タイプ
論考
プロジェクト
日付
2017/3/2

アメリカ大統領選挙 UPDATE 7:「反トランプ派議員」とはだれのことか?

西川  賢  津田塾大学学芸学部教授

マケイン議員やグラアム議員は「反トランプ派」なのか?

    ドナルド・トランプ新大統領と、大統領と同じ政党(大統領与党)に属する連邦上院議員・下院議員との間に確執が生じており、大統領の反対党である議会民主党は党を挙げてトランプ政権の方針に反発を強めているという趣旨の報道が数多くなされている。

 

   たとえば、トランプ大統領が打ち出した難民の受け入れ凍結と中東・アフリカの一部諸国からの一時入国停止を命じる大統領令を非難する声は共和党内にも少なくなかった。声明文を発してトランプ政権を強く批判したジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州選出)やリンゼイ・グラアム上院議員(サウス・カロライナ州選出)はこの典型である。

 

   「全米の空港で起きている混乱を見ても、トランプ大統領の大統領令が周到に準備されたものでないことは明白である。大統領令が国務省、国防総省、司法省、国土安全保障省などと全く、あるいはほとんど協議することになしに発令されたという報告を憂慮する。このような拙速なプロセスで発令された大統領令は有害な結果をもたらすリスクをはらんでいる・・・・・・意図されたものかどうかはともかくとして、この大統領令はイスラム教徒の入国をアメリカが拒絶しているというシグナルを発信することになる。この大統領令がアメリカの安全を保障するものとならず、テロリストの増強につながる結果を招くことを恐れるものである」[1]

 

   2016年の大統領選挙中からトランプ候補とマケイン議員・グラアム議員の間には対立が目立った。さらに、上記のマケイン議員とグラアム議員の声明文の内容、あるいは報道番組『ミート・ザ・プレス』に出演時(2017年2月19日)にマケイン議員がトランプ政権のメディア対応に投げかけた厳しい批判などを聞く限りにおいては、マケイン議員とグラアム議員こそ「反トランプ派共和党議員」という印象を受ける。

 

   同様に、2016年の選挙中、フェイスブックに以下のようなトランプ候補不支持のメッセージを投稿したベン・サス上院議員(ネブラスカ州選出)も、代表的な「反トランプ派共和党議員」と見なされることが多い。

  

   「私はこの国で起きていることにフラストレーションを感じており、悲しんでもいる。だが、ドナルド・トランプを支持することはできない・・・・・・トランプ氏は無慈悲にもアメリカ国民の分断を狙い、栄光あるアメリカを再建するのではなく破壊しようとしている。」[2]

  

   マケイン議員やグラアム議員同様、サス議員も難民の受け入れ凍結と中東・アフリカの一部諸国からの一時入国停止を命じる大統領令、あるいはトランプ政権の対ロ政策に批判的な発言を続けてきた。

「反トランプ派」の共和党上院議員とは・・・・・・

   このように、マケイン上院議員、グラアム上院議員、サス上院議員こそ、大統領与党である共和党内部に存在する典型的な「反トランプ派議員」というイメージを持たれている。だが、このイメージは正しいといえるのだろうか。各種のデータを元に、検証を試みたい。

 

   ここでカギを握るのが「一致度」である。連邦上院・下院において大統領与党の議員たちは大統領が賛成を表明している法案・合同決議案にどの程度賛成し、逆に大統領が反対している法案・合同決議案にどの程度反対したのか。一致度とは、その割合を示すものである[3]。つまり、大統領と大統領与党との一致度が高ければ大統領と議会の大統領与党の議員が協調的関係にあると考えられ、一致度が低ければ大統領と議会の大統領与党の議員は友好的な関係を構築できていない可能性がある。

                            表1:歴代政権と議会大統領与党との一致度

ソース:Harold W. Stanley & Niemi, Vital Statistics on American Politics 2015-2016 (CQ Press, 2015), p.254.トランプ大統領のデータは政治サイト538より作成。

 

   表1に示した歴代政権の個別の一致度、歴代政権の一致度の平均値を見れば分かるように、トランプ大統領と連邦議会における大統領与党の上院議員・下院議員との一致度は今のところ極めて高い。これは、共和党の連邦上院議員・下院議員が現在までのところトランプ大統領の支持する法案を強く支持し、彼が拒絶する法案を拒絶していることを意味している。もっとも、これはトランプ政権がまだ発足して間がなく、大統領が就任から100日間を目安とする「蜜月期間」を享受していることによるものであろう。ゆえに、トランプ大統領と連邦議会における大統領与党の議員の一致度は、今後は低落する方向に向かっていくのではないだろうか。

                             表2:共和党上院議員の一致度と地元選挙区でのトランプ優位

    ソース:政治サイト538、DailyKos, Cook Political Reportなどを元に作成。

 

   次に、表2における「地元選挙区でのトランプ優位」とは、各上院議員の選出州でのトランプ候補の得票率からヒラリー・クリントン候補の得票率を差し引いた値である。つまり、この値が大きいほど、その議員が選出された選挙区(州)ではトランプ候補が優位であり、ゼロに近ければ接戦、マイナスに行くほどクリントン候補が優勢であったと考えられる。

 

   直感的に考えて、地元選挙区でのトランプ優位が大きい選挙区選出の共和党議員ほどトランプ支持の投票行動を行う傾向が高く、トランプ優位が小さい(クリントン優位が大きい)共和党議員ほど、トランプ支持の投票行動を控える傾向があるはずである。

