タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2010/10/17

第1回 日中政策勉強会【議事録】

「2030 中国はどこに向かおうとしているのか(1)軍事・安全保障編」


「中国の軍事力と日中安全保障環境」

安田淳・慶応義塾大学法学部教授


概要

安田淳・慶応義塾大学法学部教授が「中国の軍事力と日中安全保障環境」をテーマに発表。発表は「中国軍の戦力」、「中国軍の海洋進出と軍事力行使」、「東シナ海の空域統制を目指す中国」の3つの論点からなされた。

その後アドバイザーである高原明生・東京大学法学部教授のコメントを交えながら、出席者の質疑応答に移った。出席者からは、尖閣諸島を巡る漁船問題で日本はどのような対応を取るのが適切だったかなどを問う質問が出され、活発な意見交換がなされた。


発表内容

 (1)中国軍の戦力:中国の軍事力の構造と問題点
 (2)中国の海洋進出と軍事力行使:海の問題を中国はどのように扱おうとしているのか
 (3)東シナ海の空域統制を目指す中国:民間航空と安全保障の接点について


(1)中国軍の戦力
軍事パレードでの核兵器紹介は、軍事力の透明性の表れでもある。中国の軍事力がどこまで透明になったらいいのか。日本は中国に透明性ばかりを追求するのではなく、その軍事力をどのように使うのか、そうした位置づけを分析し、対応するための戦略を考えなければならない。国防費の今後の増加も避けられない。

1)軍事パレードから見る中国軍の方向性
・2009年10月1日の中国建国60周年パレード。パレードの先頭を切って歩いた海軍陸戦隊、空挺兵、飛行学生は人民解放軍が最も重視している軍事力である。
・海軍戦力、戦闘機など海や空の問題ばかりに目を向けるのではなく、陸軍戦力に対する
注意も怠ってはならない。
・中国独自の軍事力として、予備兵役、女性民兵がいる。民兵が時代遅れではなく十分役立つものとして中国が認識していることの表れ。
・パレードでは、核兵器を明確に公開した。世界の核兵器保有国でここまで堂々と核兵器を国民や世界に対してアピールしている国は珍しい。
・中国の空軍は運用能力を含めて高い能力を獲得しつつある。
・中台関係が緊張緩和ムードになったといっても、台湾に対する武力行使は放棄していない。台湾への武力行使は中国の軍事シナリオの大部分を占めている。

2)2010年国防費
・2010年度の国防費は5321億1500万元(約6兆9000億円)であり、前年比実績比は7.5%増。去年の当初予算から見ると、実績でかなり増えている。その理由にウイグル自治区の暴動、ソマリア沖への派遣、軍事パレード等がある。しかし、この7.5%というのは、国際世論に対する説明のために意図的に抑えたのではないかと言われている。
・国防費の伸び率は一定ではないが、伸びていることは確か。今後もかなりのスピードで国防費を増やさなければ、あれだけの軍隊を維持することも発展させることも不可能である。また、情報化、ハイテク兵器、情報戦には巨額な資金が必要。これらを整備していくにも、国防費は今後も伸びていくことは間違いない。

3)人民解放軍の透明性
・重要なのは「何が透明である必要があるのか」ということ。兵器装備の性能についてはどこの国も軍事機密であり、また軍事組織についても公開する部分としない部分があるのは常識。全てを明らかにするはずがない。
・仮に中国が国防費を修正して発表した場合、われわれはそれを信じて良いのか。中国側から下駄を預けられた時に、われわれはどう中国の国防政策を批判していくのか。ここから言えることは、中国の国防費が透明でないことを批判するのではなく、中国が軍事力を使って何をしようとしているのか、それによって何を達成しようとしているのか、ということこそが重要なのである。
・中国は「2050年には中華民族の偉大なる復興を軍事力によって達成する」、「軍事力を使って中国は国益を増やし、世界に打って出る」などと明確にアピールしている。このような視点に立つと中国の軍事力の運用は極めて透明である。それを認識した上で、中国の国防費を批判する必要がある。

(2)中国の海洋進出と軍事力行使
●海洋調査、排他的経済水域での資源獲得、尖閣諸島、軍事力展開、というように海軍が勢力を持って出てきている。70年代にもこれらの問題は存在していたが、それまで個別だったものが現在、相互作用、相互関連し始めている。今後更にその傾向は強まる。
●海洋調査→周辺での海軍力展開→太平洋へという段階的進出。
●中国は、日中間の交流関係が良好な時期でも、海軍力を展開するなどの行動に出る。

