タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/10/1

インターネットとアメリカ政治 第2号「インターネットフリーダム:国際規範の追求」(藤野 克) - page 2

4 国連サイバーGGEでの議論*24

 国際規範についての議論は、国際電気通信連合(ITU)の場において、また、環太平洋連携(TPP)協議のような通商交渉などでも繰り広げられている*25 が、ここでは、国連総会第一委員会(国際安全保障・軍縮担当)の元に設置された「国際安全保障の文脈における情報及び電気通信分野の進歩に関する政府専門家グループ」*26 (サイバーGGE)における議論について御紹介する。ここでは、2012年8月から2013年6月にかけて、基盤防御のための国家のICT利用に関連する規範についての議論が行われた。

 議論の端緒は、2010年7月30日、国連のサイバーGGE(第2次)が、その前年来の議論を踏まえ、「集団リスクを減少させ重要な国家・国際基盤を防御するための、国家のICT利用に関連する規範を国家間で議論する更なる対話」を勧告する報告書を作成、これを事務総長が第65回国連総会に伝達した*27 ことであった。

 この勧告を受けて、国連総会第一委員会(国際安全保障・軍縮担当)は、同年10月28日、ロシア連邦等が提案した決議案*28 を採択した*29 。これは、事務総長に対して、2012年にサイバーGGE(第3次)を設立し、その支援を受けて、情報セキュリティの分野における脅威とこれに対する可能な協力措置を研究し、その結果の報告を第68回国連総会(2013年から開催。)に提出することを要望するものだった。この決議案により、同年12月8日に国連総会での決議が行われた*30

 第一委員会は、事務総長と第3次サイバーGGEが研究すべき措置に、国家の責任ある行為についての規範、ルール又は原則等が含まれることを明示した決議案*31 を、あらためて、2011年10月27日に採択*32 、これは、同年12月2日に総会の決議を受けた*33
直接的にはこの2011年12月の決議を受ける形で、第3次サイバーGGEでは、2012年8月から議論が開始された。第2次までは参加していなかった日本政府も、初めてこのサイバーGGEに参加して議論に加わった。

 このサイバーGGEでの国際規範の議論に向けて、ロシア、中国等は、具体的な提案を準備した。中国、ロシア連邦、ウズベキスタン及びタジキスタンの4か国は、「情報セキュリティのための国際行動規範」を起草*34 、2011年9月12日、この頒布を求める書簡を国連総会の公式文書として潘基文国際連合事務総長に提出したのだ*35 。これら各国は、これによって、情報とサイバー空間に関する国々の行動を標準化する国際的な規範とルールについて、早期にコンセンサスを得たいとした*36 。その後、カザフスタンとキルギスがこの文書の賛同者に名を連ねている。

 ここで提起された「行動規範」は11項目。第3項目に、テロリズム、分離主義、過激主義を扇動する情報や他国の政治、経済、社会的安定性や精神的、文化的環境を弱体化する情報の流布を阻止するために協力することとする条項がある。これは、政府の考え方とは異なる情報の流通を阻止するということだから、表現の自由を尊重する考え方と対立するように見える。また、インターネットフリーダムに関しては、第6項目で、次のような事項を設けている。

 「関連する国の法律及び規制の遵守を前提として、情報の検索、取得及び頒布を含む、情報空間における権利と自由を十分に尊重する。」

 これは、情報空間における権利、自由の尊重を原則としてうたいつつも、国内法令によって政府が情報の検索、取得、頒布等を規制することができるとしているように見える。

 第3次サイバーGGEでは、2012年10月にニューヨークで第1回会合が開かれ、2013年1月にジュネーブで第2回会合が、同年6月にニューヨークで第3回にして最後の会合が開催された。米国政府は、特に、サイバー空間における国際的な安定性、透明性、信頼性を促進する必要性、そして、サイバー空間の利用について、既存の国際法が国家の行動を導くべきであることについて共通の理解の達成を追求した*37 。そして、6月7日に参加国の合意を得て報告書が取りまとめられた。この報告書は、同月24日*38 に事務総長から国連総会に送付された*39

 報告書では、中国、ロシア連邦等4か国の「情報セキュリティのための国際行動規範」の提案については、「留意した(noted)」とした*40 が、それ以上にその内容には立ち入らなかった。

