タイプ
レポート
日付
2009/4/16

臓器移植法改正の最新動向

1.臓器移植改正法案を巡る現状


現在、国会では、以下に示す3つの法案(1)が、臓器移植法改正審議の対象となっている。



日本において、脳死者からの臓器提供は少なく、1997年10月から2009年3月まで81件(2)である。脳死提供者数は年間最大でも13名という状況である一方で、待機者は2009年3月31日現在、約12,400名(3)おり、国内での脳死者からの提供だけでは待機患者への移植の実施は非常に困難である。そのために海外に渡航し移植を試みる患者もいる。移植学会会員がいる医療機関へのアンケート調査では、2006年までに少なくとも522名が、米国、ドイツ、オーストラリア、中国、フィリピン、英国などで移植を受けている(4)ことが分かった。また、現行の臓器移植法では15歳未満の脳死者からの臓器摘出を認めていないため、小児受領希望者は国内での実施を望めない状況である。

このような中、2008年5月には、国際移植学会が「臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言」(5)を発表し、移植ツーリズムを回避するために、各国は自国民の移植ニーズに足る臓器のドナーを確保すべきであると述べた。さらに、WHOは指針改正により、移植臓器に世界共通の通し番号をつけ、臓器売買を避けようとしている。指針は2009年5月の世界大会での承認を目指している。

このような、臓器の自給自足を求められている状況において、特に、日本国内での提供が認められていない小児受領希望者(の家族)は、海外渡航移植ができなくなるという危機感を抱いていると思われる。


(1) A案:第一六四回衆第一四号「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案」議案提出者:中山太郎外五名
   B案:第一六四回衆第一五号「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案」議案提出者:石井啓一外一名
   C案:第一六八回衆第一八号「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案」議案提出者 金田誠一外二名
   (詳細は、衆議院ホームページの議案項目を参照)
(2)(社)日本臓器移植ネットワーク、「脳死での臓器提供」データより
(3)心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸の登録者数を合算。(社)日本臓器移植ネットワーク、現登録者数
(4)小林英司ほか「渡航移植者の実情と術後の状況に関する調査研究」平成17年度厚生労働科学研究補助金(特別研究事業)報告書
(5)「臓器と引きと移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言」、国際移植学会、2008年5月2日、イスタンブール(翻訳 日本移植学会アドホック翻訳委員会)


2.推進派の声

3本の臓器移植法改正案を巡って、移植提供の規制条件を緩和するよう求める集会(6)が都内で14日、開催された。集会では、小児移植の当事者として、移植のために渡航した直後に子どもを亡くしたご遺族や、現在国内で内科的治療を受けている子どものご家族が登檀し、A案の採択を訴えた。



家族1(患児両親が登壇)
拡張型心筋症の男児を、募金により米国に渡航できた直後に、1歳4ヶ月で亡くした。米国の医師には「なぜこんなに深刻な状態になってからしか来れないのか」と言われた。日本で看取りたかった。A案の採択を求めて、書名を集めたら2週間で3万8千人分が集まったので、国民の思いの現れだと思っている。命より大切な問題なんてない、一日も早い改正を望んでいる。米国でも提供者は不足しているが、移植を受けたいと思う権利だけでも平等にしてほしい。

家族2(患児母親が登壇)
拡張型心筋症の女児を、渡航移植のための募金活動の直前に、9ヶ月で亡くした。「日本ではどうすることもできない」という説明を受けた。自分のような思いをする親がいなくなるように、A案を一日も早く通してほしいと思っている。


また、集会には、およそ30名の国会議員が参加し、臓器移植法改正に対する意見を述べた。現在審議中である3本の臓器移植法改正案は採決の際は、12年前の現行法の先例にならって、党議拘束は外される見通しである。

集会で、A案に賛成の意を示した国会議員は、中山太郎(衆、自民)、木俣佳丈(参、自民)、伊藤達也(衆、自民)、河野太郎(衆、自民)、山内康一(衆、自民)、保岡興治(衆、自民)、塩崎恭久(衆、自民)、福田峰之(衆、自民)、冨岡勉(衆、自民)、大村秀章(衆、自民)、 古川俊治(参、自民)であった。

一方、A案には明確に触れなかった議員は、坂口力(衆、公明)、下田敦子(参、民主)、渡部恒三(衆、民主)武内則男(参、民主)大前繁雄(衆、自民)
土肥隆一(衆、民主)清水鴻一郎(衆、自民)三ッ林隆志(衆、自民)菅直人(衆、民主)谷公一(衆、自民)渡辺孝男(参、公明)細田博之(衆、自民)とかしきなおみ(衆、自民)蓮舫(参、民主)梅村聡(参、民主)北側一雄(衆、公明)であった。



(6)「臓器移植を進める会 日本人を日本人が救える国に! 臓器移植法の早期改正を」(主催:臓器移植患者団体連絡会、場所:憲政記念館講堂)


3.日本における脳死移植推進の様相について思うこと


筆者がこれまで調査を行ってきている体外受精などの生殖補助医療と比べると、移植医療は潜在的な当事者が格段に多い。また、生殖補助医療はある年齢以上の人やすでに子のいる人は当事者になりにくいが、移植は現在関係ない人も将来的に当事者になる可能性がある。このような事情も、国会議員が関心を持つ理由となっていると感じられた。

患者の命を救うためとの大義名分は、人の死を人為的に決めることへのためらいを凌駕したのだろうか。集会では、提供者および提供者遺族への配慮は、ほとんど感じられなかった。小児脳死者からも臓器提供を可能にするということは、幼くして子を亡くすという局面にいる遺族に、臓器の摘出を納得させることを意味する。本集会で発言していた患児の家族、特に患児を亡くした親は、今後同じ病気で移植を受けられずに子を亡くす親には共感できても、その共感は「子を亡くし、さらに、他の子を生かすために、自分の子の心臓(や、その他の臓器)を摘出される親」には及ばないようである。「子を亡くす」という点では同じであるので、これは奇異なことだと感じる。

また、A案では、提供者の年齢だけではなく、本人の同意という原則から家族の同意へという大きな変更を含む。現在、移植法改正議論は子どもの移植にフォーカスされているが、誰がいつ同意するのか、その同意で提供者をどのように保護するかの検討がもっと必要である。子どもの年齢と同意についても、小児の脳死者は、親の虐待による可能性もあるため、家族(親)の同意だけで提供を可能にするのは危険なことであるように思う。

ある議員は、「(自給自足できないことで)非常識な国だと思われないように」と発言した。それは、国内の必要性から国としての姿勢を決めるのではなく、外側からどう見られるかという理由で姿勢を決めるという、非常に日本的なメンタリティーであると感じた。

文責:小門穂(「生命倫理の土台づくり研究」メンバー)