タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2013/8/30

第16回「生殖補助医療に法規制は必要か?~日本医師会提案から考える」

⇒ テーマ
: 「生殖補助医療に法規制は必要か?~日本医師会提案から考える」

⇒ 開催日時
:2013年8月28日(水)18:00-20:00 

⇒ 開催場所
: 東京財団A会議室

⇒ 概要説明(ねらい)

:今年、無償で卵子をあげたいという女性を募集して不妊のカップルに斡旋する「卵子バンク」が活動を始め、話題になりました。ほかの人から卵子をもらって子を産む人の割合が、この3年間で3倍になったとの調査報告が、6月に発表されています。
 
 精子や卵子を提供した人は、生まれた子の(もう一人の?)親になるのでしょうか。また逆に、自分の卵子でほかの女性に懐胎し出産してもらった人は、生まれた子の実の親といえるのでしょうか。生殖補助医療の進展は、私たちの社会の根幹である親子のあり方に、揺さぶりを与えてきています。
 
 日本では、生殖補助医療はこれまで30年以上、公的規制のないまま進んできました。医学的なリスクだけでなく、法的にも、親子関係が争われて訴訟になるケースも出てきています。政府関係機関からは法整備の提案が何度も出されながら、10年以上、立法に向けた動きは進んでいません。
 
 子どもをもうけるために、何をどこまでやっていいのでしょうか。生殖補助医療に法規制は必要なのでしょうか。 
  
 この問題を考えるために、今回は、今年2月に生殖補助医療法制化の具体案を提案した日本医師会の今村定臣氏をお招きし、提案を出すに至った経緯と、そこに示された考えをお聞きし、参加者のみなさんと議論してみたいと思います。どうぞふるってご参加ください。

⇒ 議論の展開

はじめに 日本の生殖補助医療の現状
・どのくらい行われて、何人くらいの子どもが生まれているのか。
:生殖補助医療によって生まれる子どもは年間28,945人(2010年『日産婦誌』64巻9号参照)。出生児全体の約37人に1人の割合。

・カップル以外の第三者が絡む生殖補助は、どこまで認められているのか
:世界では、OECD(経済開発協力機構)加盟34カ国中、26カ国(76.5%)で生殖医療に関する法律整備が完了している。一方、日本では、法律はなく、学会のガイドラインによる規制のみ。ガイドラインは、民間の自主規制に過ぎないため、限界がある。

1 日本医師会提案の経緯
・なぜ医師会が生殖補助医療の法律案を出したのか?
 これまで日本で立法が行われずにきたのは、どうしてか
:2003年には厚労省と法務省の審議会の答申が出て、法案が提出される予定だったが、政府も国会も本腰を入れて取り組むことなく、立法は見送られる。その結果、国内外で卵子提供や代理懐胎による挙児が水面下で進み、親子関係の紛糾で裁判になる例も出てきた。
 そのなかで昨年4月に自民党国会議員有志が法律案をつくり、日本医師会の意見を求めてきた。その案には異論もあったので、日本医師会として、実施体制の整備、安全性、倫理性の確保のため、独自に具体的な法提案をすることとした。

・どのように検討されたのか、どんな議論があったのか
:生殖補助医療の法制化に関する検討委員会を設置し、親子関係に関する民法特例法の制定を優先する方向性をとる。分娩した女性が母であるとするルールを貫くことで一致した。

2 何を法律にするべきか:日医提案の中味
・日医提案の基本的考え方
(1)生殖補助医療によって生まれる子の地位の安定を図ること
(2)生殖補助医療を行う医師に指定制度を設け、透明性と信頼性を確保すること
(3)人の精子、卵子、受精卵 の売買を禁止すること

・子どもがほしいという望みに、医師はどこまで応えるべきなのか/応えてよいのか
:生殖補助医療は、通常の病気の治療とは全く異なる。子どもをもつ権利は尊重されるべきであるが、野放図には認められない。医師だけでなく様々な立場からの議論が必要である。
・法律にすべきことと、そうでないことをどう分けるか
   親子関係の明確化、人の精子・卵子・受精卵の売買禁止、生殖補助医療指定医制の導入
     参考:医師会の特別養子斡旋事業について