 他方、既存の国際法に関しては、「国家のICTのセキュリティに取り組む努力は、世界人権宣言及び他の国際的な手段に明らかにされる人権及び基本的な自由への重視と同時に行われなければならない」*41 として「世界人権宣言」に言及しつつ表現の自由等への尊重がセキュリティへの努力においても不可欠であることを明記し、また、「国際法、とりわけ国際連合憲章は、平和及び安定の維持と、オープンで、安全、平和、アクセス可能なICT環境の振興に適用され、不可欠である」*42 とし、ICT環境のオープン性と安全性の確保に国連憲章の規定が適用されることが述べられた。

 この報告書は、米国としては、一定の前進があったと評価されるものにはなった。それは、既存の国際法がサイバー空間に適用されることが明示され、中でも、世界人権宣言や国連憲章がサイバー空間に適用され得ることが明示された*43 からである。ここで留意されるべきことは、国際規範の基礎となるべき既存の国際法について、どの規定がサイバー空間に適用されるのかを特定する具体性において、報告書の内容は、米国のかねてからの主張よりも弱いことであり、また、先に触れた中国、ロシア等4か国の提案について、その是非に係る議論は決着を見ていないということである。国際規範についての共通認識に向けた議論は、未だその緒に就いたばかりなのは事実だ。ただ、そうは言っても、第3次サイバーGGEでの議論が、先進国、途上国、新興国の間で報告書に帰結するひとつの収束点を見いだすことができたことも事実である。

 国境を越えた情報の円滑な流通を実現させたインターネット。ここで可能となった人間の表現活動等の在り方に向けて、各国間の議論は時に激しく厳しいものとなってはいるが、相互の共通理解に向けた議論は動いているし、成果も出てきた。我が国も含めた先進各国において、更に各国との対話を継続し、コンセンサス形成のレベルを引き上げていく努力が必要だ。
(文中の意見は、筆者個人の見解である。)

*24:本項の記述に当たっては、近藤玲子内閣官房情報セキュリティセンター企画調整官、入江 晃史OECD日本政府代表部一等書記官から御教示を戴いた。伏して感謝を申し上げる。
*25:ITUの会議や通商交渉の場における議論については、藤野克「インターネットフリーダムへの国家介入は正当化されるのか? 『ネットの自由』を巡り国際議論」『テレコミュニケーション』2013年10月号参照。
*26:Group of Governmental Experts on Developments in the Field of Information and Telecommunications in the Context of International Security
*27:Report of the Group of Governmental Experts on Developments in the Field of Information and Telecommunications in the Context of International Security(A/65/201) (30 July 2010)
*28:Russian Federation etc., draft resolution (A/C.1/65/L.37) (15 October 2010)
*29:Developments in the field of information and telecommunications in the context of international security, Report of the First Committee (A/65/405) (9 November 2010), paras. 5-7
*30:Resolution adopted by the General Assembly [on the report of the First Committee (A/65/405)] (A/RES/65/41) (8 December 2010, Distr. 11 January 2011)
*31:Russian Federation etc., draft resolution (A/C.1/66/L.30) (14 October 2011)
*32:Developments in the field of information and telecommunications in the context of international security, Report of the First Committee (A/66/407) (10 November 2011), paras. 5-7
*33:Resolution adopted by the General Assembly [on the report of the First Committee (A/66/407)] (A/RES/66/24) (2 December 2011, Distr. 13 December 2011)
*34:International Code of Conduct for Information Security, Annex to the letter dated 12 September 2011 from the Permanent Representatives of China, the Russian Federation, Tajikistan and Uzbekistan to the United Nations addressed to the Secretary-General
*35:Letter dated 12 September 2011 from the Permanent Representatives of China, the Russian Federation, Tajikistan and Uzbekistan to the United Nations addressed to the Secretary-General (A /66/359) (September 14, 2011)
*36:中华人民共和国外交部, “China, Russia and Other Countries Submit the Document of International Code of Conduct for Information Security to the United Nations” (September 13, 2011)
*37:Jen Psaki, Statement on Consensus Achieved by the UN Group of Governmental Experts On Cyber Issues (Press Statement) (June 7, 2013)
*38:技術的理由から7月30日に再発行されたとされている。
*39:Report of the Group of Governmental Experts on Developments in the Field of Information and Telecommunications in the Context of International Security (A/68/98) (24 June 2013)
*40:Ibid., para. 18.
*41:Ibid., para. 21.
*42:Ibid., para. 19.
*43:Jen Psaki, Statement on Consensus Achieved by the UN Group of Governmental Experts On Cyber Issues (Press Statement) (June 7, 2013)

■藤野 克:前在アメリカ合衆国日本大使館参事官