タイプ
論考
プロジェクト
日付
2008/2/18

アメリカNOW14号 「スーパーチューズデー」総括・民主党情勢を中心に (2008年2月18日 渡辺将人)

【はじめに】
2008年2月5日火曜日、民主党側22州、共和党側21州で予備選挙と党員集会が開催された。アメリカでは「メガ・チューズデー」また「津波チューズデー」と呼ばれ注目された今回のスーパーチューズデーであるが、結果として民主党はヒラリーとオバマがほぼ代議員数で拮抗、共和党はマケイン候補の首位が明確になったことは周知の通りである。民主党側のヒラリー過半数州はアリゾナ、アーカンソー、カリフォルニア、マサチューセッツ、ニュージャージー、ニューヨーク、オクラホマ、テネシーの8州。他方、オバマ過半数州はアラバマ、アラスカ、コロラド、コネチカット、デラウェア、ジョージア、アイダホ、イリノイ、カンザス、ミネソタ、ミズーリ、ノースダコタ、ユタの13州。ヒラリーは人口の多い州で善戦し、オバマは州の数を稼ぎ、代議員数は拮抗した。本稿では、共和党についてはマケイン候補の動向中心に別機会をもうけることとし、接戦が続く民主党に絞って選挙結果の背後にある鍵となるポイントのいくつかを総括してみたい。

【オバマ州の特徴:人種混合傾向との関連をめぐり】
サウスカロライナのオバマ勝利以降顕著に表れたのは黒人票のオバマ支持傾向である。昨年までオバマは黒人支持が堅調ではなかった。党内でも「脱人種性」がアメリカの黒人本流として受け止められにくいとされていたのは、アメリカNOW第2号でも指摘した通りである。オバマが黒人票の獲得で形勢を立て直した背景の一つに黒人リーダーの反オバマ姿勢が、当初予想されていたほどに生まれなかったことにある。オバマが過半数を取った州の興味深い特徴がある。黒人人口の圧倒的に多い州か、黒人がほとんど存在しない白人州で勝利しているである。前者はジョージア、アラバマなどであり、後者はカンザス、ミネソタ、ノースダコタなどである。他方で、アーバン指数の高い、エスニック集団の混ざり合っている州で不調である。ヒラリーが過半数を取った、カリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージーなどは代表例である(オバマの本拠地のイリノイ州は除く)。

つまり、オバマが白人票に食い込み始めているという現象もが起きているが、同じ白人層への食い込み具合でも州によってかなり偏りがある。黒人政治家を支持することに躊躇がない民主党白人層は、第一に黒人の多い州で公民権運動を支えてきたような黒人に慣れ親しんでいる層、あるいは第二に現実の日常生活の範囲では黒人との接触がほとんどなく、利害関係をともなった反黒人感情がない州か、どちらかに偏りがちだからである。前者が黒人多数州で、後者が白人多数州である。中間的な、黒人以外のヒスパニック系からアジア太平洋諸島系から多数のエスニック集団の利害が交錯する都市と郊外を抱える州にオバマは弱い。フィラデルフィア、ピッツバーグを抱えるペンシルバニア州、コロンバス、クリーブランドなどを抱えるオハイオ州でこの先、オバマが苦戦する可能性が指摘されているのはそのためである。

【マイノリティ分裂】
アメリカのマイノリティ集団は一枚岩ではない。ときには非マイノリティとマイノリティの差異よりも、マイノリティ間の差異のほうが亀裂は深い。マイノリティ同士の利害調整こそが民主党内部の基礎票調整的には鍵であることは、筆者もかつて担当したニューヨークのマイノリティ集票を通して思い知らされた。今回とくに顕著なのは、黒人とヒスパニック系の分裂と、民主党候補者の支持傾向の分裂の連動である。黒人とそれ以外のマイノリティを考えるときに鍵となるのが、黒人の移民意識のなさである。アフリカからの自由移民も徐々に増加しているが、アメリカの黒人の圧倒的多数は移民として自らアメリカに渡ったわけではない。そのため特にヒスパニック系などの最新移民が抱える「不法移民」問題には無縁であり、共通利益がほとんどない。黒人がヒスパニック系と精神的に連帯を組みにくい根底にまずこの問題がある。

その上で、増え続けるヒスパニック系がカリフォルニア、ニューヨークなど黒人人口の多い州で黒人の職を奪い始めている。とくに未熟練労働職でヒスパニック系が黒人の職を脅かしている。これを受け、ロサンゼルスなどではヒスパニック系と黒人の抗争が増加の一途を辿っている。黒人社会では、かつての公民権運動とヒスパニック系を中心とした不法移民保護の要求運動は別物として考えられることが多く、地域の黒人コミュニティリーダーもヒスパニック系の運動には合流しないケースが目立つ。黒人のオバマ支持とヒスパニック系のヒラリー支持の分裂はその一つの表れでもある。スーパーチューズデーは、ヒスパニック票を、高齢層、女性票とともにオバマが乗り越えねばならない宿題に残した。

