タイプ
論考
プロジェクト
日付
2017/2/21

アメリカ大統領選挙 UPDATE 7:“トランプ・ショック”後の民主党の今後



前嶋和弘 上智大学総合グローバル学部教授

 

就任前後から仕掛けられている矢継ぎ早な“トランプ砲”の前に、民主党側は防戦一方になっている。民主党はいつ挽回し、2年後の中間選挙に向け、どのように立て直していくのだろうか。

 

(1)後手に回る民主党

イスラム圏7カ国からの入国禁止、犯罪歴のある非合法移民の強引な摘発、オバマケア撤廃で保険加入が難しくなる難病患者の問題、辞任したフリン補佐官とロシアとの深い関係など、トランプ新大統領の様々な政策上の変化は、民主党としては絶好の戦いどころでもある。それぞれに対して、民主党の有力議員らは強く反対しているものの、変化そのものが激しく、民主党側はいまのところ、翻弄されている。

 

民主党側にとっては、反撃体制が十分でないのが痛いところだ。下院のペロシ院内総務ホイヤー院内幹事、クライバーン副幹事はいずれも留任で、いかにもマンネリ感がある。ペロシが民主党下院のトップにいるのは、下院議長だった4年間を含め、15年目になる。今年春には77歳になり、47歳になったばかりの共和党のライアン現下院議長に比べて、どうしても見劣りしてしまう。上院ではシューマーが院内総務に新しく選出されたが、イスラム圏7カ国からの入国禁止に異を唱える記者会見で感極まったのを、「ウソ泣き」「演技の指導を受けた方がいい」とトランプ大統領に記者会見で揶揄され、出鼻をくじかれてしまった。

 

当然だが、そもそも上下両院の多数派を共和党に握られているのが大きく、民主党側としては審議の中でトランプ政権に対抗するような議題設定がなかなかできない。2月中旬には下院歳入委で、選挙戦中には結局公開されなかったトランプの納税申告書を求めるように民主党側は動いたが、要求は拒否され、全く話が進まなかった。

 

今のところ、民主党ができることは、トランプが任命した閣僚人事の承認を上院で意図的に遅くさせることくらいだろう。任命された司法、労働、教育、環境保護、エネルギーなどの様々な長官の人選は、かなりイデオロギー的に偏っており、民主党側からすれば断固拒否したいところだが、なかなかうまくいかず、時間稼ぎで承認を遅らせている。

 

うまくいかないのは、民主党の当時のリード院内総務らが中心となって2013年末に導入した規則変更の影響が大きい。それまでは60票なければ反対派のフィリバスター(合法的議事妨害)を辞めさせることができなかったが、「核オプション」と呼ばれるこの規則変更で、最高裁判事を除く任命人事については、単純過半数を超える51票で可能とさせることを決めた。当時は、民主党側はオバマ前大統領の任命した各国の大使について、共和党の承認を得るのに時間がかかったため、対抗措置としての規則変更だった。しかし、この規則変更で民主党側は結局、自分の首を絞めてしまった。

 

現在の115議会では、上院では共和党は52議席、民主党は48議席(統一会派の無党派2人を含む)であるため、「核オプション」導入以前なら通らなかった人事が簡単に通ってしまう。かつての差別発言などで問題となっていたセッションズ司法長官も結局、賛成52票(共和党51、民主党1、共和党1は棄権)で任命承認されている。共和党からも反対者が出たため、一時期は絶望的と考えられたデボス教育長官の人事も結局50対50のタイとなり、形式上の上院議長であるペンス副大統領が票を投じることで承認された。

 

(2)反撃の機会はいつ

いまのところ、相次ぐ“トランプ砲”に圧倒されている感があるものの、それでも民主党の反撃の機会は確実にあると考えられている。オバマケア廃止、大型減税、米墨国境の壁など、大統領令での改革案のほとんどは予算措置が必要であり、その額も非常に大きい。「核オプション」は通常の法案は対象でないため、審議が進めば、民主党側は一気に反転攻勢をかけることができるようになる。最高裁判事に任命されたニール・ゴーサッチの承認については、トランプ大統領はマコーネル共和党院内総務に要請し、他の人事承認と同じような「核オプション」の規則改正を狙っているが、うまくいくかどうかはまだわからない。

 

また、トランプ政権の諸提案に現在、「ついていけない」と感じる共和党議員も確実にいる。例えば、メキシコなどからの輸入品についての国境税については、共和党保守派の重要な資金源である「アメリカン・フォー・プロスペリティ」や、コーク兄弟が猛反対している。いまのところ、国境税については、ライアン下院議長が下院共和党内をまとめるように動いてはいるが、産業界の反対も強い中、国境税反対に回る共和党議員も今後、出てくるであろう。

 

代替エネルギー開発支援の見直しなど、一部の科学技術政策もトランプ政権は大きく変えていくとみられているほか、移民法改正で専門職有期雇用を目的としたH1bビザ発行の大幅削減案に対しても、アメリカ国内のハイテク企業の反発が大きい。ハイテク企業を抱える地域の共和党議員のトランプ政権離れも目立っていくと想定される。

 

“トランプ・ショック”から、民主党の建て直しには時間がかかっているものの、今後、春から夏にかけて、状況は一変し、民主党側が一枚岩だった共和党を切り崩すような状況も出てくるかもしれない。もし、共和党が割れた場合、政治的分極化を徹底的に利用して当選し、政策運営でも一方の極だけをみながら動いているトランプ政権が、結局は議会内の分極化を収めていくきっかけを作るかもしれない。

 

(3)民主党全国委員長人選とリベラル版「ティーパーティ運動」

2018年の中間選挙に向けて、鍵となるのが、2月下旬に決まる民主党全国委員長の人選だ。昨年の大統領選挙で徹底的にサンダースを支援した左派のエリソン下院議員か、クリントン支持で中道路線のペレス前労働長官かによって、党の選挙戦略の方向性が大きく変わってくる。2018年中間選挙の場合、上院の改選33のうち、民主党の現職が25(無党派で民主党と統一会派の2人を含む)と圧倒的に多く、民主党にとっては議席を失う可能性もあり、戦いにくい。この難しい手綱さばきを左派が握るのか、中道が握るのか。どちらが有利になるのかはまだ予断しにくい。2016年の大統領選挙で失った白人ブルーカラー層をどう奪還するのかが大きなカギとなるが、それには左派路線が有利なのか、中道が有利なのか、議論が分かれるところだ。左派路線の場合、“忘れ去られた人たち”を救い上げるのがポイントにはなるが、人種マイノリティやLGBT擁護が前面に出ると逆効果もある。

 

一方、下院共和党現職議員の対話集会では、オバマ前大統領が呼びかけたとされる民主党版の「ティーパーティ運動」が入り込み、議員を糾弾している。ちょうど2009年から2010年にかけてオバマケアをめぐる立法過程で、共和党側が仕掛けた方法を逆手に取ったものだ。民主党の場合、共和党よりも支持者の幅が広いため、どうしても選挙で一枚岩になれないが、今後、この動きがどれだけ大きくなるかで、2018年選挙の明暗を分けるかもしれない。