タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/3/8

スーパーチューズデー、伏兵サントラムの粘りで大混戦へ

米予備選を襲う「超長期化」と「ブッシュの亡霊」


東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー
北海道大学准教授
渡辺 将人

米共和党の大統領候補を決める予備選の山場、「スーパーチューズデー」の開票がほぼ終わった。3月7日午後7時時点(日本時間)で、ロムニー前マサチューセッツ州知事がオハイオ、バージニア、マサチューセッツ、バーモント、アイダホ、アラスカの6州を制したものの、オクラホマ、テネシー、ノースダコタの3州でサントラム元上院議員が勝利したほか、ギングリッチ元下院議長が地元ジョージア州で勝利を収めた。

ロムニー氏が指名獲得をより有利にしたものの、圧勝とは言えず、ロムニー氏、サントラム氏、ギングリッチ氏、ポール氏の4人の候補は、スーパーチューズデー後も選挙戦を継続する方針だ。共和党予備選は、異例の長期化の展開を見せている。

長期化の要因は共和党内分裂の深化だ。フロントランナーのロムニー氏への評価が2分化している。具体的には、根強い「反ロムニー票」の存在だ。

サントラム氏とギングリッチ氏に票が分散している「反ロムニー」票が、「ロムニーでない誰か」という感情に支えられて、ロムニー圧勝に一定の歯止めをかけている。さらに、連邦政府の介入を嫌うリバタリアニズムに根ざした絶対自由主義路線のポール下院議員が「反ワシントン」を旗印にしており、若年層や無党派を中心に一定の支持を得ている。

ロムニーの「ぬぐえぬ過去」

ロムニー氏は「オバマに勝てる候補者」としては、経験面でも資金面でも現実的な選択のはずだ。経営者としての実務経験やオリンピック運営などのマネージメント手腕によって、リーダーシップ能力の高さを証明している。また、米国の有権者は上院議員出身のオバマ大統領が誕生する以前は、知事経験者に「大統領職を任せるに足る」という圧倒的な信頼を置いてきた。

上院議員や下院議長を経験してきたサントラム氏やギングリッチ氏は、「ワシントン」の連邦議会が職場だったのに対して、ロムニー氏は一貫して州のローカル政治に尽くしてきた。保守派好みの「反ワシントン」のレトリックにおいても、本来はロムニー氏こそが有利なはずだ。

それでも共和党有権者のすべてが、ロムニー氏を手放しで迎えようとしていない。ここで鍵となるのは、政治家の「過去」をどう評価するかという問題だ。ロムニー氏は「穏健派」と定義されがちだが、今回の大統領選挙では減税や人工妊娠中絶反対など、かなり保守色を前面に押し出している。ロムニー氏の政策を見ても、十分に保守的な候補者と言える。

しかし、マサチューセッツ州知事時代の健康保険制度導入や、人工妊娠中絶に曖昧な姿勢をとってきた「過去」が、有権者の脳裏に焼き付いている。これらの「過去」は、「小さな政府」を望む共和党保守派や、サントラム氏が支持基盤とするキリスト教保守派にとっては、決して容認できないものだ。ロムニー氏の「現在の保守性」を信じてそれに賭けるか、「過去の穏健性」を問題視して風見鶏と考えるか、ロムニー氏の「現在」と「過去」の評価をめぐる立場の違いが、共和党を分裂させ、予備選の長期化につながっていると言える。

ブッシュ政権の亡霊

「穏健だった過去」に疑念を呈する保守系の有権者が少なくない背景には、2000年代のブッシュ政権への幻滅というトラウマがある。イラク戦争や金融機関救済など「大きな政府」と化してしまったブッシュ政権に幻滅した保守層は、ただ共和党の政権になれば「それで万事解決」とは考えられなくなっている。

ロムニー氏が選挙戦で主張している保守政策を捨てて、ブッシュ氏のような穏健な共和党政権にしてしまうのではないかという不安がつきまとう。かつてのロムニー氏の「風見鶏」行為に対する警戒感である。無党派を取りにいかねばならない11月の本選挙に向けて、態度を中道化させるのではないかとの懸念もある。

かつてブッシュ政権では、増大する支出と財政赤字が、長期化するイラク戦争の戦費などに絡んで、とりわけ政権2期目以降に批判の的となった。2008年の金融危機後に金融安定化を目指したTARP(不良資産救済プログラム:The Troubled Asset Relief Program)に対する批判は、ティーパーティ運動の源流を生み出した。

また、9/11後のテロ対策強化に伴う「自由」の侵害も、リバタリアン系の保守派を困惑させた。電子メールなど個人情報の調査権限を当局に与えた愛国者法(Patriot Act)には、ポール支持層が強硬に反対している。

さらに、ロムニー氏がどこまでキリスト教保守の声を代弁するのかも要チェックの項目となっている。ブッシュ政権は、テロとの戦いに政治資源を注ぎ込み、内政、とりわけ人工妊娠中絶や同性愛をめぐる問題について、選挙戦術としては使っても、政策としての成果には繋げられなかった。

