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アメリカ大統領選挙 UPDATE 6:トランプ劇場は続く:大統領とツイッター

December 13, 2016

中山俊宏 慶應義塾大学総合政策学部教授

さて、トランプ氏が選挙に勝利してからひと月がすぎた。この一ヶ月、どちらのトランプが出てくるのか、世界は固唾を呑んでトランプの動きを見守っていた。選挙中の「暴れ馬」のようなトランプか、それとも行儀のいい、(トランプ自身の言葉を借用すれば)皆がびっくりするほど退屈に大統領らしく振舞うトランプか。勝利演説ではトランプは確かに行儀よく準備されたスピーチを読み上げ、アメリカ全体の大統領になると語った。しかし、今回の選挙で露わになった分断は深く、トランプを受け入れることが出来なかった人たちの支持を取りつけることはなかなか難しいだろう(しかし、これは仮にヒラリー・クリントンが勝利していたとしても同じだっただろう)。

オバマ大統領は、「トランプ大統領が成功すればわれわれも成功する、トランプ氏にチャンスを与えよう」とのメッセージを発し、政権移行のプロセスにも協力的な姿勢を見せているが、全体として「不安」や「懸念」の方が強く、「チャンス」を与えてみようという雰囲気は必ずしも強くはない。なんといっても、アメリカ人のおよそ4割強がトランプ候補の勝利を受けて、「怖い(afraid)」という感覚を抱いているという(ギャラップ社11月16日)。その意味で選挙後の雰囲気としては、かなり異様な状況だといえる。

選挙後のトランプの動きを見ていると、やはりこれまでのPresident-electとは大分違う。アグレッシブなツイッター・ユーザーとして知られるトランプは、選挙後も呟くことをやめていない。しかも、かなり危なっかしいツイートもある。選挙後は、トランプ本人ではなく、誰か別の人が@realDonaldTrumpのアカウントをマネージしているとの噂もあるが、これも噂の域を出ていない。どうも本人自身のつぶやきと、そうではないものが混在しているというのが実態のようだ。知人の新聞記者の話では、朝起きてまず一番にすることはとりあえずトランプのツイートをチェックすることになっているという。こうしてトランプは発信を続ける一方、従来型の記者会見はまだ一度も行っていない。ニューヨークタイムズ紙やCBSの60ミニッツなどとの個別インタビューに応じているだけだ。ここのところ当選後数日以内に記者会見を行うことが慣例になっているが、それを踏襲する気はなかったようだ。

おそらくトランプとしては、従来型の記者会見を行い、イメージをメディア側に形成されてしまうよりかは、自分で主導権を握りイメージ形成していこうという姿勢なのだろう。エスタブリッシュメント・メディアが「トランプ現象」に加担したという意味においては共犯者でありつつも、きわめて厳しいトランプ報道を行ってきたことを考えると、トランプが従来型の記者会見を行うことをあえて避けていることも理解できよう。大統領像就任以降は@POTUSのツイッター・アカウントをオバマ大統領から引き継ぐことになっているが(今回、初めて「デジタル・トランジション」の大まかなルールが定められたようだ)、大統領としても「マイ・スマホ」で呟き続けるのか、セキュリティ上の問題など、クリアしなければならないハードルは多いだろうが、「トランプ・トレイン」の重要な動力源を手放したくはないだろう。@realDonaldTrumpのフォロワー数は16,938,188人(12月8日午前8時時点)、ツイート数も34085におよび、いずれもオバマ大統領のそれを上回っている。

人事の問題に関しても、また自由奔放につぶやいているかのように見える。どうも人を絞り込むプロセスが混乱しているのではとの批判を受けて、「閣僚ポストならびにその他のポストを確定するにあたってとても秩序だったプロセスが進行している。ファイナリストを知っているのは自分だけだ!」[11月16日]、こう呟いた。あたかもトランプ自身がホストを務めたリアリティーショー「アプレンティス」の最終シーンのようだ。また、マイク・ペンス次期副大統領が、ブロードウェイの人気ミュージカル「ハミルトン」を鑑賞に行った際、ステージ上からキャストに事実上批判されたことを受けて、「Apologize!(あやまれ!)」[11月20日]と呟いた。わざわざ次期大統領が介入する事態かと疑問に感じた人も少なくないだろう。きわめつけは蔡英文台湾総統との電話会談が行われたこと、そしてその後の一連のフォローアップをツイッターで行ったことだろう。

大統領になっても、このまま大統領候補、そして次期大統領の時と同じようなツイートを続けるとは考えにくいが、トランプのことだ、その可能性を完全に排除することはできないだろう。だとすると、アメリカ国内だけでなく、国際社会もトランプのつぶやきに振り回されるようなそんな事態が想定できる。また仮にトランプ大統領のアカウントがハックされ、ありもしないようなことを呟いたらどうするのか。緊急を要するようなツイートもあるかもしれない。各国ともこれまでとは全く異なった文脈でツイッター対策室を設けなければいけないような事態になるかもしれない。

トランプはある意味、ソーシャルメディア空間が生み出したモンスターのようなところがある。オバマ・キャンペーンもソーシャルメディア空間をうまく活用したと評価されるが、オバマの場合は、あくまで伝統的な選挙運動が、ラジオやテレビに代わって、SNSを効果的に用いたに過ぎなかったとも言える。その効果は他の候補と比較して群を抜いていたが、実物のオバマを、いかにSNSを通じて、伝え、動員できるかということに焦点が置かれていた。しかし、トランプは文字どおり、ソーシャルメディアという特異な情報空間の中から発生してきたようなところがある。自身のツイートで道を文字通り切り開いてきたと行っても過言ではないだろう。

オバマは、ソーシャルメディアを統治のツールとして使うとの目標を掲げつつも、必ずしも効果的にそれを実践することはできなかった。トランプはホワイトハウスに入った後、どのようにソーシャルメディア、とりわけツイッターを用いるのか。予感としては、トランプのツイッターへの依存度が高くなればなるほど、「分断の政治」が加速していくような気がする。それは、選挙の時と同じようなトランプ劇場の続きになる。そうならないためにも、とりあえず@POTUSのアカウントは他の人に任せた方がいいのではないか。

    • 慶應義塾大学総合政策学部教授
    • 中山 俊宏
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