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第5回 日中政策勉強会【議事録】

February 8, 2011

「2011年の中国経済―景気動向と市場環境の変化―」

柯隆・富士通総研経済研究所 主席研究員

概要

日本を抜いてGDP世界第2位となった中国。経済成長が著しい一方で、所得格差や失業問題、食糧品の値上がり等の問題が噴出している。実際の中国経済はどのようなものか、経済エコノミストである富士通総研の柯隆氏から2011年の中国経済についてその景気動向と市場環境について発表がなされた。報告の最後には、今後日本企業がいかにしてグローバル市場を勝ち抜くのかという問題に対し、具体的な政策提言が示された。

発表内容

(1) 短期的な課題と長期的なビジョン
(2) 製造業からサービス業への構造転換
(3) インフレの再燃
(4) 金融政策の転向
(5) 中央政府と地方政府の投資プロジェクト
(6) 中国バブルのメカニズム
(7) 主要都市における不動産バブルの崩壊
(8) 人民元の為替調整
(9) 「民工荒」と労働市場のミスマッチ
(10)最低賃金
(11)「来料加工」モデルの終焉
(12)日系企業の経営者がビジョンを語る必要性

 

)短期的な課題と長期的なビジョン

・現在の中国経済をどのように捉えるのか。
●短期的な課題
1)不動産バブルとインフレ懸念。
2)不安定な輸出市場と株式市況の低迷。
3)賃上げストライキと元切り上げ圧力。
→政策面のジレンマが発生
→3月の全人代までにこれらを対処する政策を提示する必要性
●長期的なビジョンと課題
1)続く高成長と政策基盤の未整備:市場経済型の市場を実行するだけの基盤はまだ整っていない。
2)格差拡大と所得分配機能低下
3)人件費上昇と雇用の圧力。
→制度改革の必要性が発生。

(2)製造業からサービス業への構造転換

・中国で新たに発展していく産業は、サービス産業である。
・成長を牽引していた工業は徐々に縮小し、現在は製造業がメインになっている。
それを、サービス業へ構造転換していく必要がある。
・サービス業へ転換することで経済成長を維持するための雇用の吸収が可能になる。
・そのためには、金融・情報・物流における規制緩和が必要。

(3)インフレの再燃

・一般家庭のエンゲル係数は、30%程度だが、所得の低い層は50%程度となっており、止まらぬ食料品価格の上昇によって、打撃を受けるのは低所得層である。
・このまま食料品価格が10%ずつ伸びていくと、低所得層は6カ月もすれば耐えられないだろう。

(4)金融政策の転向

・金融政策について多少の変化はあるものの大きい変化は見られない。
・預金準備率を上げてもあまり意味はなく、国営企業と国有企業を民営化し、市場経済型の金融政策をとる必要がある。

(5)中央政府と地方政府の投資プロジェクト

・地方政府プロジェクトが2009年以降、中央政府プロジェクトを上回った。
・中央政府は過熱気味の地方政府プロジェクトを抑制したいが、地方はなかなか応じず、地方が成長率を上げようとし、開発を進めている。

(6)中国バブルのメカニズム

・国有企業本体が、財テクができないため、関連する財務公司が財テクを行っている。
・財務公司とはファイナンスカンパニーであり、その設立目的は、国有企業グループの中で資金の過不足を調節するためのノンバンク金融機関である。

(7)主要都市における不動産バブルの拡大

・ここ数カ月、不動産価格指数の伸び率は落ち着きを見せているが、平均毎月8~10%
上昇している。
・不均衡な需要と供給のバランスによって、不動産価格が下降しない。
・その背景には、地方政府とディベロッパーが手を結びディベロッパーが供給量を抑えることによって、価格を上昇させる仕組みを作っていることによる。

(8)人民元の為替調整

・中国が人民元の大胆な切り上げ等の金利政策をできない理由は、為替制度に問題があるためである。中国において、日々の取引の中値は市場メカニズムによって決められるのではなく、中央銀行が恣意的に設定できる制度であり、人民元の切り上げ問題は、外国からの圧力等ではなく、中国の制度改革の問題である。
・中国が最終的に目指すものは、カレンシーボードのペッグだが、そのためには1. 金融制度改革の遅れ 2. 産業構造高度化の遅れ 3. 金利自由化の遅れ 4. 輸出依存体質の温存、これら4つを克服しなければならない。

(9)「民工荒」と労働市場のミスマッチ

・民工荒とは、出稼ぎ労働者の不足を指す。
・労働力が足りていない一方、失業者も多くいる。リーマンショック以降、企業の倒産が相次ぎ、賃金が一時期下がったため、失業者が増え、低賃金で募集をかけても労働者が集まらないためミスマッチが生じている。
・雇用吸収の受け皿としてサービス産業にシフトしていく必要性がますます高まっている。

(10)最低賃金

・上海、北京、広州、深セン、東がんの最低賃金は上昇傾向にある。
・人権費を抑制するために海外(ベトナム、ガンボジア等)に出て行ってしまうかというとそうではない。上記の国々はマーケットが小さく、また物流システムが整備されていないため、結果的に物流コストでお金がかかってしまう。
・製造業では、機械化によって労働力を削減している。

(11)「来料加工」モデルの終焉

・来料加工は、原材料を外から取り入れ、中国で加工し、完成品を輸出する契約をすれば、関税が免除される制度で、これまで広東地方で多く実施されてきた。中国の工場は法人ではないため、これまでは法人税がかからなかったが、中央・地方政府が徴税のため、法人化を要求している。
・日系企業はこの制度が終了するのに対して、2、3年の猶予を求め認められている。

(12)日本企業の経営者がビジョンを語る必要性

・中国、韓国、日本企業が競争をするとき、コスト削減がメインになるが、そのスタイルを日本企業は改める必要がある。
・コスト削減することによって、品質の低下は避けられない。増える早期故障から、「日本製品は壊れない」という神話が崩れてきている。
・メーカーの保証期間を長期化することによって、中国や韓国の企業との差別化が可能となる。
・経営者はコスト削減よりも、中長期的なビジョンを持つべきである。

質疑応答

質疑応答では、経済の伸びはいつまで続くのか、為替、株、不動産の問題等を中心になされた。その主な内容は以下の通り。

1)食糧品の値上がり、インフレの上昇はいつまで続くのか。政府は効果的対処が可能か。
2)中国の経済の強さはいつまで続くのか。
3)中国が日本の失敗から学ぶことは何か。中国はプラザ合意をどう認識しているのか。為替問題にどう対応していくべきなのか。
4)中国株の売買について。株よりも不動産に投資が回るのはなぜか。


作成:植村茜(学習院大学大学院政治学研究科)

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