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2014年アメリカ中間選挙 update 4:オバマ台頭の原点を象徴する州での敗北と2014年「5つの背景」(渡辺将人)

December 11, 2014

接戦州だったアイオワ州の連邦上院選挙は共和党の勝利に終わった。

「アーンスト(共和党候補)は見事なキャンペーンを展開したが、ブレイリー(民主党候補)は汚いネガティブ・キャンペーンを行い自滅した。期日前投票の影響は予測困難で、両党支持者の多くが期日前投票をしている。私と妻も既に投票した。だがそれでも、アースンストが52%で勝利すると予測する」。

共和党アイオワ州委員会幹部は、10月25日段階でこのように筆者に対して述べていた。『デモイン・レジスター』の直前予想でアーンストは51%だったので、それよりも1%ほど上回るとの予測だった。結果、アーンストはこの党幹部の予測通り52%で勝利した。民主党はリベラル派重鎮のハーキンの議席を失い、2014年1月の議会以降、アイオワ州の上院議員は2名とも共和党となる。

アイオワ州選出の上院議席はトスアップであった以上に象徴的含意があった。2008年の大統領選でオバマは予備選過程1戦目のアイオワ党員集会での勝利にすべてを賭け、若年層とリベラル派の支持基盤を築いた。アイオワこそがオバマの支持基盤のシンボルであり、アイオワを苦手としたクリントンとの差異化の原点だった。それだけに、同州の知事と連邦上院が3人とも共和党となったことは、オバマ時代に1つの区切りがついたことを如実に物語っていると言えよう。

さて、2014年の民主党の敗因は、各方面で語り尽くされた感もあるが、独自の視点から5つだけ補足的に指摘しておきたい。

第1に、共和党の異種グループ横断的な一致結束と、それを実現させた地方政党幹部の根回しである。今回の選挙では、ティーパーティの情熱が共和党エスタブリッシュメントへの怒りよりも「反オバマ」に収斂し、共和党は「反オバマ」の1点で一致結束できた。大統領選を睨むランド・ポールが、過激さを薄めてエスタブリッシュメントや社会保守に歩み寄る中、支持基盤のリバタリアンも、ポールのために共和党の主流派候補を困らせるような第三極的な動きを控えた。そして、第1回コラムで紹介したような、主流派、宗教保守の異種混合の候補者支援イベントが、郡委員会の幹部らの根回しによって多数開かれた。アイオワはその象徴例であった。

上院選で共和党のアーンストに敗北した民主党のブレイリーは下院議席を失うが、そのブレイリーの下院1区で勝利したのが共和党ロッド・ブラムである。筆者との会見に対して、ブラムはやはり「反オバマ」での結束を強調していた。

「私が最近よく聞くジョークは、民主党支持者と無党派を共和党支持に最も多く転向させた人物は誰か?それはロナルド・レーガンか?それともバラク・オバマか?というものだ。答えはバラク・オバマだと思う。人々は心底、国の方向性に苛立を感じている」。

1980年代のレーガン政権期にビジネスを成功させた59歳のブラムはこのように述べた。共和党支持者数を増やしたのはレーガンの魅力以上に現在のオバマだとは、レーガン信奉者だからこそ言えるジョークだ。

第2に、民主党側における「オバマ隠し」である。アイオワ現地調査報告で示したように、民主党候補は、大統領候補としてのオバマを育てた生みの親のような州であるアイオワですら、オバマとの距離をとっていた。候補者からオバマとオバマ政権への言及がない現象は各州でも同様だったし、民主党全国委員会のシュルツ委員長の演説も例外ではなかった。

2014年、民主党下院は、アフリカ系は89%と9割を下回り、ヒスパニック系は62%、アジア系は49%と共和党に過半数を奪われ、若年層も54%しか獲得できなかった。マイノリティ、リベラル派の動員が思うように伸びなかった今回、医療保険改革法、同性婚支持ほか、大統領の一連のリベラルな成果まで覆い隠したことが、彼らの動員にとって望ましかったのか、むしろオバマ嫌いの有権者を切り捨て、リベラル派とマイノリティだけに絞ったキャンペーンがトスアップ議席確保の最後の一歩を助けたのではないかという反省も一部では出ている。

第3に、ビッグデータを駆使した2012年オバマ陣営の技術が、大統領選でしか効果的に機能しにくい問題の露呈である。アメリカの候補者中心選挙様式では、各候補者が独自に陣営運営を行うので、有権者データを上院や下院のローカルの選挙陣営と効果的にシェアできない。2012年のオバマ再選は、選挙人の獲得に的を絞ってビッグデータを駆使した、言わば激戦州への効率的資源配分による「頭脳ゲーム」のお陰である。選挙人では大差で勝利したが、一般投票ではロムニーと数パーセントの僅差だった。つまり、アメリカの国民世論の支持は、再選時にも半数程度だったのだ。大統領陣営の一極集中データ管理による、選挙人獲得のゲームが通用しない中間選挙では、2012年の一般投票の現実が、「素」で浮き彫りになっただけとも言える。

第4に、オバマ政権が政権2期目の目玉にしていた包括的移民改革が進まなかったことだ。医療保険改革法の施行でミスが続出した中、ヒスパニック票も睨んで、移民改革が捲土重来の要だった。今年1月に面会したホワイトハウスの大統領側近補佐官の1人が筆者に言っていたのは、中間選挙の予備選終わりのタイミングで、何らかの移民をめぐる提案をして、共和党にくさびを打ち込む秘策だった。ヒスパニック票を意識した穏健派は提案に乗ってくるだろうとの読みであった。今年4月には下院の幹部議員も「まだ勝算ある」と述べていた。しかし、移民改革で共和党側の理解者だったカンターが落選。移民のカードが切れない中、子供の不法入国の問題ばかりがクローズアップされてしまい、オバマ政権は動けなくなった。

第5に、「イスラム国」の問題である。超党派で認めざるを得ないオバマの成果の1つはビンラディン殺害だが、これは世論への効果の面では、「外交成果」ではなく、「内政の成果」でもあった。オバマ政権にとって、ブッシュ政権への対抗以上に、9/11以来のアメリカ人のテロへの恐怖を断ち切る効果があったからだ。オバマ政権はマインドの次元ではある種の「内政重視」政権で、外交は理想主義を掲げながらも、実際にはブッシュ政権がイラク戦争で沈没していったトラウマへの反動から、とにかく表に出ない、リスクを取らない、米兵の犠牲を出して世論を動揺させたくない、という内向き政策だった。それを支えていたのは国民の厭戦気分だった。

しかし、「イスラム国」によって、それらは白紙化した。人道介入に対しても後ろ向きな、厭戦気分に浸りきった世論も、テロへの恐怖となると別である。ビンラディン殺害で後ろ盾を得たはずの政権の非介入路線は、根本から揺さぶられた。エボラ熱も、外交というより、国民の安全をめぐる内政問題として悪影響が懸念され、大統領は回復した感染者をハグする演出も躊躇しなかった。

オバマ政権の内政担当の高官は投票日直前に「共和党上院60議席以上を予測する人はいない。共和党はアジェンダをコントロールできても、大統領の拒否権で阻まれる。最悪の事態は生じない」と述べていたが、オバマ周辺の見立ては概ね、現実を直視した冷静なものだった。拒否権を発動する「最悪の事態」とは、医療保険改革法などの重要成果が覆されるような政権否定につながる事態のことであるが、オバマ政権の共和党議会との対決姿勢をめぐる臨界点としては、少々欲が無さ過ぎるという声もリベラル派からは生じるかもしれない。

■渡辺将人 北海道大学准教授

    • 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授
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