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アメリカNOW15号 「特別代議員(スーパー・デリゲート)」をめぐる民主党内の賛否両論

February 18, 2008

【特別代議員の是非をめぐる議論】

スーパーチューズデーで勝敗が決まらなかったことで、話題として浮上しているのが「スーパー・デリゲート」(以下、特別代議員)である。終盤まで接戦にならないと目立った影響力を行使する局面にならないため、近年あまり党内でも多く議論されることがなかった。政治関係者の間でも制度の由来や実態について解釈や理解にかなりのばらつきがある。筆者は2008年2月中旬ワシントンDCにて中堅の民主党関係者による特別代議員問題をめぐる議論に加わった。そこで、現時点での党内の賛成論と反対論の輪郭を可能な範囲で民主党内の議論に沿う形で示しておきたい。民主党内の議論に沿う形としたのは、あくまでこの問題が、民主党が党内でどのように候補者を決めるかをめぐる党事であるからである。

【賛成論1:改革の歴史的経緯】

賛成論を支える論点はおおきくは2つある。1点目は「改革の試行錯誤の結論」だという点である。この制度の歴史を1984年の導入だけから語ることは厳密には正しくない。ことの発端は1960年代のジョージ・マクガバンによる通称「マクガバン委員会」の代議員制度改革にさかのぼるからだ。それ以前まで民主党では代議員選出にあたり党の幹部の影響力が重視されていた。しかし、1960年代末から1970年代にかけて女性運動やヴェトナム反戦運動で勢いをつけたリベラルな層が代議員割当にも「クオーター制度」を持ち込むことを求め、党幹部の意思よりもジェンダーや人種で代議員枠を文字通り「枠」化させる流れをつくった。1972年の党大会からこの「マクガバン改革」は実施されていく。

しかしこの「マクガバン改革」は思わぬ弊害を党内にもたらす。党に熱心にコミットしている党関係者の影響が減じられたため、党の将来的利益よりも、目先の選挙民の利益を主張する場に指名プロセスが変貌してしまったのである。そのため「マクガバン改革」後、党の指名に本選で現実的に勝てる候補ではなく、人種やジェンダーなどそれぞれの帰依する集団の利益を代弁する代表者を候補者にさせようという動力が強まった。多くの党幹部が支えた1972年のフロントランナーであったエド・マスキーの敗退は象徴的事例である。また「マクガバン改革」の恩恵でマクガバン自身が指名されたことも党のなかにしこりを残した。

そうしたことから「改革」を是正する必要に迫られ、現職のカーターがレーガンに破られたのち、危機を感じた民主党はレーガン再選を阻止するため、党幹部の影響をある程度まで復活させるために「再改革」を1984年に施した。これが「特別代議員Super delegates」制度なのである。「Congressional Quarterly」誌で1970年代から1990年代まで政治ライターを務めたベテランのローデス・クックは、特別代議員制度の意義を「政治専門家の仲間内の評価」にこそあるとして「ピア・レビュー」と呼ぶ。また「党のアウトサイダー」の一過的な影響が度を超えないように防ぐ「ファイヤーウォール」でもあると説明している。つまり、民主党なりのお家事情から民主党の利益のため試行錯誤で生み出された制度であり、単に象徴的で儀式的な遺物でもなければ、1984年に突如として発生した突然変異的な制度というわけでもないのである。最終局面で接戦になっていなければ、党員の裾野の民意が優先されるが、接戦になった場合に限り、党に深くコミットしている者が党の利益から指名に影響を与えるという、「マクガバン改革」以前の制度と「マクガバン改革」後のクオーター制度の微妙な折衷案なのである。「旧態依然とした制度の残存」というわけではなく、民主党なりの現時点での改革の結論なのである。