ブッシュ大統領の顧問だったカール・ローブ氏が、キリスト教福音派を2004年の大統領選挙で「票田」としか扱わなかったことに幻滅したキリスト教保守派は、2006年の中間選挙で反旗を翻し、大量に棄権してブッシュ政権に「制裁」を加えている。これが皮肉にもペローシ下院議長(当時)の誕生と、オバマ政権の誕生に結びついた。

「穏健な共和党政権になるならいくら、オバマを落選させても意味がない」と考える保守派が、今ひとつロムニー氏に糾合できないのは、「大きな政府」にひた走った「ブッシュ政権」という亡霊へのトラウマだと言えるかもしれない。

スーパーチューズデー直前、「オハイオ州をロムニーが制したら、ロムニーの指名確定」と分析する共和党関係者が多かった。そして、ロムニー氏はオハイオ州で勝利を収めた。だが、この評価が難しいのは、「勝ち方」の問題が問われているからだ。

伏兵サントラムの実像

ロムニー氏はオハイオ州で「僅差の勝利」となり、圧勝とはいかなかった。言い換えれば、2012年共和党予備選の最大の異変は、サントラム氏の善戦である。正直、サントラム氏は泡沫候補と見られていたからだ。

2011年夏、各候補の動向をアイオワ州で先行取材していた私が、一番多く出会ったのが、サントラム氏だった。サントラム氏は「全郡キャンペーン」という、アイオワ州すべての「郡」を訪れるというドブ板選挙を敢行していた。小さな車に夫人と息子と娘を乗せて、集会を回っていた。

有権者の反応は必ずしも良くなかった。サントラム氏は2006年の中間選挙で敗北して議席を失っている。「ルーザー(敗者)」に厳しい米国では、サントラム氏を「選挙に負けて職を失った浪人」として、「過去の人」というレッテルを貼っていた。

人工妊娠中絶や同性愛問題などの「単一争点」ばかりに夢中になる「宗教保守」というイメージも、外交から経済まで幅広い手腕が求められる大統領職には向かないと思われていた。

私が参加したアイオワ州東部アイオワシティ郊外で開かれた共和党集会に訪れたのは、ポーレンティ氏、ギングリッチ氏、サントラム氏の3人だった。だが、サントラム氏に声をかける有権者は少なく、寂しそうな姿で立っていたことが象徴的だった。

夏だったのでトレードマークである毛糸のベストは着ていなかったが、ジーンズ姿のサントラム氏は気さくなキャラクターで、愛敬を振りまき、日米関係についての私のインタビューに対して、「日韓との同盟と東アジア地域の勢力均衡における米国の役割」を強調する回答を、政策スタッフの力も借りないで、すらすらと語った。「外交への知見がまるでない」という悪評を覆す印象を私に与えた。

今回、オハイオ州ではロムニー氏とサントラム氏が接戦を演じたが、その内訳を見ると、「分裂を象徴」と言える。CNNの出口調査によれば、都市部の高学歴・高所得の有権者がロムニー氏に流れ、サントラム氏は保守的な農村部の住民や中低所得層に支持されている。

今後の予備選はサントラム有利か

興味深いのは宗教で、オハイオ州ではプロテスタントの福音派キリスト教徒は、カトリック教徒のサントラム氏に傾き、カトリック票はむしろロムニー氏に多く流れたことだ。プロテスタント教徒の41%がサントラム氏に投票し、ロムニー氏(39%)を上回ったが、なかでも「ボーンアゲイン(新生)の福音派教 徒」を自認する有権者は47%がサントラム氏で、ロムニー氏は30%しか獲得できていない。しかし、カトリック票では44%がロムニー氏に投票し、候補者 自身がカトリック教徒のサントラム氏(31%)の得票を上回っている。

一貫して中絶反対の論陣を張ってきたサントラム氏が、宗派を超えて保守層の受け皿になっていることが浮き彫りになっている一方で、都市部のカトリック層 の間では、ロムニー氏のアキレス腱になると懸念されていたモルモン教信仰がさほど否定的には捉えられておらず、むしろ経済政策といった「宗教以外の基準」で、現実的な投票行動をとっている徴候が見える。

現地の共和党関係者の話では、あまりにも接戦だったため、サントラム支持者はアイオワ党員集会の時と同じように、「本当はサントラムが勝利したかもしれないが、運営の瑕疵によってロムニーが勝利しただけだ」という声も出ているという。

他方で、スーパーチューズデーは「誰もが地元の地盤では勝つ」という常識を上塗りした結果に終わったとも言える。「ギングリッチは南部ジョージアで勝ち、ロムニーは北東部をおさえ、ロムニーは反モルモン色が残るプロテスタント色が強い州で勝った」と総括してくれた共和党幹部は、「このあとのカンザス、アラバマ、ミシシッピの各州はロムニーよりもサントラムに有利な州だ」と分析する。

ロムニー氏は、対抗馬に対するネガティブキャンペーン(誹謗中傷戦術)ではなく、そろそろ「彼がなぜ、良き米国大統領になれるのか」を語るべき時が来ているかもしれない。

「日経ビジネスONLINE」(3月8日掲載記事)より転載