タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/2/19

【Views on China】新しいビジネスアライアンスの可能性 ~日台企業の新潮流(2)~

多摩大学准教授
バートル

4.新しい日台ビジネスアライアンスの可能性


4.1 日台ビジネスアライアンスの歩み


日本企業は、これまでも台湾企業との間で時代やニーズに合わせ、様々な形でのビジネスアライアンスを行ってきた。1960年代後半~1970 年代においては対外輸出基地として台湾を活用し、その後1980年代から1990年代前半までは第三国での日台企業協力を推進し、1990 年代後半から2000 年代前半にかけては相互補完の協力関係を強化するような形で、ビジネス展開を行ってきた。
 
日本の貿易構造は、1990年代より米国一辺倒からアジア、中華圏、中国へと大きくシフトしている。日本の輸出に占める割合は、米国が1990年の32%から2012年は17.6%へ縮小しているのに対し、アジアは31%から54.7%へ拡大し、中でも中国は2%から18.1%、大中華圏は16%から31.9%へと大きく伸びている(図7)。


一方、日本の輸入に占める割合を見ても、米国が1990年の22%から2012年の8.6%へ大きく低下しているのに対し、アジアは29%から44.3%へ、中国は5%から21.3%へ、大中華圏は11%から25.2%へ拡大している。(図8)。 


今日、日本を取り巻く国際経済環境は、中台経済の一体化、更には大中華経済圏の確立という新たな局面を迎えている。日本企業は、世界経済の牽引役として、「世界の工場」に留まらず「世界の市場」としても注目されている中国大陸で、確固たる地位を確立している台湾企業との新たなビジネスアライアンスを模索する必要があろう。
 
台湾を中国大陸市場へのゲートウェイとして位置づけ、中台間の自由貿易協定であるECFAを活用し、中国への進出に留まらず、香港やシンガポールまで含めた地域を一体の大中華経済圏として捉える必要があろう。

4.2 日台企業の相互補完関係の構築と新しいビジネスアライアンス


日本企業は、台湾を介した中国市場の開拓ルートを切り開く際に台湾企業との連携が重要である。上述したように、中台経済の一体化と自由貿易圏の形成を柱としたECFAが締結されたこと、日台企業は補完関係が成立すること、台湾政府が日台ビジネスアライアンスを積極的に推進していること、そして何よりも台湾には日本人に親しみを感じている人が多いことなどがビジネスを進めていく上でプラスの効果をもたらすと考えられる。交流協会が2010年に実施した「台湾における対日世論調査」によると、「最も好きな国・地域」が「日本」との回答率は52%でトップになっており、台湾人の対日感情は良好である。
 
中国市場において、日台ビジネスアライアンスを実際に展開する際には、日台企業双方の優位性を発揮し相互補完関係を構築することが大前提となる。
 
台湾企業の優位性としては、 ①グローバルバリューチェーンの構築力 、②日本との高い親和性 、③人的ネットワークと交渉力 (中国の地方政府とのパイプ)、④一定の技術力とスピーディかつ安価な大量生産体制、 ⑤現地ニーズに合わせた製品やサービスのカスタマイズ力 、⑥中国における豊富な事業展開実績(中国全土への広範なネットワーク)、⑦政治や社会変化への柔軟性、⑧大半は同一民族(共通の言語、文化、習慣)などが挙げられる。
 
一方、日本企業の優位性としては、①技術研究開発力、②品質管理力、③グローバルブランド力、④世界的信頼性の高さ、⑤組織管理力および工程管理力、内部統制制度などが挙げられる。
 
図9で示したように、日台ビジネスアライアンスの成功のカギを握るのは、製品の研究開発から調達、生産、マーケティング、流通、販売、アフターサービスに至る過程における、相互の優位性を発揮した役割分担である。具体的に言えば、①台湾からの部材や部品の調達、②台湾市場でのテストマーケティング、③日本からの製品の提供や技術の移転、そして④台湾の海外展開ネットワークを活用した中国やアジアにおける国際分業体制の構築、すなわち中国やアジア新興市場へとつながるバリューチェーンの整備などが有効であろう。


(出所)筆者作成
 
これまで、台湾向けの製品やサービスを提供してきた日本企業は、台湾での事業活動で得たノウハウやパートナー、人材を活用し、中台経済の一体化に伴い、ECFAの産業協力や中台の産業架け橋プロジェクトの枠組みに入り込むなどすれば、中華圏での事業展開を加速できると考えられる。また、台湾企業との共同開発や現地企業への生産委託を通じて、グローバル市場向け製品の部品等の調達を台湾から行っている日本企業は、ECFAを利用してそれらを最終組み立て地である中国へ輸出することで、最終製品の価格競争力を向上させることが期待できる。更には、台湾に企業顧客を持つ日本企業は、ECFAを追い風とし、台湾を輸出および開発の拠点として活用するビジネス戦略も有効と考えられる。
 
日本の中小企業の中には既に海外展開を行っている企業もあるが、経営資源が限られた多くの中小企業にとっては、未知の国や地域への進出は高いリスクが伴うことから、海外展開は進んで来なかった。近年、中台関係の改善が進展する中、こうした中小企業が中国など新興市場で新たな事業展開を図っていく上で、日本と台湾の企業がアライアンスを組んで、お互いの強みを活かし、弱みを補完し合って関係を構築していくことは、中小企業の海外展開にとって極めて有効な選択肢の一つであろう。
 