【賛成論2:特別代議員はすでに選ばれているとの議論】

賛成論の2点目は、「特別代議員の多くは何らかの形で地元の党の代表者なのだから、民意の間接反映といえる」という論である。この賛成論の根底には、そもそも大統領選挙における直接投票の幻想は棄てるべきであるとの現実論がある。たしかに特別代議員の大半は公職者である。知事、上下両院議員などは選挙で各州から選ばれており、その時点で民意は反映されているという理屈も理解はできる。通常の議会での投票行動なども選挙民に逐一確認せずに、当選後は議員の一存に任せる権利を付与している点で、この議論には類似の説得力がある。党員の信託を一度なんらかの形で受けて公職についている者が、党の指名で独自の判断でそれなりの影響力を持つのは、間接的な党員の立場表明だという議論である。各州の党州委員会の委員長と副委員長も民主党全国委員会のメンバーであることから特別代議員となっており、ローカルの意思はここでも反映されている。そもそも民主党の関係公式書類にはどこにも「スーパー代議員(スーパー・デリゲート)」なる言葉は出てこない。これは実は米メディアがつくった造語である。一般投票者よりも大きな権限が党幹部だけに不当に与えられている差別性を印象付けるために、批判側の文脈で揶揄的に生み出されたメディア用語が由来だ。いまでも制度にことさら中立を示す場合、「いわゆる」を示す引用符をつけることがある。したがって民主党内でも制度賛成論者は「特別代議員(スーパー・デリゲート)」とあまり呼びたがらない。ちなみに民主党での特別代議員制度の正式名称は「党幹部と選挙で選ばれた公職者による代議員団Party Leader and Elected Official Delegates」である(略してPLEO'sという)。

【反対論1:不公平論と党内分裂論】

反対論の骨格は第一に「票の重みに一般の選挙民とそのような差がつけられていることがそもそも不公平である」という「そもそも論」である。「マクガバン」改革の是正の必要性は認めながらも、改革の方向性が党幹部への判断依拠では逆戻りにすぎないという正論である。この議論を有効にしている最大の論拠は、特別代議員票だけの影響力で最終的に党員の判断とかなりずれる結論が指名に結びついた場合、党内にしこりが残り、末端の党員である選挙民の制度への反発と「しらけ」を生み、本選の投票率に悪影響を及ぼすという推論である。この推論にはかなりの説得性がある。とくに今回のように党員の関心が高く、投票率もきわめて高くなっている選挙では、特別代議員への批判が強まる可能性がある。これは、せっかく若年層の掘り起こしをふくめ、民主党全体としてホワイトハウス奪還に邁進している現状をすべて台無しにしてしまい、結果として共和党政権が続くという民主党にとっての最悪のシナリオにもつながりかねないからである。

【反対論2:特別代議員の党との現在進行形の関係性への疑義】

反対論の2点目は、「特別代議員の少なからずが、既に党との密接な関係を失っている」という論である。元議員の特別代議員のなかには、政治にほとんど関係を持たなくなった者もいるにもかかわらず、そうした者にも形式的に権利が与えられていることへの批判である。たしかに特別代議員は現職の公職者だけではない。過去の大統領は終身的に特別代議員の権利を有する。元副大統領、元下院議長、連邦議会の上下両院の元院内総務、民主党全国委員会の元委員長も同様だ。こうした高位の党関係者もさることながら、反対論でよく持ち出されるのが、特別代議員の半数が全国委員会関係者だという点である。元議員や全国委員会関係者が、現実に現在の選挙民の民意を間接的に反映しているかというと疑問も大いに残るというわけである。

【特別代議員をめぐる攻防と大統領選挙をめぐる根源的問題】

党内のこうした激しい賛否の議論にもかかわらず、今回は現行の特別代議員制度のもとに予備選は継続する。特別代議員数で劣勢が予測されているオバマの支持者は選挙区の議員など特別代議員にオバマ支持をはたらきかける動きも行っているが、特別代議員への直接的はたらきかけは逆効果になるとして、陣営はこうした草の根の運動に待ったをかける意向も示している。

近年クローズアップされることがなかったこの問題は、そもそも「党とはなにか」「党員とはなにか」「党の代表を選ぶということはどういうことか」という、きわめて根源的な問題を投げかけたといってよい。「勝者総取り」方式を多く採用している共和党では、予備選の最後まで僅差の接戦が続くことが少ない。その点では民主党の票の1票1票はかなりの程度まで有効票として最終局面まで影響を与えているわけであり、「49%獲得した候補者を支持していたのに51%獲得した支持もしていない候補者を州として支持したことになってしまうこともある。自分の票が下院選挙区単位など州よりはるかに小さな規模でカウントされやすいだけ、民主党員は制度に満足すべきだ」と「勝者層取り制度」に不満のある共和党員の横やり的意見もある。

1人1人の予備選投票者、党員集会参加者の判断の総計をもって機械的に決めるものなのか、党への貢献やコミットメントの強い党人で決める党の問題なのか、「本選でエレクタビリティのある勝てる候補」を冷静にみる大局的判断か、「民意やムーブメント」をすくいとり本選で勝つ云々や党利益より一般投票者の感情や集団の利益観念の発露をそのまま優先する発想か。特別代議員をめぐる議論は根源的な問題を民主党に突きつけている。

以上


■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー、元テレビ東京政治部記者

    • 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授
    • 渡辺 将人
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