タイプ
論考
プロジェクト
日付
2008/1/8

アメリカNOW 第6号 アイオワ党員集会の再考「1」「党員行事として自主性と閉鎖性」(2008年01月08日 渡辺将人)

2007年12月31日より2008年1月6日にかけてアイオワ州にて党員集会の準備過程から実施、総括までに立ちあった。今回のアイオワの結果を深く解釈するためにも、今後の予備選の流れを考える上でも、アメリカの大統領選挙におけるアイオワ党員集会の特殊性をここで改めて確認しておきたい。本論では「アメリカNow第1号報告」の2007年10月と同様、アイオワ州ジョンソンカウンティのアイオワシティ、コラルビル周辺を分析対象とした。対象地域での党員集会の実情をケースの中心に、党員集会の問題点や興味深さを浮き彫りにしてみたい。

【アイオワ州のいびつな影響力】
なぜアイオワという小さな中西部の州が大統領選挙過程でこれほどの影響力をもつのか。候補者淘汰のプロセス上も、メディア報道のインパクト上でも、その影響力は他州との比較できわめて異常だと指摘する論者は多い。CBS Newsは今回のアイオワ党員集会に際して現地取材を慣行。放送で揶揄したように(2008年1/2放送「CBS Evening News」)、アイオワの人口動態は、非白人がわずか約7%であり、これは全国平均より当然はるかに下回る。産業も豚、トウモロコシ、大豆などの農産物に偏り、全国平均より高齢者率が異常に高く若年層が少ない。「アメリカの平均」とはおよそ言いがたいこのような州がアメリカの全体を左右する選挙で、不均衡な影響力を持ちすぎているという批判は根強い。この問題を考えるには、アイオワ党員集会が「選挙」ではなく「党員集会」であり、それゆえにアメリカのローカルのコミュニティの、時に閉鎖的で非合理な側面ももつ意思決定の歴史的意味と無縁でないことに目を向けなくてはならない。

【有権者数に比べると少ない参加者】
共和党と民主党では党員集会の方式は異なる(拙稿「アメリカNow第1号」参照)。民主党は「支持候補をオープンに表明し」「勧誘のし合い」をする。共和党は「支持候補を伏せたまま投票する」。民主党、共和党もいずれも夜6時から会場で登録と入場が開始され、7時から8時半ぐらいまでにかけて集会が開催される。「時間制限」では共通しているが、私たちがメディア報道を通じてイメージしている党員集会はおそらく民主党のそれであり、共和党の党員集会は方式としては実は「集団同時投票」にすぎない。ところで、デイビッド・ブローダーが指摘しているように(「デモイン・レジスター」January, 4. 2008)、党員集会をめぐる最大の問題は「参加者が全有権者のごくわずか」という点である。平均するとアイオワの有権者のわずか20%程度で行っている行事である。熱心な党員の「寄り合い」的行事として発展してきたもので、普段から党の行事に参加していない「一見」的な参加者は参加しにくい雰囲気がある。筆者は共和党の会場から民主党の会場に7時台に車で10分ほど移動したが、表通りの一般車両の交通量や沿道や商店の通行人の多さに驚いた。党員集会の会場は7時には入り口を閉鎖しているはずである。仕事中の人もいれば暇なのに集会に参加しない人たちも少なくないのである。

【党員の裁量で行う党員のための行事】
筆者はアイオワシティの隣町コラルビルのすべての選挙区を合体させた共和党党員集会「スーパーコーカス」(地元ホテルのホリデーインで開催)と、アイオワシティ18選挙区のLongfellow小学校体育館での民主党党員集会に年末の準備段階(会議、設営、マニュアルの選挙区への印刷と配布)から、党員集会の運営、終了後の幹部の報告会と登録書類処理と撤収まで一貫して参加した。そこで改めて明らかになったのは、いかに党員の裁量で行われている自主的な行事であるかであった。

共和党の投票用紙に党の統一用紙すら存在しておらず、ホリデーインの「スーパーコーカス」担当のボランティアが党員集会前日に近くのコンビニに色紙を買いにいった。これはまだ「選挙区ごとに色わけしたい」としてボランティアの遊び心のあるほうであり、別の党員集会ではメモ帳の切れ端のような紙をそのまま使用していた。集計もボランティアの手で行われ、その光景は1枚や2枚なにかの過失で紛失してしまってもおかしくない。選管という第三者が管理する「選挙」に慣れ親しんで、投票箱は鍵付きの箱というイメージの日本人には、画用紙をハサミできったような紙切れを茶色の封筒に「これに入れて下さい」といって投票してもらい、ボランティアがそれを手集計する様はあまりに異様に映るであろう。

会場の選定もボランティアの裁量であり、ホテルを借りるのはまだ大掛かりな党員集会であり、中には地元のハンバーガーショップや場末のバーを店主が友達だから、という安易な理由で数時間だけ借りて飲み食いしながら党員集会をやることも珍しくない。今回、民主党ほどではないが共和党でも参加者が増大し、共和党のコラルビル・ホリデーイン会場では7時を過ぎても登録待ちの行列が続いた。本来7時には入り口閉鎖であるが、会場の責任者であるジョンソンカウンティの委員の判断で中に遅刻者を入れた。他の会場との公平性の関係でこうしたことがどの程度許されるのか本来の選挙であれば議論になるはずだが、党員集会は完全にボランティアの現場裁量にまかされており、遅刻して入れてもられるかは会場の担当者次第となる。ちなみにホリディインはでは共和党ジョンソンカウンティの発案で、コーヒーサービスを史上初めて試みた。事実上投票以外では何もすることがなく待ち時間がやたら多い共和党の党員集会参加者には、このコーヒーサービスはたいへん人気だった。

