タイプ
政策提言・報告書
日付
2011/6/28

日本の対中安全保障戦略-パワーシフト時代の「統合」・「バランス」・「抑止」の追求

政策提言「日本の対中安全保障戦略:パワーシフト時代の『統合』・『バランス』・『抑止』の追求」(PDF:1.2MB)


21世紀初頭の中国の経済的・軍事的台頭が、アジア太平洋地域における日米中の力関係を変えつつあります。中国はすでにGDPで日本を抜いて世界第二の経済大国になったばかりか、軍事的にも長期的に見て米国との均衡を射程においた拡大を続けています。

こうした経済的・軍事的発展に自信をつけた中国は、日本や東南アジア諸国に対して強硬手段に訴えてでも自国の権益を確保するための活動を活発化させる一方、この地域における中国の海洋支配を阻もうとする米国に対抗するために、接近阻止・地域拒否(anti-access/area denial)の戦略を展開しつつあります。

また、中国の軍事力の実態に関する中国政府の情報公開が十分でないことも、日本をはじめとするアジア諸国の間で、懸念や摩擦を高める要因となっています。こうした中国の軍事的拡大に、日本は米国との同盟を強化することで対処しようとしていますが、政権交代後の日米関係は決して盤石とは言えないし、長期的に日米同盟をどう維持して行くかは日本にとって大きな課題でもあります。

中国とアジア諸国の関係は、尖閣諸島、南沙諸島、西沙諸島など、領有権をめぐる問題が絡むだけに、メディアの論調はともすれば感情的な反応に影響されがちですが、ここでは客観的な分析にもとづいてより広い視野から冷静な議論を行う必要があります。

「アジアの安全保障」プロジェクト(リーダー:神保謙・東京財団研究員、慶應義塾大学准教授)では、こうした問題意識から、日米中3カ国の中長期の経済力・軍事力を推計し、その趨勢にもとづいてアジアの地域秩序が米国優位から米中均衡へ向かうと予測しました。そしてその予測をもとに日本の対中安全保障戦略を包括的に検討し、以下の15項目の提言にまとめました。


  提言 1:パワーシフトに耐える強靭な「協力の習慣」を形成する
  提言 2:日中安全保障協力の「新しいフロンティア」を開拓する
  提言 3:日中首脳と国防(防衛)当局の危機管理メカニズムを強化する
  提言 4:中国が主導する枠組みへアクセスし、双方向的な「統合」を図る
  提言 5:「日米中戦略安全保障対話」を開始する
  提言 6:オーストラリア・韓国・インド等との安全保障協力を強化する
  提言 7:機能的・アドホックな地域協力を推進する
  提言 8:中国の機会主義的拡大行動に対する「動的抑止」を促進する
  提言 9:日米ジョイント・エア・シー・バトル(JASB)を推進する
  提言10:日韓戦略協力の軸を「賢く」活用する
  提言11:六者協議・日中韓協力によって中国の地域協力を促進する
  提言12:北朝鮮の「不安定化シナリオ」に備えた協議を開始する
  提言13:地域協力への参画慫慂を通して「責任ある中国」を促進する
  提言14:地域制度における「有志連合」を形成する 
  提言15:対中「統合」・「バランス」戦略実現のための地域制度を改革する



これらの提言は、昨年、本プロジェクトが発表した報告書「アジア太平洋の地域安全保障アーキテクチャ―地域安全保障の重層的構造」の分析に基づいており、アーキテクチャ論を応用した成果となっています。

そして、2011年3月11日に東北・関東を襲った東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故は、その衝撃の大きさゆえに、この提言書においても考慮に入れざるを得ない重要なポイントとなりました。

震災の復旧・復興に日本政府も国民も全力で取り組まねばならないことは言うまでもありませんが、同時に、今こそ中国の台頭など日本を取り巻く安全保障環境に一層の注意を払うことが求められています。その意味で本プロジェクトの分析と提言が、震災後の日本の安全と地域の安定に役立つことを心から願います。

片山正一(研究員兼政策プロデューサー)

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