 

   標本となっている法案・合同決議の数がまだ少ないことが難点ではあるものの、マケイン議員、グラアム議員、サス議員の三名は現在までのところトランプ大統領の立場を完全に支持している。実際のところ、これらの議員は現在までの投票行動を見る限り、報道などを通じてイメージされているほど「反トランプ的」ではない。むしろ、本人たちの声明文などでの言葉とは裏腹に、トランプ大統領を積極的に支持していると考えられる[4]。これら議員の選出州、特にネブラスカ州やサウス・カロライナ州におけるトランプ支持が強いことと、これら議員の投票行動は無関係ではないだろう。

 

   では、トランプ大統領を積極的に支持していない共和党上院議員、すなわち「反トランプ派」とはいったい誰なのか。それはスーザン・コリンズ上院議員(メイン州選出)やランド・ポール上院議員(ケンタッキー州選出)である。コリンズ議員がトランプ大統領を積極的に支持しないのは、彼女の地元であるメイン州でヒラリー・クリントン候補が優勢であったことと関係があるだろう。だが、トランプ支持が強固だったケンタッキー州選出のポール議員がトランプ大統領を完全に支持する投票行動をとっていないことはやや意外である。

 

   「アメリカ政治に詳しい人は、「共和党上院議員」、「一匹狼」(maverick)と聞くと、ジョン・マケインのことだと思うかもしれない。何といっても、2008年の大統領選挙にマケインがサラ・ペイリンとともに「一匹狼の正副大統領コンビ」として出馬したのだから。マケインが一般的な意味でいう一匹狼のレッテルに値するかどうかはともかくとして、共和党上院議員としてみた場合には、マケインは民主党に最も同調的な議員でないことは確かだ。メイン州選出の上院議員であるスーザン・コリンズこそ、最も民主党に同調的な議員であるといえる。」[5]

 

   こう述べるのは、政治サイト538の記者ハリー・エンテンである。

 意外な「トランプ支持派」下院議員

   最後に、連邦下院議員も地元選挙区でのトランプ優位が大きい選挙区から選出された共和党議員ほどトランプ支持の投票行動をとる傾向が高く、トランプ優位が小さい(クリントン優位が大きい)選挙区の共和党議員ほど、トランプ支持の投票行動を控える傾向があるはずである。だが、やはり下院においても例外的な行動をとっている議員が存在する。

 

   下院の場合、最大の例外として注目を集めているのは、地元選挙区でクリントン候補が圧倒的支持を集めたにも関わらず、積極的にトランプ大統領を支持する民主党下院議員が存在することである。それは、テキサス州第28下院選挙区から選出されているヘンリー・クエラー下院議員である。同選挙区のトランプ優位は-19.8%と非常に高く、クリントン候補がトランプ候補を大きく凌駕した選挙区であった。にも関わらず、同選挙区から選出されているクエラー議員のトランプ大統領との一致度は75%と高い。

 

                               表3:テキサス州第28選挙区でのトランプ優位と選出議員の一致度

   ソース:政治サイト538、DailyKos, Cook Political Reportなどを元に作成。

 

 「ブルー・ドッグ」、「中道派」を自称するクエラー議員は「自分は民主党員だが、民主党に従って投票することを義務とは考えていない・・・・・・自分は超党派であり、民主党を代表してここにいるのではない」と語っている[6]

 

   報道などを見聞する限り、大統領の反対党である民主党は挙党一致で「反トランプ」、すなわちトランプ政権に対する反発を強めている印象を受ける。しかし、民主党のなかにもクエラー議員のような行動をとるものも存在するのである。チャック・シューマー民主党上院院内総務やエリザベス・ウォーレン上院議員などがトランプ政権の方針に抵抗を強めており、態度を硬化させていることは事実である。だからといって、民主党の側も決して完全な形で党を挙げてトランプ大統領に反対しているわけではない。

おわりに 

   以上から分かるように、トランプ大統領と同じ共和党に属する議員の中に「反トランプ派」が存在することは事実である。だが、それは必ずしも一般的にイメージされている「反トランプ派」議員と一致するとは限らない。また、議会民主党も必ずしも完全な挙党一致でトランプ政権に反発しているわけでもない。

 

   誰がどのような立場からどの程度トランプ新政権に反対しているのか。すなわち、「反トランプ派議員」とはだれのことを指すと考えるのが妥当なのか。こうした基礎的な問いこそ、着実に回答を与えていくべきなのではないだろうか。

 

[1] <http://www.mccain.senate.gov/public/index.cfm/2017/1/statement-by-senators-mccain-graham-on-executive-order-on-immigration>, accessed February 20, 2017.

[2] <https://www.facebook.com/sassefornebraska/posts/561073597391141>, accessed February 20, 2017.

[3] 一致度はStanley and Niemi (2015)では年ごとに算出されているが、表1では政権任期全体の平均値を算出した。

[4] <https://fivethirtyeight.com/features/is-john-mccain-a-maverick/>, accessed February 28, 2017.

[5] <https://fivethirtyeight.com/features/the-real-republican-maverick-maine-sen-susan-collins/>, accessed February 20, 2017.

[6] <https://fivethirtyeight.com/features/a-qa-with-the-house-democrat-whos-voted-with-trump-75-percent-of-the-time/>, accessed February 20, 2017.