【民主党は司会役のキャプテンが鍵】
他方、民主党側は選挙区のキャプテンと呼ばれる司会者が絶大な影響力を持つ。アイオワシティだけで58もの会場に分けられているが、それぞれの会場にボランティアの司会者がつく。民主党は席を移動したり会場のあちこちを移動しないといけないので、共和党のように着席型でハンバーガーショップでというわけにはいかず、どうしても学校の教室や体育館での開催が多い。そこでマイクを持つ司会者が、「それでは1回目の支持を表明してください」「何人いますか」とカウントしていくのだが、そのカウントも混み合う会場では完全に正確とは言いがたく半ば各候補者グループの自己申告のような形を取り入れている。「リアライン」の過程で「もう時間がありません」とか「そちらの候補はあと少しのようですが」という類の発言を司会者がすることで、かなり参加者の行動に違いが出ると見られる。しかも、近年では携帯電話の普及で、異なる会場同士の近況を「今こっちではこうだ」「それは阻止しないと」と、支持情勢の情勢交換を同時にするようになった。共和党の友人からの情報も入り、筆者のいた民主党の会場にもかなり早い段階で「ハッカビー勝利の模様」という一報が携帯で、筆者の隣の主婦に共和党の友人からもたらされた。

ちなみに筆者のいた会場(アイオワシティ18選挙区のLongfellow小学校体育館)では、7時半前の初回で「オバマ302人」「エドワーズ159人」「クリントン80人」「リチャードソン57人」「クシニッチ46人」「バイデン22人」「ドッド17人」「uncommitted 35人 」であった。「リアライン」を前にして、リチャードソン以下が15%を獲得できず消え、「リアライン」で「オバマ342人」「エドワーズ234人」「クリントン110人」となり、それぞれ最終的に5人、4人、2人の代議員を獲得した。クリントンの110人での2人の代議員獲得はぎりぎりであり、その際クリントン支持者が「あと3人」「あと1人」と大声で声がけを行い、退席しようとしている参加者を呼び寄せた。この時点で8時半過ぎであった。民主党党員集会の過程はきわめて流動的であり恣意的である。

ちなみに、民主党は代議員数判明後も会場に一部熱心な党員が残り、選挙区のキャプテンの司会で、代議員の選出をその場で行う。その後、候補者のグループごとにわかれて候補者にどのような政策を訴えさせるか「政策提言」を作成する。これが終わったのは9時半を回っていた。そして司会者のキャプテンは各会場から参加者の登録用紙の入った段ボールを抱えて、車に乗り、アイオワシティの一番街にある市民の憩いの場であるビリヤードバー(祝勝会場兼)に持ち寄る。登録者のダブルチェックと用紙の提出をカウンティの委員長に行い、紙の束を店内の端に山積みにしたら、あとは大スクリーンのMSNBCとCNNの中継を見ながら、お互いの会場のハプニングなどを披露し合いながら、クッキー片手に深夜までビールを飲むのである。ブロガーも集まり情報交換を行う。地元紙や地元テレビの取材も冒頭に入るが内輪の打ち上げでありメディアは早々に消えた。

【党派性の強い人達の内輪の行事】
つまり、アイオワ党員集会とはカウンティの近所の顔見知りの同じように党を愛して活動している政治好きのボランティアで運営している行事であり、そこに参加する人も支持政党はもとより、支持候補者を近所の人の前で大声で明示することをいとわない人しか参加できない。同じことを日本の現状にあてはめてみればこのシステムが万人には参加しがたいものであることが容易に想像できよう。この民主党の党員集会システムは、家族を単位に近隣の監視のなかで、どう各自が「公の政治的立場」を「地域の合議」でつくっていくかにある。「隠れた個人の本当の信念」とはおよそかけ離れた「公に向けた立場」が先行しがちである。

例えば、夫婦で別の候補を支持することがあっても、子連れで会場のなかで夫婦が離ればなれになるのは面倒だからと同じなんとなく候補者のエリアから動かない夫婦もいれば、地域や職場で特定の候補の支持を公に表明しにくい、とこぼして途中で帰宅した者もいた。ヒラリーがニューハンプシャーに移動した日に立ち寄ったコーヒーシッョップでぶら下がりインタビューを受けたとき、「アイオワは特殊なシステム。ニューハンプシャーは個人の信念を個人単位で投票するシステムだから」と答えたことを一部メディアが「負け惜しみ」「言い訳」と解釈したが、これらの批判はまったく大きな誤解であり、アイオワの民主党の党員集会システムが「地域社会の公の合議」をつくるものにすぎず、「個人の信念」は「社会的諸事情」で表明しにくいシステムであることを知るアイオワの者は、ヒラリー支持であるなしにかかわらず皆大きくヒラリーの指摘に頷いたのである。

以上

■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー、元テレビ東京政治部記者