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第6回日中政策勉強会【議事録】

April 15, 2011

「中国の政治改革の現状と今後」

高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

概要

リーマンショック後、一部の中国人は、経済危機への迅速な対応ができない民主主義国に対して、自らの社会体制の方がより効果的に経済危機を乗り越えているとの自信を見せていた。しかし中東のジャスミン革命は、やがては政治を改革せざるを得ないことを中国人に思い出させるきっかけになったのではないか。中国の政治体制の現状はどうなっていて、今後どのような方向に向かうのか。今年度の総まとめとなる第6回は、「中国の政治改革の現状と今後」について、勉強会アドバイザーの高原明生・東京大学教授から発表が行われた。発表は中国の政治改革を巡る近年の状況に焦点に置かれ、新・日中共同声明(08年5月)や胡錦濤の訪米時の声明から見る中国の認識の変化、党内民主や基層における選挙普及などから見る中国の今後の政治改革への展望が示された。

発表内容

(1)『危険な幻想』(ジェームス・マン著)から読み解く今後の中国
(2)政治改革をめぐる近年の状況と今後の展望
2-1 近年の状況
2-2 政治改革の方向性
2-3 共産党の平和(パックス・コミュニスタ)は暫く継続
(3)日本外交への示唆


(1)『危険な幻想』(ジェームス・マン著)から読み解く今後の中国
※ジェームス・マン:ロサンゼルスタイムの記者で、米中関係の優れたルポを出版。『危険な幻想』では今後の中国並びに国際関係について以下の問題提起をしている。

・中国での政治弾圧は続く
経済発展が民主化を導くという考えは幻想である。貧しい内陸部を抱え、中産階級は少数派で、現状維持を求める。

・中国は国際社会で影響力を一層強める
アメリカの国際秩序に統合されるのではなく、中国中心の国際秩序が徐々にできてくる。

(2)政治改革をめぐる近年の状況と今後の展望
2-1 近年の状況
・政治統制の強化(政治改革が進められる気配は全くなかった)。
ネット言論への警戒。党は09年に「インターネットの低俗な風紀を正す特別行動」と称し、ブログを閉鎖、劉暁波などの民主人士の迫害も継続。

・普遍的価値の提唱とそれへの批判
◎温家宝論文(07年):
「人権は人類が共同に追求する価値観であり共同に創造した文明的成果」
◎新・日中共同声明(福田・胡錦濤08年5月):
「国際社会が共に認める基本的かつ普遍的価値の一層の理解と追求のために緊密に協力する」

◎陳奎元中国社会科学院院長ら
「『普遍的価値』は中国の否定」

◎「零八憲章」(08年12月10日)を受け、胡錦濤は、「西側の政治制度は採用しない」方針を強調。

◎胡錦濤訪米(11年1月)オバマ大統領との会見「人権の普遍性を承認、尊重」

2-2 政治改革の方向性
・基層における選挙の普及「ボトムアップ」へ?
農村幹部のアカウンタビリティを保証するため農村では民主選挙が導入。
郷鎮長、県長、市長、省長、中央の選挙と拡大していくのか?

長期的には、個人所得が増加し、国が所得税を取ることにより、高まる納税者意識によって、民主化への移行が予測される。しかし、問題(コスト・時間)が大きい。

・高層における派閥政治の制度化「トップダウン」へ?
胡錦濤は「民主推薦」について党内民主を進める重要な制度と認識。
※ここでいう民主推薦とは、新規政治局委員の人気投票制度

2-3 共産党の平和(パックス・コミュニスタ)は暫く継続
・国民の要求は安定、法治、社会正義(政治参加ではない)
改革がいきなり浸透するわけではないし、国民も当面は安定を望んでいる。しかし、
改革が進まないことによる国民の不満は高まる一方で、事実、調査によると経済成長は著しいが、政府に対する不満は高まっているとの結果が出ている。

・可能性:経済界との協調
過去に趙紫陽は、社会で多元化した利益を組織化した利益集団と共産党との協議対話
制度を樹立させることで、利益調整を図ることを考えた(コーポラティズム的方法)。
しかし、これは、共産党の権力を相対化させるものとして趙紫陽失脚の原因となった。

11年2月19日胡錦濤演説:趙紫陽路線を彷彿させるもので、「利益調整メカニズム、訴求表出メカニズム、矛盾調整メカニズム、権益保証メカニズムの形成」を指示。これらの概念がどの様に具体化されていくのかが、今後のポイントになる。

(3)日本外交への示唆
・対中ODAの維持
(ドイツやイギリスなどの諸外国がODAをやめていく中で、日本だけは例え額が少なくともやり続けることに意義がある。)
・中国の覇権主義的な振る舞いを抑え、すべての国が対等なパートナーとして協力し合うことを、東アジア地域に定着させる。
(例:インドネシアという大国を対等なパートナーとして位置づけたASEAN)
・中国内に存在する、改革派、穏健派、国際派を応援していく必要がある。

質疑応答

以下を主な内容として、質疑応答・議論がなされた。

1)国の政治体制が変わるとはどういうことなのか。
2)共産党独裁が揺らぐことはあるのか。
3)温家宝、胡錦濤、習近平の政治指導者の政治認識について。
4)胡錦濤の10年はどのように評価されるのか。内外から見て変化した部分はあるのか。
5)ASEANのような枠組みを東アジアにも構築していくために、日本が中国に働きかけるにはどのような方法が必要か。
6)中国の一般大衆の政治意識について。

作成:植村茜(学習院大学大学院政治学研究科)

    • 高原 明生/Akio Takahara
    • 元東京財団政策研究所上席研究員
    • 高原 明生
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