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アメリカNOW第44号 超党派委員会は機能するのか~過去の経験からの教訓~

March 5, 2010

米国のオバマ政権が、財政再建に向けた超党派委員会の設立を発表した。超党派委員会の設立は、米国の歴史では決して珍しくない。本稿では、財政に関する超党派委員会の業績を振り返る。

オバマ政権による超党派委員会の設立

オバマ政権による超党派委員会(National Commission on Fiscal Responsibility and Reform)の設立は、2月18日に発表された行政命令 *1 に定められている。

委員会に課せられた責務は、中期の財政状況を改善し、長期的な財政の維持可能性を確保するような政策を特定することである。このうち中期の財政状況の改善については、「2015年度までに利払い費を除いた財政収支を均衡させる」という明確な基準が設けられている。一方の長期的な財政の維持可能性については、歳入と歳出の間のかい離や義務的経費の伸びに対処するような、「長期の財政見通しを明白に改善させる提案」を行なうよう求められているに止まる。

委員会は18人のメンバーで構成される。メンバーのうち6人は大統領、12人は議会指導部(各党の上下両院指導部がそれぞれ3人ずつ)が指名する。加えて大統領は、自らが指名したメンバーの中から、共同委員長を指名する権限を持つ。既に大統領は、アースキン・ボウルズ氏(民主党、元クリントン政権首席補佐官)とアラン・シンプソン氏(共和党、元上院議員)を共同委員長に選出している。

委員会の報告期限は、2010年12月1日である。最終報告の採択には、18人のメンバーのうち、12人の賛成が必要とされている。

発表後の最終報告の取り扱いについては、行政命令の中では明確な規定はない。かねてから米議会では、同主旨の委員会を設立した上で、議会にその報告結果の迅速な採決を義務づける、という主旨の法案が検討されてきた。しかし、同法案は議会で否決されており、いわば次善の策として行政命令での委員会設立となった経緯がある *2 。行政命令では議会での採決を義務づけられないが、上下両院の民主党指導部は、報告結果を議会の採択にかけると約束している。

ケリー・ダンフォース委員会

難題の解決策を超党派に委ねるという手法は、米国の歴史では決して珍しくない。財政の問題に限っても、これまでにも数々の超党派委員会が設立されている *3

今回の委員会と似た性格をもっているのが、 ケリー・ダンフォース委員会 (正式名称はBipartisan Commission on Entitlement and Tax Reform)である。同委員会は、設立根拠、その目的、メンバー構成、さらには提案の取り扱い方という点で、オバマ政権の委員会と類似している。

クリントン政権下の1993年に設立されたケリー・ダンフォース委員会は、今回のオバマ政権の委員会と同様、行政命令 *4 を根拠としている。また、同委員会の責務は長期的な財政健全化に役立つ施策を提言することであり、とくに義務的経費と税制改革に関する報告が求められていた。オバマ政権の委員会でも、長期的な財政健全化が謳われている以上、やはり義務的経費と税制改革が課題となるのは当然の帰結である。

ケリー・ダンフォース委員会のメンバーは32人である(当初の30人を途中で増員)。指名権限は大統領が有しており、議員20人(上下両院それぞれ各党5人ずつ)、有識者10人が指名されている。委員会の通称は、共同委員長を務めたロバート・ケリー上院議員(民主党)、ジョン・ダンフォース上院議員(共和党)を由来としている。オバマ政権の委員会も、これまでの人選からは、両党の議員と有識者の混成部隊となっている *5

提案の取り扱い方にも類似点がある。行政命令で設置された委員会であることもあり、ケリー・ダンフォース委員会の報告も、議会での採決は保証されていなかった。

もっとも、ケリー・ダンフォース委員会についていえば、提案の取り扱い方は大きな問題とはならなかった。同委員会は、最終報告に盛り込む具体的な提案について、合意できなかったからである。結果的に94年12月に発表された最終報告書は、財政再建に向けた大まかな指針と、競合する複数の提案が掲載される格好となった。この中には共同議長のケリー、ダンフォース両議員による連名の提案も含まれているが、これも実際の改革にはつながらなかった。

個別の分野を扱った超党派委員会

財政に関する超党派委員会には、特定の分野を検討対象とする委員会も少なくない。もっとも、こうした委員会も、決して業績は芳しくないのが現実だ。

最近の事例では、ジョージ・W・ブッシュ政権が設置した、二つの超党派委員会がある。公的年金に関する President’s Commission to Strengthen Social Security (2001~02年)と、税制に関する President’s Advisory Panel for Federal Tax Reform (2005年)である。いずれも行政命令が根拠であり、議会による提案の採決が義務づけられていなかった点では、ケリー・ダンフォース委員会と共通している *6 。ただしメンバーに現職議員は含まれておらず、有識者に限定された構成となっている。

ケリー・ダンフォース委員会とのもう一つの共通点は、委員会の取り組みが具体的な改革に結びつかなかったことだ。ケリー・ダンフォース委員会と違い、いずれの委員会も、成功裏に最終報告書を発表している *7 。しかし、いずれの改革についても、改革案が議会で投票にかけられることはなかった。とくに公的年金については、ブッシュ政権が第二期の最優先課題として改革を目指したものの、実現には至らなかった。

