タイプ
論考
プロジェクト
日付
2008/4/9

アメリカNOW20号 ジェームズ・ズムワルト国務省日本部長の語る「日米関係」(渡辺将人)

【総括】
2008年4月3日、コロンビア大学に国務省日本部長のズムワルト氏をお招きし、小規模のラウンドテーブル形式で日米関係全般について語ってもらった。佳境を迎えるアメリカの大統領予備選挙のさなか、新政権を見据えるこの時期に、国務省の日米関係像を概括するうえで日本部長に話をうかがう貴重な機会となった。日米関係に何らかのかたちで携わる方々には、おそらく何の説明もいらないであろうが、国務省知日派のキーパーソンである。高校時代にAFS留学で初来日。カリフォルニア大学バークレー校卒業後、1981年に国務省入省。主に経済畑を歩み、通商代表部時代には日本・中国課。貿易、投資、国際金融、エネルギーなどを担当する経済ビジネス担当国務次官補の特別補佐官も務める。日本部長就任前は、2004年から2006年まで在京アメリカ大使館経済担当公使。経済公使のズムワルト氏が、外務省担当記者団など政治担当プレスの間でも有名なのは、皮肉にも当時政治問題化していたBSE問題によるためである。記者団の矢継ぎ早の質問や過熱時には混乱も生じたカメラ取材にも丁寧に対応するなど、日本のメディア習慣も熟知した知日派として独特のプレス対応ぶりでも印象深い。

現役の国務省部長としての立場から、特定の大統領候補へ言及は困難なものの、選挙の動向や結果にかかわらず日米関係を今後も重視していく姿勢を強く打ち出している。また、日米関係が良好な状態では大統領選挙で日本が話題になりようがないと、進展中の大統領選挙で日本がこれといって話題にのぼらないことについて、日本側に安心をうながすような発言もみられた。海上自衛隊の給油活動再開をめぐる新テロ対策特別措置法も成立したことからか、ねじれ国会について長期的には過度に懸念しない意向。経済面では、米国産牛肉については月齢に基づく輸入制限があるものの、日本国内での消費が拡大していることもあってか今回は特段の言及なく、むしろ日本の医薬品市場などに特別の期待感を示した。一部各所でも既に伝えられているように、首席公使として今年夏にも在京アメリカ大使館に返り咲く話があり、ポストブッシュ政権の政権交代期のスムーズな日米関係の橋渡しの面で今後もおおいに期待される。以下、オンレコ部分の概要である。

【日米双方からみた日米関係の懸念事項】
日本側全体に漂う「悲観論」が気になる。日本側に共通する考えとして、ブッシュ大統領と小泉総理時代に、日米関係がそれに基づいてきわめて盤石だった意識が強くある。今後日米関係がそれに比べてどうなるかわからない、グローバルなパートナーシップになれるかどうかもわからない、という懸念が日本側にある。それに対してアメリカ側が日米関係で懸念しているのは、第一に朝鮮半島の問題、日韓関係。最終的に朝鮮半島の非核化というゴールは見えているが、戦術的にこれをどう進めていくのか見えてこない。拉致問題、核問題のどの問題をどういう優先で戦術的に行うかという問題。第二に日中関係。日中、日米はゼロサム関係ではないということ。第三に、インド政策の方向性。インドという核保有国との関係を進めて行くにあたって、日本の核認識に変容が生じないか。いい核と悪い核があるという認識にならないか。第四に、アメリカ大統領選挙。大統領選挙をめぐる日本の関心は高い。日本の友人と話すと必ずアメリカ大統領選挙についてどうかと聞かれる。しかし、大統領選挙の候補者というのは「日米関係は良好です」ということは言わない。大統領選の候補者は、良い関係のことをいっても票にならない。

【日米関係の成果】
日米は関係の成果にも目を向けるべきである。安保関係では、2年前に日米は米軍再編で合意。同盟の強化と永続化がはかられている。これは日本を地域のなかでプロアクティブな存在にしていくということ。しかし、これを永続的なものにしていくには、日本の世論の支持が重要。沖縄の8000人の海兵隊のグアム移転に注目したい。沖縄の人口は増加の一途を辿っており、いまや米軍基地は沖縄の人口密集地帯に囲まれた状況にある。その意味で対応が必要。また、関連で注目したいのは、1:今年夏に空母ジョージワシントンがキティーホークと交代する。2:日本のミサイル防衛追撃実験はアメリカ以外では初の成功。新宿御苑でのPAC3も注目。3:青森県へのXバンドレーダーの配備。こうした具体的成果とともに、強い日米関係を目指して、イラン、中東でも日米の協力関係が推進されている。また、アメリカが評価している分野にアフリカ開発がある。G8のホスト国として日本とどう協力していけるか。TICAD、G8プロセスのなかでアフリカ開発の問題に注目している。

