タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/12/11

2014年アメリカ中間選挙 update 4:負けるべくして負けた民主党(前嶋和弘)

民主党にとって、今回の中間選挙を一言でいえば、「地図」でも、「戦略」でも「戦術」でも負けるべくして負けた戦いであった。
 
(1)勝てない「地図」

まず、「地図」上、勝てない勝負だった。最大の注目だった上院選での接戦州の多くが、そもそも共和党に優位な「レッドステーツ」に偏っており、民主党は最初から不利だった。アーカンソー、アラスカ、ウエストバージニア、ケンタッキー、サウスダコタ、ルイジアナ、モンタナなどの今回の選挙での接戦州は、いずれも2008年と2012年の大統領選挙でオバマが選挙人を獲得できなかった州であった。移民に寛容な制度改革や最低賃金引き上げ、環境保護重視など2012年の大統領選挙でオバマ大統領が主張したリベラル派を重視した各種政策は、「レッドステーツ」では逆効果になってしまう。それもあって、今回の選挙ではオバマ大統領が選挙応援演説を徹底的に控えた「オバマ隠し」が目立ったほか、上院の民主党候補の中からはランドリュー(ルイジアナ州)やグライムス(ケンタッキー州)のように露骨なオバマ批判も続いた。

「現職大統領にとっては、アイゼンハワー大統領の2期目の中間選挙だった1958年以降、最悪の選挙区の組み合わせである」と選挙当日のラジオのインタビュー*1でオバマ大統領自身がコメントしたように、「選挙地図(election map)」に負けた選挙でもあった。1958年選挙ではアイゼンハワー大統領(共和党)は民主党に上下両院で大きく議席を譲った。
 
(2)迷走した「戦略」

次に、民主党は「戦略」でも迷走した。共和党が「オバマのレファレンダム」というスローガンを立て、「民主党候補に投票するのはオバマに投票するようなものだ」と繰り返したのに対し、民主党は全体を統一するような力強いメッセージを出すことができなかった。「私は投票の対象ではないが、私の政策は投票の対象だ」という10月2日のオバマ大統領の講演での発言が共和党にとっては格好の言質を与えることになってしまった。オバマ大統領の支持率が全体として40%台であっても、「民主党支持者」や「リベラル派」に限っては大統領の支持率は選挙直前でも8割近かった。そんな中で、一部の接戦州に限ったとしても「オバマ隠し」を戦略とするのは、負けるしかない大きな迷走であった。

ただ、民主党には統一するようなスローガンを掲げなかったわけでない。浸透しないようなものを選んでしまったのが問題だった。代表的なものが、共和党の大口献金者である富豪のコーク兄弟*2たたきである。2014年初めから、「コーク兄弟がアメリカをお金で買う」「民主主義を金で買う」、「コーク兄弟は非アメリカ的(un-American)*3な存在だ」「共和党はコーク依存*4」などリード上院院内総務自らが繰り返し発言したが、あまり徹底しなかった。選挙戦後半となり、「共和党は女性の敵」という別のメッセージを掲げたが、これも国民に浸透しなかった。
 
(3)役立たなかった「戦術」

向かい風が吹く中、民主党は戦術的にも迷走した。各種データが裏付けるように、アメリカの場合、有権者の党派性が薄ければ薄いほど、投票率が低い。民主党にとっては党派性が薄く、投票率が低い「中道ややリベラル派」を投票ブースに向かわせるのが選挙戦術のポイントとなる。この層を割り出すのが、民主党が優位性を誇るビックデータ分析である。やや誤解を恐れずに言えば、「ややリベラル派だが、選挙に行くほどの強い関心を持たないような層」を各種データから割り出し、何とか投票に行けそうな理由を作り出して、ボランティアが説得を続けるという戦術である。2012年の大統領選挙では、説得対象を効果的に割り出し、各種データを基に選挙ボランティアは地道な戸別訪問を重ねて、得票を掘り起こしていった。

この基本的な戦術が今回の中間選挙では功を奏しなかった。データを駆使して、せっかく説得する対象を掘り出しても、その層を説得する材料が乏しかったためである。2008年選挙ならそれまでのブッシュ政権への反発、2012年なら、オバマ大統領が掲げた各種のリベラル寄りの政策など、それなりの“決め手”があった。だが、今回の選挙の場合、「コーク兄弟」「女性の敵」だけでは、そもそもあまり社会的な関心がない層を動かすのは難しかった。エボラ出血熱や「イスラム国」といったわかりやすいメッセージは、むしろ、オバマのリーダーシップ不足に直結する。ミズーリ州ファーガソンの黒人少年射殺事件に対する怒りを戦術に落とし込めなかったことを反省する声も民主党の一部にはあるが、もし、これを説得材料にした場合、「アイデンティティの政治」につながる諸刃の剣である。

いずれにしろ、選挙マーケティングが進み、データという大砲が空振りしたのは、技術だけでは勝てないという意味で、むしろ小気味よい気すらする。
 
(4)共和党の死角

今回の中間選挙の結果を見ると、オバマ大統領の支持率が低迷する中、過去2回の大統領選挙におけるオバマの大統領の得票率が低い選挙区では、共和党の得票が高い。つまり、共和党の最大の戦略であったオバマたたきが成功している形になっている。

ただ、これこそ、共和党側の死角であろう。2016年にはオバマがいないためである。今回の中間選挙の投票率は4割を割るという分析があり、過去最低レベルとなっているが、大統領選挙がある2016年には投票率もおそらく例年の大統領選挙の年のように2割程度上がる。今回棄権した層も投票ブースに向かうことを前提に考えると、ビックデータ分析も再び奏功するかもしれない。議会選挙でも上院は2010年のティーパーティ旋風の勢いで「反オバマケア」を掲げて当選した共和党の議員らが再選を戦うが、やはり怒りの矛先となるオバマはいない。1994年にしろ、2010年にしろ、中間選挙で共和党が大勝した2年後の大統領選挙では民主党の大統領が再選されている。

民主党にとっては負けるべきして負けたのが今回の中間選挙だったが、既に2016年選挙に関心が向かいつつある。先送りしていた大統領権限による移民制度改革を打ち出したように、既に「オバマの逆襲」が目立っている。大統領権限による移民制度改革に対しては、共和党の反発が強い。上下両院で多数派となった共和党としては、何らかの成果を出さないといけないが、移民制度改革では妥協がしにくい。妥協しにくい争点を選んで「動けない共和党」を演出させるのが、敗北後のオバマの一大作戦であるというのは、あながち、うがった見方ではないかもしれない。
*1 http://www.npr.org/blogs/thetwo-way/2014/11/05/361681821/after-a-resounding-gop-victory-5-tidbits-that-tell-the-story
*2 エネルギー・コングロマリットのコーク・インダストリーズ(Koch Industries)を経営するチャールズ・コークとデイビッド・コークという兄弟のこと。
*3第二次大戦中のアメリカ国内のナチ活動や、冷戦期の共産主義者や、そのシンパ的団体などを否定する言葉
*4「コカイン依存」(英語では「coke」)との掛詞

■前嶋和弘 上智大学教授