公的年金・税制と並び、財政に大きな影響を与える制度としては、医療保険があげられる。このうち高齢者向けの公的医療保険であるメディケアについても、過去に超党派委員会が設けられたことがある。クリントン政権下の National Bipartisan Commission on the Future of Medicare (1998~99年)がそれである。民主党のジョン・ブロー上院議員、共和党のビル・トーマス下院議員を共同議長とする同委員会は、合計17人の議員・有識者で構成されていた。

この委員会がこれまで紹介してきた委員会と違うのは、法律を根拠として設立されている点である *8 。ただし、法律の中にも報告書の取り扱いに関する規定はなく、やはり議会での採決が保障されていたわけではない。

同委員会の結末は、ケリー・ダンフォース委員会と似通っている。最終報告を採択することができなかったからだ。ケリー・ダンフォース委員会と同様、共同議長は連名で提案を発表したが、こちらもその後の改革には結びつかなかった。

稀な「成功例」

目立った成果に乏しい財政関連の超党派委員会だが、稀な成功例として記憶されているのが、レーガン政権下の1981~83年に設けられた、公的年金に関する超党派委員会(National Commission on Social Security Reform、通称 グリーンスパン委員会 )である。1983年に実現した公的年金改革は、年金給付金への部分課税や、年金支給開始年齢の引上げなどを通じて、当面の年金財政の危機を乗り切った。そのたたき台となったのが、グリーンスパン委員会の報告書だったといわれる。通称の由来は、15人の議員・有識者で構成されていた同委員会の議長を務めたのが、FRB議長に就任する前のアラン・グリーンスパン氏(Townsend-Greenspan and Company)だったからだ。

グリーンスパン委員会の成功は、今回のオバマ政権による超党派委員会にとっても吉報のように見える。グリーンスパン委員会も行政命令で設置されており、報告書が議会で採決にかけられる保証はなかった *9 。この点で、二つの委員会は共通しているからだ。

もっとも、グリーンスパン委員会の働きが、改革の実現に結びついたとは言い切れない。むしろグリーンスパン委員会は提言の取り纏めに苦しみ、終盤はほとんど活動停止の状況にあったといわれる。それを救ったのは、当時のレーガン政権と有力議員 *10 によるいわば舞台裏での交渉だったというのが、当時を知る関係者の指摘である。こうした別働舞台による提案がグリーンスパン委員会に持ち込まれ、結果的に委員会案として発表されたという証言もあるほどだ *11

試される「政治の意思」

以上みてきたように、財政再建を進めるという意味では、超党派委員会の設置という手法は、必ずしも目覚しい成果を残していない。稀な「成功例」であるグリーンスパン委員会にしても、政治の力がなければ結果は出せなかった可能性が高い。

もっとも今回の場合も、グリーンスパン委員会のように、政治的に難しい提案を進めるための「隠れ蓑」として、超党派委員会が役割を果たすケースは考えられる。オバマ政権が設置した超党派委員会の成功は、政治にどこまでの強い意思があるかにかかっていると言えそうだ。


*1 :The White House, Executive Order - National Commission on Fiscal Responsibility and Reform , February 18, 2010.

*2 :Bipartisan Task Force for Responsible Fiscal Action Act of 2009 (S.2853). 上院は同法案の採決を2010年1月26日に実施、賛成票は53票に止まり、可決に必要な60票に達しなかった。ちなみにこの採決では、同法案は債務上限引上げ措置(H.J.Res 45)への修正条項(SA3229)として取り扱われている。

*3 :財政以外の超党派委員会としては、冷戦後の基地閉鎖にあたり、閉鎖すべき基地の特定を担当したBRAC(Base Realignment and Closure Commission)がある。1988年以来、5次にわたって行なわれた同委員会の提言は、政治的に困難な基地閉鎖を推進するために、大きな功績を果たしたとされている。

*4 :The White House, Executive Order 12878 - Bipartisan Commission on Entitlement Reform , November 5, 1993

*5 :3月4日時点では、オバマ政権が有識者、上院民主党が現職上院議員を選出している。

*6 :The White House, Executive Order 13210 - President's Commission To Strengthen Social Security , May 2, 2001. The White House, Executive Order 13369 - President's Advisory Panel on Federal Tax Reform , January 7, 2005

*7 :ただしいずれの場合にも、最終報告書には複数の提案が盛り込まれており、政策担当者に複数の選択肢を提示した格好となっている。

*8 :Balanced Budget Act of 1997 (H.R. 2015, P.L. 105-33)

*9 :The White House, Executive Order 12335 - National Commission on Social Security Reform , December 16, 1981

*10 :ジェームス・ベーカー首席補佐官、ティップ・オニール下院議員(民主党)、ロバート・ドール上院議員(共和党)、パトリック・モイニハン上院議員(民主党)などの名前があげられている。

*11 :Pete Davis, A Deficit Reduction Commission Is Coming , Capital Gains and Games, November 6, 2009. Jackie Calmes, The Bipartisan Panel: Did It Really Work?, New York Times, January 19, 2010.

■安井明彦:東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長

    • みずほ総合研究所 欧米調査部長
    • 安井 明彦
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