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アメリカNOW 第4号 ニューヨーク政治の文脈から読む大統領選・ダマト元上院議員インタビュー

December 25, 2007

【ニューヨーク発の大統領選】

今回の大統領選挙で序盤から台風の目になっているのがニューヨークである。民主党の有力候補であるニューヨーク州選出のヒラリー・クリントン上院議員、共和党で有力候補の1人であるジュリアーニ元ニューヨーク市長、いずれもニューヨーク州を地盤とする。さらに、ニューヨーク市長ブルームバーク氏の第三候補での参入の声も2007年末時点で完全に消えてはいない。民主党と共和党が、それぞれ大統領候補か副大統候補にニューヨークを地盤に抱える政治家を擁立する「ニューヨーク同士」の戦いの可能性もある。こうしたなか、2007年12月20日、ニューヨーク選出上院議員を3期16年務めたアルフォンセ・ダマト元上院議員に、ニューヨーク政治の視座から見る大統領選について個別に話を聞いた。

ダマト元上院議員はブルックリン生まれロングアイランド育ちの生粋のニューヨーク人で、シラキュース大学と同大学ロースクールを卒業している。1980年の上院議員選挙で当選以来、レーガン政権、ブッシュ・シニア政権、クリントン政権と80年代90年代を通して3期務め、銀行委員会委員長などを歴任した。引退後は自らコンサルティング会社「パーク・ストラテジー」を経営する傍ら、JFK Jr.が創刊した政治専門誌『ジョージ』誌で連載コラムを持つなどして政治に関与し続けてきた(『ジョージ』誌は現在は廃刊)。ダマトはニューヨーク州ナサウ・カウンティーの保守層を支持母体にしてきたが、現在もマンハッタンに事務所を持ちニューヨーク政治に継続的に影響力を及ぼしている。定期的に開かれるクライアント向けのパーティは、現在もマンハッタンのミッドタウンかローアーマンハッタンで行われる。

ニューヨークの共和党政治家の宿命としてリベラル層にも支持を得なければいけない問題があるが、ダマトも例外ではなく保守本流としての政治姿勢を貫くと同時に、リベラル層にも一定の支持を得てきた。民主党の政治家との交流も活発である。特にニューヨークの政治コミュニティでは党を超えた付き合いを好む。ダマトが2008年大統領選挙の文脈でアメリカの政治関係者の間で注目されるようになったのは、2006年12月中旬、クリントン上院議員、元ニューヨーク市長のエドワード・コッチ氏とともにこじんまりした会食を行ったことに端を発している。実にクリントン議員が正式な出馬表明をする約1ヶ月前でもあった。会食はニューヨーク政治の「パワーランチ」として『ニューヨーク・タイムズ』など各紙が報じ話題となった。大統領選の状況について話し合ったというダマトは、この時点で既に大統領候補の可能性について、民主党側でヒラリー、オバマ、共和党側でマケイン、ジュリアーニの名前を出していた。ヒラリーには勝ち目がないだろうという意見が大勢の共和党のなかで、最初にヒラリーには十分大統領になる可能性があり共和党は彼女を甘く見るべきではないと主張した人物でもある。あれから1年たった現在、元上院議員として公職を離れている客観的立場からニューヨーク政治を超党的に見てきたダマトの見方に変化はあるのだろうか。

【ジュリアーニの文化争点問題と宗教保守票の分裂】

共和党候補についてダマトの分析で最も特徴的なのは、ジュリアーニの可能性にきわめて辛口な見方を示していることである。同じニューヨーク共和党として間近でジュリアーニを見てきたダマトの指摘は、他候補や他党についてはともかく、ことジュリアーニ分析については重いと言わざるを得ない。現在、ダマトはトンプソンの支持を表明している。同じニューヨーク政治家でイタリア系仲間でもあるジュリアーニを支持しないダマトの姿勢は現実的であり、トンプソンを「本流の保守派」として評価している。共和党候補としてのジュリアーニの社会問題でのリベラルさは継続的に目に余る状況であり、これはニューヨーク市長としては容認できる範囲内であっても大統領候補としては限りない弱さとみている。「同性愛者の権利容認、人工妊娠中絶を容認するプロチョイス、銃規制に対する姿勢。これら3つの最も重要な文化争点でジュリアーニは保守層の票を取れない。アイオワ、ニューハンプシャー、サウスカロライナで苦戦するのもそのため。しかし、ジュリアーニの予備選戦略は後追い戦略である。序盤で落としても、ニューヨーク、カルフォルニアという人口の多い州を、ジュリアーニは後で確実に獲得するつもりだ」と指摘する。ダマトはジュリアーニが予想に比べて思いのほかしぶとい戦いをしているとも述べているが、ジュリアーニの文化争点問題は早晩火を噴くと見ている。ダマト自身、かつて同性愛者の軍隊の入隊問題など文化争点で共和党内少数派として賛成にまわったことがあり、文化争点で共和党主流と意見を異にすることがどういうことになるか、経験をもって理解している。

