻な混乱について、「オバマ政権が人種を切り札として用いて必要以上に強調したことで、オバマ政権以前よりも状況が悪化してしまった」ことがその原因であると批判の矛先を民主党政権に向ける*10。カーソンの批判の妥当性はさておき、「白人高齢者の党」というレッテルに苦しんできた共和党は、2014年の選挙によって長らく欲してやまなかった多様性(Diversity)を(僅かながらも)手中に収めたといえるであろう。

ここで2016年大統領選挙での政権奪還を視野に入れた場合、共和党は自党の中核的支持層ではない黒人有権者にどの程度効果的なアウトリーチをかけられるかが選挙戦略上の課題の一つであることはいうまでもない。こうした課題はG.W.ブッシュ政権期の宗教を切り口に黒人にアウトリーチを試みる「信仰に基づくイニシアチブ」(Faith-Based Initiative)の時には強く意識されはじめていたが*11、2014年選挙の結果をみて、共和党の中で黒人有権者の支持をより増やしたい、共和党の人種的イメージを刷新させたいという声がより大きくなっていったとしても、何ら不自然ではない*12

この点について、ポール・ライアン下院議員(ならびにマルコ・ルビオ上院議員)が2014年にはいってより「貧困対策」を強調して注目を集めている。これは減税や経済特区の設置による貧困対策によって低所得者層の底上げを図ると同時に、それらの政策アピールを通じて黒人有権者にもアウトリーチを試みようとするものである。

ただし、このような政策による黒人有権者へのアウトリーチには大きな限界があると『ナショナル・ジャーナル』の記事が指摘している。そもそも、公民権法、国民皆保険制度、各種補助制度など黒人有権者に特に人気の高い政策は「大きな政府」的発想に基づくものであり、彼らは自らを「大きな政府」の受益者だと見ている。彼らが容易に減税や学校バウチャーなど、「小さな政府」的政策の受益層へと自己認識を転換することはありそうにない。また、ライアンが理念とするリバタリアン的な志向性からいえば教育補助、公共事業、公民権法、国民皆保険などの政策に反対することになるが、たとえ貧困政策が黒人有権層にアピールする効果を持っていたとしても、国民皆保険や公民権法に反対の姿勢をとれば、そのぶん彼らの票が失われてしまう*13

ランド・ポール上院議員も、2013年にデトロイトに開設された「黒人有権者アウトリーチ・センター」の開設記念講演で演説したことを皮切りにハワード大学でも講演を行うなど、共和党内部で黒人有権者へのアウトリーチに最も積極的な姿勢を見せる一人である*14。ポール議員は11月初旬に出演した『フェイス・ザ・ネイション』の中で黒人有権者へのアピールという点では共和党の「ブランド」は機能しておらず、「共和党と黒人有権者との間には壁というか、バリアが存在している」と語った。そのうえで、ポール議員は「共和党は黒人票など必要としていないという認識をまず改めねばならない」と指摘している*15

ポール議員は量刑下限の縮減、前科者への投票権や福祉受給権の保障、少年法の改革などを中心に、刑事司法制度の改革を打ち出して注目を集めている。刑事司法制度の改革案は、黒人有権者へのアウトリーチとして可能性のある(しかも貧困対策ほど政策的トレードオフやリスクが大きくない)プランの一つであるだろう。今月に入って発生したファーガソンでの暴動に際しても、ポール議員は薬物使用で有罪になる者の4人に3人は有色人種であるとし、法の執行が特定人種にアンバランスに作用していることが人種間に不平等感覚を生み出す原因であるとして、「刑事司法制度を改革して人種の偏りをなくす」(” Reforming criminal justice to make it racially blind is imperative”)必要性を再度訴えている*16

以上のように、黒人有権者へのアウトリーチは共和党内部で問題意識として既にある程度共有されており、信仰心、貧困対策、刑事司法制度改革など、共和党の政策的主張を抜本的に変えずとも黒人有権者にアピール可能な領域は少なからず存在するという意見も存在する。こうした軸に沿って、今後も様々な黒人アウトリーチ戦略のアイディアが生み出されていくに違いない。

松岡泰は近年のアメリカで黒人有権者が多元化しており、それを受けて民主党に脱人種型の黒人候補が登場、選挙で当選を果たしている事実を指摘している*17。だが、本稿で指摘した事実に鑑みれば、民主党のみならず、共和党もポスト・レイシャルな政党へと変貌しつつあるといえるのかもしれない。

しかし、共和党にとっての最大の課題といえるのが、『ナショナル・ジャーナル』の記事が指摘するように、どのような方法を取るにせよ、黒人有権者へのアウトリーチを共和党全体が是認することが困難であるということである。今夏、モ・ブルックス下院議員(アラバマ州選出)が「ローラ・イングラム・ショー」(The Laura Ingraham Show)に出演した際に「民主党はアメリカを人種分裂させようと試みており、白人に宣戦布告している」(”War on White”)という発言をして物議を醸したことは記憶に新しい*18

こうしたかつての「リリー・ホワイト運動」と見紛うばかりの発言を聞く限り、黒人有権者へのアウトリーチが党是となり、共和党がポスト・レイシャルな政党へと変貌を遂げるのは決して容易ではないと思わざるを得ないことも事実である。
 
*1: Timothy Thurber, “Race, Region, and the Shadow of the New Deal.” in Robert Mason and Iwan Morgan (eds.) Seeking a New Majority: the Republican Party and American Politics, 1960-1980 (Vanderbilt University Press, 2013); Timothy Thurber, Republicans and Race: The GOP's Frayed Relationship with African Americans, 1945-1974 (University Press of Kansas, 2013).
*3: 上坂昇『アメリカの黒人保守思想―反オバマの黒人共和党勢力』(2014年、明石書店)、165頁.
*4: 上坂『アメリカの黒人保守思想―反オバマの黒人共和党勢力』、169頁.
*5: 上坂『アメリカの黒人保守思想―反オバマの黒人共和党勢力』、206頁.
*11: 渡辺将人『現代アメリカ選挙の集票過程―アウトリーチ戦略と政治意識の変容』(日本評論社、2008年)、100頁.
*12: 上坂『アメリカの黒人保守思想―反オバマの黒人共和党勢力』、92頁.
*14: 上坂『アメリカの黒人保守思想―反オバマの黒人共和党勢力』、183頁.
*17: 松岡泰「黒人社会の多元化と脱人種の政治―1990年代以降を中心に」久保文明・松岡泰・西山隆行編著『マイノリティが変えるアメリカ政治―多民族社会の現状と将来』(NTT出版、2012年)、123頁.