タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2010/11/8

第2回 日中政策勉強会【議事録】

「2030 日本と中国に介在する壁―中国世論と日中関係―」


高井潔司・北海道大学教授


概要

高井潔司・北海道大学教授が「中国世論と日中関係-中国のメディア環境の変化から―」をテーマに発表。発表内容は「中国のインターネットの現状」、「ネット管理の強化と成果」、「ネット民主主義」等の論点からなされた。反日デモが起きた背景を理解するためにも、中国世論の情報空間を理解する必要がある。

発表後の出席者の質疑応答では、中国政府は本当にネット世論をコントロールできているのか、反日デモは、政府によって操作・誘導されたものではないのか。など、活発な意見交換がなされた。

発表内容

 (1)中国メディアの発展状況:大衆メディアの出現と政府による厳しいメディア管理
 (2)インターネットの現状:インターネット利用者の特色(低年齢、低学歴、低収入)、内陸地域へのインターネットの浸透
 (3)インターネット民主主義の勃興:ネット論壇の興隆、新意見層の出現
 (4)いびつな情報空間:ネット情報の多様性のなさ、海外からの遮断
 (5)ネット管理の強化と成果:法律規制の強化(ネット世論調査報告書、人権白書)
 (6)ネット民主主義の現実:中国政府はインターネットの主導権を確保したか


(1)中国メディアの発展状況
中国が経済成長し始める90年代以前、中国におけるメディアは、政府の意向を伝える党の機関紙、国有テレビであった。経済成長後、消費社会を引っ張る大衆向けの新聞が出現し、メディア産業が発展。しかし、こうした大衆紙も、厳しい政府の管理下にある。現在は、伝統メディア(新聞・テレビ)に代わってインターネット・携帯電話等の新興メディアが力を持ってきたことで、政府の管理状況も変化しつつある。

1) 厳しいメディア管理
・都市では、大衆向けの新聞が発行されているが、実情は党委員会の下に置かれており、党機関紙と同一のグループ会社となっており、党機関紙が指導をしている。

2) 内容統制
・政治、外交および社会的影響力の大きい突発事件は自由に報じられず、突発事件の際には必ず新華社の記事を使わなければならないという規則が存在。

3) 新興メディアの普及
・インターネットや携帯などの新興メディアの普及は90年代、民間から始まった。比較的管理が弱く大衆にも発信が可能。

(2)インターネットの現状
現在中国でインターネットはおよそ国民の3割にまで浸透している。利用者の特徴として低年齢・低学歴・低収入が挙げられる。農村部での普及も進んでいるが、いわゆるインターネットバーでの利用が3割から4割とパソコンの個人所有普及率は日本に比べて高くない。

1) インターネット利用者
・4億2000万人、普及率31.8%。
・30歳で60%を占めており、中学卒業、千元以下の収入の比率が多い。3、4割はインターネットバーを利用。

2) 内陸地域への浸透
・2005年の反日デモは上海など沿海部で目立ったが、今回の反日デモは内陸部に集中。これは中央当局による都市部での厳戒態勢の他、インターネットの内陸部への普及が背景にある。

(3)インターネット民主主義の勃興
インターネットからの情報は従来のメディアとは異なり自ら情報を取捨選択するため、関心が分散化する。一方で問題が炎上すると、その問題へのアクセスが急増し、直接行動に発展する場合がある。

1) ネットの書き込み、ネット論壇、ブログでの論議
・ニュースサイトには書き込み蘭が設けられており、記事に書き込みをさせることでアクセス数増を狙う。ネット論壇(110万か所、約1億人が参加)、ブログでの論議も盛ん。

2) 平等化
・個人のブログで新しい層のオピニオンリーダーが出現。
・ネットで政治を問う、ネットで政治の責任を問う、という意味の「網絡問政・網絡問責」が流行語になる程政治問題は、ネット上で盛んに議論されている。
・民意を反映するインターネット民主主義・インターネット世論が芽生えたことを示す。

(4)いびつな情報空間
民間サイトに掲載されている情報は転載されたものでサイトは取材権を持っていない。中国では取材するには政府発行の記者認可証が必要なため、自由に取材をした結果の情報がサイトに掲載されることはないため、ネット上での情報流通がどんなに多くとも、民主主義とは呼べない。

1) 情報公開の制限
・ニュースサイトが発信している量は多いが多様性は見られない。
・海外の情報は遮断されている。反中でなくとも、「天安門事件」といった語句だけで遮断されるフィルターが導入されている。

(5)ネットの管理その強化と成果
故錦濤は2008年に人民日報社、人民網編集部を訪問し、ネット世論の形成に対して、主導権を握ることを指示した。世論の誘導と国際社会において、中国の影響力を高めることを意図している。インターネットは新たなチャンス(先進文化の普及に有利・世界に向けて中国の声を発信する等)を生みだした一方で課題(伝統メディアの周辺化・容易なネット暴力等)も生まれた。インターネットの管理が大きな課題になっているが、中国はネット管理に自信を滲ませていると観測できる。


・ネットを規制する法案や規制が60余あることから、違法集会や反日デモなどの情報を削除することは法律で可能となっている。
・インターネットバーの取り締まり。営業者には、名前公開ということによる管理。

2) 管理の主体
・情報産業省から中央宣伝部、国家新聞出版総署へと変遷。メディア全体を新聞出版総署が管理。ネットを監視しているネット警察官は数万いると言われている。また民間企業によるネット管理産業が盛ん。

3) ネット管理の成果
・2009年インターネット世論調査報告書。
 1)ネット上の政府と民間の関係は良好、2)主流媒体が積極的に世論を誘導、3)非理性的な感情的なネット上の行動をどう抑制、誘導するかが重要
・2010年人権白書の内容。
 1)323万か所のウェブサイト、ネットユーザーは100万か所を超えるネット論壇の存在、300万本を超える言論の発表。
 2)中国の政治的権利は大幅に改善されているとして、ネット上の民主主義を持ち上げ。

(6)ネット民主主義の現実
1) 政府はコントロール可能・ネット上で地政府の幹部不正は暴かれるが、中央政府の指導者はなかなか暴かれない構造となっている。
・管理が行われているにも関わらず反日デモが起きたのは、政府が暗黙の了解すなわち、動員を与えている。横断幕を赤と緑に分けていて、赤は黙認ということからも、官製デモの様相を呈している。
・民主党の対中政策が明確でないためネット上、また地方で起きているデモを黙認し、日本に対する圧力に利用している可能性がある。

2) インターネットでの民主主義は実現したか・知識人がブログ、ツイッターで意見表明できるといっても、あくまでも政府が管理した中で動いている。
・過去に比べれば格段に民衆が意見を言うケースはあるが、一定の枠に収めながら誘導していこうというのが中国政府の立場。

質疑応答・議論

質疑応答では、1) ネット管理を行っている企業は完全に民間委託なのか、政府の関与はどうなっているのか、2) インターネット世論はどの程度、政府に影響力を持っているのか、3) 中国政府はどの程度インターネット世論をコントロールできるのか、4) 中国が大国であることを国際社会に示したい一方で、国内で相次ぐデモをどう対処しているのか、5) 反日デモから一党独裁を敷く中国政府への不満に向かうことはあるのか、6) 今回の反日デモは中国政府に操作されて起きたものなのか、等を中心に活発な意見交換がなされた。


作成:植村茜(学習院大学大学院政治学研究科)