タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/12/26

【Views on China】日中関係の現状と課題 ―最近の動向を手がかりとして―


愛知県立大学外国語学部中国学科准教授
鈴木 隆


  1.はじめに
    2012年9月の尖閣諸島の国有化以来、長期の対立状況に陥った日中関係は、2014年11月の日中首脳会談により、ようやくひと段落を迎えた。本年4月以降、尖閣周辺の海空域では、これまでどおり、軍事的な緊張状態が続いていた(5月と6月には、中国軍機による自衛隊機への異常接近事件が発生した)。
    しかし同時に、日中両国の間では、関係改善に向けた雰囲気づくりが着実に進んでいた。14年5月には日中友好議員連盟と自民党の各代表団が訪中し、張徳江(全人代常務委員長)や兪正声(全国政協主席)らの最高指導層と面会を果たした。6月には新日中友好21世紀委員会が日本の長崎市で中国代表団と協議し、9月の国連総会では、日中両外相が意見交換を行った。同じく9月には、約2年4カ月ぶりに、第2回目となる日中高級事務レベル海洋協議が中国の青島市で開催された。こうした努力の積み重ねのうえに、安倍総理と習近平国家主席による日中首脳会談が、およそ2年半ぶりに実現した。
    以下では、11月の首脳会談を中心とする日中関係の短期的な動きと中長期的な課題のそれぞれについて、若干の評価と展望を行う。
 
2.日中首脳会談(201411月)
    今回の首脳会談の最大の意義は、尖閣と歴史の問題で膠着状態に陥っていた日中関係を、ふたたび前に進め、さらに深めていくことを、双方の首脳があらためて確認したことにある。そのために「外交芸術」と評されるほどの戦略的曖昧性に富んだ合意文書が、事前に発表された。同文書では、(a) 日中の「戦略的互恵関係」の再確認、(b) 歴史問題(首相の靖国神社参拝)への対応、(c) 尖閣と東シナ海をめぐる危機管理、(d) 多様多層の交流と信頼醸成の促進、の4つが確認された。
    とくに、(b)と(c)に関して、一般論としていえば、問題の重要性と緊急性に鑑み、日本側は、後者では妥協の余地がない分、前者を管理する方向で調整したものと思われる。(c)については、危機管理メカニズムの構築を通じて「不測の事態の発生を回避する」ことが明記された点も大きい。ただし、この合意文書の成果はやはり、(d)の「様々な多国間、二国間のチャンネルを活用して、政治、外交、安保対話を徐々に再開し、政治的相互信頼関係の構築に努める」ことを表明した点にある[1]
    11月10日の会談当日の首脳同士のやりとりの中でも、戦略的互恵関係に基づく日中関係の発展、防衛当局間での海上連絡メカニズムの早期運用などの安保協力の推進、広範囲の関係改善など、上記文書に沿った提案がなされた[2]。他方、中国の指導者の政治思想や政治行動の様式に関心を持っている筆者が、より注目するのは、安倍総理が述べた次の2つの言葉である。これらは習近平国家主席にとって、中国外交としてのメリットだけでなく、困難な国内改革に取り組んでいる個人としても、共感を呼ぶ発言であったと思われる。


①習主席は、就任以来、国内の経済改革等に大胆に取り組み、力強いリーダーシップを発揮しておられる。私も日本の経済と社会に活力を取り戻すことに尽力している。
②中国の平和的発展は国際社会と日本にとって好機であり、その好機を活かし、世界第2、第3の経済大国として協力しつつ、地域と国際社会の平和と繁栄に向けた両国の責任を共に果たしていきたい。


