タイプ
論考
プロジェクト
日付
2008/1/8

アメリカNOW 第5号 アイオワ党員集会の結果分析「アイオワの政党関係者の視点」(2008年01月08日 渡辺将人)

今回のアイオワ党員集会の結果をアイオワ州政党責任者へのインタビューをもとに総括する。また今回2007年12月31日より2008年1月6日にかけてアイオワ州で民主党側の候補者、クリントン、オバマ、エドワーズ、リチャードソン、バイデンの陣営会合に参加し、うちクリントン候補、リチャードソン候補、バイデン候補、エドワーズ夫人などと対話の機会を持った。このことをふまえての印象も付記する。

【民主党の地元結果総括】
共和党と民主党の結果について、両党のジョンソンカウンティ委員長に党員集会当日にインタビューを行った。民主党委員長のブライアン・フラハーティ氏は「民主党の結果のポイントは参加者の急増にあった」と指摘する。2008年の民主党の党員集会の参加者はこれまでの2倍近くの数字にふくれあがった。民主党の圧倒的な参加者急増で注目すべきは、1:増大した層はどのような層か、2:なぜ増大したのか、3:どの候補者に有利にはたらいたかである。フラハーティ氏をはじめ民主党関係者の分析を総合すれば、1:増大したのは「初めて党員集会に参加した者」「若年層」であり、2:増加の理由は既存の政治への不満の鬱積であり、3:この増大は圧倒的にオバマに有利にはたらいた。とくに「学生や大学卒以上の高学歴者の新規参加がオバマ支持底上げに役立った」と述べる。またフラハーティ氏は次のようにも分析している。「アイオワ州民はこれまでと違ったトーンを求めている。それはブッシュ批判にとどまるものではなく、むしろ党派的な民主党対共和党といった批判のサイクルを超越したこれまでの政治と違うものだ。オバマの名前がバラクという聞き慣れない名前だからというわけではないが、オバマには未知なるトーンがあると感じられている。黒人候補とは見られていない」。

共和党、民主党にまたがって歴代大統領の顧問を務めてきたデービッド・ガーゲンは「ヒラリーが負けたのではなく、オバマが勝ったのだ」とCNNで述べた。民主党関係者の認識も同様のものだ。ヒラリーは安定した選挙戦を展開し、獲得すべき票をしっかり取っている。しかし空前の参加率の上昇と新規参加者の大半が若年層でオバマに流れるという事態が発生し、オバマが予測を上回る支持を得た。また、アイオワ特有の現象としてエドワーズ組織の底力が残っていたことも意外性の1つであった。ヒラリーに不利な環境として、フラハーティ氏は「ジェンダー」が武器になりにくかったと指摘する。「そもそも、アイオワ州はこれまで知事や連邦議員などのレベルで女性を選出したことがない。それだけ女性の公職者には厳しい土地である。それに加えて、アイオワ州民は、今回はデモグラフィックな属性を超えた変革のシンボルを求めた。女性や人種といったものではない何か違うものだ。そのためオバマを黒人として認識しなかった。これは白人にアピールする上でオバマに有利になった。しかし、ヒラリーが女性として認識されなかったことは、ヒラリーにはやや不利になった」。

【共和党の地元結果総括】
他方、激戦と波乱の展開をみせる民主党に比べて共和党の印象が薄いことは否めない。ジョンソンカウンティ共和党委員長のビル・キートル氏は「ハッカビーの圧勝はアイオワ共和党としてはサプライズではない」と指摘する。ハッカビーがアイオワの共和党員の4割を占める福音派の宗教保守票を手堅く集めて首位に立ったのは、キートル氏にいわせれば「予想通りの結果」だった。アイオワ共和党内での宗教保守など社会保守派の影響力はきわめて強く(アメリカNow第1号参照)、アイオワでは宗教保守にアピールする候補者だけでの少数激戦となり、結果ごく一部の候補者だけで得票率を独占すると見られていたからである。

全国メディアでは「無名のハッカビーの台頭」を驚きとともに取りあげたのに対して、地元アイオワの共和党関係者は口を揃えて「最初からハッカビーか、せめてロムニーか、宗教心の強い候補者しか選びようがない。ルーディ(ジュリアーニ)は論外」と述べているところに、アイオワの地域性と全国メディアと地元共和党の「常識」の違いが浮き彫りになっている。事実上、ハッカビーとロムニーの2者対決の構図だけでアイオワ戦は展開し、党員集会当日まで地元メディアを舞台に、ネガティブキャンペーンの泥仕合となった。ロムニー陣営は「ハッカビーの保守主義は真性ではない」と批判する宣伝を流し、ハッカビー陣営は「ロムニーが人工妊娠中絶にあいまいな態度をみせたことがある」と宗教性の優柔不断さを攻撃する宣伝を流した。社会問題でリベラルなジュリアーニは戦略的に完全にアイオワを捨て、トンプソンもハッカビーとロムニーの「宗教保守対決」には参加できず、アイオワでは支持を集められなかった。

