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「アジア太平洋の地域安全保障アーキテクチャ ―地域安全保障の三層構造―」

December 12, 2011

神保謙+東京財団「アジアの安全保障」プロジェクト(編著)


東京財団「アジアの安全保障」プロジェクトの成果が、 「アジア太平洋の地域安全保障アーキテクチャ ―地域安全保障の三層構造―」 と題する書籍として、この度日本評論社から出版されました。

本書は、21世紀のアジア太平洋において、日米韓、日米豪など同盟のネットワーク化、六者協議や上海協力機構など特定の問題解決、紛争解決のための地域枠組み、テロや海賊など問題領域別のアドホックな協力など、新たに出現してきた多様な安全保障の枠組みを総合的に理解するため、これらの枠組みを「アーキテクチャ(建造物)」として捉える新たなアプローチを提供するものです。

ここで提示される三層構造の第一層は、同盟およびそれを基礎とした安全保障協力関係で、ハブ・スポーク体制、日豪や日印の安全保障協力宣言などがその例です。第二層は必要に応じて形成される機能的協力で、(1)テロ対策や海賊対策など、安全保障上の能力向上のための協力と、(2)北朝鮮問題を協議する六者会合など、信頼醸成や問題解決のための対話の場があります。第三層は、東アジア首脳会議、ASEAN+3のような全域的な地域制度です。

この三層分析法は、重層的でダイナミックに変化するアジア太平洋地域の安全保障環境を分析するだけでなく、中国の台頭により、この地域の安全保障環境がどのように変わって行くか、日本は中国の台頭にどのように対処すればよいか、といった将来予測や政策対応を導くのに大変有効であると期待されます。

このプロジェクトは、 神保謙 東京財団研究員(慶應義塾大学准教授)をリーダーに、阪田恭代(神田外語大学教授)、佐橋亮(神奈川大学准教授)、高橋杉雄(防衛研究所主任研究官)、増田雅之(防衛研究所主任研究官)、湯澤武(法政大学准教授)の6名からなる研究チームによって実施されました。

第1章(神保)は、地域安全保障アーキテクチャの概念について、その由来、定義、背景、そして本研究の革新的手法である三層分析法を紹介し、報告書全体のイントロダクションとしての役目を担っています。

第2章(佐橋)で、このアーキテクチャのアプローチをより有効に機能させるための手法として三層分析法を導入し、これを使ってアジア太平洋における地域安全保障の枠組みの変化を分析します。そこでは、なぜこの地域にこのような重層構造が出現するに至ったか、各層の特徴は何か、相互にどのように関連しているかなどを明らかにします。

第3章(高橋)は、アジア太平洋地域の安全保障アーキテクチャ論における同盟の役割について論じます。同盟「重視するのは、アジア太平洋地域において烈度の高い安全保障上の事態が生じた場合、問題解決のための対処能力を持つのは米軍、すなわち米国との同盟関係だけであり、しかもアジア太平洋の全地域をカバーできるのは日米同盟であるという事実に注目します。

第4章(阪田)は、朝鮮半島を中心とする北東アジア地域における安全保障協力の現状を分析し、今後の課題として、六者協議、日中韓協力、日米韓協力との連携の中から、この地域にまだ存在しない第三層に属する北東アジア協力の制度を作っていくことを提案しています。

第5章(湯澤)は、アジア太平洋の安全保障アーキテクチャの構成要素として、第三層に属するAPEC(アジア太平洋経済協力会議)、ASEAN地域フォーラム、ASEAN+3、東アジアサミットといった地域制度について、それぞれの目的、役割、他層との関係を論じています。

第6章(増田)は、中国の地域安全保障デザインを上海協力機構(SCO)との関連で論じます。そこでは、東アジアサミットなど米国主導の枠組みと、上海協力機構など中国主導の枠組みとの連携を図ることは可能であり、そのための双方向の努力が必要である点が強調されます。

本プロジェクトでは、本書の研究に続いて、 「日本の対中安全保障戦略 ―パワーシフト時代の『統合』『バランス』『抑止』の追及―」 と題する提言書を刊行しました。本書で展開されたアーキテクチャ論の応用編として、併せてお読みいただければ幸いです。

片山正一 (研究員兼政策プロデューサー)

    • 元東京財団研究員兼政策プロデューサー
    • 片山 正一
    • 片山 正一

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