タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/12/22

アメリカ大統領選挙 UPDATE 6:トランプ政権に対する期待と見通し:ある若手外交・安全保障専門家の視点

 

加藤和世  米国笹川平和財団(Sasakawa USA)教育事業、財務担当ディレクター

「トランプ次期大統領」の誕生が現実となった。選挙直後から、環太平洋経済連携協定(TPP)の終焉は確実と言われていたが、今後について現在のワシントンで良く聞く言葉は、「不確実(Uncertain)」だ。トランプ政権の今後の政策の見通しについて聞かれても、「分からない」というのが、トランプに距離を置いてきたワシントンの専門家達の正直な意見だろう。

 

   その中で、匿名希望だが、一年前からトランプ支持を公言していた、ある若手の外交・安全保障専門家の話を聞いた。ワシントンでトランプ支持者に出会うことは稀だが、由緒あるシンクタンクの戦略研究を担当している。選挙後、これまで自分など相手にしなかった随分シニアな専門家も自分にすり寄ってきていると述べるが、その表情には多少の皮肉と優越感が見えた。

 

   トランプ政権に期待する若手米国人専門家の考え方や価値観は如何なるものなのか。その答えを検証すべく、本稿では、トランプ次期大統領やその外交・安全保障政策に関し、この専門家が指摘したポイントの一部を紹介する。

 

   第一に強調したのは、トランプの外交ドクトリン、「アメリカ・ファースト」とその一貫性に惹かれて支持を決めたという点だ。即ち、国際関係の基盤は国家であり、問題の解決に国際機関や国際的枠組みに依存せず、二国間関係を重視する考えに共感した。トランプは、今年4月27日にセンター・フォー・ナショナル・インタレスト(CNI、元ニクソンセンター)がワシントンで主催した初の外交演説において、「アメリカ・ファースト」を提唱している。[1] その中で、トランプ政権の最優先課題として、中東におけるテロ撲滅と地域安定化、中露との「強い立場から」の関係向上を挙げている。また、大統領に就任した場合、「財政的負担のリバランス」に加え、共通課題に対する新戦略の構築を目指し、北大西洋条約機構(NATO)およびアジアの同盟諸国をそれぞれ集めたサミットを開催すると提案している。同じ演説について、戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーン上級副所長は、中国に対しても同盟国に対しても強硬姿勢を貫くとする点や、他国に民主主義を押し付けないが西洋文明を広めると発言している点などを指摘し、トランプの外交姿勢は「矛盾の塊」と分析している。[2]

 

   トランプ政権移行チームのメンバーであるヘリテージ財団のジェイ・カラファノ副所長も、「アメリカ・ファースト」主義を弁護し、それは孤立主義でもアンチ・ミリタリーでもなく、「正しいことを正しい理由で行う」戦略的思考であると主張している。そして、大統領自身が思い描く「米国が常にすべきこと」のために、決まりきった方法で世界の問題に取り組む大統領は戦略家ではない、とオバマ大統領を批判している。[3]

 

   第二に、トランプ政権は「アメリカ・ファースト」の次はアジアを重視すると主張した。その理由は中国だ。トランプ次期大統領は、パンダ・ハガー(親中派)でもドラゴン・スレイヤー(反中派)でもなく、「経済重視のタカ派」であり、中国を視野に、ロシアとの緊張緩和、欧州との関係維持、そして中東・ISIS問題の解決を図る。また、同盟については、他の専門家が「同盟そのものを守ることが目的のように語ってきた」と批判し、手段としての同盟を訴えた。これまでの対中政策は中国に微妙なニュアンスを伝えるものではなかった―。「アメリカ・ファースト」と思わせるものではなかった―。そういう認識である。同時に、強い指導者を好むトランプは、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相、そして日本の安倍首相を評価すると予測し、トランプ・安倍政権下の日米同盟が更に強化される可能性を指摘した。

 

   第三に、実利主義者のトランプ次期大統領の誕生は、「政治的適切性(Political Correctness)」の終焉を意味すると述べた。この専門家によれば、トランプとその支持者の間には文化的と称すべき繋がりがあり、その絆はトランプが如何に政治的に不適切な言動を繰り返しても、選挙公約が破られても、壊れない。トランプの意見に同意しようがしまいが、米国の有権者は「戦う」大統領を求めており、トランプが民主・共和両党の指導者達や主流メディアと戦ってきた点を評価した人が多かった、と考える専門家は他にも少なくない。

 

   トランプ大統領の誕生と共に共和党主導の議会が維持され、米国は「分裂国家」と「統一政府」に特徴づけられたとも言える。その中で、トランプにチャンスを与えねばならない、共和党はこの機会を逃してはならない、との意見もある。トランプ政権が現実となった以上、最早嘆き節の時ではない、との気持ちの表れでもある。しかし、前述の専門家が支持する「アメリカ・ファースト」と混在する、「何でもあり」のトランプに対する不信感は根強い。トランプ政権におけるワシントンのシンクタンクの今後の役割について、同専門家は、従来のCSISや新アメリカ安全保障センター(CNAS)に比べ、前述のCNIやヘリテージ財団の影響力が相対的に強くなる可能性を指摘した(米国務長官に指名されたエクソン・モービルのレックス・ティラーソン会長はCSISの評議員委員だ)。いずれにせよ、トランプ政権を不安視する声が多い中、同政権の政策検証、連邦議会への働きかけを含め、ワシントンのシンクタンクが今後有効な役割を果たせるか否かは大きな鍵となる。

 

[1]Donald Trump, Speech at Mayflower Hotel, April 27, 2016

[2]Michael J. Green, Statement at the Third Annual US-Japan Security Forum, May 6, 2016 (Video Part II)

[3]James J. Carafano, “The Truth About the America First Movement,” July 11, 2016