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アメリカ大統領選挙UPDATE 2:北朝鮮の核実験――共和党も打つ手に乏しく

February 3, 2016

高畑昭男 白鷗大学経営学部教授

中東と東アジアで波乱の相次ぐ年明けとなったことで、共和党陣営は外交・安保論議をめぐってにわかに活気づいた。1 月3日、サウジアラビアがイランと国交を断絶したのに続いて、6日にはしばらく沈黙を保ってきた北朝鮮が突如、「水爆実験に成功した」と発表したためである。

北朝鮮が主張する「水爆実験」はどうやら誇張に過ぎるようだが、2006年に行った初の核実験以来、通算4回目の核実験を強行した事実に変わりはない。しかも、このうち3回がオバマ政権下で起きてしまったことに対し、共和党12陣営のうち7陣営の候補者が一斉にオバマ政権の「弱腰外交」をやり玉に挙げて、厳しい批判を展開した。

だが、オバマたたきで盛り上がる半面、過去1年間を通じて北朝鮮問題はパリの連続テロや「ホームグロウン・テロ」、ロシアのクリミア半島併合、「イスラム国」とシリア内戦、ひいては中国の海洋進出などの陰に隠れて、ほとんど焦点となっていなかった。北朝鮮問題は共和党にとっても「エアポケット」となっていたのである。それだけに、オバマ外交に対する舌鋒の鋭さとは対照的に、各陣営の対北政策は新味も乏しい。オバマ政権に取って代わる実効ある政策オプションを提示するには至っていない。

「戦略的忍耐」がやり玉に

2009年の政権発足当初、オバマ大統領はイランや北朝鮮に対して直接交渉で問題解決に取り組む姿勢を掲げてみせた。しかし、北が早々にミサイル・核実験の強硬対応をぶつけてきたため、クリントン国務長官(当時)は「北朝鮮が2005年の6カ国共同声明で約束した核廃棄に応じる姿勢を確約しない限り、米朝2国間はもちろん6カ国協議再開にも応じない」という「戦略的忍耐」を打ち出し、以後はこれが基本的対応となっていた。今回の核実験で共和党側の批判が集中したのもこの政策だった。

批判の急先鋒に立ったのはマルコ・ルビオで、核実験の第一報が米国にもたらされると、直ちに「オバマ政権が無為無策のままに放置している間に、北朝鮮は核兵器開発を拡大してきた。核実験はまさにオバマ・クリントン外交の失敗を示す最新例だ。世界の敵対的諸国がオバマ氏の弱腰につけ込んでいる」と突き離した。また、クリス・クリスティーは、「4回の核実験のうち3回がこの政権下で起きた。イラン、シリア、クリミア問題しかり、オバマ政権が強い対抗措置を講じてこなかったからだ。指導力のない弱いアメリカの下で何が起きるかがよくわかる」と指摘した。さらに、ジェブ・ブッシュも「オバマ・クリントン外交の継続は無益で危険であることを証明した」と語った。

批判の大半は「戦略的忍耐」と「弱いアメリカ」に集中していたが、それだけではない。例えば、テッド・クルーズやリバタリアンのランド・ポールは、北朝鮮がたどってきた道とイランの間に「数多くの共通点がある。核兵器を一度持たせてしまったら、対応は困難だ。イランも同じことになる」と指摘し、昨年10月に発効したイランと米英仏独露中の6カ国との核合意を改めて撤回するよう主張した。各陣営のうちで、ドナルド・トランプは正面からオバマ批判に加わらず、「責任は中国にある。北の行動を管理できるのは中国だけだ。中国に圧力をかけよ」と語り、カーリー・フィオリーナは、同じ理由から「オバマ政権は中国に対する効果的対応を欠いていた」と批判した。

決定打はみえず

だが、どの陣営もオバマたたきの威勢はいいが、北の核・ミサイル開発をいかに阻止するか、どうすれば核を放棄させられるかという代替策については何もないのが実情といえる。過去の政権を見ても、▽米朝高官協議に初めて応じたブッシュ父政権、▽米朝協議を通じてジュネーブ枠組み合意を導いたクリントン政権、▽6カ国共同声明を実現させようとして「テロ支援国家」指定や制裁一部解除に応じたG.W.ブッシュ政権のいずれも実効ある成果に結びつかなかった。オバマ政権を加えれば、共和党・民主党を合わせて4代の政権が北朝鮮問題に手を焼いてきた。

とりわけオバマ氏を除く前3政権に共通しているのは、いずれも任期間際の1年程の間に功をあせって実りのない交渉を急ぎ、北に「いいとこ取り」をされたことだ。同じ轍を踏んで失敗を重ねたといわざるを得ない。その意味では、「戦略的忍耐」の下に北との協議を事実上、一切拒否してきたオバマ政権はまだましな方であるとの見方すら成り立つといえなくもない。

米国内全般では対テロ、中東情勢、ロシア、中国問題などが外交・安保課題の中心を占めているものの、日本人拉致問題を含む北朝鮮問題は中国の海洋進出とともにアジア太平洋の平和と安全に直結する。日本にとって重大な課題だ。北朝鮮は交渉で決めた約束を守らず、平気でウソもつく。国連決議を含む国際的制裁を強化するにも、中国をいかに動かすかが重要なカギを握る。対中接近を深める韓国を「日米韓」の連携に引き戻す外交も欠かせない。中国も北朝鮮も一筋縄ではいかない国であるだけに、共和党が整合性と実効性のある政策を打ち出すことができるかは、今後も頭の痛い課題となることは間違いない。

    • 外交ジャーナリスト
    • 高畑 昭男
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