    安倍と習の両人に面識のある宮本雄二氏(元・駐中国日本大使)は、「彼らが互いの胸の内を率直に語り合えば、意外に気が合うのではないか」との趣旨の発言をしている[3]。筆者も、コミュニケーションの方法次第では、両指導者間での個人レベルの信頼構築は、意外にスムーズに進むのではないかと思っている。しかし、そうした個人的な信頼感情が成立したとしても、後述のように、日中関係に横たわる構造的な問題を解決できるかどうかは、やはり別問題である。
    その他、筆者が意見や感想を聞くことのできた複数の日中の有識者も、今回の会談には、おおむね肯定的な評価を述べていた。ただし中国側の中には、首脳会談をきっかけとして、2013年以来、とくに今年に入って大きく減っている日本の対中投資の回復、拡大への期待が、比較的に強いように見受けられる(2014年1~10月期の日本の対中投資は、前年同期比で42.9%減[4])。しかし、実際にそうなるかは不透明である。もともと、政治的制約の強い中国企業とは異なり、日本企業は、経済的合理性に基づいて経営判断を行っている。人件費の高騰やバブル崩壊などの経済リスクがある中、少なくとも日本の製造業にとっては、かつてほど中国が魅力ある投資先でなくなりつつあるのが現実であろう。
 
3.中長期的課題としての国民的理解と国際秩序形成
    皮肉なことに、今回の首脳会談によって明らかになったのは、1972年の日中国交正常化から40年以上の月日が経つにもかかわらず、日中の政治指導者が、政治だけなく、経済、文化、社会の各方面の関係再開を、わざわざ口に出して言わなければならないほど、日中関係は脆弱であり、その安定的な運営のためには、細心の注意と多くの手間がかかるということだ。首脳会談が実現したからといって、対立の直接の原因である歴史問題や尖閣問題が、解消されたわけではない。白黒つけるのが難しい懸案事項を、パンドラの箱にもういちど入れ直す努力をしようということに、両首脳が同意しただけの話である。これらの問題について、日中双方に自制的な態度が求められることはいうまでもない。
    実際、首脳会談の有無にかかわらず、中国による、尖閣の周辺海域を含む東シナ海や南シナ海などでの積極的な海洋進出や軍事力強化は、これまでどおり続くであろう。同時に、こうした中国側の動きに対して、日本側は今後も、海上保安庁や自衛隊を中心に、長期にわたって辛抱強く対応していくであろう。これが日本の自制的態度である。対立原因の根本的解消や相手方の安易な妥協が十分に期待できない以上、双方は、当面の間(1~2年かもしれないし、20~30年かもしれない)、危機管理に努めるべきであり、それでよしとしなければならない。
    また、こうした政府間レベルの話とは別に、より重要な問題として、日中の両国民が相手国をどう認識し、各々が想定する国際秩序とパワーバランスの中でいかに位置づけるかということが挙げられる。外交スローガンとしてはともかく、双方の国民はともに、日中の「戦略的互恵関係」の中身やそこでの相手国の役割を具体的にイメージできていない。この結果、近年では、両国の国民感情は悪化の一途をたどっている。最近発表された世論調査では、次のような結果が得られた[5]


 【言論NPOと中国日報社による「2014年日中共同世論調査」の部分抜粋】

①  日中両国ともに、相手国に対して「良くない印象」を持っている者が、約9割に達する。
②  しかし同時に、日中双方で、約7割の人が「日中関係が重要」と認識し、同じく7割以上の者が日中の国民感情の悪化を心配し、改善する必要があると考えている(「望ましくない状況であり、心配している」「この状況は問題であり、改善する必要がある」の2つの回答を合計したもの、日本側79.4%、中国側70.4%)。
③  相手国の印象について、「良くない」「どちらかといえば良くない」と答えた人は、日本側が、前年比2.9ポイント増の計93%で、過去最悪の数字。
      中国側は計86.8%で、過去最悪だった前年から6ポイント改善した。
④  相手国の良くない印象の理由について、日中の上位3つは、以下のとおり。
(日本) 国際的なルールと異なる行動をするから(55.1%)
            資源やエネルギー、食糧確保などの行動が自己中心的にみえるから(52.8%)
            歴史問題などで日本を批判するから(52.2%)
(中国) 日本が魚釣島を「国有化」し、対立を引き起こしたから(64.0%)
       中国を侵略した歴史についてきちんと謝罪し反省していないから(59.6%)
       日本は米国と連携して軍事、経済、イデオロギーなどの面から中国を包囲しようとしているから(41.8%)
⑤  相手国の良い印象の理由について、中国側の上位5つは、以下のとおり。
            日本製品の質は高いから(57.2%)
            日本人はまじめで、努力家で、積極的に仕事をするから(53.8%)
            日本人は親切で、マナーを重んじ、民度が高いから(52.6%)
            日本の技術は先進的だから(41.0%)
            日本は衛生的できれいだから(38.2%)