1)日本政府の矛盾と問題
日本政府は、今までこれらの問題に積極的に関わってこなかった。例えば、中国の海洋調査に日本は抗議してきたが、「領海・排他的経済水域における外国の海洋調査についてのガイドライン」は海洋における科学的調査は自由でありオープンであると世界に理想的な姿勢を掲げた。中国から見れば、足並みが揃っていないと見なされるだろう。

2)中国政府の矛盾と問題
・中国はかつてアメリカやソ連の海洋調査に対し、覇権主義、スパイ行為と批判した。しかし、現在では同じ軌道を辿っている。
・70年代から90年代に東シナ海で「海洋調査」を実施し、90年代終わりから「海軍力」を展開し、その後太平洋に進出し始めたという流れがある。
・中国の海洋調査や艦艇行動が発見される時期について。同じタイミングまたは前後の時期に日中間で交流や対話など好ましいことが起きている傾向がある。

3)中国の海上権力論、海洋権益論、海上国家論
中国の海洋国家論等の書籍は大量に発行されており、そのほとんどいずれもが、1)中国の未来の生存権と持続可能な発展の維持のために、積極的かつ広範囲に海洋進出すべきである、2)中国は軍事力で海洋権益を確保すると述べている。中国はこの点を隠すことなく明示している。

4)中国の空母建造計画
空母建造は難しい点も多いが、国防費の伸び、中国の技術力を上手く応用すれば決して不可能ではない。

(3)東シナ海の空域統制を目指す中国
●中国は、東シナ海の空域統制を通じてその航空優勢を確立しようとしている。(空に対しても「主権」概念を持ち込もうとする)
●中国は空を軍事と民間に分けて考えるのではなく、一体のものとして安全保障上の考慮からこれを活用しようとしている。

1)日中間の新航空路線と運航障害
日中間の空の往来が盛んになっているが、必ずしも空の往来がスムーズに行っているとは限らない。空の世界は安全で定時に快適に飛ぶことが最大の使命であるため、主権にこだわらない管制システムが国際的に確立しているが、空域統制において日中間には問題があり、中国はここにおいても「主権」という概念を持ち出そうとしている。
 
2)回廊運用上の問題
日中間の航空路「アカラ―福江コリドー」に関しては、中韓間にも何らかの問題がある。回廊ができた1983年、中韓で国交が樹立されていなかったため、韓国とは無関係に中国と日本でここの管制が行われているが、両国の国交樹立後も管制についての合意は得られていない。東南アジアと韓国を結ぶ幹線ルートが交差しているにも関わらず、連携の取れた管制が行われていない。

3)日中の東シナ海エネルギー開発
「アカラ―福江コリドー」の代替航空路は日中のガス田共同開発海域にかかっていることから、いずれ中国はこの空域も自らのものにしたいと目論んでいるように思われる。ここを日本の管制を受けている民間航空機が飛んでいることは中国にとって厄介な問題となる。

4)航空管制への中国軍の関与
中国は軍事優先の航空管制や空域設定を行っている。メートル制をやめて航空の世界で一般的なフィート制を採用することに軍が反対したのもまた、その延長線上にある。また、中国国内では軍用の空域が民間航空に制約を与えている。

(4)終わりに―「慎重な防衛交流を」―
中国はそもそも「主権」の問題を強く意識して対外行動を進める国である。したがって、防衛交流は日中関係の重要な一部だが、その意味合いをよく考えて実施する必要がある。防衛交流や軍事交流とは、それによって相手の優れた点や弱点を冷静に観察し、翻って自らの施策や行動にそれを生かすという意味があるべきである。そういう意味で日中間の防衛交流は慎重かつシビアでなければならない。

質疑応答・議論

質疑応答では、1)今回の尖閣諸島の漁船事件が意図的なものだったのか否か、2)対処方法としてはどうあるべきだったか、3)中国は尖閣諸島問題をどうとらえているか、4)日中関係が良好な時に海洋調査がなされるという事例、5)中国における政府と軍の関係、6)中国の在日米軍への認識等の質問が相次ぎ、活発な議論が展開された。


作成:植村茜(学習院大学大学院政治学研究科