【時差投票とエドワーズ・ファクター】
スーパーチューズデーの特徴の1つに、あまりに多くの州で同日開催されることによる、アメリカ大陸を東西にまたぐ選挙区の広さと時差の関係がある。東はマサチューセッツの東部時間から、西はカリフォルニアの太平洋時間に広がる選挙民は、西の州民ほど投票締め切り時間が遅いので、東の州の速報報道にラストミニッツで影響を受けやすい。序盤の出口調査が出始めたとき、まず明らかになったのはエドワーズがほとんど過半数に達する見込みのない兆候であった。これを受け、エドワーズ支持のブルーカラー勤労者票がカリフォルニアでヒラリーに流れ込んだという解釈がある。

【大物政治家エンドースメント(支持表明)の効果】
今回のスーパーチューズデーを受けて、選挙関係者の間で語られたことの一つに、大物政治家の支持表明が末端の選挙民の投票行動にはほとんど影響がないという事実の再確認であった。民主党選挙で都市型集票を担当してきたコンサルタントは筆者との会話で次のように語った。「大物政治家が候補者を選んで支持表明するのは自由だが、自分の選挙民に対して、この候補者が勝ったらこういう利益があると約束すると言えなくては、集票効果はない。現実には、知事や上院議員は支持表明をするだけで、個別の政策実現を自分のクビをかけてまで約束しない。これでは選挙民は利益を感じず現実の投票行動には影響はない」。

スーパーチューズデーで接戦に持ち込んだもののオバマ陣営を落胆させたのは、マサチューセッツとカリフォルニアでヒラリーに過半数を奪われた結果であった。マサチューセッツでは、デューバル・パトリック知事、テディ・ケネディ上院議員、ジョン・ケリー上院議員と勢揃いでオバマを支持したにもかかわらず過半数獲得に効果がなかったからである。支持基盤への具体的公約との交換条件なしに支持表明をしても、州の党員は従うとは限らない。ところでケリー議員のオバマ支持は早すぎたとの意見もある。2004年にコンビを組んだエドワーズがまだ撤退していなかったからだ。1月10日、「オバマこそ大統領になれるし、なるべき人物だ」とオバマの隣に立って聴衆とメディアに向けてケリーは語った。タッカー・カールソンのような保守論客ですら「自分が副大統領候補に選んで、ともに戦った仲間(エドーワズ)に対してこのような態度はさすがに冷徹ではないか」(MSNBC「Tucker」January 10, 2008)とのコメントを漏らしたほど、サウスカロライナを待たずしてのケリーのオバマ支持表明は鮮烈だった。こうしたまさに鳴り物入りの経緯もあったからこそ、マサチューセッツを獲得できなかったという事実は重く、有名政治家支持表明のしかたに課題を残した。

【セレブリティ支持と女性票】
ところで政治家の支持表明は支持基盤への政策的な約束の取引ができなければあまり効果はないとされるが、セレブリティの支持表明には別の意味でのシンボリックな効果が期待されている。例えば、オプラ・ウィンフリーのオバマ支持が女性票に一定の影響を与えているという見方はたしかに無視できない。オプラは黒人であることよりも、女性であることに人気の基盤があり、「なぜ女性大統領の誕生に協力してくれないのか」という嘆願がオプラのもとに集まったことをふまえ、オバマ支持のスピーチでは女性に理解を求める発言を行った。

州全体として過半数獲得には及ばなかったものの、カリフォルニアでは元NBC放送記者でケネディ大統領の姪であるマリア・シュライバーの支持表明の効果が期待された。シュライバーはシュワルツネッガーの夫人でもあるが、それはアメリカ人にとって付随的なことにすぎず、シュライバーはアメリカ人の大半にとってはまず何より3大ネットワーク全盛の1980年代からよくテレビに出ていたNBCの女性記者というイメージであり、同局ドキュメンタリー番組「Dateline」のアンカーとして有名だったメディア・セレブリティである。ケネディ大統領の姪という毛並みもある。シュワルツネッガーなしで、マリア・シュライバーという固有名詞だけで通じるナショナル・セレブリティであり、ミセス・シュワルツネッガーとは呼ばれない。そのケネディ家のシュライバーが自分の判断で民主党候補、なかでもオバマを支持したことは何ら不思議なことではなかったが、彼女の熱のこもった飛び込みスピーチをもってしてもカリフォルニアの女性票の過半数を取れなかったことは民主党関係者の分析材料となった(CNN調査でカリフォルニア州の女性票はクリントン59%、オバマ36%、エドワーズ4%)。メディア・セレブリティの動向を看過することはできない。彼らの動向は「フリー・メディア」(有料CM枠ではなく報道枠)受けする。スーパーチューズデー前から続いているオバマ陣営への好意的報道(「勢い」を強調する報道)にこうしたことが影響していないとはいえない。

以上


■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー、元テレビ東京政治部記者