    この調査結果は、次の3点を示唆しており、非常に興味深い。
    第一に、日中間の国民感情について、現状はたしかに悲惨であるが、しかし、関係改善を望む人も、両国では多数を占めている。決して楽観はできないし、容易なことでもないが、関係改善への意欲とその実現可能性は、ひとたび本格的な回復軌道に乗りさえすれば、比較的に高いともいえる。
    第二に、日中両国民の互いへの負のイメージ形成の要因には違いもみられる。中国の対日観のキーワードが「歴史問題」「尖閣諸島」「対中封じ込め」だとすれば、日本の対中観のそれは「国際規範」「中国の外交行動」「歴史問題」の3つである(アンケート結果④)。
    これに関連して第三に、中国側の「良くない印象」と「良い印象」のそれぞれの理由をみると(同上④⑤)、歴史と尖閣の問題を政治的に封印すると同時に、「直接交流」がやはり大切である。いくぶん単純な言いかたかもしれないが、「より多くの中国の人々に実際に日本に来てもらい、現実の日本社会と日本人に触れ、日本製品をおみやげに買い、楽しい思い出とともに帰国してもらう」のが、対日イメージの改善には有効であり、一番の近道であるように思われる。円安の追い風を受けて、今年1~10月期の訪日外国人客は過去最高を記録したが、なかでも中国人観光客は、前年同期比で80.3%増の約201万人となり、初めて年間200万人の大台を超えた[6]。これは、日本の経済的利益のみならず、日中関係全体にとっても、大いに歓迎すべきことである。
    しかし第四に、将来的にさらなる悪化が心配されるのは、おそらくは日本人の対中認識である。なぜなら、日本側の中国観の「良くない印象」の主因が、歴史や尖閣の問題以上に、中国の国際的なパワー増大と国際秩序に対する不透明な立ち位置、および、その具体的な対外行動における「法の支配」の軽視や、力による現状変更の動きに起因するものだからである。事実、アンケート結果の③で示されるとおり、良くも悪くも過去1年間――この間、日中関係が進展しなかった点では、日本も中国も同じである――の心理的冷却期間を経て、中国側の対日イメージが若干ながら改善しているのに対し、日本側の対中イメージは、2013年に比べてさらに悪化し、14年では過去最悪を記録している。
    同時に、そのような中国の対外政策と外交行動の根本的な原因として、既存の国際秩序と地域の安全保障にかかわる中国の自己認識が、他の多くの国の中国認識と相当程度異なっていることが挙げられる。2014年6月、米戦略国際問題研究所(CSIS)が発表したレポートによれば、調査対象となった11カ国(日本、韓国、米国、中国、豪州、インド、インドネシア、シンガポール、タイ、ミャンマー、台湾)のうち、中国の専門家だけが、(a) 東アジアにおける米国の関与と、(b) 同地域の安全保障に対する中国の影響について、まったく異質な見方をしている。すなわち、(a)の問題について、中国を除く10カ国平均で85.8パーセントの識者が(日本は92パーセント)、米国のアジアリバランス戦略を「支持」する一方、中国では77パーセントの者が「不支持」を表明した。(b)についても、中国を除く10カ国平均で65.6パーセントの者が(日本は96パーセント)、東アジアの安保に対する中国の影響を「非建設的」とみるのに対し、中国の専門家の83パーセントは「建設的」と答えている[7]。この結果をみる限り、中国の国際認識は、まぎれもなく「孤立」している。こうした状況を考慮すれば、中国の自己中心的な対外行動について、少なくとも短期的には、大きな変化は期待できないし、結果的に、日本国民の対中認識も改善の見込みは少ないであろう。
    また、以上の議論を、政策分野とタイムスパンをもう少し広げてみれば、既存の国際秩序に対する新興国(=中国)の反応、適応、対応のパターンとして、少なくとも、次の5つの選択肢が想定できる[8]