ただ、特筆すべきはリバタリアンのロン・ポール氏の10%獲得である。地元アイオワ共和党は「ハッカビー勝利はサプライズではない」という。しかし、ハッカビー台頭の背後に宗教保守票だけではない何かが透けて見える。既存のワシントンの政治家への不満が民主党側だけではなく共和党側にも存在していることが、ロン・ポールの中西部での快調ぶりに見て取れる。ロン・ポールはネットを通じて草の根の支援を広範に集めてきた。ブログやソーシャルネットワークなどのツールを通じて支援者の勝手連的な熱意がポールの活動を支えてきた点で、他の共和党候補と一線を画している。「ロン・ポールは共和党候補ではない。共和党の仮面をつけた独立系リバタリアンであり、共和党主流派としては動向を気にする必要はない」という辛口のコメントが共和党の保守本流のなかには多いこともたしかだが、「共和党の仮面」をつけて出馬した「独立系」の候補者に、アイオワの共和党員を党員集会で10%も奪われたことはどう説明するのであろうか。ロン・ポールはニューハンプシャーでも共和党ディベートに参加し、「イラク戦争反対」「アメリカのイスラム圏との付き合い方の見直し」を訴え、他のすべての共和党候補者と話がかみ合わず眉をひそめられながらも、独自の存在感で、ともすれば民主党予備選の陰に隠れ印象の薄くなりがちな共和党予備選に賑やかさを添えている。

【「組織のヒラリー」と「アマチュアのオバマ」】
「組織のヒラリー」の異名をとるヒラリー陣営は、運営的にもっともしっかりしたキャンペーンを展開している。アイオワの地元集会に本部スタッフがしっかり派遣され数時間前から設営をしっかりしているのはヒラリー陣営だけであった。ビッグネームの応援も大きく、クリントン元大統領はもとより、陣営の全国共同委員長を務めるビルザック前アイオワ州知事、その他オルブライト元国務長官などもアイオワ入りした。ヒラリー議員と筆者は久しぶりの再会であったが、ニューヨークで上院に初当選したときと変わらぬエネルギッシュな「自信」に満ちあふれ、今回アイオワに同行した娘のチェルシーとの二人三脚で、アイオワではあえて肩の力をぬいたリラックスしたキャンペーンを展開していた。ちなみにチェルシーも集会の壇上に立つが演説はしない。演説で声を潰してしまったオバマに比べてニューハンプシャーを見据えたペース配分を考えていたヒラリーは、アイオワでは声質も良好で健康にもしっかり気を配っている様子だった。他方、オバマ陣営は学生ボランティアなどの自主性に依拠しているため、運営はやや行き当たりばったりの対応も見えたが、その「アマチュア感」がかえって「草の根感」の演出に転化するという逆転の効果を生んだのは、オバマにとってきわめて幸運であった。オバマは地元民による地上戦を重視し、10月の段階からアイオワの地域事務所の開設数が民主党候補のなかで一番多かった。この動員重視が結果として奏功した。ちなみに党員集会当日の天候も、季節柄相当な冷え込みではあり雪もまだ路面に残っていたものの、年末に降ったような雪や雨は降らなかったことが出足に幸いした。

【リチャードソンとバイデンの独自キャンペーン】
尚、アイオワで独自の型破りのキャンペーンで異彩を放ったのは、バイデンとリチャードソンらの「指名は無理」と見られている下位集団である(バイデンはアイオワの結果を受けて離脱表明)。リチャードソンのアイオワ戦の締めくくりはアイオワシティの老舗バー「ミル」でカントリー音楽の演奏会を余興にして行われた。冒頭、元グリーンベレーの友人の友情的武勇伝に続き「ホワイトハウスを奪還しよう、民主党の勝利にしよう」というかけ声からスタートした。就任後1年以内にすべての軍人と民間人のアメリカ人をイラクから撤退させ、国連平和維持活動に任せるという案を披露。エネルギー問題では化石燃料以外のエネルギーへの移行を主張し、環境問題では京都議定書の何倍も厳しいものにサインするとアピールした。「自分は朝方人間じゃないので朝起きるのがつらい」「アイオワの町の名前を全部覚えられない」など素直な感想を述べ、人間性をさらけ出すことで親しみをアピール。記者兼ディテクターとしてデジカメ片手に1人でリチャードソンの密着取材をしているNBCテレビの女性記者を突然指差し、「そこにいるNBCの女の人がずっとアイオワ全土を私につきまとってくる。仕事熱心です」とジョークを演説にまじえ、NBCのリチャードソン番の記者に会場から「賞賛の拍手」が送られ、記者が聴衆に挨拶する姿を他社のカメラが撮影するという妙な光景も「後続候補」のリラックスした集会でしかありえないエピソードであろう。ボランティアの支援者は会場でトランプをして候補者の登場を待っていた。

アイオワで敗退してレースから消えたものの、特筆しておきたいのはアイオワのバイデン陣営の活気であった。ボランティアや聴衆の雰囲気が非常にフレンドリーであり、筆者との対話でも「外交をやりたい」と述べ、日本やアジアへの関心も強くのぞかせた。近隣の地元出席者がとても読むと思えない、議会でメディア向けに配っているような、政策提言の微細なリリースを持ち込んで配布していた。バッチやステッカーの配布に終始する他陣営とまったく異なる「きまじめさ」が配布物にも見て取れた。政策ペーパーをミニ集会で配布していた陣営はバイデン陣営だけである。演説の主張は大半がイラク政策とブッシュ批判。コソボ紛争をめぐり、ユーゴスラビアのミロシェビッチ大統領(当時)と深夜の極秘会談で事態打開をはかった議員外交の実績などを披露。アイオワシティに隣接するコラルビルの片田舎の小さな公民館で、内政に触れずに外交だけについて語って帰って行った。それにもかかわらず、大拍手の渦に包まれたことが、いかにアイオワの土着の民主党員がイラク戦争終結を「内政の文脈」で求めているかを物語っていると思われる。また、党員集会ではバイデン支持者がエドワーズに流れたことがエドワーズをアイオワで2位の30%に押し上げた一因となったと地元民主党関係者は分析している。

以上

■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー、元テレビ東京政治部記者