【日米関係の課題】
1:グローバル協力では、なんといっても気候変動。新テクノロジーは日米中心となっている。日本の役割は大きい。欧州がチャリティ型アプローチなのに対し、日本は開発型アプローチをとっている。京都議定書をめぐってはポスト京都議定書の局面に入っている。中国の次に排出が多いのがインドネシアであり、インドネシアをどうするかが課題。2:経済面では日本の生産性が低い分野の問題。車やITでは高い生産性を維持しているが、サービス特にリテールなどの分野で低い。農業も低い。日本の全体の生産性を高めていくことが大事。市場アクセスについては概ね楽観的。日本におけるアメリカの企業進出で伸びているのは、保険産業でAIG、プルデンシャル、アフラックなど保険マーケットが堅調。今後の課題の分野としては、テーマを高齢化社会に据えて考えるべき。高齢化社会関連の産業で、医療産業、製薬、リゾート、ホテルなど。米系投資銀行が破綻したゴルフ場を買収しているのはこの観点からしてきわめて良い投資となっている。また、学生交流などの人的なネットワークのコンタクトをはかっていくことが重要。とくにこの分野の取り組みは政府間だけでは限界があり、NGOや民間セクターがこれをどう促進できるかにかかっている。

【憲法改正と国会】
日本での米兵の問題については、横須賀でタクシー運転手の事件があったばかり。日本の感情的リアクションにつながることを憂慮。米側としては、米兵のさらなる教育を徹底したい。沖縄で事件を起こしたケースでは、なぜ基地外で居住している米兵がいるのかという点なども注目がされた。しかし、この問題については総合的に見るべき。基本として日米は不均衡な同盟に依拠しているということ。「不均衡」というのは、アメリカは日本を守っても、日本はアメリカを守らなくてもいいということであり、日本がこのアンバランスを均衡のとれたものにしようとすれば、憲法改正をしなくてはならなくなってしまう。アメリカは日本にプレッシャーをかけるつもりはなく、日本が自分で決める問題。どのようなタイプの関係をアメリカと持つのかという問題。憲法改正は日本が自分で判断する問題。日本の野党が参議院で多数となっている国会のねじれ現象については、長期的には懸念していないが、短期では懸念事項となってしまっている。野党のなかにはこの事態を過度に憂える必要はないという人もいるが、日米関係は政治ゲームではない。少なくとも6年は参院での民主優位は続くわけで、なにがしかの政界再編があるのかもしれないし、民主党と自民党の大連立もあるのかもしれない。長期には悲観していない理由のひとつは、北朝鮮の存在。北朝鮮のミサイル発射で、日本全体にミサイル防衛の必要性の認識が増した。日米同盟の重要さが、日本の世論に支持された。この安保関係の重視があるかぎり、長期的には心配していない。

【朝鮮半島と中国】
福田総理は既に韓国の李明博大統領の就任式に出席するために訪韓をはたしている。これは新しい韓国への協力姿勢の鮮明化と捉えられる。日朝、日韓関係の文脈での日米関係はきわめて緊密。ヒル国務次官補は北東アジア地域への頻繁な訪問の過程で、日本のカウンターパートである外務省のアジア大洋州局長を訪問しないことはまずない。電話でも毎週必要に応じて緊密に連携。北朝鮮をめぐっては、北朝鮮が待ちの状態に入っているという認識もあるが、これは誤りであると信じたいし、交渉は相互関係に基づくもの。日米関係はたしかに小泉総理時代はきわめて良かったが、米側の懸念として、中国と韓国における靖国をめぐる問題などがあった。そこで日中、日韓の新しい関係に注目している。決してゼロサムゲームではない。日本とアジアが良好な関係を持ってほしい。当然、日米関係は中国へも影響を与える。しかし、日中関係にアメリカは介入できない。日中米で対話を持てば、韓国が外されたという意識を持つ。かつてクリントン大統領が日本を通過して中国に訪問したことが逸話的に語られるが、この問題はアーミテージ/ナイ・レポートとまったく同様で、日本重視は変わらない。個人的には、日本を通過する外交は好ましいとは思わない。しかし、この問題も日本次第である。日本は貴重な同盟国。アフガニスタンで協力できるようなアセットも持っているわけで、日本が色んな選択肢を選べるようにしてほしい。アジアでの人権の問題も注視。チベット問題にくわえミャンマーの問題もきわめて重要。ミャンマーは日本と歴史的に深いつながりがあり、アジアの人権問題では日本とさらなる連携に期待。

【慰安婦決議】
今現在慰安婦問題をめぐってとくに日米関係に悪影響が出ているとは考えていない。この問題についてはポジションと取る事はできないが、気になったのは、日本は米国議会での決議案の意味を正確には理解していない面があったこと。日米の大きな問題とはならない。(政府見解ではない)個人的見解としては、決議案は間違っていたと考える。慰安婦問題には民族的な感情も絡む。日本としては独自の解決策を見つけるべき。ハスタート下院議長時代には動きがなかったが、2006年の中間選挙で民主党が大勝し、ペローシ下院議長になって問題化したという理解にもつながった。ダメージとしてはやはり日本側を混乱させ悩ませたことであり、日米関係への一定のダメージはあったといえる。

以上

■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、米コロンビア大学フェロー