タイプ
論考
プロジェクト
日付
2008/2/20

アメリカNOW17号 マケイン候補に対する保守メディアの批判と「武士道」的評価 (2008年2月20日 渡辺将人)

【はじめに】
共和党はマケイン候補がスーパーチューズデーで、ニューヨーク、ニュージャージー、カリフォルニアなどの大票田を手に入れ大勝利をおさめた。事実上の独走態勢である。ハッカビーにもマケイン一本化への「反抗」票が入っているが、追い上げは厳しい情勢だ。しかし、マケインに対しては共和党内部で保守メディアを中心に批判が続いている。マケインをめぐる情勢を関係者の声を拾いながら読み解いてみたい。

【共和党保守派にとっての「マケインの大罪」】
一般に共和党内の保守派でマケインに対する批判は以下のようなものに代表される。1:「マケイン=ファインゴールド」選挙資金改革法、2:ヴェトナム軍人仲間の絆によるケリー民主党上院議員との連帯、3:減税への不熱心さ、4:宗教保守派との対立、5:テディ・ケネディ民主党上院議員と組んでの移民政策の寛大化、6:気候変動問題への前向きな取り組み。これ以外にも個別には山ほどあるが、代表的なものをあげただけでも、いかにマケインが中道的で党派にこだわらない(共和党の足並みを必要とあらば無視する)人物かわかる。問題の根の深さは、マケインが経済保守と宗教社会保守の双方を敵にまわしていることである。ハッカビーを取り込んで宗教保守を味方につければそれで「解決」というわけにはいかない。経済保守についても、そのまま放置すれば、本選当日の棄権行為として「反抗票」は表面化する。

経済保守のあいだでマケインの評判が悪いのは、ラス・ファインゴールド民主党議員との政治資金規正をめぐる動きに「加担」したとされる件である。ある共和党系企業弁護士は「マケインはきっとあのとき頭がおかしかったに違いない」と筆者に語る。あの忌まわしいマケインの過ちをもう話題にもしたくないといった風で、「過労で頭がおかしくなっていたのだ」ということにして「赦す」ことにしているのだという。多かれ少なかれ経済保守のマケイン観は常にこの「マケイン=ファインゴールド政治資金規正法の原罪」に戻る。また、宗教保守もマケインの宗教保守派を重視しないリベラルな発言にはわだかまりを抱えており、ギャリー・バウアーらがマケインに敵対的な発言をしている。ロムニーもマケインのリベラル性批判を軸にキャンペーンを展開して一定の支持を得てきた。また共和党にあって不法移民に極端に甘かった事実は負の要素として消せないと指摘する声も強い。

【保守メディアの激しいマケイン批判と冷静な共和党視聴者】
それを煽っているのが、保守メディアである。ラジオトークショーのホストのラッシュ・リンボーは「マケインが指名をとれば共和党は破滅する」と語り、保守コメンテーターのアン・コールターは「マケインに入れるぐらいならヒラリーに入れる」と叫ぶ。FOX Newsのシーン・ハニティは「マケインは保守ではない。レーガン保守でもない」と顔をしかめる。もちろんこうした保守メディアの声は商業メディアの「エンターテイメント」性ゆえだという冷静な見方も党内に多い。ラッシュ・リンボーがラジオに登場して以来のファンを自認する共和党員に話をきいた。「ラッシュは大エンターテイナー。大好きだ。しかし、彼の発言を聞いて、なんでもかんでもディトー(右に同じ)と叫んでそのまま投票行動に反映させるほど共和党支持者も馬鹿ではない。ラッシュは、ラッシュに影響力があると信じている人にしか影響力がない。そもそもラッシュが使う『ディトー"ditto"』という合い言葉は『リベラルな主流メディアへの対抗意見を盛り上げようぜ』という合い言葉であり、『ラッシュの意見に無条件賛成です』というよくある解釈は、初級リスナーがおかす最大の誤解。その程度の理解では、まだまだラッシュのファンとはいえない。熱狂的保守リスナーにはラッシュ批判も意外と多いし、彼の意見もよく揺れる。そもそも今回の大統領選でラッシュはハッカビーにもきわめて批判的だった」。

【民主党の政権奪還阻止が優先】
さて、ここで注目したいのは、こうしたマケインへの保守メディアの批判の嵐にもかかわらず、マケインが予備選の票では圧倒的に共和党内の支持をかためている現実である。序盤のマケインの優勢は、保守票とくに宗教保守がロムニーとハッカビーという、信仰心に訴える候補者の複数乱立で票が割れてしまったことに助けられた面が少なくない。中道票がジュリアーニの失速でマケインに早期に収斂したのに対して、ロムニーの撤退まで、社会保守票はロムニーとハッカビーで票を食い合っていた。事実、ロムニー撤退後のハッカビーは社会保守票を一本化吸収し、ルイジアナとカンザスで見事勝利している。しかし、「社会保守」候補がハッカビーに一本化されたいまでも、なおマケインの勢いは続いている。その背後にある理由として共和党関係者の間で語られているのが、共和党選挙民が「民主党候補との対決を現実に見据えはじめた」という「本選ファクター」である。