・「出自を知る権利」をどう考えるか
:養子縁組制度の親子間にも影響を与える問題であり、生殖補助医療の観点からだけでは判断すべきではない。また、戸籍上の親から子に告知する割合が少ない現況も鑑みると、当時者間で処理すべきことで、法で介入すべきではない。

・卵子提供、代理懐胎をどう考えるか
:提案には、代理懐胎等についてのいわゆる行為規制法は設けない。

⇒ スピーカー

: 今村 定臣氏(日本医師会常任理事、産婦人科医)
1973年長崎大学医学部卒業後、長崎大学医学部付属病院にて勤務。1983年より米国コロンビア大学産婦人科客員助教授、米国ロックフェラー大学客員研究員を務める。帰国後、長崎大学医学部付属病院講師を経て、1989年医療法人恵仁会「今村病院」院長に就任。また、2002年に長崎県医師会副会長、2006年より現職。医師会では、周産期・乳幼児保健、医事法制、治験、先端医療等を担当。


⇒ 聞き手ぬで島次郎(東京財団研究員)


⇒ 参加者からのコメント

・法律作りには理念と現実の両方が大切だと思いますが、今回はバランスの取れた議論だったと思います。それにしても、必要な法案審議が政局等で滞る日本の立法府はどうにかならないものでしょうか…。(30代男性)

・今村先生はひと言ひと言にきちんとした裏付けを持っていらっしゃり、今までの議論、思索の厚さがよくわかりました。素人の私としては、このくらい考え抜いたものであれば、すべて信託できそうに思いました。こんなことではいけないのでしょうか。
 出自を知る権利の議論でぬで島さんが「人は自殺する自由はあるが権利はない」と言われました。権利というものは本人だけのものでなく、社会規範や周囲の人との関係性が問われるとの意味でしょうか。この話は今回最高の収穫でした。(50代男性)

・参加者の質問・意見に今村氏とぬで島氏が回答するやり取りにより、日本医師会の提言の趣旨が、基礎の基礎となる最低限の枠組みをまずは作ろうではないか、ということだと理解できました。現状における大半の日本人の感覚に沿いつつ、何がどのように行われているか把握できるようにするという内容で、良く練られた妥当なものと思いました。
 興味深かったのは、意見を述べた参加者の多くが、「養父母以外の卵子や精子を使用して生まれた子どもが、自分の出自を知る権利」について、知りたがり、ご自分の意見を語ったことです。この問題について今村氏とぬで島氏が見解を述べられましたが、納得したと言えない方々も多いように思いました。出自を知る権利について参加者の関心が高かったのは、子供の福祉を優先すべきという面と共に、自分のアイデンティティが分からないことに対して、人が根源的な恐怖心を抱くからかもしれないな、とも思えました。(50代女性)

・医師では決められない問題があることがよく分かりました。異なるバックグラウンドをもつ人たちで、どうすれば良いかを、実際に話し合う機会があればよいと思います。(50代女性)

・分娩はそもそも大変危険なものであり、ごく最近、いわゆる先進国でのみ安全になっている、という点も今村氏のお話から改めて認識した。優先順位としては世界中でのいわゆる「普通の分娩」の安全性を高めることが先なのではないだろうか?(中略)
 動物問題を考え続けている人間としては、出産によって死ぬ動物は非常に多いわけであり、そうしたタイプの生殖は自分の権利?欲?を放棄する行為でもあるのだ、とも改めて感じた。(30代男性)

・自由討論では、「自分の出自を知る権利」に関する意見が最も多かったことが印象に残った。よって、逆に、この点について専門家、学会に詰めて頂くことも必要かもしれない。(50代女性)

・よく考えられた内容、タイミング的にもよく、勉強になりました。「内容を右から左へ報道しない」ことをルールにするのであれば、スライド資料をハードコピーとして配布していただいてもよいのではと思いました。ぜいたくですか?(50代女性)

・質問者も回答者もかみあっていて素晴らしいと思いました。難しいテーマなので総論的議論になってしまいましたが、それは仕方ないですネ。法制化でだれが喜ぶのかがよく分かりませんでした。(60代男性)