①cooperation:   既存の国際秩序への積極的な支持と、建設的批判者としての関与と参加
②free rider:       既存の秩序への消極的支持と、自己利益の拡大にかなう形でのタダ乗り
③going my way: 文字どおり、「わが道を行く」式の独自の路線と立場、政策の追求
④veto group:    既存の秩序に対する「拒否権行使集団」としての阻止行動
⑤turnover:        既存の秩序の積極的な転覆と新秩序の構築の模索


    たとえば、今日までのところ、通商政策などの一般的な国際経済レジームに対する中国の行動様式は、②を主とし、①を副とするものであるように思う。他方、OECD開発援助委員会(DAC)のメンバー国でない中国にとって、国際開発レジームに対するこれまでの立場は、基本的には、③であった。こうした対応の違いについては、国際開発レジームの場合、それへの参画から直接に享受できる経済メリットが相対的に小さく、同時に、世界最大の発展途上国という公定のナショナルアイデンティティともあいまって、既存のレジームに対し、独自路線の追求をかなり大胆に示すことが可能であった[9]
    だが、2014年10月から11月にかけて、中国の主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立が本格化してきた。一部の専門家の間では、AIIBの設立は、既存の国際開発金融体制への挑戦、つまり、従来の③から、⑤の立場に変化したものと認識されている。AIIBに対して、日本と米国は、現時点では反対の姿勢を維持している。韓国とオーストラリア、ニュージーランドも、同盟国である米国に配慮して、慎重な構えを崩していない。しかし、世界経済の不透明な先行きとそこでの中国の存在感の大きさ、個々の国と中国経済との強い結びつき[10]、AIIBをめぐるこれまでの交渉過程などを総合的に判断すれば、それ以外の国はもちろん、韓国を含む上記3カ国の政策転換の可能性についても、中長期的にあまり固定した見方を持たない方が無難であろうと思われる。
 

 
[1] 「日中関係の改善に向けた話合い」『外務省』2014年11月27日、<http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/page4_000789.html>、2014年12月8日確認(以下のウェブサイトの確認日も同じ)。
[2] 「日中首脳会談」『外務省』2014年11月10日、<http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/page3_000999.html>
[3] 宮本雄二「日中首脳会談後のあるべき日中関係」『日中関係学会』2014年11月14日、<http://www.mmjp.or.jp/nichu-kankei/taisinochugokuron/141114nichuushunoukaidan.html>
 
[4] 『朝日新聞』2014年12月9日。
[5] 言論NPO・中国日報社「2014年日中共同世論調査」『言論NPO』2014年9月10日、<http://www.genron-npo.net/pdf/2014forum_d.pdf>
[6] 『中日新聞』2014年11月20日。『朝日新聞』2014年12月9日。
[7] 『朝日新聞』2014年5月27日。より詳細な調査結果は、Michael J. Green and Nicholas Szechenyi et al. Power and Order in Asia: A Survey of Regional Expectations (CSIS, July 2014). <http://csis.org/files/publication/140605_Green_PowerandOrder_WEB.pdf>
[8] 拙稿「国際援助社会に対する中国の見方とその外交的射程」、下村恭民・大橋英夫・日本国際問題研究所編『中国の対外援助』日本経済評論社、2013年、259~260ページ。
[9] 同上書、260ページ。
[10] たとえば、本文中で言及した韓国、オーストラリア、ニュージーランドのいずれも、それぞれの主要な貿易相手国(貿易総額)としては、米国や日本よりも、中国の方が上位に位置している(外務省ウェブサイトの当該国の「基礎データ」を参照のこと)。