【民主党旋風がマケイン一本化を加速させたか】
「ブッシュ政権が2期続き、イラク問題をめぐる厳しい社会論調から、次の大統領選挙は民主党なのではないかという漠然とした不安が共和党内に穏健派、保守派にかかわらず、広がっている」とある共和党員は語る。その象徴がオバマ旋風と、ヒラリーとオバマの激戦による民主党予備選の盛り上がりである。強力な民主党候補と本選で対峙して共和党がホワイトハウスを維持するには、経験豊富で共和党をひろくまとめられる可能性のマケインに「現実的判断」として支持せざるを得なくなっている、という論である。「もし民主党の候補陣がさして魅力的でないか、民主党の予備選が低調で、民主党員の関心や投票率も低率にとどまっていたら、ここまでマケイン1本化が急速にまとまっていたかわからない。共和党選挙民は各自の政策信念を大切に投票し、保守色の薄いマケインはもっと苦戦したはず」という。まさに、オバマの登場とオバマとヒラリーの近年まれにみる民主党予備選の激戦の盛り上がりが、皮肉にも共和党の結束を促してしまったという見立てである。

【「武士道」の男マケイン】
アイオワ党員集会ではハッカビーを熱烈支持して投票しながら、今ではマケインを首位として追認しているアイオワ共和党のある社会保守派の委員の次の発言に注目したい。「マケインは武士道(ブシドウ)の男だ。党員集会ではハッカビーに入れたが、個人的にはマケインの人格は評価している。ブシドウを持っているからだ」。「武士道」をはたして正しく理解しているのかはともかくとして、言わんとしたいことはよくわかる。マケインが「武士道の男」とは一見陳腐ながら面白い見方だ。このマケインの「ブシドウ性」が保守派を納得させる1つのキーワードになっているとこの委員は言う。マケインが「武士道(ブシドウ)」というネーミングで語られているのは、日本人としては興味深いが、共和党員がマケインをどう見ているかの比喩としては非常にわかりやすい。政策面では保守性がなさすぎ「一匹狼の変わり者」(マーヴェリック)の「問題児」だが、人間としては「ブシドウ」を強く持っていて信頼できる男で、アメリカを任せられるというわけである。

まさに退役軍人(ベテラン)受けする「人格優先」評価である。逆にいえば、「人格面」を最大限評価しないかぎり、「政治姿勢」では共和党をまとめきれないという意味でもある。マケインの退役軍人人気は絶大なものがある。演説会場で自分の背中を差し出しマケインに「背中にサインを書いてくれ」とお願いする退役軍人まで発生している。まるでロックスターのコンサートである。マケインも喜んでマジックを手に取り、背中に力一杯サインを書く。その退役軍人は深い敬意と感謝を示す。政策のリベラルさをつい忘れさせる、そういう少し不思議な、「リーダーとしての信頼性」に巻き込まれる空気がたしかにマケインの周囲には流れている。はたして「武士道(ブシドウ)」で共和党をまとめきれるか注目である。それにしても「津波(ツナミ)チューズデー」といい、今回の選挙戦では妙な「カタカナ日本語」が現地で飛び交う。

【保守メディアの党内「外圧」としての役割】
保守メディアは共和党選挙民が最終的にマケインに一本化することを承知の上で、マケインの政策を保守的に変えさせる「外圧」役をあえてかって出ているという理解も共和党内に浸透している。どうせ一般選挙民はマケインに収斂するのであれば、せめて保守メディアぐらいはマケインの針があまりに中道にむかないよう、「教育」のためのシグナルを送り続ける必要があるという、共和党選挙民の現実の投票行動との「役割分担」である。そのため保守メディアのマケイン叩きの激烈さと、現実のマケインの堅調な優勢が乖離した奇妙な展開が続いている。選挙民もそのことを知っているので、コールターやリンボーがいくらテレビやラジオで吠えようと彼らにそのまま同調して反マケインに完全にまわるわけではない。こうした共和党内「外圧」は、当然マケインの副大統領候補選びも見据えたものだ。ハッカビーの最終局面での動向をにらみながら、しばらくは党内のこうした「役割分担」が続きそうだ。

以上

■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー、元テレビ東京政治部記者