タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/12/22

アメリカ大統領選挙 UPDATE 6:トランプ政権に影響力を与える保守系シンクタンクが登場か?

渡部恒雄     東京財団上席研究員・笹川平和財団特任研究員


   トランプ候補の勝利とトランプ政権の誕生は、米国の内外を問わず、外交・安全保障関係者に大きな不安を与えている。その暴言、不規則発言や「キレやすい」性格などが不安の理由だろう。そして、もう一つの不安の根拠は、政策の方向性が見えない、あるいは不確実性が高いことだ。それは過去の大統領候補に比べて、政策アドバイザーの姿と方向性がよく見えないことにも影響されている。そもそもトランプ候補は、大統領選挙の際に、既存のエスタブリッシュメントやワシントン・インサイダーを批判して、ワシントン在住の共和党の既存の専門家たちが政策アドバイザーに就任せずに、自らの勘に頼った選挙運動で勝ち残った。しかも、多くの共和党の外交・安保専門家はトランプ政権になっても、政権に参加しないという公開書簡に署名している。

 

   ただし、米国では4000人といわれる行政府での次官補以上の空きポストに、自陣営の専門家を指名して、議会の承認を得て配置しなくては、自らの政策を機能させることはできない構造になっている。トランプが大統領選挙に勝った以上、ワシントンのシンクタンクの専門家抜きに、政権を立ち上げることは難しいということも現実だ。

 

   通常、大統領候補の政策アドバイザーの多くは政策シンクタンクに所属し、共和党保守(ヘリテージ財団、AEI)、共和党と民主党の中道が所属する超党派(CSIS,CNAS、ブルッキングス研究所)、民主党リベラル(CAP)というように政治的な傾向があり、共和党・民主党候補のイデオロギーに賛同した専門家が、それぞれの傾向を持つシンクタンクに所属している。そして専門家は、選挙期間中は、個人の資格で大統領にアドバイスをするというのが定番である。

 

   今回の選挙のトランプ陣営には、ワシントンの主要シンクタンクからの外交・安保アドバイザーの姿は見えなかった。その理由の一つは、ロシアのプーチン大統領を持ち上げるようなトランプの外交・安保政策は、ロシアのクリミア併合やシリアのアサド政権支持などに強く反対する共和党保守派の政策とは相容れなかったからだ。同盟国を重視し、イラク戦争を擁護し、米国の対外関与に積極的で自由貿易の推進という点でも、ワシントンの保守系シンクタンクと、トランプ候補の距離は遠かった。

 

   もう一つの理由は、トランプ陣営の徹底した反エスタブリッシュメント姿勢である。ワシントンのシンクタンクに在籍する博士号や政府高官の経歴を持つ専門家は、彼らが批判するエスタブリッシュメント以外の何物ではないからだ。その意味でブルッキングス研究所やCSISなどの有名シンクタンクのエリート専門家の任用の壁は高いだろう。

 

   しかし、トランプ次期大統領の移行チームが本格的に動き出した現在では、トランプ陣営は、現実と折り合いをつけようという動きもみられる。最近、注目を浴びているのが、ヘリテージ財団の専門家だ。11月22日付のウェブジャーナルPoliticoは、ケイティー・グルックの「トランプの影の移行チーム」(Trump’s shadow transition team)という記事を掲載した。[i] この記事では一年前は、ヘリテージ財団は、トランプ候補を「大きな政府に共感する左翼シンパ」と批判していたが、現在では、トランプに移行チームの人材を提供する大きな存在となっていると指摘している。

 

   ヘリテージ財団には、予備選段階でテッド・クルーズ候補を支持する専門家が多く、トランプについては、矛盾する発言と離婚を繰り返してきた生活態度や社会的なリベラルな傾向から支持は弱かった。転換になったのは、トランプ候補が、2016年5月19日に大統領となった場合に指名する連邦最高裁判事の人事案だった。11人の候補者全員が保守派の白人(男性8女性3)で、人工妊娠中絶の合法化を「憲法に対する米国史上最悪の醜行」と批判したカトリック教徒の連邦判事、ウィリアム・プライアー(William Pryor)などが含まれている。[ii]

 

   トランプの移行チームに参加しているヘリテージ財団の国家安全保障専門家は、ジェイムズ・カラファノとヘリテージ財団創設者のエド・フルナーらだ。彼らは、伝統的な保守派の安全保障専門家であり、同盟国を重視する国際派でもある。

 

   カラファノはNATOと米欧同盟の専門家であり、トランプ次期大統領のロシアへの接近と、イラン政策の交代などについて懸念を持つ欧州とカナダの安全保障専門家がカラファノとオフレコの会議を持ち、懸念を伝えたことが、フォーリンポリシー誌で報じられている。[iii]

 

   また東京財団は、ヘリテージ財団とともに、オーストラリアのASPIとインドのヴィヴエカナンダ国際財団を巻き込み日米豪印のインド・太平洋地域でのイニシアティブを検討する「QUAD Plus対話」を過去3年間開催しているが、カラファノはヘリテージ財団側の中心メンバーであり、インド太平洋における米国の同盟国のイニシアティブで、地域のリベラルな秩序を維持するための対話をしている。[iv]

 

   さらに、12月4日には、外交慣例を破ってトランプ大統領が台湾の蔡英文総統と電話会談を行い、中国からの反発を強めているが、これらをセッティングした人物として、ヘリテージ財団創設者のエド・フルナー氏の名前が挙げられている。また、本人は否定しているが、元ヘリテージ財団で、チェイニー副大統領の国家安全保障担当次席補佐官を務めたスティーブ・イエツ氏も関係しているといわれている。

 

   ヘリテージ財団は台湾との関係が深い専門家が多く、ヘリテージ財団の名誉研究員であるイレーン・チャオは、ブッシュ(子)政権でアジア系の女性として初の閣僚(労働長官)となった台湾系の米国人だが、トランプ政権の運輸長官に指名されている。

 

   これらの動きは、トランプ政権移行チームが、伝統的な共和党の専門家を政権運営に取り込んでいく中で、必然的に起こる動きであったといえる。その中で、ティーパーティー運動指導者の議員から、シンクタンクの指導者に転身したジム・デミント元上院議員がトップを務めるヘリテージ財団が関与していることは、今後の政権の政策の方向性を占う上で重要だろう。そして、この組織の国際性は日本にとっても安心できる。

 

[i] Katie Glueck “Trump’s shadow transition team,” November 22, 2016, Politico 

[ii]全員保守派の白人… トランプ氏、最高裁判事の人事案発表」AFP通信電子版 2016年5月19日 

[iii] Colum Lynch and Dan de Luce, “In private meeting, Euro diplomats beseech Trump team to uphold Transatlantic pacts,” November 16, 2016, Foreign Policy,  

[iv] QUAD-Plus Dialogue