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【生命倫理サロン】第13回「新型出生前診断について考える~生まれる前の命と、どう向き合うべきか」

October 29, 2012

⇒ 第13回テーマ
: 「新型出生前診断について考える~生まれる前の命と、どう向き合うべきか」

⇒ 開催日時
:2012年10月26日(金)18:00-20:00

⇒ 開催場所
: 東京財団会議室

⇒ 概要説明(ねらい)

:「新型の出生前診断」が日本で始められるとの報道が反響を呼んでいます。
生まれてくる前の胎児が障害や病気をもっているかどうか調べることを出生前診断といいます。妊婦のお腹に針を刺して子宮の中の羊水を取り出し、そこに含まれる胎児の細胞の染色体や遺伝子を調べる検査が代表的な例ですが、最近では超音波画像診断でもいろいろなことがわかるようになりました。

出生前診断の結果、胎児が重い障害を持って生まれることが予想されると、人工妊娠中絶を選ぶことが考えられます。知って選ぶことは個々の当事者の権利だとして擁護する意見もある一方、それは生命の選別であり、障害を持って生まれる人の排除、差別を助長するとする厳しい批判もあります。

日本では、出生前診断はこれまで実際にどのように行われてきたのでしょうか。どのような議論があったのでしょうか。今回出てきた「新型出生前診断」とは何が新しいのでしょうか、そこには新たな問題が出てきているのでしょうか。

今回の生命倫理サロンでは、産婦人科医の澤倫太郎氏をお迎えし、現場の実状と、学会や国レベルでの対応について伺い、日本ではあまり正面切って議論されてこなかった、生まれる前の命にどう向き合うべきかという重い課題について、じっくり話し合ってみたいと思います。どうぞふるってご参加ください。

⇒ 議論の展開

1 出生前診断とは? 新型とは? ~検査技術の歴史
・羊水検査:1960年代後半に研究開発・実用化、日本では1968年に導入
妊娠15-18週で/胎児の細胞の染色体の数を見る/後には遺伝子解析も可能に
・母体血清マーカー検査:70-80年代に研究開発、90年代には米国で集団検診化、日本でも90年代後半(?)に普及
妊娠15-18週で/神経管形成不全と染色体異常に関連するホルモンとたんぱく質を測る/結果は確率で示される、
確定診断にはならない
・母体血中胎児染色体検査:最近実用化された「新型」
妊娠8週からできる/染色体の量ないし特定部分の過不足を測る

2 何が問題か? 日本での議論の経緯
・優生保護法の歴史
「不良な子孫の出生を防止する」ために1946年制定
1972年、政府が改正案提出:人工妊娠中絶が許される事由の規定から経済条項を廃止し、胎児条項を導入しようと
した→ 女性団体、医療団体に加え、障害者団体が反対運動を展開。以後、対立の激しい政治的争点となる。
~1996年、母体保護法に改正、「優生」と「不良な子孫・・」などを削除
中絶の許容条件の見直しは議論されず、棚上げ
・出生前診断の倫理、国レベルでの議論はほとんどなし
母体血清マーカーのみ(1999年、厚生科学審議会専門委員会報告)
:このとき、今回の新型の際と似た問題が提起され論議となったため。それ以外はすべて学会まかせ

3 医療技術の適正な管理という面から考える
・新規検査法が医療として認められるためには、精度と確度および臨床上の有用性の評価が必要。
そうでないものが普及することを防ぐのが、倫理の最も根幹
しかし新型出生前診断の一つ(米国シーケノム社のMaterniT21 Plus)は、行政当局の規制を受けない区分として
開発し、商業ベースに乗せている:公的な審査を受けていない!
フランスでは行政当局が審査に乗り出す動き。
→ 日本で一部医療機関が行おうとしている「臨床研究」は、適正なチェックの役を担えるか?

4 生まれてくる前の命と、どう向き合うか
・産む、産まないは誰が決める?
妊婦の自己決定権と胎児の生存権の対立?
・胎児の異常を理由に中絶を認めることは、障害者を排除する優生思想か?
・障害を見過ごされて生まれることは、賠償請求の対象になる「損害」か?
~フランスでの議論を参考に

5 社会としてどのような対応を考えるべきか
・個々の受診(候補)者の支援として必要なこと
検査技術の妥当性がどう保証されているか
結果の意味をどう伝えるか
誰がどのようなフォロー、アフターケアをできるか
以上について、公的なルールがどう備えられているか
・個々の検査技術のチェック
専門医、医療界と当事者団体が共同で適正な実施要項をつくる、「合意形成会議」を
・実施医療機関・実施医のチェック
資格や質の保証について、公的なルールの策定は必要か
広く開かれた議論の場を設けるにはどうしたらいいか

⇒ 参加者からのコメント


・専門的知識と産科医療の現状に裏うちされた議論で面白かった。しかし、中絶に関して、胎児条項がない中でも実際は胎児の異常を理由に中絶を選択することの現実は問題に挙がることのない話なのだと感じて驚いた。「中絶は当たり前にできるもの」という認識を国民も医療者も多数がもっていて、法律との解離が野放しにされていることに対する違和感は今回参加してさらに強まりました。

・専門の方(スピーカー)でも「分からない事が多い」という事こそ、それこそ専門家任せにしないで、国が議論の機会を設けるなり国民に広く意見を募るなりした方が良いのではと思った。(20代女性)

・もし今後もこのような企画があれば、無侵襲的出生前遺伝学的検査の研究に参加されている方々や厚生労働省の方々からの意見などもゲスト・スピーカーとして踏み込んで頂きたかった。(40代女性)

・澤先生とぬで島研究員、またフロアからの質問・意見が非常にかみ合っていて、大変勉強になりました。報道で大きく取り上げられた数字(99%)とか安全とかの裏に、実は羊水検査を経ないと確定できないとか、そもそもの臨床研究の目的はカウンセリングのデータ蓄積だった等、いろいろ医学や先端技術の専門家集団と一般との解離が大きいと感じさせられました。(50代女性)

・カップルの男性側の考えなども、この問題を考える上で、表には出にくいかもしれないけれども、重要な要素だと思いました(40代男性)

・出生前診断をちゃんと考えなきゃいけない期、第二回目到来。90年代の議論を基本的には大きく変わらず、このあたりの話をいったりきたりしている感がある。(40代女性)

⇒ スピーカー紹介
澤倫太郎氏(日本医師会総合政策研究機構研究部長、日本産科婦人科学会副幹事長)

1958年生まれ。1986年日本医科大学付属病院臨床研修をされたのち、2001年には日本医科大学・生殖発達病態学講座・講師。2002年4月1日から2004年3月31日まで日本医師会・常任理事、2006年から日本医師会・総合政策研究機構研究部長。2009年から日本産科婦人科学会・副幹事長、同年、慶応義塾大学産婦人科学教室・客員准教授兼務、現在に至る。


⇒ 聞き手 : ぬで島次郎(東京財団研究員)

    • 元東京財団研究員
    • 橳島 次郎
    • 橳島 次郎

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