ジュリアーニが予測よりもしぶとい戦いをしている要因の1つとしてダマトが指摘しているのが、宗教保守票の分裂である。当初、ロムニーに保守票が流れると見られていたが、ハッカビーの追い上げは激しく、モルモン問題で保守派が支持を躊躇していたロムニーからハッカビーに乗り換える現象が雪崩のように起きている。これは、ジュリアーニにとっては「宗教保守票のロムニーとハッカビーへの分裂」にほかならず、序盤の州でもジュリアーニに批判的な保守票が「2者分裂」してくれたことで、思いのほか失点を防げている。しかし、ハッカビーの勢いは止まらず、現時点ではダマトもハッカビーの有力さを認めている。

【クリントンの底力、ブルームバーク市長の動向】

他方で、民主党についてはクリントン上院議員の実力を「聡明で発言の要旨も明瞭」と高く評価した。「組織、実力のどれをとっても比類ない強さ。夫の支持層にも支持されている」と述べ、事実上クリントンの独走態勢を追認する発言をした。クリントン議員の場合、広範な支持基盤を維持しているクリントン元大統領の支援が大きいと見る。オバマの可能性についても言及したが、オバマに可能性があるとすれば、オバマ個人の実力という以前に選挙民が大胆な違いを求めるかどうかであるという。「組織型のマシーン政治には否定的な選挙民も増えている。そうした層はオバマを支持している」。着実な組織政治か非組織か。これまでの「マシーン政治」を肯定するかどうかが支持の分岐点になるとみる。試金石をアイオワやニューハンプシャーではなく、その先のサウスカロライナと分析している。

ブルームバーク市長の第三候補としての参入については、まだ可能性を完全に否定できる状況ではないとしながらも、立候補は状況次第であり、状況があまりに流動的であるため、現時点では市長の判断はまだないのではないかとの見方を示している。「出馬を否定できる状況ではないが、出ると決まったわけでもない、すべては予備選の動向次第」との見方である。共和党は候補が乱立状態で整理がつかず、誰が指名を取るのか見えないため立候補が決められないという。また、民主党有力候補のヒラリーが正式に指名を獲得すれば、ブルームバーグ出馬の可能性は限りなくないという見方もダマト周辺は示している。民主党の地盤を食い合うことになり、民主党として意味のないニューヨーク同士の争いになるからである。

【ブッシュ外交への辛口評価と日米関係】

自由貿易を信奉するダマトはアジアとの貿易についてきわめて積極的で、台湾ウォチャーを自らのスタッフに抱え、日米関係への影響なども細かくフォローしている。日米関係についても重要性を強調した。「日本とは貿易面、同じ価値や理念を共有している面で今後もきわめて緊密な関係が求められる」と深い関係の継続の重要性を指摘したが、現在のブッシュ政権の外交方針と日米関係についてはおおいに意義があると注文をつけた。ダマトは共和党内でも現在のブッシュ政権への批判の急先鋒の1人である意外な顔を持ち合わせている。ダマトの批判は「ブッシュ外交が同盟国との同盟を今や当たり前のものとして受け止めすぎで、育てて行く努力を怠っている」という指摘に集約される。同盟国との関係を放っておいても「もう大丈夫なもの」として考えているきらいがありすぎるとダマトは警告する。ダマトは具体的に言及しなかったが、日米関係に絞って考えれば、ブッシュ政権二期目における知日派の政権からの去就はその文脈で理解できるかもしれない。またダマトはブッシュ政権の単独外交姿勢も目に余るとし、筆者の「本当にそう思うか」との再質問に対して「暴れん坊が横柄に振る舞って、それで(日本は)嬉しいのか」と公式なやり取りであることを認識した上で語義を強めて語った。共和党内にもイラク戦争以降のブッシュ外交の方針に鬱積がたまっていることを示唆しているが、共和党候補にとって、「ブッシュ外交の何をしっかり受け継いで、何に決別するのか」をある段階で明確に示すことが決定的に重要になろう。

【北朝鮮政策を評価】

「ブッシュ政権で評価するものなど何1つない」と断言するダマトが、1つだけ評価するのは北朝鮮政策であるという。「日本、中国など地域の関係国を絡ませる交渉方法で、北朝鮮を協議に引き出してきた。このブッシュ政権の対北朝鮮政策は、ブッシュ政権のすべての政策のなかで唯一評価できるものである」。ブッシュ政権で唯一評価できるものが北朝鮮政策とは保守論客でならす共和党元上院議員の発言としてきわめて意外な指摘であるが、イラクで手詰まり感を感じた二期目のブッシュ政権が、退陣までに北朝鮮問題での「小幅進展」を目指しているとしたら、混迷するイラク、展開が不安定なイランではなく、北朝鮮をあえてブッシュ政権の評価対象にあげたダマトの着眼は的を射ていることになる。残り1年、ブッシュ外交最後の1年の展開を横目で見ながらの大統領選となる。共和党候補は終局を迎えるブッシュ外交への評価と差別化を同時進行で求められるだろうし、イラク戦争批判に終始することで予備選を盛り上げてきた民主党候補も残り1年のブッシュ外交を注視しながら、自らのイラク、イラン、北朝鮮対応の青写真を描き始めなければならない。ニューヨークを舞台に両党の主要候補と深い関係をもつ元共和党上院議員による「北朝鮮しか成果がない政権」との挑発的とも予見的とも捉えられる指摘をどうふまえて、1年の選挙戦を戦うか。今後1年のブッシュ外交の動向に、共和党、民主党ともに少なくない影響を受けることになろう。

以上


■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー、元テレビ東京政治部記者

    • 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授
    • 渡辺 将人
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