当然ながら、日本企業が実際にアライアンスを検討する際には、業種や企業戦略を踏まえて過去の事例を参考にしながら、企業自らアライアンスのシナリオを描くことが重要であろう。台湾のパートナー企業との信頼関係や双方の強みを活かした補完関係の構築の可能性、更には実務からトップレベルまで共通のビジョンを持てるかどうかも、ビジネスアライアンスを構築する上で欠かせないであろう。

 

5.おわりに


2012年1月の台湾の総統選で、国民党公認の馬英九・呉敦義ペアが野党候補を退けて当選した。馬英九総統は2期目4年間の施政方針演説で、中台関係について「統一せず、独立せず、武力を行使せず」の三つのノーの理念による現状維持を引き続き対中政策の原則とする方針を強調する一方、ECFA関連の関税引き下げ品目の拡大など具体化の協議を早急に進めるとし、経済を軸とした融和姿勢の継続を表明した。
 
一方、中国は2012年11月に開催された中国共産党第18回党大会において、台湾との関係について「両岸の和平に向けて協議を始めよう(胡錦濤前総書記の党大会での活動報告)」と台湾側に呼びかけると共に、2010年に締結した中台のECFAに関し、「物品」「サービス」などの4分野で関税撤廃や規制緩和に関する協議を2013年中に完了させることを目指す意向を示しており(陳徳銘商務相の記者会見)、引き続き台湾との経済関係を拡大する方針である。
 
2012年は、尖閣諸島(中国名:釣魚島、台湾名:釣魚台列島)の領有権をめぐって日中台間で緊張が高まった一年となった。同年8月、馬英九総統は尖閣諸島を含む東シナ海地域の持続的平和と安定、経済の発展と繁栄、海洋生態系の永続的な保護、関係国の共存共栄を促進させるための「東シナ海平和イニシアチブ」を提起した。対立をエスカレートせず、平和的手段で論争を処理し、関係国間でコンセンサスを得たうえで「東シナ海行動基準」を定め、東シナ海の資源を共同開発するためのメカニズムを構築することを呼びかけた。
 
日本については、馬英九総統は、尖閣諸島の領有権問題で中国大陸と連携せず、日台関係の悪化を望まないことを表明すると共に、台湾と日本との「特別なパートナー関係」の維持、継続を唱えている。こうした中で2013年4月10日に日台漁業協定が締結され、5月10日より発効した。同年11月5日、台湾と日本の窓口機関は、日台間の電子商取引、特許、薬事、鉄道、海上救難の5分野における協力・交流の強化に関する協議書および覚書に調印し更に、同年11月28日、金融当局による情報交換などで金融システムの健全性確保を目指す「金融監督分野における総合協力のための了解覚書」も調印された。
 
こうした動きは、日台関係の更なる発展を促すものであり、今後における日本企業と台湾企業の連携が、民間レベルでの良好な日台関係の維持、継続、ひいては地域の政治や外交関係の安定化に寄与する可能性は大いにあると思われる。
 
今、経済のグローバル化が拡大する中、中国を始めとするアジアの新興国は急速な成長を遂げ、世界経済の牽引役を担っている。日本企業は、このような時代の流れを的確に汲み取り、これまで構築してきた台湾企業とのビジネスアライアンスの経験やノウハウを活かし、新たなビジネスアライアンスの可能性を模索しながらアジア新興国市場の開拓に向けて取り組むことが不可欠であり、かつ有効であると考えられる。

参考文献

伊藤信悟「ポストECFA時代の台湾の戦略的価値~日本企業の視点から~」、みずほ総合研究所調査本部アジア調査部、2011年8月1日、講演会資料。
岸田英明「台湾を活用した大中華圏におけるBtoCビジネス展開」、野村総合研究所『NRI Knowledge Insight』2010年7月号.Vol:11
金堅敏「中国市場開拓における日台企業アライアンスの役割を再認識せよ」、富士通総研『オピニオン』、2009年11月。
http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/opinion/200911/2009-11-4.html
財団法人交流協会「日台ビジネスアライアンスの成功事例~日台アライアンスによる中小企業のグローバル戦略~」、2011年3月。
http://www.koryu.or.jp/ez3_contents.nsf/04/D77D56B40F8B22EC492578D400314036/$FILE/2011.03nittaiBA.pdf 財団法人交流協会「日台関係」、『台湾情報』2012年5月。
http://www.koryu.or.jp/ez3_contents.nsf/12/F3CE8A140E14BA4649257737002B2217?OpenDocument 財団法人交流協会「台湾内政、日台関係をめぐる動向(2012年7月中旬―9月上旬)立法院臨時会の開催、尖閣諸島をめぐる問題」、財団法人交流協会『交流』(2012年9月、No.858) 台湾経済部投資業務処・野村総合研究所台北支店「2011年度日台ビジネスアライアンス報告書」、2012年9月。
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http://www.jetro.go.jp/world/japan/reports/07000280
日本貿易振興機構(ジェトロ)「日台ビジネス・アライアンス・セミナ~グローバルビジネスにおける新たな連携のかたちを探る~」、JETRO、2012年。
http://www.jetro.go.jp/biznews/4f28a4749df58
野村総合研究所「ECFA(両岸経済協力枠組み取り決め)の影響と展望~ポストECFA時代の日台ビジネスアライアンスの可能性~」、2012年7月。
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